section4『足音の向こうに』
転写されたばかりの異世界。
経験者・白倉 凪は、転写された仲間たちを率いて慎重に歩を進める。
緊張、不安、疑念──
静かな空間に足音だけが響き、やがて“何か”の気配が混じり始める。
移動開始 — 白倉 凪側
――風が吹いていた。
地面は乾いていて、足を踏み出すたびに土煙が舞う。
草はまばらで、どこか人工物の痕跡すら感じない風景が続いていた。
俺――白倉 凪は、先頭に立って歩いていた。
「……この辺りは、まだ“出てきて”ないだけだ」
ポツリと呟いた言葉に、誰も返事をしなかった。
転写された一般人たちは、警戒というより、困惑と不安の色を顔に浮かべたまま、黙ってついてきている。
中でも、鏡月 レイラ(きょうづき レイラ)と獅堂 隼人の二人は、まだ顔色を保っていたが、それでも完全に落ち着いているとは言えなかった。
「なあ……レイラって言ったよな」
隼人がぽつりと話しかける。
「こんなん……夢ってことで、よくないか?」
「……それで済むなら、そうしたいけど」
レイラは小さく笑って、風に髪を揺らした。
俺はそのやりとりを背中で聞きながら、足を止めない。
(初転写者が3人、それとノアを使えない再転写組……正直、厳しい)
この異世界《ルヴァ=ヘレイス》では、少しの油断が死に直結する。
実際、以前の転写では……。
思考を振り払うように首を振った。
「おい、足元に気をつけろ。斜面に入るぞ」
「は、はい!」
少年がぎこちなく返事をする。
その声に、レイラが優しく声をかけた。
「大丈夫? 無理しないでね」
声をかけられた少年は少し安堵した顔を見せる。
こういう時、ああいう気配りができるのは大したものだ。
「……そういうの、あんた得意そうだな」
俺がぽつりと言うと、レイラは「え、なにそれ」と笑って返した。
そんなやりとりの隣で、隼人はまだ周囲を鋭い目で見回している。
「なあ、本当に“出る”のかよ。化け物とか、そういう……」
「出る。出るし、もうすぐ出ると思っておけ」
そう断言すると、隼人は眉をひそめながらも頷いた。
(……全員を守りきるのは、無理かもしれない。それでも、やるしかない)
眼前に広がる丘の先。
不自然に揺れる草木の一角が、風とは違う“何か”の気配を孕んでいた。
俺は、その場にいる全員に声をかけた。
「ここから先は、本気で気を張れ。……これまでのは、ただの準備だ」
空気が、わずかに張り詰める。
最初の“異常”は、もうすぐそこに迫っていた──。
転写者たちの不安も、凪の冷静さも、
この世界にとっては等しく“無防備”にすぎない。
足元に広がる静寂は、嵐の余白だ。
そしてそれは、すぐそこまで来ていた。




