section2『導く者、導かれる者達』
異世界《ルヴァ=ヘレイス》――
経験者である白倉 凪が目覚めた場所には、初めてここへ連れてこられた者たちの姿があった。
混乱と恐怖、疑念と不信。その中で、彼は「案内役」としての役割を背負わされていく。
覚悟も、後悔も抱えたまま。
淡い光に包まれていた視界が、突然、暗転する。
気がつくと、俺──白倉 凪は、乾いた土の上に立っていた。
背後には岩肌のような崖。前方には雑草が生い茂る斜面。その先に、立ちすくむ人影がいくつも見えた。
「……またか」
乾いた吐息が漏れる。
この感覚には、もう慣れ始めていた。
今回は、どこに飛ばされた?
慎重に周囲を見渡すと、10人近い人間がいた。
制服姿の高校生、ジャージ姿の女、スーツを着た男。年齢も服装もバラバラ。
その中で、ひときわ目を引いたのは──
「え、なにここ!? うそでしょ、ここ……どこ?」
ロングヘアを揺らしながら、目を丸くして立ち尽くしていた少女。
どこか浮世離れした雰囲気を持つその子は、鏡月 レイラと名乗ることになる。
もう1人。
「……チッ。とりあえず、落ち着けって言いてぇけど、俺が一番わかんねぇわ、これ」
不機嫌そうな顔で周囲を見回す大柄の少年。
獅堂 隼人──筋骨隆々で、喧嘩慣れしてそうなタイプ。
(新入りか。……しかも、今回は結構多い)
心の中で判断しながら、俺はその場に向かって歩き出した。
「おい。お前ら、とりあえずこっちに集まれ。ここに長くいると危険だ」
呼びかけに数人が反応したが、明らかに半信半疑な目を向けてくる。
「は? 誰だよお前」
「なんでいきなり命令口調なんすか?」
「ここってなんなんだよ……なんかのドッキリ?」
バラバラな反応。俺は軽く肩をすくめた。
「ドッキリならいいんだけどな。残念ながら、ここは……本物の“異世界”だ」
言ってから気づく。新入りにはまだ早すぎる説明だったか。
案の定、ほとんどの顔が“何を言ってるんだコイツ”と書いてあった。
「信じなくてもいい。けど、俺の言うとおりに動いた方が、死なずに済む」
その一言で、空気がわずかに引き締まった。
レイラが、おそるおそる口を開く。
「……あなた、ここに来たことあるんですか?」
俺は、短く頷いた。
「何度かある」
「じゃあ……本当に、異世界なの?」
「そう思ってた方がいい。“帰れたらラッキー”くらいのつもりで動け」
レイラは黙った。隼人も口をつぐんだが、目は明らかに警戒を強めていた。
(……まあ、当然か。最初は誰だって混乱する)
だがこの場にいる全員に、今の状況を飲み込む時間は、そう長くは与えられない──
俺はそれを、すでに知っていた。
出会った者たちは、まだ自分が選ばれた理由を知らない。
だが凪だけは知っている。
ここは、立ち止まった者から死んでいく世界だということを。




