34.民都観光へ
観光すると宣言したが、一応当座の拠点となるイルガルタの土地勘を養うという大切な目的がある。
「ギルドはあそこで……買い取り専門店とかあるのか」
昨日はアイザックに連れられっぱなしで宿屋に直行してしまったから、ようやく街をちゃんと見ることが出来る。
アイザックは仕事があるとか言って、夕方にも関わらずまたノウスに戻ってしまった。
中間管理職って嫌だなって思う。
イルガルタ民国の信条は自由だという。
帝国の圧政に耐えかね独立した経緯があるためだ。
しかし、独立しただけでは先細りする。
だから、とにかく沢山の商人を国に呼び込んだらしい。
最初は小さな市場からスタートし、今や商業が発展する商業都市。
「ノウスもそれなりににぎやかだったけど、これは祭りかって感じだなぁ」
街路に立ち並ぶ無数の市場は見慣れたものだが密度が違う。ちゃんとスペースとして整備されているのだ。
差異は露店だけで、上野や神戸とかそういう通りを想起させる。
海外での喩えが思いつかない辺りが自分の見識の狭さを考えさせられた。
「やかましい、うるさい」
「そう言うなよ、結構楽しいもんだぞ」
「気に入らないわけじゃない」
端的な状況評価であって、善し悪しの観点からすれば悪くはないらしい。
実際リルの尻尾は横揺れしているので興味はあったり楽しいというか、プラス方面の心情の動きがあるのは間違いない。
「そこのお二人さん!」
とりあえずどんなものを売っているんだろうと市場を通り抜けている最中、急に呼び止められる。
「そう、アンタたちだよ!」
こういうの呼び止められてしまったら、無視できないのが日本人的感性の弱いところというか。
俺たちを手招いたのはアクセサリーの露店だった。
ペンダント、ネックレス、イヤリングにピアス、それに指輪にバングル……とりあえず思いつく部位のアクセサリが沢山ある。
なんとなく印象で分けてしまったけど、そういやペンダントとネックレスってどう違うんだろう。
「冒険者だろ?」
「ああ」
「だったら、素早さを高めるこの羽根のピアスとか、魔力を高めてくれるこのクリスタルのペンダントなんてお勧めだよ」
シルバーアクセサリーの露店は現実世界にもあった。
しかし、今では売り文句にステータスアップが必ずといっていいほど付いてくる。
画面越しにするゲームだとあまり気にならないが、いざ自分が装備する立場となると、防具でもないのにステータスが上がるとは? と風情のない考えが首をもだげるものだ。
それにもう一つ問題がある。
前は買う時、一覧で出てきて上昇量だとかが瞭然としていたが、今はつけてみないと分からないのだ。
リアル志向なのか、ゲーム的なのか、こればかりは分からない。
明らかに強そうな装備なのに数値が下がったこともあった。
判断基準も謎。
結論、よくわからないものにお金を出すのはいささか抵抗がある。
<目利き>スキルとかいい加減発現してくれると嬉しいんだけど。
「興味ない」
リルはラインナップを一瞥するや否や、俺の手を掴んだ。
「あ、おいリル――」
若干気を悪くしたアクセサリー商に頭を下げつつ、リルの為すがままに再び歩みを再開させられる。
「リル、興味がないと言っても、それをそのまま言うとダメな時だってあるんだぞ」
リルは直截的過ぎるのだ。
「ごめんなさい、でも」
「でも?」
「あんな奴より、ごしゅじんかクレニお姉ちゃんが作ってくれた奴が好きだから」
不意に名前が出てどきりとする。今は居ない、契約魔獣の一体。
「そうだな……アイツ、あの手で上手いことハンマーとか道具持って色々アクセサリー作ってたし……」
アデリーペンギンをデフォルメしたような見た目のくせに、職人ペンギンという魔獣故か手先が器用だった。
偶然見つけた、ランダムクエスト『職人ペンギンたちの狂騒』の報酬。
その中で色々すったもんだを乗り越えて、ケルト神話金属細工と鋳造の神「クレーニュ」から名をとり、クレニとして契約した。
「私は今なら手が使えるけど、あれは凄い」
「だな……」
「でも、狩りは……狩る側じゃなくて狩られる側だったけど。弱っちい」
目を細めてそんなことを言うな。確かに戦闘向きではなかったが。
「姉を辛辣に言うなよ」
「だってクレニお姉ちゃん、ラピスお姉ちゃんに突かれてた」
「ああ、そんなことあった……って、しょっちゅうじゃなかったか?」
思い出される光景。もう一体の契約魔獣ラピスとは、体格からしてもう捕食・被捕食の構図だった。
クレニはいつも泣きながらリルの陰に隠れようとしてたけど、首根っこを噛まれてラピスの前に差し出されていた。
「そういやああいう時、リルがクレニをラピスの前にいつも差し出してたけどあれは……」
「それはその……」
突如リルの歯切れが悪くなる。
「クレニお姉ちゃんが泣くのを見ると、少しゾクゾクして」
「おい」
「……食べちゃいたいなって思うくらい可愛くて、つい」
これ以上何も言うな。そして頬を赤く染めるな。
溜め息しか出てこなかった。
そうだ。人間の見た目をしているが、リルはそもそも魔獣、それも肉食獣なのだ。若干獰猛で嗜虐的な一面もあるのだ。
クレニが今の話を聞いたら、きっと憤慨するだろう。
でも、それもリル目線で言えば可愛いとか思われそう。勝ち目がない。
「絶対見つけないとな」
「うん。どこかで泣いてるかも」
居る保証もない、そして居たとしてリルのように強いわけではないから最悪食われているかもなんて、というのは不思議と想定出来なかった。
生きていると信じたいという俺のバイアスか。
しかし、それだけではなんとなく片付けられない。
きっと途切れてしまっているのだろうけど、縁の鎖――魔獣操師としての何らかの勘が、クレニがちゃんと居ることを教えてくれている気がする。
それはラピスや――。
「ごしゅじん、あれ」
――ぐいっと、腕が引かれて思考を止める。
彼女の指が示す方向、ノウスのものと似た剣と……ライオン? のシンボルのある店。
露店ではなくしっかりとした建屋の店。
だが裏通りにあって随分とひっそりとしている、日陰にあるからシンボルもパッと見判別し辛い。よく見つけたものだ。
「武器売ってる?」
「お、おお。よく覚えてたな」
「狩りに必要だから」
そうなんだけれども、もう少し別の判断基準を持ってほしい。
俺の思いをよそに褒めてほしそうに頭を僅かに下げたので撫でておく。なんか躾をしている気分。
「武器、ボロボロ」
グレーターオーガの戦闘で、俺たちの武器はかなりガタが来ていた。
リルの双剣はマシだったが、俺に至ってはぶん投げたメイスを紛失してしまったため、予備の剣を腰にさげてるだけ。
無駄遣いする前に、銀貨を装備に使っておくのは賢いと思う。
「……なんかあったら不味いし、とりあえず良さそうなもの探すか」
俺たちは、店に入ることにする。




