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16.妃教育が始まります

 早く涙をとめないと、と思いながらレーヌは涙が止まらずにいた。

 テオドールはレーヌを優しく抱きしめ、背中をゆっくりと撫でている。

 レーヌのしゃくりあげる声が響く部屋の中で、リアムの慇懃な声が響く。


「殿下。そろそろ」


 テオドールに短く伝える。

 その言葉にレーヌはテオドールの腕の中で涙が流れる顔を上げる。


「あ、あの、すみません。突然泣いてしまいまして……あの、大丈夫です」


 そう言ってテオドールから離れようとしたが、力強く抱きしめられていて、体を離すことができない。


「あ、あの、殿下?」


 レーヌは戸惑い、テオドールに声を掛けるが、一向に離そうとしない。

 リアムもどうしたらいいのかわからず、入口で立っている。

 テオドールは、ふぅと息を吐くとレーヌを抱きしめている腕の力を弱める。


「レーヌ嬢、いつでも貴方のそばにいて支えています」


 耳元でそう小さく低い声で囁くと、レーヌの体を離し、振り返らずに部屋から出て行く。

 リアムは一瞬遅れて部屋を出ると、テオドールのもとへと向かっていった。


 窓際のテーブルで呆然と立っているレーヌの側にリゼットとセレストが近づいてくる。


「レーヌ様」


 セレストが少し遠慮がちに声を掛ける。

 その声にレーヌは我に返ると無理やり笑顔を見せる。


「ごめんなさい、少し呆けてしまいました。もう大丈夫です」


 レーヌは意識的に明るい声でセレストとリゼットに話しかけるが、2人の顔には戸惑いの色と心配の色が混じっている。


「このあとですが、侍女長より今日からの妃教育に携わる方を連れてこちらの部屋にいらっしゃいます。そのあとは昼食のマナーと、午後のティータイムのマナーのおさらいを挟みながら夕方まで勉強の時間となります」


 セレストは心配そうな声で今日、これからの予定を話す。

 レーヌはしゃくりあげながらセレストの顔を見ながら頷く。


 その時、ドアをノックする音が聞こえてくる。


 セレストの後ろにいたリゼットがドアまで行き、確認したところ侍女長が到着したと伝えてくる。

 入口にいるリゼットに顔を向けて頷くと、セレストに顔を向ける。


「涙を拭くタオルを持ってきてください」


 セレストは頷き、クローゼットの中からタオルを持ってくるとレーヌに手渡す。

 受け取ったタオルで、顔を軽く押える。使ったタオルをテーブルの上に置くと侍女長を迎えるためにリゼットに近づく。

 レーヌは深呼吸するとドアの近くに立ち、リゼットに頷くとドアが開いた。

 

「レーヌ様、おはようございます」


 レーヌの顔をみたエリーズは戸惑いの表情を浮かべていたが頭を下げ、挨拶をする。


「おはよう、エリーズ」


 その言葉に頷くと振り返り、本を2冊抱えている女性を近くに呼び寄せた。


「今日から妃教育として携わるヨランドです」


 紹介された女性はエリーズより少し身長が高く、薄茶色の髪を1つにまとめ、優しい顔をしているが知性的な雰囲気をまとっている。

 ヨランドはエリーズの横に立つと頭を下げる。


「ヨランドと申します。今日から宜しくお願い致します」


 と涼やかな声で微かな笑みを浮かべて挨拶をする。

 挨拶が終わったところでエリーズが部屋の中を見る。


「入ってもよろしいでしょうか?」


 その言葉にあっ、と思ったレーヌは急いで部屋の中を振り返る。

 朝食後にちょっとした出来事があって、ティーカップをテーブルの上に置いたままだったことに気付いたが、レーヌがエリーズとヨランドと挨拶をしている間に2人の侍女がきれいに片付けており、侍女の2人はテーブルの近くでこちらを見ていた。

 その光景にレーヌはほっとして、エリーズに顔を向ける。


「はい、どうぞ」


 レーヌはドアの左脇に寄りエリーズとヨランドを部屋に招き入れた。


 部屋に入った2人をレーヌは窓際の4人掛けのテーブルに誘うとヨランドは持ってきた本をテーブルの上に置く。椅子に座る前にエリーズはレーヌに向き合う。


「レーヌ様はこれから王妃殿下として殿下の横に立たれます。その時に注意して頂きたいことがあります」


 エリーズの威厳を含んだ声に思わず背筋がピンと伸びる。


「レーヌ様はとても喜怒哀楽のはっきりとした方と見受けられます。ただ、王妃殿下として殿下のそばにいる時は一切喜怒哀楽を見せないでください」


 レーヌはエリーズの話している内容の意味が分からず、首を傾げる。


「殿下の近くにいる方みなさまが味方ではありません。レーヌ様の感情を読み取り、殿下の弱みを握ろうとする方も出てくるでしょう。それがもとになり争いごとが起きるかもしれません。そうならないために、一切の感情をなくし、殿下の近くに立ち、支えてください」


 エリーズの言葉にテオドールの婚約者がいかに重要な立場なのか、思い知らされる。


「ただ、それはあくまでも執務としてそばにいる時だけです。執務から離れたあと、殿下と一緒の時だけは感情を出してかまいません」


 エリーズはそれだけ言うと頭を下げる。


「それでは、私はここで失礼致します。ヨランド、あとをお願いします」


「はい」


 エリーズはヨランドの返事に頷くとあっという間に入口に向かって歩いていく。

 その後ろを侍女の2人も追い、3人は部屋を出て行った。

 

「それでは、レーヌ様、始めましょうか?」


 ヨランドは真正面からレーヌを見つめ、妃教育の開始を告げる。

 レーヌが頷くとヨランドが椅子に座る。レーヌも心の中で気合を入れると椅子に座る。

 椅子に座ったことを確認したヨランドがテーブルの上の本を1冊開き、レーヌに見せる。


「今日は、王族の歴史について勉強をしましょう」


 ヨランドの話に頷き、レーヌは開かれた本に視線を落とした。

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