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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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28 狭き門の通過者 その二

 東トールキャッスルに着いて、エキナセアはそこで初めて、何故会議に出るつもりのない自分まで、ここに来させられたのかを悟った。

 トールキャッスルを囲む塀の扉の列の中に、フィリア家使用人の面々を見つけたからである。

 

 フィリア家の使用人のうちの若手メンバーが通過許可証を貰うために訪れていた。リッカルドとエドモントが示し合わせたのだろう。

 つまり、フィリアガーデン会議の主要メンバーによる情報交換の為だ。

 

 フィリア辺境伯爵である叔父夫婦とディル、そしてエドモントさんとレアム先生は、既に認定パスを持っていたという事は、既にノアからの情報で知っている。

 五人とも健康診断の為の時間と思われる、約三十分そこそこの最短で認定されたと聞いた。それはそうだろう。あの方達が認定されなければ誰が認定されるというのだ、とエキナセアは思った。

 

 エキナセアとフィリア家の繋がりは、ベネフィット家の使用人達にも知られていた。エキナセアは顔馴染みに軽く挨拶をして、後で会おうと目配せすると、家人達の列に並んだ。

 

 今日の天気はまさに秋晴れと呼べるような良い天気だ。そして暑さはかなりおさまり、ブラウス一枚がちょうど良いくらいの、爽やかな陽気だった。

 

 しかし、多くの人が爽やかに感じるであろうこの季節こそが、エキナセアにとっては、台風に匹敵する程体調がすぐれなくなる、嫌な気候だった。そう、季節の変わり目が苦手なのだ。

 

 エキナセアはトールキャッスルに入るための、十二ある入り口の扉の前に並びながら、すうーっと気が抜けていくような感覚を覚えた。

 まるで体の中の魂が抜け出ていくような感覚。これは体調が悪くなる予兆だという事を、エキナセアは長年の経験からわかっていた。

 

 どうせ自分には認定書はおりないだろう。なんだかんだと言って国の法を破っているし、実の親兄弟を半ば脅すようにして居座っている。それに、仕事仲間や大学の友人達にも嘘をついているのだ。

 

 無駄な行為だと始めからわかっているのに、こうやって並んでいる事は酷く苦痛だった。

 しかも、問題のある人間の審査時間はかなり長いらしい。それなら、最初から認定されるはずのない自分はキャッスルに至る門には入らずに、ただ外で待っていた方がいい。

 そうすれば、フィリア家メンバー達とも早め話が出来るだろう。あの面子なら、叔父達同様最短で認定パスをもらえて出てくるだろうから。

 

 そんな事を考えていたら、体が少しぐらついた。しかし、両脇を先輩侍女にしっかりとホールドされてしまい、とてもリタイア出来そうにはなかった。

 

 列に並んでから一時間程経って、エキナセアは先輩侍女達と共に、右から六番目の扉から門の中へ入った。

 白い壁に挟まれた、広くてなだらかな白い階段が、白い塔の二階部分へと続いていた。トールキャッスルはどこも三階建てだと聞いているが、一階の天井の高さは普通の屋敷の二、三倍は高いのではないだろうか。

 

 真っ青な空に真っ白な壁と階段。その眩しさに、一瞬目を瞑ったが、先程まで続いていた嫌な感覚が、今度は逆にすうーっと消え失せた。こんな感覚は初めてだった。

 大きく息を吸い込むと、身体中の細胞が勢い良く動き出したような感じがした。そうだ、ここはフィリア家の庭園の四阿にいるような、そんな清々しさに包まれている。

 

 先程まで両脇の先輩達に引きずられて歩いていたエキナセアが、今度は先輩達を両腕で引っ張り上げるように歩き出したので、先輩達は驚いた顔をしていた。

 

 階段を上りきると広いフロアがあり、その先に建物の扉があった。そして列の先頭にいた人が、その扉の横にある小窓に、持参してきた書類を提出すると、扉が音もなくすうーっと横に開き、中へ招き入れられた。横に開く扉をエキナセアは初めて見た。

 

 とうとうエキナセアの番になり、先達に見習って扉の中へと入って行った。

 すると、そこには美しい長い黒髪の妙齢の女の人が立っていた。シルクの白いブラウスに黒のタイトスカート、そして、黒のローヒールのをはいていた。

 あまりの凛々しく美しい女性に、エキナセアは思わずみとれてしまった。それでも貴族のマナーをしっかりと身に付けているので、優雅に上品に挨拶をした。

 

「ユニフォーミティ王国の都から参りました、エキナセア=ブルブレア=ベネフィット、十五歳です。」

 

 侍女の格好はしているが、ここで嘘はいけないだろうと、エキナセアは本名を名乗った。

 すると、その女性はそれはそれは美しく、優しく微笑んだ。

 

「ようこそ、トールキャッスルに。ずっとお待ちしていましたよ。私はナオミ=アービトレイト。この東トールキャッスルの仲裁人の一です。」

 

「・・・・・」

 

 エキナセアはまたもや驚いて一瞬言葉を失った。

 アービトレイトとは初代仲裁人、エミィ=アービトレイトの直系ではないか。そんな偉い方が直々に通行人の認定をしているのか?

 

「よろしくお願い致します。」

 

 エキナセアは頭を下げながら、やっとの思いでこうつぶやいた。すると、その美しい仲裁人はエキナセアの左手を優しくとると、入り口から一番近くの部屋の扉を開けて、中へと誘った。

 

 そこは本当に狭い小部屋で、椅子が二脚あるだけだったが、その片方の椅子に座るように指示された。

 エキナセアがそこへ座ると、正面の椅子に座った仲裁人のナオミにこう言われた。

 

「帽子と眼鏡をとってもらえますか。」

 

 エキナセアはお仕着せのワンピースと大きなボンネット帽、そして黒ぶちの丸い伊達眼鏡をかけていた。この格好では身体検査にはならない。

 

「申し訳ありません。」

 

 エキナセアはあわてて眼鏡をはずし、帽子を脱いだ。すると、黒と白のマーブルヘアーがさらりと肩にかかった。 

 

「ようやく貴方に会えたわ。六年前から会えるのをずっと楽しみにしていたのよ。いえ、違うわね。何百年も前からずっと貴女達みんなに会える日を心待ちしていたのよ。とうとう会えたわ・・・・・」

 

「えっ?」 

 

 エキナセアが言葉の意味を確認しようした瞬間、狭い部屋の中は眩い白い光に溢れ、全身がその光に包まれた。

 彼女は思わず固く目を瞑った。そして数秒後エキナセアが目を開けると、目の前のナオミが、手に持っていた金属性のカードを差し出して言った。

 

「貴女にトールキャッスルの通過認定パスが発行されました。どうぞお受け取り下さい。」

 

「えっ? 私にですか?」

 

 思わずエキナセアはそう聞き返してしまった。健康診断どころか、まだ何の審査も受けてはいないのに、何故? 

 それに、そもそも自分は四国会議には出るつもりないのだから、パスは発行されないはずなのに。

 

「あの・・・、私は何時体調が悪くなるのかわからないので、会議には参加できないと思います。ですからパスは発行されないと思うのですが。失礼ですが、何かの間違いではないでしょうか?」

 

 トールキャッスルに間違いなどあるはずはないと思いながらも、恐る恐るそう言うと、ナオミはにっこりと微笑んだ。

 

「貴女は本当は会議に出席したいのでしょう。そもそも貴女は今回の会議の発案者のお一人と聞いていますが。」

 

「はい、本当は是非とも参加したいと思っております。でも、急に参加できなくなったら、周りの方にご迷惑をおかけしてしまうので。」

 

 エキナセアがこう答えると、ナオミは優しく頷いた。

 

「貴女は、責任感の強い人ですね。でも大丈夫ですよ。ここは気圧が一定に調節されていますから、貴女の急激な体調変化はないはずです。先程も、門の中に入った途端、体調が回復したでしょう? それにここには、お日様の毒を遮る透明な幕が至る所にかかっています。ですから帽子や薬が無くても心配はいらないですよ。」

 

 何故それを知っているのだろう。エキナセアはまた驚いて、ナオミの顔を凝視してしまった。

 

「会議に是非参加して、無事に目的を達成させてください。」 

 

「気圧とは何ですか? 何故私の体質をご存じなのですか?」

 

 エキナセアの問いには答えず、ナオミは通行認可パスを半ば無理矢利に手渡すと、入ってきた時とは別の扉を開けて、部屋から出るようにと促した。

 エキナセアは押し出されるように部屋を出た。そして急いで振り返ると、すでに扉は閉められていて、ナオミの姿はなかった。

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