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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
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第十四話 夜明けの血

ブルクの頭上に長の血が降り注ぐ。


「血浴…。お前は"血浴の剣聖"だ……。」


ブルクを見つめて放たれた領主の言葉。


ブルクの身体がピクッと反応する。


(最悪の名だ…。)


ブルクは心の中で零し、領主を射抜くように睨む。


長の身体が音を立てて、地面に倒れる。


鼻を突く錆びたような鉄の臭い。


次第に広がる長から溢れる血溜まりに、月光が鈍く反射する。




だが——村人達は微動だにしなかった。


領主の表情が大きく歪む。


(こいつら…長が一族の者に殺されたんだぞ…?なぜ、悲しまない……?…イカれてるのか…?)


「お、お前達…!さぁ、次だッ…!早くしないと…」


「ブルク…!次はワシだ!!」


領主の言葉を遮り、戦士が前に出る。


「ブルク。お前と共に戦えて…誇りに思う!!」


戦士の目は揺るがなかった。


戦士はブルクに背を向け座り、領主を強く見つめる。

 


——ブルクはその首を落とした。


(皆の想いを…魂を…。)


続けてブルクの前に戦士が正座をする。


「ブルク。お前は立派だ…。」


背中で語り掛ける戦士。


——ブルクはその首を落とす。

 

(ワシは必ず…未来へ繋ぐ…。)


消えゆく魂へ、心の中で強く誓う。


ブルクは朝焼けに染まり始めた空を見上げた。

 

血のような赤が、ゆっくりと夜を押しのけていた――。


 

やがて――


冷たい風が村を通り抜ける。


村人は残り一人となった。


この頃になると、人質は家屋へと移されていた。


村の外には領主とブルク、そして村人だけとなっていた。


最後に残された村人はブルクの前に立ち、その瞳をじっと見つめた。


「私で最後…。人質にいる私の子をお願いします。」


彼女だけ泣いていた。


だが、その瞳に迷いは無かった。


(母さん…。)


その様子を、陰に隠れていた子は息を潜め見ていた。


「私の子を…貴方の子として育てて下さい…。」


「……分かりました…。」


彼女は微笑み、潰れた瞳から涙が零れ落ちる。


そしてブルクに背を向け座る。

 


「アイザム…。――る。」


ブルクは剣を頭上に構える。


そして――


ザンッ


女の首が地面に転がった。


「……。」


陰から見ていた子は瞬きをせずに母親の最期を見届けた。


その瞳の奥には強い憎悪が生まれていた――。

 

 


陽の光がブルクへと注がれる。


ブルクは気力を失い剣を地面に落とした。


その場に崩れるように正座になり、血溜まりに視線を移す。


反射して映る血塗れになった自身の顔を見つめた。


その瞬間、何かが音を立てて崩れ落ちた――。

 


「うわぁぁあああ……!!」


天を仰ぎ叫ぶ。


握り拳を作り、血溜まりを強く叩く。


飛び散る村人達の血は、既に血塗れとなったブルクの身体をより濃く染めた。



家屋にいた兵士がブルクの叫びを聞き、扉を開ける。


領主は兵士と顔を合わせた。


(終わった。狂っていた…。長も戦士も村人も。そしてこのブルクという男も…。この種族は我々人間の敵になり得る。残る人質は今の内に消す……!!)


領主は兵士に向かい小さく頷く。


兵士は静かに家屋へ戻る。


(ブルクはあんな状態だ…。流石にすぐには動けないだろう。)

 


そして――

 


肉を断ち切る音が聞こえ、続けて血の吹く音が響いた。


天を仰いでいたブルクは反応し家屋を見つめる。


瞳孔が異様に広がると、身体を震わせる。


「貴様ら…裏切るかぁぁ……!!」


地面に落とした剣を拾い、家屋へ向け駆け出そうとする。


だが――


血溜まりに脚を滑らせ、地面に転がった。


「悪魔だ…!」


一人の兵士がブルクに駆け寄り、脇腹を突き刺した。


「うっ…!」


口から溢れる血、突き刺された剣は瞬く間に赤く染まる。


(ぐっ……皆へ誓ったのだ…!!こんな掠り傷…皆に比べれば…痛くもない……!!!)


突き刺さる剣を強く握り立ち上がる。


ギリギリと音を立て、剣を握る手から血が溢れる。


痛みを忘れ、兵士を睨む。


「早くしろぉ!!」


領主は家屋に向かって叫んだ。


ブルクを刺した兵士は両手で剣を握り、抜こうとする。


「う、動かないっ…!!」


ブルクは片手で脇腹に刺さった剣を掴みながら、兵士の首を切り落とした。


 

家屋では悲惨な音が鳴り響く。


ブルクは脇腹に刺さる剣を地面に投げ捨てる。


そして駆け出し、家屋の扉を蹴破った。


家屋の壁には血が飛び散り、人質が何人も殺されていた。


ブルクは転がる首を見つめた。

 

(娘達よ…。姉さんまで…。)


歯を食いしばる。


全身の毛が逆立ち、ブルクから放たれた殺気は兵士を動かなくさせる。


「あ、あとその赤子だけだ…!」


周りの兵士は赤子に刃を向ける兵に叫ぶ。


(せめて……玄孫だけでも…。うっ……。)


飛び掛ろうと踏ん張るが、脇腹から溢れた血が服に滲む。


(ワシは限界…なのか…?)


ダンッと床を踏み締める。


(そんなもの今のワシには…ない…!!)


床板が弾け飛ぶ。


ブルクは玄孫に刃を向けた兵士に飛んで行った。


 

誰も反応出来なかった。


次の瞬間には兵士の首が家屋の中で飛んでいた――。


そして間を置くことなく残りの兵士達の首を落とす。


(こんな血など…浴びたくない…!!)


ブルクは玄孫を優しく抱きかかえた。


限界を優に超えていた。


片手で玄孫を抱き、剣を握り脇腹を押さえながら扉へ向かう。


乱れた呼吸。


深く息を吸う度に、脇腹の血が滲む。


それでもなんとか肩で扉を押し開けた。



領主はゆっくりと開かれた扉を見て一歩下がった。


(目が…死んでいない…。)


血塗れのブルクに恐怖を覚える。


(この…領主の首も…ワシが必ず…。)


朦朧となる視界に最後の力を振り絞ろうとした。

 


その時――


玄孫の小さな手がブルクの胸元の服を引っ張った。


ブルクは玄孫に視線を落とす。


声を出さずに涙だけが頬へ流れていた――。


(なぜ…。声を出さずに泣けるのだ…。お前は…お前はなんて強いんだ…。)


玄孫の頬を伝った涙はゆっくりと流れ、ブルクの服に染み込んだ。

 

「守る為に…逃げる…。」


ブルクは小さく零した。

 


『時には逃げる事も考えろ。守る為に立ちはだかるのではなく、守る為に逃げるんだ。』



ブルクはフィアーバの言葉を思い出した。


カサッ


家屋の脇の茂みから音がし、ブルクは視線を移す。


(子供だ…。…人質から免れていたのか…?……ハッ――。)

 


『私の子を…貴方の子として育てて下さい…。』



(家屋に母親の子はいなかった…!)


ブルクは剣を納めた。


茂みへと駆け出し、身を潜めていた子を肩に担ぐ。


「逃げるぞ…未来の為に……!!」


(約束を果たす為に…!)


領主の首を落とす為に残していた力を使い走り出した。


肩に担がれた子は小さくなっていく母親を見つめていた。


ブルクは生まれ育った故郷を、皆が眠りについた村を振り返ることはなかった。



領主はブルク達の姿が森の奥へと消えた途端、崩れるようにその場に跪いた。


(いつか必ず…小人族を根絶やしにするぞ…。)


そして数時間後領主の村から応援の兵が駆けつける。


誰もが言葉を失い、動けなかった。

 

しばらくして、小人族の村に火が放たれた。


領主は立ち上る煙を見上げ、わずかに胸を撫で下ろした。



———



ブルクは二人の子供を抱えながらとにかく走った。


神樹ラヴィエルへと――。


そして――


神樹の幹に触れ、傷は癒された。


浴びた血は消える事はなかった。


大きく息を吐き、空へと昇る遠くに見えた煙を眺める。


涙は流れることはなかった。


(デリベラス……。お前がこの大陸にいなくて本当に良かった。フィアーバ…ありがとう。)


胸に手を当て心の中で呟いた。

 


そしてブルクは二人の子供を見つめる。


(この子らと共に生き…愛し、明るい未来を。)


ブルクは玄孫を抱き、子供と手を繋ぎその場を後にした。


木々の隙間から差す、線となった陽の光が、三人の行く先に幾つも落ちていた。


ブルクはその線を辿るように歩いていく。


導かれているようだった――。


そして辿る度に鮮明に映る三人の姿。


まるで三人の未来を見透かすように、その姿は明るく輝いていた――。



――現代 会議所



ブルクは語り終わると閉じていた目を開け、会議所を見回した。


……皆泣いていた。


「今まで話をする機会が無かった。すまぬのう。」


ブルクの言葉は悲しみに満ちていた。


特にユイベルはアイベルの服に埋まり号泣していた。


(お姉ちゃんに力を与えて形だけになった女神様。声だけは私に届いてる…。女神様は全て見ていた…。そして今も。)


「……。」


ブルクはユイベルに視線を移す。


(今は聞かなくて良いか…。)


そしてブルクは深く呼吸し口を開く。


「人と人が争う…戦というものは悲しみ、憎しみを生む。ワシは守る為の組織を作ろうと考えた…。それが…」




((("ソウルガーディアンズ")))


心の中で重なる言葉。


涙は止まり、一同はブルクを真っ直ぐ見つめた。


「そうじゃ。」


ブルクの表情は緩み微笑みを見せた。


「それからワシは二人の子と遠くへと逃げた。」


突然エディウスが手を上げ口を開く。


「ブルク長老…。一緒に逃げた二人とは…。」


「玄孫はフェルレ。もう一人は…」


「まさか…アイザム隊長…?」


フィオルは目を見開きブルクに向いて言った。


「そうじゃ。」


「で、でも朱の竜出現でエルジオーネ大陸へ遠征に行った時、ノワルヴェール隊長がフェルレさんは25歳って…。」


エディウスは当時を思い出す。

 


『…ちなみに顔は童顔だが歳は"25"だ。』


『こ、こらー!』



「ああ。確かに俺は言った。彼女から聞いていたからな。」


「うむ。全てはフェルレの存在を隠す為じゃ。ワシら三人はあの後、領主の手先に追われながら生きてきた。領主が変わってもそれは続いた。じゃが、エルジオーネ大陸で身を隠す事が出来た。その間二人は育ち、剣術を教えた。アイザムは人間の血が少し濃く、人間と同じような体格。フェルレは女。小人族の血が強かった。見た目はまさに小人族。外に出れば殺される危険があった。ワシはあの子を隠しながら生きてきた。じゃがある日――」



――百年ほど前 エルジオーネ大陸 森の中の洞窟



あれから50年ほど続いた隠れながらの生活。


ブルクは生活を変えるべくコール大陸に渡る決断をする。


そして、その地でソウルガーディアンズを結成しようとしていた。


「アイザム。お主と共になら出来るはずじゃ。」


「ああ。」


アイザムはブルクから教わった剣術を極めつつあった。


「大じいちゃん!私も剣術を学んで強くなった。人を守りたいんだ。」


「……。」


ブルクは返せなかった。


アイザムはブルクの表情を見るとフェルレに顔を向ける。


「フェルレ。じゃあ、俺から一本取れたら表に出ろ。どうだじいさん。それでいいんじゃないか?」


「…うむ。」


フェルレの目は覚悟を決めていた。


「私は一人でこの大陸でやっていける。その術も全て教えてもらったから。だから二人はコール大陸で必ず誓いを叶えて。」


(この子を尊重しよう…。この子は強い…ワシの玄孫じゃ。)

 

「じゃあ、毎年俺がここへ来てやるよ。その時に模擬戦をしよう。」


「すぐに一本取るからね!」


「ふん。まぁ頑張るんだな…。」


ブルクは二人の会話を静かに見ていた。


(二人共…大きくなったのう…。)


その瞳はわずかに滲んでいた――。

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