粉砕
翌朝。
結局、よく分からなかった。
木剣をことごとく砕く彼女は、何者なのか?
色々考えてみたが答えは出なかった。
結果、寝不足だ。
冒険者として稼いだ金で建てた一軒家。
小さな家だが、一応成功した側の象徴になるし俺の15年の汗水の努力を具現化したようなものだ。小さくても気に入っている。
彼女は、今日から冒険者として依頼をこなしていくのだろう。
新人訓練は強制ではないからな。実際、マーサさんに聞いたら昨日は8名の新人冒険者の受付をしたらしいが俺の訓練所に来たのは、あの子…ナツハだけだからな。
昨日は彼女の行動に驚いたが、割と楽な仕事だ。そして安定の収入がある。冒険者ほど稼げないが、命の危険は格段に減少した。
まぁ…良い職に就いたとは思っている。
「おはようございます。」
「あ。レナウドさん。おはようございます。」
マーサさんが椅子に上がり書類棚の上を掃除している。
代わってあげるのが良いのだろうが、何だか身体つきに色気を感じるから…違うことして見守ることにした。
確か俺より年上の筈だが、けしからん身体つきは視るものだが、俺の自論だ。
ちなみにこの持論は、俺だけではないはずだ。他の男性職員も、マーサさんをチラチラ見ているが、見るだけで誰も代わろうとはしないからな。
「教官!おはようございます。」
驚いた。昨日の彼女が訓練所にいた。
「ナツハ。どうした依頼は受けないのか?」
「受けないよ!だって戦い方わかんないもん!」
いやいや。頬を膨らまされても…
「と、とりあえず、訓練所の周りを走れ。冒険者は体力が必要だからな。」
「えー。走るの嫌い!」
「いいから走れ!」
適当な指示を出してしまった俺も悪いが…実にとろくさい走り方だ。見ているこっちは寝不足も相まってあくびが止まらないな。
「あー。モラハラ!」
とろくさい彼女がまた知らない言葉を発している。とろくさい走り方だが既に数周は走っているが息切れはほとんどしていない。
体力はある方で、握力はヤバくて全体的にとろくさい。
の現評価で間違いないかな?
なんだかんだで、彼女の事を考えている俺は…もしかしたら教官向きなのかもな。
自分で自分を褒めている俺は彼女にどう映っているのだろうか?
ひとりニヤついた俺に彼女は
「キモいっす」
と、冷たい目線を向けたが
キモいっすが気持ち悪いの事だとは理解した。
勝手に走るのをやめた彼女は汗を拭きながら近づいてきた。
「次は何?」
素晴らしい。偶に口調が強くなるが、やる気は本当にあるのだろう。実際、2日続けて訓練所に通っているしな。
「次は素手で丸太を殴れ!」
「は?あれ叩くの痛いに決まってんじゃん。昨日の木のやつ貸してよ!」
「お前が全部壊しただろうが!いいから殴れ。」
訓練所に配備された木剣は初日に全て粉砕。
そのため新たな木剣を手配願う。
それが昨日の俺の唯一の事務仕事だった。
マーサさんは新人に何してんの?みたいな顔をしながら申請書を受け取っていたが、事実だから仕方がない。
「まじパワハラ教官!」
知らない言葉がまた出たがハラがつくのは悪口なのは何となく理解できた。
「やー!」
ぷっ。
リーチが短くて最早愛玩動物ではないか………え?
俺は何を見せられているのだ?
とろくさい彼女の拳打で丸太が粉々に砕け散ってしまった。
かろうじて食い込んでいる箇所は残っているが原型はない。
「あれ?教官。痛くないよ!」
彼女は痛くないことを良い事に次々と丸太を粉砕していく。
実に不思議な光景だった。
小さな子が小さな拳でとろくさい動きから繰り出すとろくさい拳打で自身より太い丸太を木屑の雨でも降らしているかのように粉々に砕いていく。
この子は、何者なんだ?
「あー!教官。スキルツリーのびたよ。【爆拳レベル1】が増えたよ。ありがとう。」
めちゃくちゃ笑顔で意味不明な事を話す彼女。
わからん。意味がわからない。
俺はひとりぶつぶつ言いながら、丸太の申請書をマーサさんに提出した。
不思議そうに俺を見る彼女の前でも、呟きが止まらなかったのは覚えている。




