section5『見え始めた可能性』
訓練四日目。
繰り返す動作の中に、小さな“違和感”が芽を出し始めていた。
それは変化の前触れ。言葉にはならないが、確かに“何か”が動き出している。
仲間たちはその手応えに気づき、
ひとりだけ取り残されたと思っていた少年も、まだあがいている。
夕暮れが差し込む頃、山中はほんのりとした金色に染まり始めていた。鳥のさえずりも静かになり、涼やかな風が木々を揺らす。
「なんかさ……今日の方がちょっとだけ、動きやすい気がする」
岩の上に腰を下ろしたレイラが、ぐったりとした様子で汗を拭いながら言った。
前髪は額に張りつき、呼吸も浅い。それでも、その瞳はどこか前向きな光を帯びていた。
「……そうだな」
隣に立っていた隼人が、額から汗をぬぐいながら答える。
拳を軽く開閉し、その感触を確かめるように肩を回した。
「体の中で……なんか燃えてる感じが、昨日より強ぇ。動く前に、動けって感じでよ」
「うん。私も……掴めそうな感覚はある。まだ形にはなってないけど、確かにそこにある気がする」
レイラは手のひらを空にかざす。
そこに何か“繋がり”のようなものを感じる気がしてならなかった。
少し離れた木陰では、神瀬が一人、折りたたみ椅子に腰かけていた。
ノートをめくり、何かを書き込みながら、ちらちらと彼らの様子を観察している。
「まーた無言で観察してるし……。ほめるとかないの?」
真が苦笑しながら、凪の方に目をやった。
「匡さんって、基本放任だよな」
「……成果が出てる奴には、いちいち言葉は要らないって考え方なんだろ」
凪の答えは、静かだったが重みがあった。
「まあ、それも……わからなくはない、か」
真は、手のひらに感じる違和感をもう一度確かめた。
日を追うごとに明確になっていく“感覚”。力の源のようなものが、自分の奥底で形を成していく。
(もう少しだ……もう少しで、確信に届く)
一方その頃──
白鐘 鳴は、ひとり木陰に腰を下ろし、必死にノートに向かっていた。
小さな声で、ブツブツと自分に言い聞かせるように呟きながら、何度も失敗を繰り返している。
「うぅ……俺だけ……取り残されてる」
その背中には、焦りと孤独が滲んでいた。
それでも筆を止めない。足元のノートは、図とメモでいっぱいだった。
そして、訓練も終盤に差し掛かった頃──
「──明日からは模擬戦だ」
神瀬の低い声が、静かに場に落とされた。
一瞬の静寂。
それが、ただの訓練を終え、“実戦”へと突入する予告であることを、全員が理解していた。
レイラと隼人が顔を見合わせる。
真と凪も、わずかに身を引き締める。
──明日からは、誰も守ってくれない。
張りつめた空気が、山の夕暮れに溶けていった。
泥だらけの夕暮れの中、それでも全員が立っていた。
声にならない焦りも、見えない可能性も、全部抱えたままで。
神瀬の一言が告げる、“模擬戦”という次の段階。
それは、これまでの成果と、これからの覚悟を試す扉だった。




