section3『静かなる同行者』
再びの《転写》に巻き込まれた三國見 真は、すぐさま状況を把握し始める。
混乱の中、彼に声をかけてきたのは──かつて一緒に転写されていた少年。
静かで、怯えていて、それでも“何か”を持っている。
その再会が、今度の物語を静かに揺らし始める。
移動開始 — 三國見 真側
沈黙が続いていた。
崩れかけた壁の向こうで、風が草を揺らす音だけが、空間を支配していた。
俺──三國見 真は、わずかに呼吸を整えると、同行者たちを順に見回す。
初転写と思われる数人はまだ茫然としたまま。視線が定まらず、ひとりは腰を抜かしたまま動けていない。仕方ない。無理もない。前回の自分もそうだった。
「……まず、動けるやつはこっちに来てくれ」
俺の声に、何人かが反応する。そのなかには、白鐘 鳴の姿もあった。
「……あ、あの……。オレ、ついてって、いい……ですか……?」
恐る恐る差し出された声。俺はうなずいた。
「ああ。無理はするなよ」
「う、うん……。でも、一人は……ヤだから……」
目を泳がせながら、鳴は俺のすぐ後ろにぴたりとくっついてくる。存在感は薄いが、今のところ一番“動ける”部類かもしれない。
「この辺、一度見てくる。変な音がしたら、隠れろ。それだけ守ってくれればいい」
俺はそう言い残し、周囲の様子を探るため、瓦礫の隙間から外に出た。
すぐに見つけたのは、半壊した歩道橋。その上に登ると、視界が少し開ける。
建物はどれも崩れ、街の区画も歪んでいる。以前来た場所とは確かに違う。だが──空の色も、空気の質も、あの“異世界”のままだった。
(ここも、《ルヴァ=ヘレイス》……か
前回とは違う所に転写されたって事か)
足元で、ガラス片を踏む音がした。
「わっ……ご、ごめんなさい! ついて来ちゃって……!」
振り向くと、鳴がいた。おどおどしながらも、俺の足元を見て小声で謝る。
「いいよ。ここにいるなら、一緒のほうが安全だ」
「……こ、ここって、またあの、前みたいな……“あっち”なんだよね……?」
「たぶんな」
「やっぱり……帰れるのかな、オレ……」
目を伏せたまま、鳴はぽつりと呟いた。
まるで、誰にも届かない言葉のように。
その声には、不安も、諦めも、憧れも混ざっていた。
(こいつも……前は生き残ったけど、それだけで精一杯だったんだろう)
「なぁ、三國見くんってさ……その、なんで動けるの? 前より……強くなってる、感じする」
「訓練してたから」
「すご……。オレなんか、前回からずっとビビってばっかで……。名前、誰にも覚えられてないし……」
「俺は覚えてるよ。白鐘 鳴、だろ?」
鳴は、ぴくりと反応して、それから少しだけ顔を上げた。
「……うん。うん、そう……。ありがと」
ようやく、少しだけ笑った気がした。
そしてそのとき、遠くから、何かが爆ぜるような音が響いた。
「っ……!」
鳴が肩をすくめ、俺は音のした方角に目を向ける。
(……始まったか)
この世界は、常に何かが“始まる”。
何が来るかはわからない。でも、じっとしていても始まらないことだけは、知っている。
「鳴、下がってろ。何が来るかわからない」
「わ、わかった!」
俺は歩道橋の縁に立ち、息を整える。
風が強くなってきた。遠くの空に、黒い影がちらつく。
(来るなら、かかってこい)
二度目の《ルヴァ=ヘレイス》。
今回は、何もかも無駄にしない。
もう一度この世界に現れた。
それは偶然ではない。
今度こそ──見落とさずに、連れていく。
小さな決意が、嵐の前に立つ足場になる。




