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39 通過認定証と古代文字

前々章に引き続き、リュカ王子の隠れていた能力がわかってきます。エキナセア同様、自分の能力には気付いていないようです!

「予想はしていたが、まさかこんなに早いとは。流石、エキナだな。」

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには声の主であるリアムと、兄のリッカルド、そして、なんとリュカ王子が立っていた。 

 

「どうして皆様がここにいらっしゃるのですか?」

 

 エキナセアが驚いて尋ねた。

 そこはトールキャッスルの建物の屋上だった。

 西側にはすぐ側まで魔の森、東側は見上げるほど険しい東山脈が迫り、南北には街道が伸びているのが目に入った。建物の高さはそれほどないが、素晴らしい眺望だ。

 

「四国会議の事前打ち合わせをしておこうと思って。」

 

 リアムが答えた。

 

「フィリア組も来るしちょうどいいかと、私がリュカ殿下とリアム様をお誘いしたんだ。クリスさんとジョージ君も一緒だ。」 

 

「えっ?」 

 

 エキナセアは兄の言葉に、思わずぎょっとして固まった。

 ジョージさんはともかく、フィリアガーデンの店長クリスさんが、このメンバーと一緒に馬車に揺られてきたのかと思うと、彼に同情を禁じ得なかった。多分自分なら眩暈を起こし、気絶しているふりをし続けるに違いない。

 

「フィリア組もそう時間がかからずパスをもらって出てくるだろうから、少しここで待つことにしよう。ここの三階の部屋をお借りしているから、全員集まったらそこへ移動しよう。」

 

 リッカルドの言葉に、エキナセアは自分がパスをもらった事をようやく思い出して、右手に握っていたパスに目をやった。 

 

 ちょうど手のひらに乗るくらいの大きさの、金色の金属のカードだ。

 そのカードには

 

 『permanent pass』・・・

 

 古代文字と思われる見慣れない文字が刻まれており、裏面には、

 

『このカードは遺伝子証文されているので、本人のみ有効。他人が使用すると罰則が加えられます。』

 

 と記されたあった。よくわからないが、盗んだり、悪用したりすると、恐ろしい天罰がくだされそうだ。もちろん自分には関係はなさそうだが、もし誰かが軽い気持ちで悪用してしまったら、と想像すると少し怖くなった。 

 

 それしても遺伝子証文ってなんだろう。カードに名前が書かれていないけれど、どうやって自分の物だと証明するのかしら? 

 

 それに、このカード、以前どこかで見た事があるわ。いつ、どこで、誰の物だったかしら?   

 

 エキナセアがカードを頭の上へと持ち上げて、まるで透かすように眺めながら記憶を辿っていると、リュカ王子がすぐ側にやって来て言った。

 

「久しぶりだね、エキナセア。」 

 

「一月半ぶりですわ。」

 

「私にとってはとても長かったけれど、君はそうでもなかったのかな?」

 

 エキナセアは真っ赤な顔をすると、あわてて頭を振った。

 

「いいえ、ずっとお会いしたかったです。どんなに忙しくても、片時もリュカ様の事は忘れていませんわ。」 

 

 自分でも驚くほど、素直な言葉が出てきた。そうなのだ。五年会えなかった時も、リュカ王子を思わない日はなかったが、再会し、すぐ近くに居るようになってからの方が、ずっと、強くリュカ王子の事を考えるようになっていた。 

 両思いだとようやくわかったのに、満足に話せないこの状態は、遠くにいた頃よりずっと辛かった。 

 

「私もずっとエキナセアに会いたかったよ。だから、リッカルド殿に誘われて、とても嬉しかった。不謹慎かもだけれど。

 ただ、エキナセアはここへ来るのを嫌がっていると聞いていたので、会えないのではないかと少し心配していた。」

 

 リュカ王子の言葉に、何故こうも半ば強制的のようにここに連れてこられたのかを、エキナセアは悟った。

 フィリア組と話し会う為というより、むしろリュカ王子に合わせてくれようとしたのか。エキナセアは素直に兄に感謝をして、リッカルドの方を見て、にっこりと微笑んだ。 

 

「それにしても、エキナセアのその格好には驚いたよ。本当に別人のようだね。」

 

 リュカ王子の言葉にエキナセアははっとした。自分がお仕着せを着て、ボンネット帽を目深にかぶり、黒ぶち眼鏡をかけている事をすっかり失念していた。

 先程、副仲裁人のナオミ様に失礼をしたばかりだというのに。

 

「こんな格好をお見せして、本当に申し訳ありません。」

 

 エキナセアは情けなくなって、涙が出そうになった。しかし、リュカ王子はニコニコしながら言った。

 

「どんな格好をしていても、エキナセアはかわいいよ。むしろ、その姿が見られて嬉しいよ。」

 

「えっ? そうなんですか?」

 

「うん。」

 

 二人が手を取り合おうとして、エキナセアの手から認定パスが落ちた。慌てて拾おうとしてエキナセアがカードに触れると、カードはパッと白く輝き出した。

 

「あっ!」

 

 エキナセアは思わず声をあげ、カードから手を放した。するとその輝きはすぐに消えた。リュカ王子がそのカードを拾い上げて、指でそっとそれに触れたが何の変化もしなかった。

 

「今のように、認定パスは本人でしか反応しないんだよ。」

 

「凄いですね。リュカ様のカードもこれと同じですか?」

 

「そうだね。これだよ。七年前に頂いたものだよ。」 

 

 リュカ王子が見せてくれたカードも、エキナセアと同じ金色のカードで、同じ文字が刻まれていた。

 しかし、七年前という言葉にエキナセアは違和感を覚えた。

 

「認定パスは、外国へ行く度に申請して、作って頂くものなのではないのですか?」

 

 こうエキナセアが尋ねると、リュカ王子は優しく微笑みなから説明してくれた。

 

 認定パスには三種類ある。

 一般的なのは、エキナセアが言った通り、一つのトールキャッスルを通過するたびに発行される赤色のカードである。

 しかし、外交や貿易などで、数ヵ国移動する者にはその都度発行してもらうのでは手間がかかる。そこでどのトールキャッスルでも使え、しかも半年毎の更新にパスすれば、ずっと使用可能な銀色のカードである。

 そして、最後の三つ目のカードが、エキナセアやリュカ王子がもらった金色のカードでなのである。

 

「この金色のカードは他のカードとどこが違うのですか?」

 

「ほら、この表に、

 『permanent pass』(パーマネント=パス)

 と書いてあるだろう。

 つまり、永久的な通過認定証って事だよ。これを持っていればもう、申請する必要がないんだ。」

 

 リュカ王子のカードの説明に驚くと共に、ある事実にエキナセアは驚愕した。

 あまりの事に、大きく瞳を見開き、エキナセアはリュカ王子を見つめた。そんなエキナセアに今度はリュカ王子の方が、不思議そうな顔をした。

 

「どうしたの? エキナセア。何をそんなに驚いているの?」

 

「リュカ様は古代文字が読めるのですか?」

 

「ええ。それが何か?」

 

 平然と答えたリュカ王子に、エキナセアはまた驚愕した。

 

「何かじゃありませんわ。古代文字を読む為に、世界中の学者が日々研究しているんですよ。」

 

「そうなの?」

 

 リュカ王子は何故エキナセアがそんなに興奮しているのか、さっぱり理解出来ないというように小首を傾げた。

 

「それでは、リュカ様は城址跡公園にある記念碑の古代文字も読めるのですか?」

 

「もちろん。」

 

 エキナセアは絶句した。

 レアム先生が初等学院時代から研究し続けても解明出来ていない古代文字。それをリュカ様は当然のように読めるという。

 もしかしたら、王族は皆読めるものなのだろうか。

 

「アディール様や他の王族の皆様も古代文字を読めるのですか?」

 

「どうだろう? 確かめたことはないのでわからないな。」

 

 エキナセアは両手で口を覆い、じっとリュカ王子を見つめた。

 沈黙が数分続いた後、リアムの声がした。

 

「おいおい、こんな所で見つめ会うなよ。」

 

 エキナセアはその声の持ち主に顔を向けると、興奮気味に言った。

 

「リアム様、お兄様、リュカ様は、古代文字が読めるそうです。」

 

「「ええええっ・・・・・!」」

 

 リアムとリッカルドが辺りに響き渡るような大きな声で叫んだ。そしてあわててエキナセアとリュカ王子の元に走ってきた。その二人にエキナセアが言った。

 

「お二人のパスを見せて頂けませんか?」

 

「「・・・・・?」」

 

 二人は言われるままそれぞれパスを取り出した。リアムはエキナセアとリュカ王子と同じ金色のカードで、リッカルドは銀色のカードだった。金色と銀色のカードの表に書いてある古代文字は同じではなかった。

 

「カードの表に書かれてある古代文字の意味はおわかりになりますか?」

 

 エキナセアの問いに二人は首を横に振った。

 

「リュカ様、なんと書いてあるのか教えて頂けませんか?」

 

 エキナセアの依頼にリュカは頷いた。

 

「金色のカードには『permanent pass』(パーマネント=パス)と書いてあります。つまり、永久的な通過認定証って事です。銀色のカードには『Deferred pass』(ディフェレッド=パス)と書いてあります。こちらは延期、あるいは据え置きの通過認定証っていう意味でしょうか。」

 

 リュカはリッカルドから受け取った銀色のカードを見ながらこう言った。

 リッカルドとリアムはエキナセア同様、大きく瞳を見開き、リュカ王子を見つめた。そして数秒黙り、その後、矢継ぎ早に質問をし続けた。

 いつ、どこで、どうやって文字が読めるようになったのか、誰に教わったのか、何故今までそれを黙っていたのかと。

 

 リュカ王子が古代文字を読めるようになったのは七歳、初等学院に入学した頃だったという。つまり現代語とほぼ同時に読めるようになったらしい。

 家族で城址跡公園へ行った際、一人で記念碑の前に立っていた時に、どこかこらか詩の朗読のような声が聞こえてきたのだという。それが記念碑に刻まれていた文章だったらしい。

 

「一度聞いただけで覚えたという事ですか?」

 

 エキナセアの問いにリュカ王子は頷いた。リアムはもう嬉々として、次から次へとリュカ王子に質問をし続けた。そんな様子を横目で見ながら、エキナセアとリッカルドはこそこそと話をした。

 

「リュカ殿下もやっぱりあちら側の方だったんだな。流石、アディール様の弟君だな。」

 

「本当ですね。しかも、ご自覚が全く無いところが恐ろしいですね。」

 

 今後、天然天才姉弟に振り回されるだろう予感に、真面目秀才型兄妹は深いため息をつくのだった。

 

 ひとしきり質問をし続けたリアムがニコニコしながら、レアムもここへ来るように伝令を出そうと言ったので、エキナセアは慌ててそれを止めた。

 

「お気持ちはわかります。記念碑の古代文字解明は、リアム様とレアム先生の長年の悲願でしょうから。でも、先生にその話をされるのは、今しばらくお待ち下さい。」

 

「何故だい? 」

 

「リアム様、今一番大切なのは、四国会議を無事に成功させることですよね。まずは国民の幸せの事を考えてくださいね。」

 

 リッカルドの言葉に、あっ!と息を飲んだリアムだった。

 

『四国会議の事、絶対に忘れてましたよね?』

『ああ、間違いないな。』

 苦労人兄妹はアイコンタクトでそう会話したのだった。

 

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