83 大学での初仕事
アメリアの意外な位置面が出てきます。
控室に中に入った途端、アメリアは注目を浴びた。
それは彼女がとびきりの美貌とスタイルの持ち主だったせいもあるが、この控室の季節外れの新入りだった事の方が大きい理由だろう。
大学に入る女性の数は少ない。男性の一割にも満たないだろう。それは前にも述べたように、婚期が遅れるのを危惧するためである。
故に高貴な身分の方は少ない。しかし、当然貧しい者では入れないので、平民の中ではかなり裕福な層、しかも見えや外聞などを気にしない、新興勢力の家のお嬢様や、芸術家が多いと聞いている。それに、学問に秀でた家系や医療関係者のお嬢様など。
こういう方々とお知り合いになれる事は、大変幸運な事である。今もって、友人が出来ないとお嬢様は嘆いているが、きっときっかけさえつかめば、すぐに良い人間関係が結べるだろう。あくまでも、女性に関してだが。
社交界においての友人関係についは、当然自分ではお手伝いが出来ないので、そちらはナスタリア様にお委せしましょう。
「皆様、ごきげんよう。今日からこちらで、皆様と一緒に待たせて頂きますアメリアと申します。よろしくお願いいたします。」
アメリアは丁寧に挨拶をして、入り口近くの端の席に腰を下ろした。
広めの控室には大きなダイニングテーブルが四つ、それを囲むように簡易椅子が置かれている。三十人分くらいだろうか。
今のところ、アメリア以外、十人ほどの女性が座っていた。年齢は様々で、初等学院を出たばかりのような少女から、孫がいそうな女性まで。
そして、一番年上と思われる女性が、アメリアに声をかけてきた。
「初めて見る人だけど、どちらのお嬢様のお付なの?」
「ベネフィット公爵家のエキナセア=ブルブレア様です。」
アメリアの答えに、そこにいた者達は皆驚いた。
「ええと、それはもしかして英雄ペルクス様の・・・」
「はい、ペルクス旦那様の二番目のお嬢様です。」
「でも、公爵様のお子様は確か三人ではないのですか? 情報部のグリーク様、内政部のツバイヘルツ侯爵夫人のナスタリア様、それに厚生部のリッカルド様の・・・」
こう言ったのは、アメリアより二、三歳年上と見える上品そうな女性で、貴族の家の侍女のように見えた。随分と情報通だ。これは助かる! とアメリアは思った。
「いいえ、実は、公爵家のお子様は五人いらっしゃるんですよ。」
「「「「五人?」」」
全員が驚きの声をあげた。
「リッカルド様の下に、男女の双子のお子様がいらっしゃるんですよ。」
「そんな話聞い事がないわ。」
と、ひそひそ・・・・・
「男のお子様はディル様とおっしゃって、公爵夫人のご実家のご養子になられました。来春には飛び級で卒業して、こちらの大学へ入学されますわ。ペルクス様に瓜二つですの。」
アメリアは静かに、落ち着いて言葉を続けた。
「そして、女のお子様がエキナセア様なのですが、お生まれのなった時からお体があまり丈夫ではなかったので、奥様のご実家の方でご静養されていました。ほら、皆様もご存じだと思いますが、フィリアは森林浴やハーブ湯などで、療養地として有名ですから。そのおかげでお嬢様はすっかりお元気になって、この春都にお帰りになり、大学へ入られたのですわ。」
「もしかしてそれは、医学部に入られたブルブレア様の事でしょうか?」
アメリアと同じくらいの女性がこう尋ねてきたので、彼女は頷いた。
「はい、そうです。失礼ですが貴女はどなたのお付きの方ですか?」
「私はマリア=ケントと申します。私は、栄養学部三年のアリスティア=アマンドさんの付き人です。彼女からブルブレア様のお話はよく聞いておりしたが、まさか、ベネフィット公爵家のご令嬢だったとは、本当に驚きました。」
彼女のラフな話し方に少し驚いた。しかし、いくら裕福な家庭とは言え、貴族とは違うのだろう。
アメリアは、庶民の中でも貧困家庭の生まれだったが、早くから伯爵家に住んでいたので、かえって一般庶民の感覚がよくわからない。
「まあ。アリスティア様には良くして頂いていると、伺っております。セカンドネームだけを名乗っている事を心苦しく思っておられましたが、大学が初めての学校生活でしたので、静かに過ごしたかったのでしょう。申し訳ございません。」
アメリアの言葉にマリア嬢は好意的に頷いてくれた。
「今年最年少で入学されたとお聞きしましたが、リッカルド様の妹様だったというわけですね。どうりで。」
マリアが頷くと、他の方々も納得したようだった。リッカルド様の妹、つまりあのペルクス様のお子様なら、さぞかし優秀でしょうね、と・・・・・
ここで、内心アメリアはムッとした。確かにペルクス様は大変優秀な方であり、エキナセア様がそんなお父上に似て優秀な事は事実だ。しかし、それだって、フィリア家の後ろ楯があったからこその今ではないか。
「エキナセア様は、フィリアの伯爵夫妻が招いた、レアム=レア=イーサリアム先生に教えて頂いていたんですの。」
「「「まあ!」」」
控室にいる者がみな、一度目と同じくらい驚いた。
世界一の家庭教師として名高い彼が突如都から姿を消した事は、都の七不思議伝説の一つなのだから。
「あのイーサリアム先生がフィリア伯爵様の元にいらしたのですか?」
「はい。学校へ通えなかったお嬢様に期待されたのですわ。」
「「「まあ!」」」
世界一の家庭教師を一人で占有してしまうとは、なんと贅沢な事でしょう。一昔前は借金で首が回らなかったという噂のフィリア伯爵だが、今はもう復活されたのだと皆が思った。
「あのう、ジョージさんはブルフレア様と同郷の幼馴染みと伺いましたが、あの方も貴族でいらっしゃいますの?」
マリア嬢の質問に、アメリアは頭を振った。
「ジョージ・・・さんは、エキナセアお嬢様の付きの騎士ですが平民です。騎士道競技大会において好成績を出して、その資格を取りましたの。
彼もそして私も、お嬢様と伯爵様の温情により、イーサリアム先生の元で学ばせて頂き、大学入学の為の認定試験に合格し、大学へはいりましたの。」
「ではあなたも大学生なのですか?」
「いいえ。でも私も来春、公爵様、伯爵様のご好意でこちらで学ばせて頂く予定です。」
アメリアの言葉に、控室にいた女性達はあっけにとられた。平民の侍女が大学に入るなどとあまり聞いた事がなかった。
「それじゃ、あんた、結婚はどうするの? 卒業する頃には婚期を逃してしまうんじゃないの? いくら美人だって。」
一番年上と思われる女性がこう聞いてきた。この年代の女性がはっきりとものを言う事は、ボランティアで敬老院や病院通いをしていたのでよくわかっている。
大学へ入る前に結婚するようにとエキナセアに言われた時、アメリアはとんでもないと思った。
しかし、今朝、ジョージの騎士服姿を見た時気持ちが変わった。ジョージを絶対に失いたくないと。
まだ二人で何も話し合ってはいない。しかし、ジョージを誰にも取られないためには、恥も外聞も気にしていられない。だいたい、平民の自分につまらないプライドなんかいらない。
開き直ったアメリアはニッコリと微笑みながらこう言った。
「ご心配ありがとうございます。でも私には婚約者がおりまして、近いうちに結婚いたしますの。」
「「「まあ!」」」
「それはおめでとうございます。お相手は、もしかして、先ほど仰られていた騎士様ですの?」
情報通の女性の問いかけに、アメリアはコクリと頷いたのだった。
そこへノックの音と共にドアが開き、立派な騎士姿のイケメンなジョージが顔を出したので、控室の中は、
「「「キャー」」」
という、女性達の甲高い声が上がったのだった。




