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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
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第十九話 九閃刃(くせんじん)

暗闇の森の中。


動物達の鳴き声も、虫の音も無い。


微かに通り抜ける風が木の葉を揺らし、葉の擦れる音が鳴り響いた。


やがて、前方から行進の音が止む。


森の奥から現れた五人の都市兵はアジルを見つけると横並びになり、剣を構えた。


(追い詰めていたけど、逆に追い詰められた…。追われることを想定していたというの?)


アジルのこめかみから汗が流れる。


(全員脚に白い光がある…。ユスティア支部長が斬った場所。やっぱり、この人達は剣闘士崩れ…!)


都市兵達は間合いを見極めようと、摺り足で少しずつ距離を縮める。


土を擦る足音だけが、静かな森に響く。


(彼等の後ろには弓兵もいる…。後方支援がある彼等が有利ね。誰かが気付いて応援に駆け付けてくれるはず。ここは時間稼ぎを…。)

 


「…貴方達。都市兵でしょう?」


「……。」


アジルの問いに答えず口を結ぶ都市兵達。


「何故オラディ村を襲ったの?」


「……。」


「貴方達の目的は?」


(情報を与えない気ね…。)


「今から死ぬお前が…そんなこと気にしてどうするのだ……!」


暗闇の中、五本の剣が月光を鈍く反射した。


中央の兵が剣先をアジルに向け、地面を強く蹴った。

 

それに合わせるように、左右の都市兵達も一斉に駆け出す。


(来た…!)


アジルは目を見開き強く剣を握る。


五つの殺気が、一斉にアジルへと迫った——。



——オラディ村



中央通りでは隊員達が警備に当たり、村人達は未だに家屋の中へ避難していた。


観光者や商人、そして村人達の笑う声で賑やかだった平和な日常は一瞬にして崩れた。


中央通りを照らす灯りが少しだけ暗く見えた。


中央通りの端から端まで、隊員達は目を凝らしながら巡回していた。


「南門、問題ない。」


「北門も大丈夫だ。」


「家屋に入った隊員と合流しよう。」


中央通りの巡回が完了し、隊員達は村人達の避難する家屋に向かう。



――会議所



二人の都市兵を縛り上げ、ノワルヴェールは都市兵の前に立つ。


一人は気絶から未だ目覚めていない。


「率直に聞こう…。何故…襲ったんだ?」


家屋で村人に襲いかかろうとした都市兵に問う。


「……。」


「黙り込むか…。」


都市兵は顔を背けたまま答えない。


「では、悪い報せを伝えよう。」


都市兵はその言葉にピクッと眉を上げた。


「…都市長は…死んだぞ?」


都市兵は一瞬目を見開いたが、大きく息を吐いた。


「そうか。予感が当たったみたいだな。」


「……。どういうことだ?」


ノワルヴェールの眉間に深い皺が刻まれる。


「都市長は殺される夢を見たと言った…。」


ノワルヴェールは眉を顰めた。


「俺達都市兵は——」


都市兵はゆっくり顔を上げた。


「ユスティアがしくじったらオラディ村を襲うよう、都市長から命が出されていた。まさか、ユスティアめ。本当にしくじっていたとはな…。当の本人はアルブ・ピリスか。」


「なん…だと?」


ノワルヴェールの顔が大きく歪んだ。


「都市長が亡くなられたと知ったらアルブ・ピリスから都市兵が来るだろうな。北の山から進行するよう指示も出ていた。」


都市兵は片方の口角を上げた。


「フフフッ。」


都市兵は喉を鳴らした。


「あの…五人も来るぞ…。」


「あの……五人とは…」


「俺は殺されてもいい。殺るなら殺れ。」


そして都市兵はボソッと呟くように言い捨てた。


会話を聞いていたミトは、椅子から立ち上がり、二人に歩み寄った。


「もしや…その五人とは"九閃刃"(くせんじん)ではないのか?」


都市兵はミトに視線を移す。


「何だ…じじい知っているのか?」


「知っておる。」


「ミトさん…。その九閃刃とは?」


「うむ。…五人の剣士じゃ。一人は両利き、二人は右、そして残る二人は左利き。相対する敵の全方位から剣技を仕掛ける。頭、右肩、左肩――。右脇、左脇、右腿、左腿、股、そして胸…。九つの急所へ同時に斬撃を浴びせる事から、“九閃刃”と呼ばれておる。かつて、剣闘士としてユスティアは彼等と戦った。そして、ユスティアが唯一引き分けた死闘じゃった。」


会議所の空気が凍り付いた——。


 

――北の山中 デュール アウディア



笛矢が空に放たれ、音を感じた二人はアジルに近付いていた。


突然アウディアの表情が硬くなる。

 

「デュール隊長!鎧です!鎧の擦れる音が聞こえました!」

 

「やはり…。あの矢が合図だったのか!急ぐぞ!」


「はい!」


二人は武器を一度仕舞い、駆け出そうとした。


だが、次の瞬間――


アウディアは視線をデュールに向け、震え出す。


「どうした!?」


「デュール隊長…。」


そして、震える手で森の上を指を指す。


デュールはゆっくりとその方向へ目を向けた。


夜を埋めるほどの、無数の小さな黒い影が森へと急降下した。


「まさか…!フルクレプスの…大群。」


(くそう。フルクレプスは時速70kmで飛んでくる!俺は逃れられるがアウディアは無理だ!)


「アウディア!俺の後ろへ!」


デュールは大きく声を掛けると盾を前に出した。


 

小さな牙に月明かりが反射する。


無数の羽音が森を震わせ、黒い影の群れが一直線に迫る。


翼を羽ばたかせる音は次第に大きくなる。


大群はすぐそこまで迫っていた。


(今の時期はフルクレプスの繁殖期だ!しかも最悪な事に今は夜…。盾で一度押し切る!)


「盾で迎撃する!身を小さくしていろ!」


「は、はい!…ハッ――。デュール隊長!」


「次は何だ!?もう来るぞ!!」


「剣戟の音が――」


「くそう!アジルか!今はこの状況を打破しないと合流出来ん!盾で押し切ったら絶対俺の後ろで待機だ!一網打尽にする!!」


「……分かりました!!」


目の前に迫りくる大群の突進に、デュールは盾を強く握った。


(来る!!)


目を見開き、デュールは呼吸を止めた。


 

ドドドドドッ


 

「ぐぬぬっ…!」


(思ったよりも勢いが強い…!一網打尽と言ったが…数も多い…。)


「アウディア!通り抜けたフルクレプスの数を減らせるか!?」


「は、はい!撃ち落とします!!」


そして二人は背中合わせになる。


「うっ…!」


アウディアの髪を掠めるようにフルクレプスが通り抜ける。


「もう少し縮まるんだ!」


「はい!」


アウディアはビクつきながら大きく声を上げる。

 


(落ち着いて…。相手は飛んでる。しっかり狙うのよ…。)


自分に言い聞かせ、呼吸を整える。


弦を目一杯引く。


そして飛んでいるフルクレプスに照準を合わせた。


ヒュン


だが、放った矢は空を切りフルクレプスの脇を飛んでいってしまう。


(外した…!…このままじゃ一匹も減らせない!)


全身から汗が滲み、ギリッと歯を鳴らす。


その音は背を向けたデュールに伝わっていた。


「アウディア、大丈夫だ。俺が急に振ってしまった指示だ!焦るな…!」


「は、はい!」


アウディアは一度グッと目を瞑る。


(次こそ…!!)


目を開けると、アウディアは再び弓を番えた——。



――北の山奥 アジル



キィィン


闇に鮮明に弾けた火花。


(危っ…!!)


アジルは胸元に迫った突きを間一髪で受け流し、バク転しながら後退した。

 

(頭上、脇――下から。どこからでも剣筋が飛んでくる…。中央の男の二刀流…最後の突きは避けれなかった。)


「よく受けたな…。」


中央の男はアジルの回避能力に剣を握る手の力を緩めた。


(これじゃあ、防戦一方…。でも、守るだけじゃ勝てない…!)


アジルは強く剣を握る。


そして地面を強く蹴ると蛇行しながら五人へと突進した。


(同じタイミングで攻撃すれば避けるのは簡単。でも、そんなことはしてこない…。全身を使って近づく!)


アジルの突進に迎撃体制を取る五人。


アジルから向かって逆Vの字に男達は並ぶ。


蛇行するアジルに合わせてその形は崩さず、間合いに入るアジルに、両脇から剣が振り下ろされる。


(攻撃は見える!)


靱やかな身のこなしで避ける。


(中央の男を叩く!)


そして次から次へと振り下ろされる剣を、寸分で避けながら更に突き進む。


(踊っているようだ…!)


男達の剣技はアジルに届く事は無かった。


木の葉が舞い、土煙がふわりと浮かぶ。


中央の男の間合いまで詰めると突きの構えを取った。


(行ける!)


中央の男と目が合う。


アジルの鋭く放たれた真っ直ぐな視線に、男はとっさに防御の構えを取った。

 


だが――


 

ヒュン


風を切り、暗闇から一瞬月明かりに反射した矢。


「……!!」


アジルは額に迫った矢を、首を最大限に後ろに折り、躱した。


(くっ……!!)


矢を避けた瞬間、視界の端で白い光が揺れた。


(月の光…?違う……。)

 

矢は浮いた前髪を通り抜け、遅れて切れた髪が地面にゆっくりと落ちていく。


そして視線を戻す。


その瞬間――


既に男達の剣筋が迫っていた。


「……!!」


アジルは後方に跳躍する。


(弓兵の絶妙なタイミングの攻撃…。それに合わせて彼等の剣技…。でも…この木の上なら…。)


太い木の枝に着地したが、重心は歪んでいた。


(深くは無い。でも…)


木の枝に伝った血が地面に静かに落ちていった。


(右脚をやられた…。)


太ももを強くつねり、アジルは顔を顰める。

 


(方位攻撃の弱点を知られたな……。)


中央の男はため息をついた。


「どうする?」


「あれでは飛んでからの攻撃になる。」


「攻撃の出だしを簡単に読まれるぞ。」


「全員で飛んだら本領を発揮できんぞ。」


男達は小声で話をしていた。


僅かに統率が乱れ始めていた。


「剣闘場はこんな障害物など無かった。」


「まぁ、待て。障害物は無かったが、剣闘場では弓兵の支援すら無かった。こちらには今、弓兵がいる。」


(だが――この小娘…今までどんな戦いを経験して来たんだ…?おそらくこいつは名の知れた人間だろう。名声を手に入れられる。)


他の男とは違い、中央の男の心は高揚していた。



「地形を利用したか…。厄介な小娘だ。」


中央の男はため息混じりに言う。


(さっき矢を避けた時…。月光かと思ったけどやっぱり違う。一瞬だったけど私の今立っている木。もっと高い位置にある枝の根元が…光ってた…。)


アジルは光の違和感に一瞬、目だけを上に向けた。


(やっぱり…ぼんやりとだけど光がある…。極視光の…力なの?)


そして再度、視線を上に向けた。


(枝の根元に…ヒビ!生物に対応した力だった…。植物にも対応するように…なったの?…あの根元に、あと一撃入れれば…。)


「名は何という?」


(試してみよう…。)


アジルは小さく頷いた。


「おい。聞いているのか?」


「フフフフッ。」


アジルは小さく笑う。


「何がおかしい?」


「今から私に捕まる貴方達が…私の名を知ってどうするの?」


「ぐっ…。」


「「「黙れぇ!」」」


男達は震え、まるで咆哮するように怒る。


(激昂した…。どんどん乱れなさい。そして、この木に近づきなさい…。)


アジルは男達を見下ろし、刺すような視線を送り心の中で呟いた。


 

ヒュン


空を切る音に視線を移し、余裕を持って躱す。


(もちろん。ちゃんとあなただって見てるわ…。)


 

「くそう!矢も当たらないじゃないか!」


歯を食いしばる中央の男。


男達は歯を軋ませ、剣を握り直す。


(焦り始めたわね。)


「弓兵の位置だって私には見えてるわ。」


鼻を鳴らし、アジルはわざと挑発的に笑った。


「小娘ー!!」


遂に痺れを切らした男達。


「待てっ…!」


中央の男の制止を遮り、四人の男は剣を構えた。


地面を強く蹴り、アジルの立つ木に突進した。


アジルの瞳孔が大きく開いた――。

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