表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

13.リアムの小言

 レーヌの部屋を出たリアムは、テオドールに気付かれないように小さくため息を吐く。


(はあ。我が主はレーヌ嬢の気持ちも考えずに突っ走って……)


 前を歩くテオドールを見ながら、リアムは内心怒りが込み上げていた。


 リアムはランメルト国のシリュウ侯爵の長男で、小さな頃から魔法も使えたが、剣の方が得意で10歳で親元を離れ、王立の騎士学校に入学した。

 入学当初から才能は突き抜けていて、正式な騎士団ではないが、予備の騎士として早くから騎士団に所属していた。

 その噂は聞いたアンリ国王は、息子のテオドールの近衛として配属することを早々と通達してきた。

 リアムはその要請に頷くと、正式に近衛として所属できる15歳になるまでに護衛術を学び、剣の腕前を上げていった。


(そう言えば、15歳で近衛になった時に事件があったな……)


 リアムが昔のことを思い出していると、テオドールの執務室に到着する。

 ドアの前に立っている衛兵に会釈をすると、テオドールと一緒に執務室の中に入り、入口近くに立った。


 テオドールがそのまま奥にある執務机に向かうと椅子に座り、まとめられている書類を確認していく。

リアムは執務室の中を見回し、他に人がいないことを確認してから机に近寄り声を掛ける。


「殿下、恐れながら」

「許す」


 テオドールは顔を上げずに書類に目を落としたまま、リアムに返事をする。


「それでは。レーヌ嬢のことなのですが」


 レーヌの名前に反応し、肩がぴく、と動くが、そのまま書類に目を落としている。

 リアムはごほん、と咳払いをして続ける。


「レーヌ嬢が近くにいて嬉しい気持ちはわかりますが、今のままでは嫌われるだけです」


 リアムの話にテオドールは書類を見たままだが、目が泳いでいるのがわかる。


「レーヌ嬢は殿下の気持ちなど知らないのです。警護団のために偽の婚約者となるだけだと思っているのですから」


 テオドールは書類を手にしたまま固まり始める。


「それと、思いが通じ合っていたとしても、女性には見られたくないものがあるのです。それを殿下の欲望だけで無理やり見るのは嫌がられます」


 リアムの小言にテオドールは書類からやっと顔を上げる。


「……だって、寝顔がかわいいんだもん。毎日見たいんだもん」


 テオドールが砕けた言葉で話し始め、頬を膨らませ、口を尖らせている。

 リアムは、はぁ、と大きくため息を吐く。


「今、我慢しなければ、将来、妃として迎えることができなくなりますよ? 今の段階であらぬ噂を流され、レーヌ嬢との婚約が白紙に戻り傷つくのはレーヌ嬢なのです。少し考えてください」


 リアムの小言にテオドールは肩を落とすと、上目遣いで見つめる。

 テオドールの顔を見ると金色の目にうっすらと涙を浮かべているが、演技だろう、と思った。


 テオドールにつかえ10年経つが、リアムが小言を始めると内容に関わらずテオドールが涙を浮かべる時があって、不思議に思っていたが、テオドールの目に浮かぶ涙を見ると、リアムが何も言えなくなり小言から開放されるのを経験で覚えているためだとわかった。


 今、涙を浮かべているのは小言をこれ以上聞きたくないという気持ちのあらわれだが、今日はそれを無視して言葉を続ける。


「ただでさえ、突然、王族と婚約したのですから、心の準備など何もできていないのです」


 リアムはこんこんとテオドールに話す。


「そして、王族と貴族の顕著な違いは始終警護がいるかいないかです。貴族は始終警護が身の回りにいる環境ではありません。その環境に慣れずに体調を崩すこともありえるのです。まして、これから、レーヌ嬢は妃教育も始まります。どのような教育になったとしても日々精神的に疲れ、追い込まれていくこともありえるでしょう。その時に、殿下が一方的な態度ばかり取っていれば、レーヌ嬢もどんどん疲れていき、殿下に心を開かなくなるでしょう」


 うう、と困ったような声をあげ、リアムを見上げるテオドールの目には涙が零れんばかりにあふれている。


「レーヌ嬢の本当の心の支えとなってあげることこそ殿下が今やるべき役割なのです。レーヌ嬢が愚痴をこぼしやすい環境、なんでも話し合える環境を作り、受け止め、寄り添ってあげてください」


「はい……」


 悲しみを秘めた声でリアムに返事をすると、肩をがっくりと落とし、書類を確認する作業にはいるテオドール。


「明日から、レーヌ嬢は侍女に起こしてもらい、用意ができたところで殿下を呼んでもらうように手配します。よろしいですね?」


「……わかりました」


 テオドールが書類を見ながら涙を零し、頷いたのを確認する。


(これで、俺も気がらくになる)


 リアムはほっと一息吐くと、頭をさげ、待機場所のドア近くに戻った。


 リアム自身、未婚女性の、それもまだ眠っているのがわかっている部屋に行くことが気恥ずかしかった。

 仕事だからと割り切れるものではない。


(これで明日からレーヌ嬢も恥ずかしい思いをしなくてすむだろう)


 警護団のリーダーとして、常日頃、団員たちの精神面がくずれないよう気をつけている。

 この偽婚約者計画を立てている時にテオドールに確認したところ、王家に嫁いだ後もレーヌは警護団の団員でいいだろう、と話している。

 魔物との対応がいつまで続くがわからないが、続く限りは団員みな、健康で活躍してほしいとリアムは心の底から願っている。


 それにしても、とふと思う。


(最近魔物の出現情報がないな)


 一番最近で、治療会前の時だった。

 その前までは、週に2、3度は出現していたのだから、いつ出現してもおかしくない。


(魔物が出なくなることが一番いいことだ。このまま出現しない日々がつづくように)


 執務室の窓から外をみて、リアムは静かに祈った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 親しき仲にも礼儀あり……。 奥ゆかしい女性が当然の世の中だと余計に恥ずかしいと思うでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ