表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
この目に視るものは
35/57

section6『揺らぐ像』

訓練五日目。

初めての“実戦形式”に、全員の動きと心が試される。

幻の標的を前に、それぞれの課題と成長が浮かび上がっていく。

そして──誰にも気づかれないまま、“見えそうな何か”に手を伸ばす者がいた。

陽が傾き始めた放課後、訓練地の山あいに、今日も5人の姿が集っていた。




「……今日は模擬戦だ」




神瀬 匡の声はいつも通り静かだったが、その空気には確かな緊張感が含まれていた。




「形式はチーム戦。標的は幻影型。物理的な実体はないが、攻撃反応はある。連携して撃破しろ」




そう言って、神瀬は後方を手で招いた。




木陰から、白いパーカーを羽織った青年が姿を現す。




「紹介しておく。(ひいらぎ) 蓮司(れんじ)。今日の訓練用標的はこいつのアーカで生成している」




「どーも、柊でーす。脅かし担当みたいなもんだけど、よろしくね」




「えっ、アーカ使いなんだ……?」




レイラが少し驚いたように目を見開く。蓮司は照れくさそうに頭をかいた。




「うん、ちょっとした視覚系のやつでさ。今日は標的操作の手伝いだけだから気にしないで」




それだけ言うと、蓮司は手を振って少し離れた岩場へと移動していった。




「──蓮司には異世界の話はするな。それだけは守れ。あいつは異世界に行ったことがない。間違えて話せば、お前たちが“灰”になることになるぞ」




一瞬、言葉を飲むように皆が沈黙する。


神瀬の言葉は冗談ではないことを、5人は本能的に理解していた。




神瀬は続けて言う。




「蓮司は先天的にノアを持っていた。俺が基本の使い方を教えたが、異世界の情報は一切渡していない。──それだけ、守れればいい」




神瀬はチーム分けを告げる。




「チームA:真と鳴。チームB:凪、隼人、レイラ」




「……よろしくね?」




小さく手を挙げて笑うレイラの隣で、隼人が無言のままうなずく。


凪は何も言わずに前を見据えていた。




「こ、こっちって……俺……足、引っ張らないかな……?」




鳴が真の隣でそわそわと自信なさげに呟く。


真はそんな鳴に、軽く肩を叩いて返す。




「平気だ。お前は俺の動きだけ見てろ。それだけでいい」




それだけで、少し鳴の表情が和らいだ。




それぞれのチームが山道へと分かれて進み、一定の距離を保って配置につく。




――そして、スタートの信号が放たれた。




*  *  *




「そっち、回って! 速いやつがもう1体来る!」




「わ、わかったっ!」




チームAは、森の中で動く複数の高速標的と交戦していた。人影のような幻影は地面を滑るように移動し、一定時間ごとに飛びかかってくる。




真は冷静にその動きを読み、木々の間を利用して距離を詰めた。




「……っ!」




木の陰から飛び出した標的を、一撃で地面に叩きつける。


その間、鳴は指示された位置に回り込みながらも、心なしか視線を泳がせていた。




「(俺だけ……全然、動けてない……)」




だが、その視界の端に、一瞬だけ違和感が走る。


──見えないはずの“何か”が、そこに浮かび上がったような感覚。




「……なに、いまの」




それはすぐに消えたが、鳴の呼吸が微かに変わった。




(もう少し……何かに、届く……?)




一方その頃、チームB。




凪を先頭に、隼人とレイラが後方から支援に回っていた。標的は複数の“射撃型幻影”。遠距離からエネルギー弾のようなものを放ってくる。




「レイラ、右奥から来るやつに集中して」




「了解っ!」




レイラは鏡を手に前方を見据えながら、障害物の陰を抜けて回り込む。


反射と反響を利用した動きは、支援戦術の片鱗を見せ始めていた。




「よし、少しずつ見えてきた……!」




隼人も、相手の弾道を読みながら跳躍し、木の幹を蹴って回り込む。




「もうちょい……タイミング掴めそうだ」




三人の動きが、徐々に“チーム”としての機能を帯び始めていく。




*  *  *




少し離れた木陰で、柊 蓮司は静かに木の間から戦況を見つめていた。




「……うん、やっぱ匡さんが目をつけるだけあるわ」




彼の目は、特に鳴の動きをじっと見つめていた。


その視線に、少しだけ優しさが宿っている。

交錯する動きの中に、確かな成長の手応えがあった。

けれど、まだ見えていない者もいる。まだ掴めていない者もいる。

仲間の背中を追いながら、静かに“何か”が鳴の中で目を覚ましかけていた。

戦いの影が差し始める中、それは希望か、それとも焦りか──

答えは、まだ視えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ