40 明かされた秘密
エキナセア達は、トールキャッスルの屋上でフィリア組が来るのを待った。しかし、三十分待っても誰もまだ来なかった。
「遅いですね。」
とエキナセアが呟くと、
「遅くなんかないよ。普通、通過認定証もらうのには平均三時間だからね。下手をすると半日かかる人もいるらしいよ。」
リアムの言葉にエキナセアは驚いた。なぜなら自分は多分、三十分もかかっていなかったと思う。頭を傾げたエキナセアにリアムが言った。
「僕が思うに、三十分以内に認定証を貰えた者が金色のカードなんじゃないかな。僕は丁度三十分くらいだったかな。エキナは十五分くらいだったし。リュカ様はどれくらいでしたか?」
「幼い頃の事なので定かではありませんが、二十分くらいだったと思います。」
リュカ王子がこう答えると、ウンウンとレアムは頷きながらリッカルドを見た。すると、リッカルドはちょっと苛ついた顔をして、
「私は三十五分でした。」
と答えたので、リアムはやっぱりね、と笑った。
「レアムも四十分かかったと昔言っていたけど、彼も銀色のカードなんだよね。」
「レアム先生も銀色なんですね。」
リッカルドが少しほっとした顔をしたので、リアムは真面目な顔をしてこう言った。
「僕が言うと嫌味に聞こえるかもしらないが、金色のカードを貰える人間はそういないと思うよ。僕だって、自分以外の金色のカードを見たのは、今日が初めてだし。」
「「「えっ?」」」
他の三人が驚いた声をあげた。
そう言えば、姉のアディールでさえ銀色だったし、他の兄弟達は赤色で、父などはそもそも認定証を持っていなかったような気がする。
だから、外交は大臣任せで、自ら赴く事はなかった。認定証を取れなかったのか取らなかったのはわからないが。
もしかしたら、父王が自分の縁結び婚に拘っていたのは、末っ子だったからではなく、金色のカードを持っているからなのか? 他国へ自由に行き来ができるから。リュカ王子は初めてそんな考えに至った。
リアム様でさえ見た事がなかったという金色のカードを、引きこもり状態でほとんど屋敷の中にいた自分が、一体どこで見たのだろう。
それに、そもそも何故自分に金色のカードが? エキナセアにはどう考えても不可解だった。
「カードの色は何を基準にしているのでしょう。リッカルドお兄様が銀色なのに、よりによって私が金色だなんて。そもそも私、自分に認定証が出るとは思っていませんでした。」
「「「えっ?」」」
エキナセアのこの言葉に、今度は他の三人の驚きの声が上がった。分かってはいたが、エキナセアの自己評価の低さは驚嘆に値する。いや、むしろ怒りを感じさせる程だ。
「お前はどうしていつもそんなに自己肯定感が無いんだ。お前程心優しい娘はいないだろう。」
「お兄様にいつも意地の悪い事を言っているような妹ですよ、私は。」
「それはどこの家でもある、単なる兄弟のコミュニケーションだろう。」
「そう言うものなのですか?」
「エキナは人助けをする時、自分の損得勘定では動かないだろう? 君はいつも見返りを求めずに善い行いをしている。それは大変立派だぞ。」
「たしかに私は見返りなどというものを求めようと思った事はありませんが、後悔した事はあります。とても情けない事だと思います。」
エキナセアの言葉に何か思いあたるのだろう、リアムはムムツと唸った。しかし、それにめげずにこう言った。
「後悔するのは人として当然の事だ。人間は過ちを犯すからこそ成長するんだ。失敗をしたことのない人間なんて返って恐ろしいと思うぞ。」
エキナセアは尊敬の眼差しでリアムを見上げた。赤と緑色の綺麗なオッドアイは、いつにもまして綺麗に輝いていた。
彼の言葉に感動したのはこれでニ度目だ。レアム先生の言う通り、リアムの本来の人間性は崇高なのだろう。
「エキナセアは昔も今も、素敵だよ。
誰よりも優しくて、がんばり屋だ。
私はこれ以上他に何も望んではいないし、ありのままの君が好きだ。ただ、君の為にも、私の為にももっと自分自身に誇りを持って欲しいとは思うよ。」
リュカ王子の言葉を受けてリッカルドも言った。
「だいたい、お前はこんな素晴らしいリュカ様に思われるいるんだぞ。お前は、リュカ様が人を見る目が無いと思っているのかい?」
「違います。」
エキナセアは激しく首を振った。
「違います。でも、でも、私は、こんな髪をしているし、カミーユ叔母様に頂いた帽子や、リッカルドお兄様に作って頂いたお薬が無ければお日様の下も堂々と歩けない。
突然体調が悪くなって人様との約束も守れない。何度リュカ様との約束を反故したのかもわからないほどです。
それに、リュカ様がせっかく私の為にと準備してくださったお料理も頂く事が出来なかった様な駄目な人間です。
こんな人間だから、実の親にも愛されなかった。」
「「「・・・・・」」」
「ううっ、ごめんなさい、リュカ様。
私、私、リュカ様に嫌われるのが怖くて、こんな自分をずっと、ずっと隠してました。本当にごめんなさい!」
エキナセアは両手で顔を覆い、その場に泣き崩れた。
リュカ王子は直ぐ様膝をつき、無言のままエキナセアを強く抱き締めた。
「エキナのあのマーブルヘアーはおしゃれで染めていたんじゃないのか?」
リアムは予想外の展開に慌てながら、現状把握の為に尋ねると、リッカルドは辛そうな顔で、エキナセアを見つめながら言った。
「エキナセアのあの髪は地毛です。生まれた時は、真っ黒でしたが、五才の頃から次第に白い毛が生えてくるようになったそうです。」
「なったそう、とは? ずいぶん他人事のように聞こえるが。」
リッカルドの説明にリアムは眉を潜めた。
「リアム様のおっしゃっる通りです。私は、すぐ側にいながら、たった一人の妹が苦しんでいる事に気付いてやれませんでした。」
リッカルドはうつむき、両手を固く握りしめた。
「母が自らの手でエキナセアの髪を染料で黒く染めていたのです。
そしてそれを誰にも秘密にしていました。暫くの間父にさえも言わなかったようです。
マーブルヘアは母の実家のフィリア家の方の遺伝だったので、知られたくなかったのでしょう。エキナセアにも固く口止めしていたそうです。
でも、その毛染め薬のせいで、エキナセアに色々なアレルギー症状が出るようになってしまいました。父の方がアレルギーがでやすい家系だったようで。
しかも、そのアレルギーの事もベネフィット家では極秘扱いだった為、私は十八、成人して初めてその事実を知りました。
そうです。エキナセアがフィリアへ行って暫くたったのち、ようやく私は全ての事を知ったのです。」
リッカルドはそこまで話すと、大きな呼吸を一つして、覚悟を決めたように続きを話し始めた。
とうとう、エキナセアがリュカ王子に自分の秘密を打ち明けましたが、次章で、さらに、自分でも知らなかった秘密がわかります。
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