33 繋がっている輪
十代の六人組のお話です。
今のところディルだけ、ちょっと残念感がありますが、伸び代が一番あるキャラと思って、気長に見てくださると嬉しいです!
昼食後、また会議が続けられたが、お茶の時間になる頃には、とりあえずの対策はまとまっていた。
そこで、ゆっくりとお疲れ様のお茶にしましょうと、エキナセアがジョージと共におやつを買いに外へ出かけて行った。
リュカ王子は二階のカーテンの隙間から、買い物をしに行く二人の様子を見ていた。
「まだあの二人の事が気になりますか?」
ノアがリュカ王子に尋ねた。
すると、リュカ王子は振り向いてノアの顔を見ると、真顔でこう言った。
「疑っているわけではありません。ただ仲がいいなと、うらやましく思っているだけです。
ジョージ殿だけでなく、あなたも、そしてアメリアさんという方の事も。」
すると、ノアは言った。
「俺達も、ずっと殿下の事を羨ましく思っていましたよ。遠く離れていてもなお、お嬢様の心を支えていらした貴方の存分を。」
「どういう意味でしょうか?」
リュカ王子がノアの言葉に驚いて、その真偽を尋ねた。そこでノアは、エキナセアと自分達の今までの繋りについてこう語り始めた。
「俺達三人、ジョージとアメリアと俺ですが、初等学院を卒業した後、正式にフィリア家で働き始めました。
本当は上の学校へ進みたかったけれど、それを親には言えませんでした。
お嬢様がレアム先生について学ばれ始めた時、最初はアメリアだけがお嬢様のお世話の為に側についていたんです。
アメリアは夜仕事が終わった後、俺とジョージにその日学んだ事を教えてくれました。俺達にとってはその時が一日で一番楽しい時間になっていきました。
そしてそれから間もなくして、俺達が夜勉強してる事に気付いたお嬢様が、自分の護衛係にと、俺とジョージも呼んでくれるようになったのです。
そうなると俺達はもう勉強したくてたまらなくなって、一生フィリア家への忠義を守るから、勉強させて欲しいと、とんでもないお願いを伯爵様にしに行ったんです。
そうしたら、そこへお嬢様までやって来て、俺達が抜ける分、自分も働くし、食事も要らないから、一緒に勉強させて欲しいって、泣きながら頼んでくださったんですよ。」
ノアの話にリュカ王子は、ああ、エキナセアらしい、と思った。
ベネフィット家で家庭教師から授業を受けていた時も、数人の侍女達を側に置いていた。甘えていると母親や姉に嫌味を言われても、それを辞めなかった。
エキナセアはもちろん侍女達に自分の世話をさせたかったわけではなく、彼女達に勉強の機会を与えたかっただけである。
何故それを知っているのかといえば、その侍女達の内の一人が、リュカ王子と親しい、王城の騎士と結婚していたからである。
「フィリア伯爵様とレアム先生は、最初から俺達に勉強させて下さるつもりだったようです。
しかし、それが判ってからも、お嬢様はご自分がおっしゃった事を実践されたんです。
それまでずっと身の回りの事を侍女にやってもらっていた方なのに、自分の身の回りの事だけでなく、屋敷の仕事もされ始めたんです。」
「・・・・・」
「かえって皆さんにお手間をかけさせてごめんなさい。でも、頑張って上手に出来るようにしますから、っておっしゃりながら。
お身体だってまだ完全に良くなっていないかったので、止めて下さいとどんなにお願いしても、お嬢様はやめようとなさらなかったんです。」
「・・・・・」
「ある日、俺達はお嬢様にお尋ねしたんです。どうして俺達の為にそこまでして下さるのですかと。
そうしたらお嬢様は、俺達が大切な人達だからだとおっしゃいました。」
「大切な人・・・・・」
「誰でも大切な人のことは大切にしたいわ。そうでしょう?と。
自分にも都にいた頃、とても大切にしてくださった特別な方がいて、とても幸せだったと。
もうその方とはお会い出来ないと思うけれど、その方に頂いた幸せを、他の方にも少しでもお裾分けできたら、あの方もきっと喜ばれると思うのです。そうおっしゃいました。
俺達は、お嬢様が都では辛い思いしかしていらっしゃらなかったと思っていたので驚きました。
そしてそれを聞いて少しほっとしたんです。ああ、お嬢様にもちゃんと大切に思って下さる方がいたんだと。良かったって。
でも、俺とジョージはまだガキだったので、その特別な方とはリッカルド様の事だと思っていたんですよ。後になってアメリアから散々に馬鹿にされました。
リッカルド様、そしてアディール王女殿下も、お嬢様を大切にしてくださっていたそうですが、それでもお二人は、特別な方とは違っていたんです。
そう言えば、ディル様が事あるごとにリュカ殿下の事を色々おっしゃっていたんですが、あれって嫉妬だったんだなって、随分たってから気が付きましたよ。」
「特別な方というのは、本当に私の事だったのでしょうか?」
リュカが自信なさそうに言った。自分はエキナセアの命を危うくした張本人であり、婚約破棄した側の人間だ。ズキンと心が痛んだ。
そんなリュカ王子にノアは優しく微笑んだ。
「リュカ殿下は、お嬢様に四つ葉のクローバーを贈られた事はありませんか?」
「えっ? ええ、ありますが。」
「お嬢様はその四つ葉を押し花にして、額に入れて今でも大切になされていますよ。
宝物だとおっしゃっていました。それに大好きな人に頂いた、とアメリアに話されたそうです。」
「・・・・・」
大きく見開かれたリュカ王子の瞳から、頬に涙が伝って流れ落ちた。
自分はこの五年の間、一日たりとエキナセアを思わない日はなかったが、彼女は自分の事など忘れているか、もしくは恨んでいるものだと思っていたのだ。昨日まで。
しかし、彼女も自分の事をずっと思っていてくれた事を、こうして第三者から聞かされて、ようやく実感というか信じる事が出来た。
「俺達がリュカ殿下とお嬢様の、例の件を知ったのは、つい最近なんです。
お嬢様が大学に入られる事になって都へ向かう直前、一緒に帰られる姪のキアラ様に、ディル様がその話をされているのを、偶然聞いてしまったんです。
お嬢様をリュカ殿下に近づけないように、注意を払うようにと。
せっかくお嬢様が、ディル様の名誉挽回をしようとなさっていたので、本当はこんなお話をしたくはなかったのですが・・・・・」
ノアが渋い顔をして、額に手を当てた。
「ディル様は本当に、お嬢様の事となると見境がつかなくなってしまうのです。シスコンとでも言いましょうか。
いくらしっかりしていらっしゃるとはいえ、まだ七歳の姪っ子様にそんな話をするなんて、まったく困った方です。
まあそれで、俺達はお二人の関係性を知ってしまったという訳なんです。すみません。」
リュカ王子は首を振った。そしてああそうかと、何故あの幼い少女が自分にあんな嘘をついたのかを悟った。エキナセアがディルの為に大学の案内をしていたなどと。
エキナセアとジョージが恋人同志だと思われないように、咄嗟にあのように言ったのだろう。
まだ幼くても、女の子ってすごいな、とリュカ王子は感心した。
「リュカ殿下、畏れ多い事を言わせて頂きますが、リュカ殿下と俺達は、ずっと以前からエキナセア様を通じて繋っている輪の中にいる、と思っておりますので、これからもどうかよろしくお願いします。」
ノアの言葉にリュカはとびきりの笑顔を浮かべ、
「その輪の中に入れてもらえて嬉しいです。こちこそよろしく。」
と言うと、ノアの両手を強く握った。
そんな超美形二人の姿を、他の者達がただ呆気にとられて見つめていた。そして、エドモントが、
「今日は素晴らしく美しい花々を見させて頂き、ありがとうございました。垂涎ものでしたよ、店長。
でも、高価過ぎてとても手に入りそうもありません。」
と言った言葉に、思わずクリスが咳き込んだのだった。




