表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
選別の地
22/57

section3『静かなる同行者』

再びの《転写》に巻き込まれた三國見 真は、すぐさま状況を把握し始める。

混乱の中、彼に声をかけてきたのは──かつて一緒に転写されていた少年。

静かで、怯えていて、それでも“何か”を持っている。

その再会が、今度の物語を静かに揺らし始める。

移動開始 — 三國見 真側


沈黙が続いていた。


崩れかけた壁の向こうで、風が草を揺らす音だけが、空間を支配していた。


俺──三國見 みくにみ・まことは、わずかに呼吸を整えると、同行者たちを順に見回す。


初転写と思われる数人はまだ茫然としたまま。視線が定まらず、ひとりは腰を抜かしたまま動けていない。仕方ない。無理もない。前回の自分もそうだった。


「……まず、動けるやつはこっちに来てくれ」


俺の声に、何人かが反応する。そのなかには、白鐘 しろがね・なるの姿もあった。


「……あ、あの……。オレ、ついてって、いい……ですか……?」


恐る恐る差し出された声。俺はうなずいた。


「ああ。無理はするなよ」


「う、うん……。でも、一人は……ヤだから……」


目を泳がせながら、鳴は俺のすぐ後ろにぴたりとくっついてくる。存在感は薄いが、今のところ一番“動ける”部類かもしれない。


「この辺、一度見てくる。変な音がしたら、隠れろ。それだけ守ってくれればいい」


俺はそう言い残し、周囲の様子を探るため、瓦礫の隙間から外に出た。


すぐに見つけたのは、半壊した歩道橋。その上に登ると、視界が少し開ける。


建物はどれも崩れ、街の区画も歪んでいる。以前来た場所とは確かに違う。だが──空の色も、空気の質も、あの“異世界”のままだった。


(ここも、《ルヴァ=ヘレイス》……か

前回とは違う所に転写されたって事か)


足元で、ガラス片を踏む音がした。


「わっ……ご、ごめんなさい! ついて来ちゃって……!」


振り向くと、鳴がいた。おどおどしながらも、俺の足元を見て小声で謝る。


「いいよ。ここにいるなら、一緒のほうが安全だ」


「……こ、ここって、またあの、前みたいな……“あっち”なんだよね……?」


「たぶんな」


「やっぱり……帰れるのかな、オレ……」


目を伏せたまま、鳴はぽつりと呟いた。

まるで、誰にも届かない言葉のように。


その声には、不安も、諦めも、憧れも混ざっていた。


(こいつも……前は生き残ったけど、それだけで精一杯だったんだろう)


「なぁ、三國見くんってさ……その、なんで動けるの? 前より……強くなってる、感じする」


「訓練してたから」


「すご……。オレなんか、前回からずっとビビってばっかで……。名前、誰にも覚えられてないし……」


「俺は覚えてるよ。白鐘 鳴、だろ?」


鳴は、ぴくりと反応して、それから少しだけ顔を上げた。


「……うん。うん、そう……。ありがと」


ようやく、少しだけ笑った気がした。


そしてそのとき、遠くから、何かが爆ぜるような音が響いた。


「っ……!」


鳴が肩をすくめ、俺は音のした方角に目を向ける。


(……始まったか)


この世界は、常に何かが“始まる”。


何が来るかはわからない。でも、じっとしていても始まらないことだけは、知っている。


「鳴、下がってろ。何が来るかわからない」


「わ、わかった!」


俺は歩道橋の縁に立ち、息を整える。


風が強くなってきた。遠くの空に、黒い影がちらつく。


(来るなら、かかってこい)


二度目の《ルヴァ=ヘレイス》。


今回は、何もかも無駄にしない。

もう一度この世界に現れた。

それは偶然ではない。

今度こそ──見落とさずに、連れていく。


小さな決意が、嵐の前に立つ足場になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ