↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
PR
90/92

第二十話 憧憬の一矢

四人の男が飛び出すと同時に、弓兵から矢が放たれる。


(無駄よ…!)


アジルは横目で、月明かりに反射した矢尻に反応し、矢を躱す。


「行くぞぉぉ!」


四人の男が迫る。


大人四人が乗っても折れぬほどの太い枝。


迫ってくる殺意を無視し、アジルは視線を上げ枝の根元の光に向け飛んだ。


(ここ……!!)


アジルは突き抜ける勢いで、渾身の突きを枝の根元に放った——。



――デュール アウディア



ギィィィ


フルクレプスの悲鳴が鳴り響く。


外したのは最初の一射だけだった。


デュールの盾にぶつかり、二人を通り過ぎたフルクレプスは、次々とアウディアに撃ち落とされていた。


(よし…!)


自信を付けたアウディアは落ち着いていた。


だが、通り過ぎたフルクレプスの数はそれでも百を超えていた。


「大群が抜ける!位置を交代して、俺の後ろに隠れろ!」


「はい!」


遂に大群の突進が終わると、デュールは背中に納めていた大槍を抜いた。


アウディアはデュールの後ろに回る。


フルクレプスの大群が旋回し再び二人に向かってくる。


デュールは大槍を構え、迎撃体勢を取った。


大槍を持つ腕が白く光る——。


 

――アジル


 

「はぁああ!」


突きが枝を貫通し、木が弾けた。


ミシッ

 

「「何っ!?」」


四人の男達は頭上を見上げた。

 


次の瞬間――


バギィィン!!


枝が轟音と共に男達の頭上へと落下した。



――デュール アウディア



「うおぉぉ!」


デュールが大槍を薙ぎ払う。


ドォォン!



圧縮された衝撃が森を駆け抜ける。



「……。」


アウディアはあまりの衝撃に言葉を失う。


だが、すぐに眉を顰めた。


(ん…?)


今の轟音とは別に、もう一つの音が重なった気がした——。



――アジル



(本当に折れた。ただ土埃で見えない…。それに強く踏み込んだから傷が開いてしまった…。)


脚に熱を感じる。

 

傷口から再び血が滴り始める。


緊張が僅かに解れ、どっと疲れが押し寄せる。


「ハァハァ…。」


(呻き声…。一応成功ね…。)



――デュール アウディア



(本当に一網打尽。もう、矢が一本しか残ってない。良かった…。でもさっきの音は?)


「デュール隊長、流石です。」


「アウディアもよくやってくれた。」


「いえ。ただ、同じタイミングで遠くで大きな音が鳴りました!」


「方角は?」


「少し離れてますが、あちらです!」


アウディアはアジルのいる方角に指を指す。


「俺は行く!アウディアは木に上がって見てくれ!」


「はい!」


そしてデュールは指を指した方角へと駆け出した。

 


アウディアは木に登り、目を凝らす。


(土埃が…舞ってる。……!!)


「聞こえる…。アジルさんの…呼吸が荒い!苦戦してるんだわ!!」


(私と同じくらいの高さに居る!見えないけど…やるしかない。)


アウディアは見えない闇に向かい弓を番えた。


(矢は一本…!)


 

――アジル



土埃に目を凝らす。


(枝の下に光が見えてきた…。一、二、三――四。飛び出さなかった男の光は…?)


ぼんやりと淡い光りを見つけたが一つだけ見えなかった。

 

「…居ない――!」

 


ガシッ


足首に締め付ける感覚が走り、アジルは視線を落とす。


「まさか枝を折るとはな……!!」


アジルの立つ一つ下の枝に男が立ち、アジルの足首を掴んでいた。

 


もう片方の手には剣が握られ、瞳は狂気に満ちている。


男の突きがアジルの下から、首元に向け迫る――。


アジルの脳裏に、自らの首を貫く剣先が過ぎった。


(しまっ…!!)



――アウディア



(感じる…!剣士がアジルさんの足を掴んだ…!!)



『アイベルさんは見えない敵にどうやって矢を?』


『私は御業の気流覚を持ってる。今はそれに頼ってしまう事が多いわ。始めのうちは掠る事すら全く出来なかったのよ?始めは皆そう。でもね、アウディア。貴方は努力家。所作や呼吸――それを教えてからはすぐに的に当たるようになった…。自信を持ちなさい――』



稽古の時の会話を思い出す。


(そうだ…私はアイベルさんに認められたんだ…!!この一射で…必ずアジルさんを救う…!!)


 

アウディアは弦を最大限に引いた。


弓が弧を描くように大きく靭る。


呼吸が静かに止まる。


見えない闇に照準を合わせる。


月光に反射した矢尻。



アウディアは静かに矢筈から手を離した。


(ここ——!!)


空を切る音が夜空に響き、矢は一直線に闇へと消えていった。



――アジル



「死ねぇえ!!」


死への恐怖が心を支配し、アジルはグッと目を瞑った。


潰れた瞳から涙の粒が落ちる。


(エディウス——)


 

剣先が首元まで数cm。



次の瞬間――

 


ドシュッ


鈍い音と共にアジルは、恐る恐る片目を開けた。


顔を強張らせる男。


視線を足元に移す。


そこには、アジルの足首を掴む腕に矢が刺さっていた――。


遅れて掴まれていた足首から圧迫感が一気に無くなる。


「ぐわぁぁあああ!」


叫び声をあげながら男は木から真っ逆さまに落ちて行った。


「うっ……!!」


木から落ちた男は気を失った。


(…た、助かった…。これは…)



「…さーん…。ァジルさーん!!まだ終わってない!!」


遠くから聞こえた声。


(アウディアさん…!!)


アジルはアウディアの言葉に、すぐに弓兵へと視線を移した。



――アウディア



「ハァハァ…当たった…!でも!弦を引く音がした…!行かなきゃ!!」


アウディアは木から飛び降りた。

 

「デュールさん…!!こんな時に!まだアジルさんの所に行けてない!!方向音痴!!」


弓を肩に掛け、アウディアは一直線にアジルの元へと駆け出した。



――アジル



(感じたのね…。音を。)


土埃が晴れた瞬間――


空を切る音が鳴った。


アジルは木から降り、剣を構えた。


「っ痛…!」


(血が…止まらない…。)

 


再び空を切る音が鳴る。


アジルは避ける事が出来ず、ギリギリで剣で矢をいなした。


(男達は皆気絶してる…。弓兵に集中…出来る。)


アジルは剣を握り直し、鋭い視線を闇に向けた。



――アウディア



「もう少し…!」


アウディアは生い茂る植物にぶつかりながら全速力で駆ける。


(アジルさんの動きが鈍ってる…!負傷したんだわ!ん?)


視線の先、一瞬木の幹に光った物が映る。


アウディアは駆け寄る。


「これは敵の…矢…。」


木の幹に矢が刺さっていた。


「よし…!」


アウディアは幹から抜くと矢筒に仕舞い、再び駆け出した。



――アジル



(必ず捕まえる…。)

 

アジルは闇の中に光る弓兵に向かって駆け出した。




(この茂みを抜ければ……!!)


アウディアは大きな茂みから飛び出した。


十数m先にアジルの背中が見えた。


(いた!)


「アジ…」


声を上げようとしたが中断した。


(また弦を引く音!!アジルさんの正面…!)


「アジルさん…!!しゃがんで……!!」


アウディアはアジルに向かい、とっさに大きく声を上げた。


「……!」


アジルは後ろから掛けられた声にビクついたが、身体は反応していた。


(貴方の矢を返すわ…!!)


ヒュン ヒュン


空を切る音が重なる。


闇に向け放ったアウディアの矢、そして闇の中から現れた矢――。


二本の矢は屈んだアジルの頭上ですれ違う。


アジルは屈みながらゆっくりとアウディアに振り返り、息を呑んだ。

 


月光に照らされる中——。


迷い無く弓を引く所作。


「美しい……。」


アジルの口から思わず零れた。


見惚れるほどだった。


堂々としていた。


まるでアイベルのように、迷いが無かった。


だが――


「うっ…!!」


アウディアの肩に弓兵の矢が突き刺さる。


「アウディアさん……!!」


アジルは手を伸ばし声を上げる。


「アジルさん…私は後でいい!行ってください!」


肩を貫く痛みに、片目を瞑り叫ぶ。

 

「ぐ、うわぁぁあ!!」


遅れて弓兵の悲痛の叫び声が上がる。


「行って!!あいつを捕まえて下さい!」


アウディアの言葉に大きく頷き、アジルは弓兵に向かって駆け出し、その姿はすぐに闇へと消えた。



「いったぁぁ。」


アウディアは膝を付き、肩に刺さる矢を抜いた。

 


ガサッ


「うわぁ!!」


「アウディアか!?」


茂みから飛び出してきたのはデュールだった。


「デュールさん……。遅いですよぉ!!」


「すまん!!それで!アジルは!?」


デュールの問いに闇の奥に指を指す。

 


「デュールさんも駆け付けてくれたんですね。」


そこには気絶した弓兵の肩を持つアジルがいた。


「遅れてすまない…。」


デュールは肩を落とす。


「でもやりましたよ。アウディアさんのお陰で!」


アウディアに笑顔を向けてアジルは言った。


それにつられ、アウディアも笑顔になる。

 


(アイベルさん…。私も人を救う事が出来ました…。ありがとうございます――。)


そして目を閉じ胸に手を当てた。


アジルは弓兵を地面に寝かせアウディアの元へ歩み寄り、地面に膝を付くアウディアに手を差し伸べた。


アウディアは目を開け、顔を上げる。

 

「アジルさん…。」


「さん…なんて要らないわ。アウディア。」


アウディアは目を丸くした。


そして――


ふっと笑った。


「……うん。」


差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。


そして二人はハイタッチを交わした。


こうして若い二人の守護者には深い絆が刻まれた――。


デュールは二人の様子を何度も頷きながら見つめていた。


「さて…。アジル。伝書鳥をノワルヴェールに飛ばしてくれないか?」


「はい!」


「……!」


突然アウディアが森の奥に顔を向ける。


「どうした?」


「恐らく…数人の兵です。」


「終わったと思ったがまだ来るか…。」


デュールはため息を吐きながら大槍を抜いた。


次第に露になる鎧姿。


そこには六人の新たな都市兵が向かって来ていた。


デュール達の姿を見つけ、剣を抜く。


だが――


木の下敷きになる九閃刃に視線が移る。


「か、彼等がやられたのか!?」


一人の兵が声を上げる。


「む、む、無理だ!」


「に、逃げるぞ!!」


デュールは大槍を構えていたが、踵を返し来た道を走り去る兵達の姿を見るとふっと笑った。


「根性無しか…。逃げ出しやがった。」


「良かったぁ。また戦闘になるかと思いました。」


「私も…もう激しい動きは出来ない…。」


アウディアとアジルは胸を撫で下ろす。




そして、アジルは伝書鳥に紙を巻き付け、空へと放つ。


「ノワルヴェールから指示が返ってくるはずだ。二人は村へ戻っていい。俺がこいつらを見張る。指示を聞いたら帰る。」


アウディアとアジルはデュールの顔を見つめる。


「何だ…眉なんか上げて…。」


「一人で帰れないんじゃないかと…。」


「うんうん。暗いし迷子になるかと…。」


二人の言葉にデュールの表情が強張る。


「ああ!俺は方向音痴だよ!だが、舐め過ぎだ!」


デュールは胸を張り、強く言い放った。


「で、伝書鳥に付いてく…。」


最後にボソッと零した言葉に、アジルとアウディアは抑えていた息を吐き、大きく笑ったのだった。


アウディアは夜空を見上げた。

 

胸の奥には、確かな温もりが残っていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。