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オーバークロック・ノア  作者: くじらちさと
選別の地
23/57

section4『足音の向こうに』

転写されたばかりの異世界。

経験者・白倉 凪は、転写された仲間たちを率いて慎重に歩を進める。

緊張、不安、疑念──

静かな空間に足音だけが響き、やがて“何か”の気配が混じり始める。

移動開始 — 白倉 凪側


――風が吹いていた。


地面は乾いていて、足を踏み出すたびに土煙が舞う。

草はまばらで、どこか人工物の痕跡すら感じない風景が続いていた。


俺――白倉しらくら なぎは、先頭に立って歩いていた。


「……この辺りは、まだ“出てきて”ないだけだ」


ポツリと呟いた言葉に、誰も返事をしなかった。


転写された一般人たちは、警戒というより、困惑と不安の色を顔に浮かべたまま、黙ってついてきている。


中でも、鏡月 レイラ(きょうづき レイラ)と獅堂しどう 隼人はやとの二人は、まだ顔色を保っていたが、それでも完全に落ち着いているとは言えなかった。


「なあ……レイラって言ったよな」


隼人がぽつりと話しかける。


「こんなん……夢ってことで、よくないか?」


「……それで済むなら、そうしたいけど」


レイラは小さく笑って、風に髪を揺らした。


俺はそのやりとりを背中で聞きながら、足を止めない。


(初転写者が3人、それとノアを使えない再転写組……正直、厳しい)


この異世界《ルヴァ=ヘレイス》では、少しの油断が死に直結する。

実際、以前の転写では……。


思考を振り払うように首を振った。


「おい、足元に気をつけろ。斜面に入るぞ」


「は、はい!」


少年がぎこちなく返事をする。


その声に、レイラが優しく声をかけた。


「大丈夫? 無理しないでね」


声をかけられた少年は少し安堵した顔を見せる。

こういう時、ああいう気配りができるのは大したものだ。


「……そういうの、あんた得意そうだな」


俺がぽつりと言うと、レイラは「え、なにそれ」と笑って返した。


そんなやりとりの隣で、隼人はまだ周囲を鋭い目で見回している。


「なあ、本当に“出る”のかよ。化け物とか、そういう……」


「出る。出るし、もうすぐ出ると思っておけ」


そう断言すると、隼人は眉をひそめながらも頷いた。


(……全員を守りきるのは、無理かもしれない。それでも、やるしかない)


眼前に広がる丘の先。

不自然に揺れる草木の一角が、風とは違う“何か”の気配を孕んでいた。


俺は、その場にいる全員に声をかけた。


「ここから先は、本気で気を張れ。……これまでのは、ただの準備だ」


空気が、わずかに張り詰める。


最初の“異常”は、もうすぐそこに迫っていた──。

転写者たちの不安も、凪の冷静さも、

この世界にとっては等しく“無防備”にすぎない。

足元に広がる静寂は、嵐の余白だ。

そしてそれは、すぐそこまで来ていた。

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