回復魔法
翌日。
ナツハは独り立ちした。少し寂しい気もするが、それは気のせいだろう。
まぁ、あの怪力があれば何とかなるだろう。
そして俺に平穏な新人教官の職務が訪れる。
そう思っていたが、またややこしい奴が現れた。
「ねえ教官っち、聞いてよ!聖女のくせに使えないとか言われて
あの王様がさ。私だけ転移で飛ばしたんだよ。ただでさえ、知らない場所なのにボッチ追放とかありえないんですけど!」
随分と顔に色を塗る女だな。そして、話は通じるが内容がわからない。
こいつも…ナツハ系か。
「ま、先ずは自己紹介をしようか?」
てへ!
彼女は、そう言えば自己紹介してないとうっかりしてましたと額に手首を擦りつけている。そして舌先を少しだけ出した。
どう言う意図があるのかはわからないが、何故か苛立ちが込み上げてきた。
(教官として冷静に対処しよう。)
「俺はレナウド。元Cランク冒険者だ。一応剣士登録しているが魔法も多少は使える。」
俺の自己紹介に背筋を伸ばして聞く彼女。
やはりナツハに似ている感じがする。
「私はサイオンジ アリス。パパはフランス人。ママは日本人のハーフです。友達と学校帰りにカラオケ行く予定だったんだけど
勇者召喚に遭いまして、こちらの世界に来たんだけど見事に追放された可哀想な17歳。現役JKです。あ!ちなみにフランス語は話せません。私、勉強大嫌い!仲良くしてね。」
(絶対にナツハ系だ。長々と自己紹介してくれたが、名前と年齢しかわからない。)
「見た目はゴブリンの…」
聖女。聖女。俺の言葉を遮るように彼女は圧をかけてきた。
聖女?実在したのだろうか。御伽話の世界に登場する人物なのだが。
「あ!聖女は聖女でも暗黒聖女なんだけどね。まあそれが追放理由なんだよね。私だって好きで暗黒聖女になったわけじゃないっつうの!」
ひとりで話してひとりで怒っている。
「受付のボンキュボンに言われてここ来たんだけど、改めまして宜しくお願いします。」
(ボンキュボン?誰だ?)
やっぱりナツハと同じだった。
こいつも、とろくさい。
しかもナツハと違い露骨にさぼる体質のようだ。
とりあえず、訓練所を走るように指示をしたが遅い上に俺が見ていないと歩く始末だ。
こういう奴は続かない。
俺はどうせ明日は来ないだろと決めつけ淡々と指示をだしていた。
「はぁはぁ。まじキツいんですけど。」
露骨にサボるくせに疲れ方だけは一人前だな。
俺は井戸から水を汲み、ベンチに座らせた。
「体力なさすぎて死ぬ!」
ベンチで無防備にお腹だして汗を拭うアリス。
ゴブリンどもに攫われないか心配だ。
「あ!流石にあのボンキュボンほどじゃないけど私もそれなりに」
こいつは何なんだ?
ベンチに座る彼女は俺を見上げながら胸元を開けて見せてくる。
「いた!」
とりあえず俺は軽く彼女を小突いて、それらしい事言う。
「馬鹿してないで真面目にやれ!死にたいのか?」
てへ!
また苛立つ仕草をしている。これは彼女の癖なのだろうか?
教官としては、どうなのかと思うが何故か苛立ちを覚えて俺は彼女をひたすら走らせる。
簡単に言えば関わりたくないからだ。
「鬼教官っち。鬼畜っち。」
俺の悪口を言いながら走る彼女。
そして、俺が見ていないと歩きだす。
「見せんでいい。」
サボっているのがバレると胸元を見せてくる。
ガキの胸で俺がどうこうなると思っているのか?
実に馬鹿らしい。
「まじ…ガチ死ぬ手前〜」
結局、俺は彼女を半日ほど走らせた。
ナツハがいたら、パワハラと言うのだろうな。
しかし、体力がなければ冒険者など到底できるわけがない。
アリスからしたら最低な教官だとしても俺は新人冒険者を簡単に死なせなくはないからな。
「教官…っち。回復魔法使って良い?」
回復魔法?
そう言えば聖女?だったな。本当に回復魔法が使えるなら人気が出るだろう。回復薬も安くはないし回復魔法なんて稀な才能だからな。
「お前もスキルツリー持ちか?」
スキルツリーが何かはわからないが、普通とは違う何かなのは理解した。ナツハで経験したからな。
「スキルツリー?私は初期スキル以外は職業ポイントだよ。よくわかんないんだけど、魔物倒してポイントをスキルに割り振るんだってさ。同じく転移したお兄さんが言ってた。」
ナツハじゃない!
こいつは新手のやばい奴だ。
「よくわからんが回復魔法は使えるんだな?」
肩で息をする彼女は俺を見上げて頷いた。
「回復魔法を見せてくれないか?」
何故、俺に魔法を使うんだ?
彼女は俺の前に立ち上がり胸元を触った。
俺は元気なのに何故俺に回復魔法を使うんだ。
本当に聖女なのか?
御伽話の聖女は世界を救うために自らを犠牲にした英雄だからな。
「ドレインタッチ」
俺は彼女の、その言葉を最後に意識を失った。
そして気がついたらギルドの医務室の天井が見えた。




