表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
PR
76/82

第六話 真実

「女神の……器……。」


思考が止まっていたアイベルは、呟くように小さく零した。


「……私は…人間じゃない…。」


瞬きを忘れ、自身の存在を確かめるように、視線を落とし両手を見つめる。


(そんなはず…ない…。)


呼吸は浅くなり、その手は微かに震えていた——。

 


二人の部屋の先、フィオルは二人のすすり泣く音が止み、耳を澄ませ話を聞いていた。


「……。」


(そうか…アイベルは…。)


フィオルは扉を見つめる。


(今、扉を開ければ——。)


口を強く結ぶ。


「いや…ダメだ…。」


(人間でも、そうでなくても関係ない…。問題は…君がそれをどう受け止めるかだ…。)




扉の先——


ユイベルはアイベルの手に触れた。


次の瞬間——


「え……。」


アイベルの視界に白い光が放たれ目を瞑った。


 

———


 

目を開け視界に映ったのは、どこまでも続く白い光の世界——。


(また……ここ…。)


「あそこに見えるのは…。」


アイベルの視界に映ったのは二人の少女だった。


(同じくらいの身長…。今、目の前にいるユイベルと変わらない…。)


「あれはまさか…ユイベルと…私…?」


二人は仲良さそうに、手を繋ぎ歩いていた。


そして、時より身体が弾む。


音は感じないが、笑い合っているように見えた。


そして、再び白い光が視界を染める——。

 


———


 

アイベルはゆっくりと目を開ける。


視線を落とすとユイベルは手を離していた。


「あれはお姉ちゃんと私。あの世界"皓白の神域"(こうはくのしんいき)で私達を見ていたのは……女神様が残した記憶…。私達は女神様が産んだ器なの。」


 

(違う世界から飛んで来た…。私は人間じゃなくて…女神の器。)


息を大きく吐く。


指先の震えが止まらない。


否定したいのに——出来なかった。


(…でも、私の中にあるこの感覚は…何?)


 

アイベルは疑問に思う。


何故自分は歳を取ったのか——。

 


突然俯くユイベル。


「どう…したの…?」


ユイベルは何か言いづらそうに口を動かす。


「何でも言って?」


「…お姉ちゃんが…あの時、手を離した…。」


アイベルはゆっくり頷く。


「そのせいで…あの時一緒に飛ぶはずだったのに…皆バラバラに飛んでしまったの。それに…。」


ユイベルは言葉を詰まらせる。


声は掠れ、手が震えていた。


アイベルは手を握る。


「それに…?」


顔を上げアイベルを見つめた。


瞳は涙で滲んでいた。


「記憶もなくなってしまった…。お姉ちゃんは女神の器だけど…人間にもなっちゃった…。だから…私と同じじゃなくなっちゃった…。ずっと一緒だと思ってたのに…。」


ユイベルの瞳から涙が溢れる。


「………。」


(そう…。この子が妹である事も…あの白い世界に居た記憶も無い…。それは——手を離してしまったから…。)


「手を離してはいけない…。あれは女神様が私に言った言葉……。」


ユイベルは泣きながら頷く。


「半分女神の器で半分……人間っていう事…?」


「うん…。」


(だから…私は歳も取るようになってしまった…。)


「私達に寿命は無いの…。でも…。」


ユイベルは溢れ続ける涙を止める事が出来なかった。


顔は涙でぐしゃぐしゃになる。


「お姉ちゃんは…お姉ちゃんは…」


(そうなのね…。私には終わりがある…。)


ユイベルを握る手の力が、わずかに緩んだ。


(…私だけが…変わってしまった…。)



「…ごめん…なさい。」


アイベルの謝罪にユイベルは首を横に振った。


「会えたから…良かった。会えないまま終わってしまうって思ってたから…。」


アイベルはユイベルを優しく包んだ。


「もう…同じ存在として…戻る事は出来ない…。お姉ちゃんが先にいなくなるのが怖い…。心配なの…。」


(子供なのに…。一緒に居られなくなってしまうのに…私の事を想ってくれるのね…。本当にごめんね…。)


アイベルは強く抱き締める。


(私に最期がある事をこの子は受け入れた。会いに来てくれた…。だから——私は崩れない。その時まで、手を離さない。お姉ちゃんなんだから——。)



それから——


落ち着きを取り戻したユイベル。


ユイベルは横になり、アイベルをずっと見つめていた。


(まだ聞きたいことが沢山ある…。ユイベルは飛んだと言った…。私達がこの世界に飛んだ理由…。でも…)


ユイベルはアイベルを見つめながら微笑む。


(今日はもう…疲れたよね…。)


アイベルはユイベルの頭をそっと撫でた。

 

ユイベルの目が次第に重くなり、ゆっくり瞳を閉じると、そのまま眠りについた。


穏やかな寝息を立て始めたユイベルを見つめながら、アイベルはゆっくりと息を吐いた。


ユイベルは安心したように眠る。


だが、アイベルは目を閉じなかった。


そして——女神様の言葉を思い出す。

 

 

『離してしまえば黒く邪悪な物が新たに生まれてしまいます。』

 


(私が手を離した事は事実。黒く邪悪な物って…一体…。)



アイベルは立ち上がり、部屋の扉を開ける。


一度振り返り、静かに眠るユイベルの寝顔を見つめ部屋を後にした。


 


扉の音が聞こえ、その前に立つアイベルにフィオルは振り返った。


 

扉の外は静まり返っていた。


先程までの出来事が嘘だったかのように——。


その中で佇むフィオルの気配。



「聞こえてた…よね?」


アイベルは弱く問い掛けた。


息遣いが乱れる。


フィオルと目が合った瞬間、アイベルの瞳から静かに涙が流れた。


「聞こえてたよ…。」


外から虫の鳴く音が響く。


翳っていた月が雲から徐々に出ると、月明かりがフィオルの家を照らす。


フィオルがその場に立ち上がるとアイベルは近づいた。


床板の軋む音が響く。


言葉を交わすことなくフィオルは両手を少し広げた。


アイベルがフィオルの胸に頭を付けるとフィオルはそっと腕で包んだ。


「君がどんな存在だとしても…俺の想いは変わらない。どう生きるかは君が決めること——。でも、君がどんな答えを選んでも……俺は君の手を離さない。」


「うん……。ありがとう。」


(女神様から告げられた私の"在り方"。私は救いの声を聞いて手を差し伸べ続ける…。繋いだ手は——離さない。)


涙が溢れる。


それでも、アイベルの瞳には決意の意志が宿っていた。



しかし、その決意の奥には拭えない疑問が残っていた。

 

 

「でも…まだ聞けてない事があるの…。」


「……。」


「私とユイベルがこの世界に来た理由。それにユイベルは皆って言ってた…。だから…」


「他にこの世界に飛んで来た人がいるのか…?」


「そう…かもしれない。」


「この世界の何かに関わる事…。」


アイベルは眉を顰め首を傾げる。


「「アヴェニール洞窟……。」」


二人の言葉が重なる。


「あの洞窟で見つかった文献に描かれていた……"陽蝕"や漆黒の竜が関係してくるのか…?」


フィオルの身体がわずかに震える。


「有り得ない話じゃないかもしれないわ…。」


「うん…。そうなるとブルク長老や隊長達にも聞いてもらわないとだ。明日の集会にユイベルも参加してもらおうか。」


「ええ。でも…」


アイベルはユイベルが眠る扉に視線を移す。


「アンティカル大陸の連中の事は気にしないで大丈夫。もしも、君やユイベルに手を出すなんてなったら…俺が黙っちゃいないよ。それに、ブルク長老が許さないさ。」


「……そうね。」



「お姉……ちゃん。」


二人はユイベルの眠る部屋から上がった声に、耳を澄ませた。



「…寝言だね。さぁ。一緒に寝てあげて。」


「う、うん。」


それからアイベルは部屋に戻っていった。

 


フィオルはアイベルの背中を見送り、扉が閉まると再び割れた窓に向き直る。

 

(この世界とは違う世界か……。)

 


——エディウスの家 アジル



(遅ーい…!!)


エディウスの家へ入り、部屋の真ん中にポツンと座るアジルは心の中で叫んでいた。


家具は最低限で余計な物は無く、広い部屋は落ち着かなかった。


「温泉まで入ったのに…いつ帰ってくるんだろう。一人で眠るのは慣れてるのに…。」


(落ち着かない…!そういえば…周りの人にはバレてないよね……?もう…フィオルさん…余計な事を…。)


アジルは周囲の村人に見られないように、辺りを見回しながら不審ともいえる動きをしながらエディウスの家に入っていた。

 


突然——


ドアノブを回す音が聞こえる。


一瞬ビクつくアジルだが、すぐに立ち上がり玄関へ向かった。


「もう…遅……」


ゆっくりと愚痴を零しながら扉を開ける。


「誰だー!」


扉の前には剣を抜くエディウスがいた。


「うわぁ…!」


鬼の形相をするエディウスに驚き、アジルは尻餅をついた。


「え……?」


「痛っ…。」


「……?」


エディウスは立ち尽くす。


「ごめーん!」


アジルだと気付き、剣を納め駆け寄る。


「村の人がキョロキョロしながら俺の家に入っていく人を見たって言うからさ…。」


「私の方こそごめんね!」


「な、何でここに?」


「フィオルさんが剣撃隊の家屋じゃ寛げないだろうって…。」


「そ、そうなんだ…。」


エディウスはあまりの唐突な出来事に理解が追いついていなかった。


玄関の扉も開けたまま二人はその場で固まる。


(俺の家にアジルが居る…。え、二人で過ごせって事なのか?…たしかに…アジルの事は好きだけど…いや、気まずい…気まずい…!)


徐々に状況を理解していくが考えれば考えるほど身体が熱くなる。


「と、とりあえず…装備…外せば…?」


(本当に二人で過ごす事になっちゃった…。気まずい…。帰ってきて欲しくなかったけど、何だろうこの気持ち…。)


互いの動きはぎこちなく、時よりチラチラと顔を窺い合う。


装備を外し、エディウスは大きく息を吐く。


部屋の中なのに二人は立ったままだった。



少しの間——


 

「…お母様とご飯どうだった?」


モジモジと身体を揺らし、アジルは問い掛けた。


「…嬉しそうに笑ってた。…母さんの笑顔…初めてだったよ…。」


エディウスはアジルに笑顔を向けて言う。


「…良かったね。」


「ああ。……でも…。」


「……。」


エディウスの表情が少し曇る。


エディウスはチェリスと別れる前の会話を思い出す。



——アルブ・ピリス 食事処

 


食事を終え中央通りを歩く二人。


「美味しかった…。人とご飯を食べるのって本当に幸せ。エディウス…ありがとね…。」


「ううん…。こちらこそありがとう。母さんが来てくれて、本当に良かったよ。」


スペースジャーニーでの食事は叶わなかったが、二人はそんな事を気にもしていなかった。


「そうだ…。母さん……オラディ村で暮らさない?」


チェリスの足が止まる。

 


二人の間に沈黙が訪れる——

 


酒に酔った笑い声。


食事を終え、幸せを噛み締めた家族の声。


二人の周りには通りを歩く人々の暖かい声が行き交う。


チェリスは一瞬俯いたが、視線を上げエディウスの目を真っ直ぐ見つめた。


「少しの時間だったけど…家族で過ごしたあの家は私の宝物なの…。楽しい時、悲しい時…一つひとつの瞬間を今でも覚えてる。エディウス……あなたが初めて歩いた瞬間もあの家だったの。物事の始まりの瞬間は、いつだってあの家だった。…だから終わりもあの家で過ごしたいの…。」


「……。」


チェリスの声は震えていた。


だが、とびきりの笑顔だった——。


「いつまでもわがままな母親でごめんね…。」


チェリスは眉を下げ謝る。


「ううん…。もう会えない訳じゃない。俺はいつでも…すぐにでも…母さんに何かあったら駆けつけるから。何かあったら言ってね。」


「うん…。今日はありがとね…。」


「うん!また…!」


最後に手を合わせ二人は別れた——。

 


———


 

アジルはエディウスの表情を覗いた。

 

「ん?どうしたの?別に寂しくはないよ?…だって、アルブ・ピリスはここから近いからすぐに……」


突然、心臓を掴まれたような衝撃が走る。


「え……?」


エディウスは言葉を失い固まる。

 


「お母様を大切に想うエディウスが愛おしい…。」


(私は母さんに助けられて今生きてる…。だから——私はお母様を想う…あなたを守りたい…。)


気づけばアジルは、エディウスを抱き締めていた。


「アジ…ル…?」


アジルはハッとして、エディウスを抱き締めた手を引っこめ、後ずさろうとする。


「……。き、急にごめ…」


一歩下がろうとしたアジルの腕をエディウスは掴む。


アジルの驚き、大きくなる目を真っ直ぐ見つめる。


(今、言わなきゃ——もう言えない気がする……。)


「アジル…。俺は君が好きだ…!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ