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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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70 お気にいりの場所

このお話は元気になったエキナセアから始まりましたが、この章でようやく、エキナセアがどうやって元気を取り戻せたのか、その根本が語られます。

 確かに都の公爵家の庭園のような豪華さ華麗さはないが、こちらの方が、植物が自然に息づいているようで、心が落ち着く気がする。

 それに、以前よりきちんと手入れされ、可憐さがましている気がした。

 

「ジョージさんが私の為にこの庭を整備してくださったんです。かわいいお庭でしょう?」

 

 エキナセアが嬉しそうに、自慢気に言った。やはりそうか、この庭はエキナセアの雰囲気に合っていると感じたのは、間違いではなかったのだなとペルクスは思った。

 

 四阿(あずまや)の中のベンチに腰を下ろすと、エキナセアは帽子を脱ぎ、膝の上に置いてそれを優しく撫でた。その様子を見たペルクスが

 

「お前は幼い時から帽子か好きだったよね。」

 

 と言うと、エキナセアは首を横に振った。

 

「この帽子は、カミーユ叔母様に頂いた私の宝物です。この帽子とこの四阿が私の再生の為の一歩でした。

 でもそれ以前は、私は帽子が大嫌いでした。」

 

 娘のこの言葉にペルクスは驚いた。エキナセアはいくら注意しても帽子を手放さず、屋敷の中でも外でもかぶっていて、帽子がエキナセアの代名詞だったではないか。

 父の意外だという顔を見て、娘は笑った。

 

「お父様はとても偉い方ですが、女性の気持ちには少し、ええと、鈍いというか、察するのが苦手ですね。」

 

「は?」

 

「グリークお兄様の結婚前に、家族揃ってお庭でパーティーをした事を覚えていらっしゃいますか?」

 

 エキナセアの質問にペルクスは苦い顔で頷いた。あの時、エキナセアは初めてアレルギーを発症したのだ。忘れるはずがない。

 

 元々ベネフィット家にはアレルギーの遺伝があったが、それに加えてサチがよく検討もせず、いい加減な薬を使って毛染めをしていたせいで、エキナセアは本格的にアレルギー体質になってしまった。

 しかし、あの時の直接的原因は、太陽の光によるアレルギーだ。自分が無理に帽子を脱がさなければと、ペルクスは何度後悔した事だろう。

 どんなに娘に責められても仕方がないと、彼は思った。

 

「あの時お父様は、せっかくのかわいい顔が見えないから、帽子をとりなさい、と私におっしゃったんです。

 そうなんですよ。女性にとって帽子は、勿論日除けの対策の物ですが、装飾品でもあるんです。それなのに、自分の顔を隠すようなつばの大きな帽子ばかりを、まだ子供だからといって、好き好んでかぶっているわけがないじゃないですか。しかも、屋敷の中でも。」

 

 エキナセアの言葉にペルクスは唖然とした顔をした。

 

「当時の私にはお姉様程自己顕示欲はありませんでしたが、それでも一応女の子でしたから、人から可愛らしく見られたいという欲求は少しはあったのですよ。

 それなのに、似合う似合わないではなく、ただ髪の毛を隠す為だけに、つばの広い帽子を被らされていたんですよ? 帽子を好きになる訳がないじゃないですか。」

 

「・・・・・」

 

「帽子とは真実の自分を覆い隠す物。自分のコンプレックスの象徴でした。

 でも、この叔母様が下さった帽子は、確かにつばが大きくてお日さまの光を遮ってはくれますが、私の顔や髪の毛は隠したりはしていないでしょう?」

 

 エキナセアは父を責めている口調では全くない。ただ真実を述べているに過ぎなかった。そして優しい表情のまま話を続けた。

 

「こちらに来て、ベッドから出られるようになるまで、一月以上かかったんです。体にも心にも外から鍵をかけらていたような感じで、自分ではどうしていいかわからかったんです。 

 ユーゴ叔父様も、カミーユ叔母様も、お祖母様も、エドモントさんも、アリーチェさんも、みんな優しくして下さって、早くそれに答えたいと思っていたのに。」

 

 エキナセアが元気を取り戻したきっかけは、エキナセアがアリーチェの読み聞かせに反応し、ユーゴがレアム先生に家庭教師として来てもらったお陰だと、みんなは思っているらしい。 

 勿論それも間違いではないのだが、心に鍵がかかったままであったら、そもそも読み聞かせに反応する事はなかっただろう。

 

 ベッドの中で葛藤を続けていたある日の夜、エキナセアは花のいい香りに気がついた。

 

 優しくて、心が落ち着く香り。何の香りなのかしら? どこから香ってくるのだろう。エキナセアは部屋中を眺め回した。そして、窓辺に置かれていた鉢に目をやった。

 

 蘭の一種だろうか。大きな白い高貴さを感じさせる花。もし夜の庭に咲いていたらで、月の光りに輝いていそうだ。その美しい花から、その香りが漂ってきているようだった。

 

 何と言う名前の花なんだろう。いつからあそこに置かれてあったのだろう。全く気が付かなかった。

 

 翌朝目が覚めて窓辺に目をやると、今度は昨夜とは違う花の鉢が置かれてあった。つるが長めの支柱に螺旋状に伸びて、紫色の花を咲かせていた。その花の名前は勿論わかった。朝顔だ。

 

 そして昼食前にウトウトしていると、甘い、まるでデザートのような香りがして目を覚ました。すると、薄いピンク色の小さな花が一纏まりとなって沢山咲いている鉢が、朝顔にかわって置かれてあった。

 

「可愛い。」

 

 思わずエキナセアはそう口にした。

 

 昼過ぎに化粧室から戻ってくると、今度はピンクの花に加えて、オレンジ色の派手な色合いのキク科の花の鉢が置かれてあった。

 

 夕方にはまた夕べの白い蘭に似た花が・・・・・

 

 エキナセアは窓辺の花を眺めるのが楽しみになっていった。そしてそれと同時に、今まで気付かなかった事にも関心を抱くようになっていった。

 

 例えば、毎食ごとに変わっているランチョンマット、食事に添えられている珍しい果物や飲み物。

 そして余計な事は一切いわず、ただエキナセアに向けられる優しい笑顔に。

 

 コトッ! 微かな物音がして、少し慌てるような人の気配がした。エキナセアが目を開けると、白い蘭に似た花の鉢を抱えたジョージと目が合った。

 驚いて固まったジョージにエキナセアがこう話しかけた。

 

「ジョージさん、いつも素敵な鉢植えをありがとうございます。毎日お花を見るのが楽しみです。出来れば、お花の名前も教えて抱けたらもっと嬉しいのですが。」

 

 と。 

 

 

「ほら、あそこ、日が昇るとつぼんでしまいますが、夜にはとても気品がある白い花が咲くんですよ。名前は『月下香』といいます。」 

 

「そして、そこのピンクの花は『ネメシア』という名前です。とてもかわいいでしょう。側に行って香りをかいでください。そうなんです。バニラのような甘い香りなんですの。素敵でしょ。」 

 

「ああ、あの華やかでまるでナスタリアお姉様みたいなお花は、『ガザニア』です。見ていると、元気がもらえるようでしょう?」

 

 エキナセアは父親に、友人に教えてもらった珍しい花の名前を次々に告げた。

 

「エキナセアはジョージ君からは美しくて香りの良い花を、ノア君からは珍しくて栄養価が高くて美味しい果物を、アメリアさんからは元気の出るカトラリーや笑顔をもらって、体と心の鍵を取り外せたのだね。」

 

 ペルクスの言葉にエキナセアは頷いた。それからこう続けた。

 

「あと、ディルのおかげもあります。いじめっこだったあの子がすっかり優しくなって。

 必ず私を健康にしてやるって、それはもう勉強に励んでくれています。」

 

「そうか、あのディルが。」

 

「ディルを見ていて私ももっと勉強がしたくなったんです。そのためには体力をつけなくてはと、レアム先生の指導で少しずつ運動を始めたんです。

 そして、初めて庭に出てこの四阿に来る時に、カミーユ叔母様からこの帽子を頂いたんです。

 前々から私が外に出られる日を願って、ミシェル伯父様に依頼してくださっていたんです。」 

 

 ミシェルとはカミーユのすぐ上の兄で発明家である。二十年ほど前に療養のためにフィリアの地を訪れて以来、結婚をしてフィリア家近くに住んでいる。

 

 ペルクスは四阿の中からゆっくりと周辺を見渡して言った。

 

「ここはエキナセアへの愛が溢れているんだね。」

 

 幸せそうに頷く娘の顔を見ながら、フィリアの人々に深く感謝しつつ、遅蒔きながらでも、これからは自分も精一杯の愛情を娘に注いでいこうと、父は固く心に誓った。

私的な事で恐縮ですが、今日、久しぶりに酷い眩暈に襲われて、天井ぐるぐるでした。

梅雨時は体調が崩れますので、皆様もお身体ご自愛くださいね!

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