21 みんなの宝物 その二
この章で、ようやく、ヒロインと周りの幼馴染みとの関係性が、はっきりします。
地下室を出たエキナセアは、子供達に食事と入浴をさせ、寝室へと連れていった。そして三人になったところで、今日の事を謝った。
するとチャールズが言った。
「きんきゅうじたいが起きたんでしょ。わかってる。」
キアラにそう言い含められたのだろう。
エキナセアはいじらしくなって、チャールズをぎゅっと抱きしめた。
そしてそれからキアラも。プラチナブロンドの艶やかな髪を撫でると、キアラは恥ずかしそうにしながらも顔をエキナセアの胸に埋めてスリスリした。
今回の件は国際問題に発展しかけない極秘事案だが、キアラとチャールズはリアムと面識のある数少ない人間だ。
しかも、子供とは言え、二人は頭が良くて機転もきく。
エキナセアは彼らを信じて話をする事にした。
「実はね、午後にフィリアからお手紙が届いたんだけど、あのリアム様が都にいらっしゃるのでよろしく、と書いてあったの。」
「まあ、リアム様が。嬉しいわ。このお屋敷に泊まって下さるの?」
「リアム様、また僕と遊んでくれるの?」
この二人にとって、リアムはレアム先生のお友達、かつ、マジシャン的な存在だった。
そう、当然ながら彼の正体は知らされていないのだ。
「あのね、今までは秘密にしていたのだけれど、リアム様はエンチャント皇国の公爵家の方なのよ。とても偉い方なの。」
「えっ? 他国の方だったの?」
「公爵って、僕達と一緒だね。」
「同じ公爵家でも、リアム様の方が格式が高いのです。だから、本来なら気軽にお話出来る方ではないんですよ。ただあの方は大分、なんと言いますか・・・気取らない方なので、私達とも気さくに接してくださっていますが。これはあなた達を見込んでお話するのでよく聞いて下さいね。」
エキナセアがいつにも増して真剣な顔付きになったので、子供達もこれは重要な話なのだと何となく察して、大きく瞳を見開いて叔母の顔を見た。
「今、我が国とエンチャント皇国は、喧嘩とまではいえませんが、あまり仲がよくありません。だから、どうにか仲直りしたいと両国は思っています。そこで、エンチャント皇国から使者が来る事になったのですが、それがリアム様なのです。」
二人は頷いた。
「本来ならば、王城か我がベネフィット公爵家にご滞在して頂くべきなのですが、王城ではエンチャント皇国をよく思っていない方々もいるので、リアム様にはあまりよくないと思うのです。そしてこのお屋敷には、あなた達も気付いているでしょうが、別にお客様がいらっしゃるので、やはり無理なのです。」
「では宿にお泊まりになるのですか?」
エキナセアは、リアムがフィリアガーデンに宿泊する事を話した。
そして、リアムの世話をする事になったので、暫くの間二人の世話が出来なくなる旨を説明した。
「寂しい思いをさせてしまうけど、これはこの国のためなの、許してね。少しだけ我慢してね。」
エキナセアの説明に二人は素直に頷いた。叔母はいつだって人のために頑張っているのだから、自分達も協力したいと思った。
それに叔母は自分達を信じて、こんな重大な秘密を打ち明けてくれたのだから。
「おやすみ、私のかわいい、チャールズ、キアラ。」
エキナセアは布団に入った二人の頬に優しくキスをした。
先生から唯一叔母に戻ったその時、キアラがエキナセアの腕を掴んだ。
「お姉様、私もどうしてもお話したい事があるんです。」
叔母が今、大変な時である事は子供でも分かるので、後にしようかとも思った。
しかし何故か、今話しておかないといけないような気がした。
キアラは自分の感が当たる事を知っている。
「今日スクールに、武道のご指導のために、リュカ王子様がおみえになったんです。」
「えっ?」
エキナセアの身体がビクンと反応した事を、触れている腕からキアラは感じた。
「時間的に考えると多分、王子様はお姉様とジョージさんの姿を見かけたと思います。私はディル叔父様と家庭教師の先生が、大学の下見に行っているとお話しましたが。」
エキナセアはキアラの機転に驚きつつ、感謝した。
「ありがとう、教えてくれて。お陰で、前もって心構えができるわ。」
エキナセアは必死に動揺を隠しながら、もう一度キアラにキスをして、頭を撫でてから子供部屋から出た行った。
暗くなった部屋のベッドの中で、キアラは心の中でこう呟いた。
『お姉様はいつも私達の事を宝物だとおっしゃるけど、私達にとってもお姉様は宝物なのよ。』
そしてその頃フィリアでは、ノアがアメリアの手助けを得ながら、忙しなく身支度を整えていた。
「日が暮れてから出立なんて、本当にもう。ディル様の無茶振りには毎度の事ながら腹立たしいわ。」
普段は穏やかなアメリアも、相当頭にきていた。
というのも、本来は伯爵家の執事と数名の騎士と使用人達は、昼間には都に向けて出立する予定だった。
ところが、ディルが自分も行くと言ってきかず、大騒ぎをしたせいで、彼を宥めるのにこんなに時間がかかってしまったのだ。
「まあ、エキナセア様を手助けしたい、守りたいというお気持ちはわかるんだけどね。」
ノアも苦笑いをした。
ディルはみんなの前で叫んだのだ。
「エキナセアは僕の宝物だ。だから僕が側で守る。あんな変人魔法使いの世話だなんて、エキナセア一人では無理だ。どんな騒動に巻き込まれるかわからないじゃないか。」
と。
それを聞いていた周りの者達は、皆一斉に複雑な顔をした。
ディルの言っている事はわかる。気持ちも理解出来る。しかし・・・・。
「ええ、お気持ちはわかりますよ。でも、あれほどご自分の事をわかっていない方も珍しいですよね。ディル様が側にいたら、エキナセア様の苦労が倍になるだけじゃないですか。変人が二人になるんですから。」
アメリアの辛辣な言葉に、ノアは苦笑いをした。
興奮したディルを宥めるのに半日も費やしてしまったのだ。
自分がディルの代わりにエキナセア様を絶対に守る、そう言って、どうにかやっと納得させたのである。
ディルにとって、誰よりも一番信頼できるのがノアであったのだ。
ずば抜けた頭脳・・・
素早く、理路整然とした判断力・・・
切れ味鋭い身のこなし・・・
物怖じしない物言い・・・
そして、その美貌・・・・・
あのリュカ王子や、あの魔法使いと
匹敵するのではないか!
と思われる程の氷の美貌。
空気が読めないと言われているディルだが、そんな彼にも生涯誰にも言わないと心に決めている事がある。
それはノアへの隠れた思いであった。
そう、ディルの宝物は二つあったのだ。双子の姉エキナセアと、唯一の思い人である幼なじみ。
フィリア辺境伯の義父母に実子であるハロルド坊やが生まれた時、誰よりもそれを喜んだのは、実はディルであったろう。
何故なら、自分は生涯誰とも結婚するつもりがなかったから、跡継ぎをもうけることは出来ないと、子供心に思い悩んでいたからだ。
「夜の早駆けはとても危険だと聞いてるわ。本当に気を付けてね。絶対に無理しないでね。あなたは一見冷静に見えて、案外熱血だから。」
アメリアは酷く心配げにノアを見ながら言った。
それに対し、ノアも困ったような顔をして笑った。
「わかったよ。気を付けるよ。君の方もディル様の相手は大変だろうけど、頼むね。それと、今から僕達が出かけるという事と、宿を見つけて欲しい旨を、例の通信機器でジョージに伝えておいてくれ。」
アメリアは頷いた。
それから彼女は徐にちいさな紙包みを出して、ノアの方に差し出した。
「こんな大変な時に申し訳ないのだけれど、これをジョージに渡してもらえないかしら。」
すると、ノアはにっこりと微笑んだ。
「例の約束の物が出来たんだね。わかったよ。必ず渡すよ。今回、ジョージも大変な目に合うだろうから、これがあれば勇気百倍になるだろう。」
アメリアは真っ赤になってうつむいた。
その夜、都では眠れない夜を過ごす若者がもう一人いた。それは王城のリュカ王子だった。
この五年、一時も忘れる事のなかった思い人を見かけたのだから。
エキナセアがこの都にいる。そう思うだけで、身体中の血が煮えたぎるようだった。
会いたい・・・会いたい・・・
話がしたい・・・今すぐ・・・
そして謝りたい、あの日の事を。
どんなに恨まれていても
構わないから・・・
例え許されなくても、今度は絶対に自分がエキナセアを守りたい。
守ってみせる。
彼女は自分にとって、唯一無二の宝物なのだから・・・・・
リュカ王子は強くそう思った。




