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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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82 変身した同級生

「あの、正式に婚約してからではいけませんか?」

 

「いけません。」

 

「ほら、今はとにかく忙しいでしょう? まずは、夜会と会議の準備が最優先なのではないでしょうか?」

 

「もちろん、それは最優先ですが、それとは別問題です。同時進行で行きましょう。」

 

 朝早くからドレスの採寸をした直後、逃げ腰のエキナセアにアリーチェは仁王立ちして、こう言い放った。

 

「嫌な事こそ先送りしてはいけませんよ。」

 

「そうですよ、お嬢様。後回しは駄目だと、いつもノアにも言われていますよね?」

 

 アメリアにも突っ込まれて、エキナセアは涙目だった。

 

 今まで嘘をついていた自分が悪い。それは重々わかっているのだが、それでもやはり、

 

 実は自分は公爵家令嬢でした! 

 

 という事を大学でばらすのは気が重い。特にアリスティア先輩の反応が怖かった。ようやく親しくなれたのに、嘘つきだと嫌われるのは辛い。

  

 エキナセアは今日からは、ベネフィット公爵家令嬢として、町着ではなく、それなりの身なりをして、家の紋章入りの馬車で、侍女付きで大学へ通う事になった。

 

 二か月後にリュカ殿下との婚約を発表するためには、三週間後に催される夜会で、社交界デビューしなければならないらしい。

 

 しかし、まずはその前に、公爵家令嬢の存在をアピールしなければならないというのだ。なぜなら、世間では、ベネフィット公爵家の二女の存在は知られていないのだから。

 

 夜会で突然、公爵家にはもう一人令嬢がいました、と発表しても、ただ不信感を持たれて、スキャンダルになるだけである。

 

 あの英雄に隠し子発覚!

 

 まあ、隠し子が一人や二人いても、公爵の今までの功績を鑑みれば、今更どうという事もないだろう。しかし、それが第三王子の婚約者になるとしたら、別問題。

  

 エキナセア本人は、何をしても全てが遅きに失した感があって、ほとんど諦めムードである。

 もちろん、リュカ殿下との婚約を諦めている、というわけではないが。

 

 フィリアで叔母に誓ったように、何があろうと共に生きる覚悟はすでにできている。

 しかし、周りからすんなり認められとは思ってはいない。だから時間をかけてもいいと思っているのだ。急いては事を仕損じるの諺があるではないかと。

 

 しかし、家族とはあまり縁がなかったために、彼女は知らなかった。

 

 ベネフィット家の戦略戦術能力の高さを・・・・・

 城内においていかに父親と姉が、人身掌握に長けていて、リスペクトされているかを・・・・・

  

 

 エキナセアとアメリアの身支度がすんで、いよいよ『フィリアガーデン』を出ようとした時、ジョージが現れた。

 

「そろそろ出かけましょう。」

 

「「・・・・・」」

 

 エキナセアとアメリアは唖然としてジョージを見た。しかし、彼の姉パティは、

 

「キャー、カッコいいわ。さすが我が弟ね!」

 

 と、興奮して声をあげ、母親のカレンも、まんざらでもないようにニコニコしている。

 

 ジョージは今日も朝早くから作業服を着て、自転車で大学の農園へ向かったが、朝食をとるためにいったん戻ってきていた。そして、食事後にまた着替えていた。なんと、今度は騎士服に!

 

「馬子にも衣装! とはよく言ったもんだな。本物の騎士に見えるぞ。」

 

 父親であるクリス店長も言った。

 

「いや、俺、ちゃんと騎士の資格あるから。偽物じゃないよ。」

 

 そう、幼い頃からディルの護衛のためにと武道を習っていたジョージは、剣術も体術にも優れていた。

 そして例の騎士道競技大会にも過去二度ほど出場し、好成績を出して、騎士の資格を得ているのだ。

 もちろん、植物好きで心優しい彼は、園芸の道に進むつもりだが。

 

「だが、本当はベネフィット家の騎士ってわけじゃないんだから、偽物には違いねぇじゃないか。」

 

「まあね。」

 

 元々背が高く、細身筋肉質な上に、ワイルド系のイケメンのジョージは、騎士の格好がとても良く似合っていた。

 明るめのブルネットヘアは少し長めのストレート。深い青い瞳は切れ長で、太めですっと形のいい眉と合わせって、とても凛々しい。

 

 

「とても良く似合っていて素敵だわ。ねぇ、アメリアさん!」

 

 エキナセアがまずジョージを褒めてから、アメリアに目を向けた。すると、アメリアは真っ赤な顔でジョージを見つめ、両手で口元を押さえている。まさしく恋する乙女の姿。

 

 そんなアメリアを見て、ノアの言っていた事を思い出した。

 

 そうか、ノアはこの事も含めて心配していたのか。ただでさえ人気のあるジョージがこの騎士姿で登場したらどうなるか、想像しなくてもわかる。

 このままでは、今後アメリアは絶えず誰かに嫉妬して、心穏やかに過ごせなくなるだろう。

 

 自分のせいで二人の中をギクシャクさせることは、何としても避けなけなければならない。 

 先ほどまで泣きべそをかいていたエキナセアは、ノアの指令を遂行せねばならないと、気持ちを新たにした。

 

 そう。人のためだと、俄然張り切れるエキナセアであった。そしてそれは、仲間達も同様だった・・・

 

 ・・・・・・・・・・

 

 馬車の中でジョージが言った。

 

「そういえば、お嬢様は今まで同様に振る舞えばいいですからね。」

 

「えっ? どうして? 騎士と侍女付きなのよ。今まで同様なんて無理でしょ!」

 

 エキナセアが戸惑いながら、眉間に皺を寄せた。

 しかし、ジョージは顔色一つ変えず、淡々とこう説明した。

 

「お嬢様はその辺りが疎いので、気付いておられなかったようですが、お嬢様に関しては、壮大なストーリの流言飛語が飛び回っていたんですよ。」

 

「壮大なストーリー? どんな?」

 

 エキナセアの代わりにアメリアが尋ねた。

 

「凋落した名家のお嬢様なのではないか・・・

 身分を隠して留学されている他国のお姫様なのではないか・・・

 裕福な商家の生まれだが、無理やり婿を取って家業を継がされそうになって家出してきたお嬢様なのではないか・・・

 とか、まあ、色々です。」

 

「「・・・・・」」

 

「・・・ですので、今更貴族令嬢だとわかっても、ああ、やっぱりね、と思われるだけだと思いますよ。

 まあ、英雄ペルクス様のお嬢様だという事には、さすがに驚かれるでしょうが。」

 

「ううう・・・・・」

 

「それに、お嬢様は元々嘘なんてつかれていないでしょ。」

 

「えっ?」

 

「お嬢様がなさった自己紹介は、俺と同郷、体が弱くて学校へ通った事がない、貴族のお子様に勉強を教えている・・・ それに、元々お嬢様は、自分の事を平民だとはおっしゃていませんでしたよ。」

 

「あー」

 

 あれほど悩んでいたのに、ジョージのおかげで、気持ちがずうっと軽くなったエキナセアだった。

 

 大学までは歩いても二十分ほどの道のりなので、十分もしないうちに馬車は目的地に着いた。

 

 筆頭公爵家の紋章入りの、黒塗りの豪奢な馬車は、かなり人目を引いた。誰が乗っているのだろうと、周りにいた学生達の多くが足を止めた。

 

 御者が扉を開けると、まず、長身で細身ながらも筋肉質の立派な騎士が降り立った。

 その後に、清楚なドレスを着た、ブロンドヘアの美しい女性と、大きめの白い帽子をかぶり、上品で一目で高級だとわかるドレスを着た、愛らしい令嬢が、騎士に手を取られて現れた。

 

「あれって、ベネフィット公爵家の馬車だよね。あのご令嬢はどなただろう。」

 

「ベネフィット公爵家のご令嬢といえば、ナスタリア様しかいらっしゃらないけれど、もう嫁がれているし、髪の色が違うから、別の方よね。」

 

 みんな興味津々にエキナセアを見て噂をしている。

 エキナセアは微笑みを浮かべて、周りの人々に軽く会釈をしながら、大学の建物の中に入って行った。

 

 エキナセアの今日最初の授業は『薬草学』なので、ジョージと一緒である。

 大講義室に入室する前に、ジョージはアメリアに、隣の控室で待っているように指示した。

 

「次の時間は俺は講義がない。その時、校内を案内してやるから、お前は控室から勝手に出るなよ。」

 

 ジョージの言葉にアメリアは頷いた。

 本当は興味津々で、校内を歩き回りたかったが、今がどんな重大な時期かという事は、アメリアも自覚している。軽率な行動は控えなければならない。それに、そもそもこの控え室では、やらねばならない事がたくさんあるのだ。

 

 エキナセアはジョージを従えて教室に入って行くと、普段通り、多くの生徒が座ろうとしない、最前列の席に腰を下ろした。

 ただいつもと少し違ったのは、いつもは隣に座るジョージが、彼女の一列後ろの席に着いた事である。

 

 教室内がざわついていた。

 全員がエキナセアとジョージを見ながら、ひそひそと話し合っている。

 そのうちに、一人の男子学生が、恐々(こわごわ)近づいて来て、ジョージにこう言った。

 

「あのう、申し訳ないのですが、騎士様は教室に入れない事になっていますので、隣の男性控室でお待ち願えませんか?」

 

 すると、ジョージが爽やかに笑みを浮かべていった。

 

「なに言ってんだよ、ローリー。

俺だよ。ジョージ=ジャルジェ。」

 

「「「えーっ!」」」

 

 教室中に驚きの声が響き渡った。

 

「お前・・・じゃなくて、貴方様はき、騎士様だったんですか・・・何故今まで平民の振りをなさっていたんですか?」

 

「何敬語使っているんだよ。確かに俺はベネフィット公爵家の騎士ではあるが、平民だから。

 今まではエキナセアお嬢様のデビュー前だったから、俺も騎士だとわからないように、平服で隠れて護衛していたんだ。

 でも、間もなく社交界デビューする事が決まったんで、この格好になったんだよ。

 でも、大学内では平民の学生である事に変わらないから、普通にしゃべってくれ。」

 

 ジョージが友人のローリーにこう説明すると、教室内のざわめきが一瞬おさまった。しかし、

 

「「「ベネフィット公爵家?」」」

 

 学生達は心の中で驚きの声をあげた。

 

 暫く間があってから、ローリーがこう尋ねた。

 

「ええと、貴方がお仕えしているベネフィット公爵家のご令嬢とは、もしかして、前に座っているお方ですか?」 

 

 すると、ジョージは満面の笑顔でこう答えた。

 

「そうだ。この方が、ベネフィット公爵家の次女である、エキナセア=ブルブレア=ベネフィット様だ。みんなも、とっくに知っているだろう。同級生なんだから。」

 

 その時、エキナセアが振り向き、帽子をとって、にっこりと、それはそれは上品に微笑んだのだった。


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