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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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5 弟と学友

「この春大学に、飛び級入学したとても優秀な女の子がいると話題になっていたけど、それがエキナ・・・、じゃなくて、ブルブレアだったのね。」


 合点がいったとばかりに、アディールが膝をたたいた。

 都の高等学院には、そんな飛び級できるような女の子はいなかった、と弟のリュカは言っていたのだ。

 普通は、地方の優秀な子供のほとんどが、初等学院生のうちに都に国費で留学して来る。

 故に、大学に進学してくる生徒は、ほとんどが都の高等学院からで、地方からやって来る生徒はあまり多くはないのだ。しかも飛び級するような生徒は。


「飛び級じゃありませんわ。私、フィリアへ移ってからも体調が良くなくて、学校へは通えませんでしたので。昨年十四の時、高等学院卒業認定試験を受けて合格し、大学へ行く資格をとったんです。」


「認定試験?」


 アディールが小首を傾けた。そのような試験を聞いた事がない。


「国費留学制度が整えられてきているといっても、まだまだ地方に住む者や、貧しい家庭の者は、いくら優秀でやる気があっても、なかなか高等学院までは進めません。そのような者達を救済してくれるのがこの試験です。学校へ通えず自力で学んだ者でも、高等学院卒業者と同等の能力が認定されれば、道が開けます。もちろん大変難しい試験で、年に数十人しか合格出来ないそうですが。」 


 エキナセアは自慢する訳でも、得意気でもなく、淡々とこう説明した。

 アディールもそれが当然だと言うように頷いた。


「素晴らしい試験ですね。何故知らなかったのかしら。もっともっと世に広めないといけないわ。留学制度にも資金面を考えると限界があるものね。それにしても、そんな難易度の高い試験に合格するなんて、さすがね、ブルブレア。」


 アディールは今置かれている自分の状況などすっかり忘れて、ワクワクしたように瞳を輝かせた。

 エキナセアはそんなアディールの反応を王女様らしいな、と思いながら、今度は少しはにかみながら、こう言葉を続けた。


「私が合格出来たのは、(ひとえ)にレアム先生のお陰です。その証に、フィリアでは過去には一人も合格者がいなかったのに、昨年は私を含めて四人も合格したのですから。みんな先生の教え子です。」 


 レアム=レア=イーサリア厶は、幼い頃から神童と呼ばれる程大変優秀な人物だった。

 大学入学前の高等学院在席中から、既に高位貴族の子弟の家庭教師をしていたが、彼が教えると、子供達の成績がすぐに上がると非常に評判だった。

 そして大学を卒業したらすぐに、大学で教鞭をとるだうと皆から噂をされていた。

 ところが、卒業とともに彼は都からいなくなり、彼は何処へ消えたのかと大騒ぎになった。

 今もそれは、都の七不思議のうちの一つにあげられている。

 そのイーサリアム氏に学問を教わっていたとは・・・

 アディールは、今日何度目か分からない驚愕の声を上げた。


「イーサリアムさんが突然都からいなくなって大騒ぎになっていたけれど、まさかエキナセアの家庭教師をしていたなんて。流石ベネフィット公爵家ね。」


「違います、王女殿下。私の為に先生に無理なお願いしてくださったのはアリーチェさんです。そして先生と契約を結んでくれたのは、フィリア辺境伯である叔父夫婦です。ベネフィット家は関係ありません。」


 エキナセアが片眉を少し上げた。

 彼女がベネフィット家を本当に嫌っていると言う事がよくわかった。

 それと同時に、フィリアへ行った事はエキナセアにとっては、寧ろ幸いだったのだと言う事を悟った王女だった。


「それに、レアム先生が私一人の家庭教師だったのは、ほんの数ヶ月だけなんですよ。ディルなんて都への留学が決まっていたのに、それを蹴ったくらいですから。しかも地元の初等学院へも行きたがらず、私と屋敷で授業を受けたがって大変でした。まあ、毎日侍従の人達に強制連行されて行きましたが。」


 エキナセアはクスリと笑った。


 ディルとは、エキナセアの双子の弟で、ベネフィット家の第五子の三男で、フィリア辺境伯の養子になっている、ディル=トーマス=フィリアの事だ。

 以前は時々都の実家にも訪れていたので、アディールも面識がある。

 双子とは言え性別が違うので、あまり似てはいない。

 お仕着せの帽子を被っているので今は見えないが、エキナセアは母親の公爵夫人と同じ、黒髪に黒い瞳。

 それに対し、ディルは実の父親の公爵と同じ、濃い茶色の巻き毛に、同じ濃い茶色の瞳。そして、濃い茶色の太い眉毛を持っていて、アディールの弟とはタイプが違う、男らしい精悍な顔立ちをしていた。


「まあ。そう言えば、どうしてディルは留学してこないのか、そんなに出来が悪いのか、って以前リッカルドさんが不機嫌そうにおっしゃってたわ。あっ、ごめんなさい。」 


「いえいえ、地方の貴族の子弟は大抵都の高等学院へ入りますし、優秀な子は初等学院のうちに都へ出ますからね。そう思われて仕方ないですよ。本当に叔父と叔母には申し訳ないと思っています。実子が産まれたから、養子にお金をかけたくないんだろう、なんて噂をたてられて。」


 エキナセアは深くため息をついた。


「ディルは私の口から言うのもなんですが、とても優秀で勉強熱心なんです。そしてリッカルド様とは違い、発想力が素晴らしいし、考え方が柔軟なんです。だから、世間体は気にしないし、人に言われた道、決められた道を進みたがりません。」


「えっと、素晴らしいと思うけど大変そうね、周りが。」


 アディールが言葉を選びながらこう言うと、エキナセアは彼女の顔をしっかりと見つめながら、


「そうなんです。ディルはみんなから、アディール様の男の子版と言われてます。」 


 と答えた。 


「私の男の子版? 私、私、そんなに周りに迷惑をかけているの?」


「迷惑というより、予想不可能な、思いがけない言動で、いつも周りを振り回していらっしゃいますよね。お気づきになってはいないと思いますが。」 


 エキナセアの開け透けな発言に、王女は唖然とした。自分の評価もさる事ながら。

 エキナセアは昔は、こんなにはっきりとした物言いはしなかった。いつも人に遠慮し、気を使って話をしていた。


「私は、そんなアディール様が大好きなんです。そして、いつまでもそのままでいて頂きたいんです。」


 続けられたその言葉に、アディールはまた唖然とし、暫くしてから、輝くように微笑んだ。


「昔のあなたを好きだったけれど、今のあなたも大好きよ。」


 幼い頃のエキナセアは、いつも俯いて背中を丸め、まるで自分で自分を守るように縮こまっていた。

 しかし今目の前に居る彼女は、シャンと背筋を伸ばし、顔を上げ、しっかりと人の目を見て堂々と話をしている。とても素敵だ。


「それで、私に似ているディル君は、今はどうしているの?」


「フィリアの高等学院に通って、家ではレアム先生に教えを受けています。飛び級をしているので、来年には卒業して、大学に来ると思います。私や友達に先を越されたと、非常に悔しがっています。」 


 エキナセアは楽しそうに笑いながら言った。


「あなたと一緒に試験に合格したというお友達も皆、大学に入学したの?」


「いいえ、一人、庭師見習いをしていたジョージ=ジョルジャさんだけです。彼は植物学と薬学が学びたいそうです。アディール様にもご教授して頂けたら有り難いです。」


「えっ? ええ、勿論構わないわ・・・」


 王女は少し躊躇いながらも頷いた。


「私の世話をしてくれていたアメリア=マデリンさんは、ハロルド坊やを立派な次期伯爵にする為、未来の侍女長を目指して、全力修行中です。それに小間使いだったノア=クロエさんは、執事になる為に昼は屋敷で働きながら、夜は専門学校で勉強しています。彼はずば抜けて優秀なので、いずれは大学へ入って、あっという間に卒業すると思います。アディール様のように。」


「ええと、皆さん、もしかして伯爵様の使用人の方なの?」


 アディールは戸惑い気味に尋ねた。


「そうです。代々フィリア家に仕えている家のお子さん方で、ディルの幼馴染みです。そして私の学友でもありますね。」 


 エキナセアの答えに、アディールは興味津々になって身を乗り出した。


「ねえ、その辺りの詳しい事情を、是非教えて下さらない?」

 

 

 

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