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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
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第四話 目覚め

——会議所

 


「アルブ・ピリスか…。」


ブルクの表情が曇る。


「はい。何故…?」


「集会が近い…。アンティカル大陸の"彼等"が来ておるかもしれん。」


「アイツらか…。」


ノワルヴェールはそっぽを向き小さく零す。


デュールに視線を移すと組んだ手に顎を乗せ、口を強く結んでいた。


「少しクセがあってのう。」


ブルクのその言葉にノワルヴェールは目を伏せた。


「…というと?」


フィオルは会った事がなく、どのような人物達なのかを知らなかった。


「行き過ぎた正義…。」


ノワルヴェールは一度目を閉じた。


「罪に対して正気を失いかける…。あれはお前がまだ隊長になる前の話だ…。」


ノワルヴェールは静かに語り始める。


 

———

 


各大陸から要人達が集まる、世界最大の大陸会議がアルブ・ピリスで開催されるこの日、ノワルヴェールはブルクと共に向かっていた。



アルブ・ピリスの正門に人集りを見つける。


そこには大剣を持つ男三人と、それを従えるアンティカル大陸の要人がいた。


 

人集りの隙間から見えた物に二人はゾッとした。


一頭の獣を切り刻んでいたのだ。


獣は既に息絶えていたが、三人の男は切り続け、もはや原型などなかった。


返り血を浴びても表情を変えずに剣を振るう。


地面を染め上げる溢れる血。


周りには各大陸から赴いた要人が口を抑え身を引いていた。


「やり過ぎだ…。」


見るのを耐え切れず、ノワルヴェールが声を掛けた瞬間——。


「この獣は…」


「御方に…」


「手を出したのだ。庇うのか?」


低く頭の裏に響く声。


(何だコイツら…。)


「共犯者だ…!!」


叫びと共にノワルヴェールの頭上に降りかかる三つの剣。


ノワルヴェールの頭には"死"という文字が大きく浮かび上がり、目を瞑る——。

 


キィィィン


甲高い金属音が響き渡る。


「次はお主らの首に風穴を空けるぞ…?」

 

目を開け視界に入った光景。


ノワルヴェールの前にブルクが立ちはだかり、三つの剣を受け流していた——。


「ブルク…長老…。」


ブルクの背中に呟く。


(コイツらは敵じゃない…だが——危険すぎる…。)


遅れてやってきたユスティアは三人の男を手で払い、その場は収まった——。



———

 


フィオルは眉を顰めながら話を聞いていた。


「正義ではあるけど…」


「アイツらはイカれている。ブルク長老に守られていなければ、私は今ここにはいないだろう…。」

 

「ふむ…まあよい。」


ブルクは大きく息を吐く。 


「…御業の件はエディウスが戻ったら話をしようかの。」


フィオルは男達の事が頭から離れなかった。


「それとアジルじゃが、オラディ村に残りたいと申し出があった。」


「それは心強いですね。」


デュールは大きく頷きながら言う。


「うむ。力を付ける時間が欲しいと。…お主らには申し訳ない想いをさせてしまったの。特にフィオル…。」


「いえ…。」

 


ダイアボから帰還後、アイザムが生きていた事、そしてオルコ王に加担し敵として立ちはだかった事はブルクには、なかなか言えなかった。


だが気持ちが落ち着き、フィオルは意を決して話をした。


ブルクはフィオル達がダイアボに向け発つ前の会議で、頭の隅にアイザムの存在がチラついていた事を明かした。

 


「人と人が…争ってはならぬ…。」


ブルクの声が今までになく震えていた。


一点を見つめた後ギュッと目を瞑り、再び開く。


「すまぬ…。」


一行は頷く事しか出来なかった。


 

少しの間——。


陽が山に沈みかけ会議所に差していた光がすっと消えた。


「集会の参加者の確認をしましょう。」


ノワルヴェールが口を開いた。


「そうじゃな…。まずはお主達三隊長。アンティカル大陸から支部長含め四名。アジル、ディルケくん…。」


ブルクはフィオルに顔を向けた。


「アイベルは…」


「…参加してもらいます。」


「そうか。計11名じゃな。…いや、エディウスも参加してもらおうかのう。アンティカル大陸から来る者達にも、新たな御業が発現したことを伝えておかねば…では12名じゃな。明日の夜、開催する。頼むぞ。」


「「「はい!」」」


会議所の端で書記として参加していたルクスは立ち上がり、すぐに明日の集会に向け動き出した。


そして会議が幕を閉じようとしていた時——。


会議所の窓に伝書鳥が窓を叩いた。


ブルクは伝書鳥の脚に巻かれた手紙に目を通す。


「……。」


ブルクは息を吐いた。


「…エディウスからの手紙じゃ。」


「すみません…僕の隊員が何か問題を?」


「いや…アンティカル大陸の連中じゃ——。」


外の風の音だけが会議所に響いた——。


 

——フィオルの家


 

(ただいま…。)


アイベルは心の中で呟き玄関を開ける。


久しぶりに帰ってきたフィオルと暮らす家。


軋む足音。


畑に成る野菜、オラディ村を囲う自然を一望できる風景画のような大きな窓の前に立つ。


久しぶりの光景に胸に手を当てる。

 


生活していた記憶を思い出し目を瞑り息を吸う。


微かに香る埃の匂い。


視線を下に落とすと家の中は散らかっていた。


(心配させちゃったよね……。)


心の中で呟きながら散らかる部屋を片付ける。


そして、奥の部屋へ入った。


(まだ…起きてないのね…。)


一つあるベッドには、ユイベルが仰向けで目を瞑っていた。


静かに近づき、ベッドに腰掛ける。


ゆっくり手を握った。


「——!!」


突然視界が白く染まる。


アイベルは無意識に目を瞑った。


だが、それは一瞬だけで次に視界に入ったのは先程と変わらない光景だった。


「ハァ…ハァ…。」


息を荒くさせ、片手を胸に当てる。


(何も見えなかった…。)


視線をユイベルに移すとパチッと目を開けていた。


「「……。」」


ゆっくりと目が合う。


「「うわぁっ!」」


二人は同時に声を上げ、アイベルは驚いた勢いでベッドから落ちてしまう。


「…痛ったぁ…。」


尻を床に付き、片目を瞑りながら尻に手を当てる。


続けて身体に衝撃が走る。


ユイベルがアイベルの胸に飛び込み、抱き着いていた。


「お姉ちゃん…。」


その言葉にハッと息を吸い、微笑み優しく抱き返す。


涙は溢れ、アイベルの服を濡らす。


(ダイアボで会った時は皆いたから泣けなかったのね…。顔はホントに私そっくり…。本当にこの子…ユイベルと私は姉妹…。聞きたいことが沢山あるけど…。)


「ユイベル…。ご飯…一緒に作らない?」


ユイベルは顔を上げ、アイベルを見つめるとゆっくりと頷いた。

 


———剣撃隊 家屋

 


エディウスからの手紙の最後の一文に、その場が収まっていると書かれており、安堵の息を漏らし会議は幕を閉じた。



フィオルは剣撃隊の家屋にいた。


「明日の夜から集会に参加するので、何かあった際はアルドさんへお願いします。巡回や櫓で監視している方達にも伝えて下さい。」


隊員達は頷き、帰り支度を進める。


フィオルは最後に隊員達のスケジュールを確認した。


「獣の討伐ですが、対象の他に今の時期はフルクレプスの繁殖期なので、夜間は気を付けてください。…よし。では僕はこれで…お疲れ様でした。」


「お疲れ様でした。」「お疲れ様ー。」


隊員達と挨拶を交わし、フィオルは家屋を後にした。

 


家屋を出ると月明かりを浴び伸びをする。


「フィオルさんお疲れ様です。」


横から声が掛かり、顔を向けた。


「お、アジルか。お疲れ様。」


表情を曇らせるアジルの肩にフィオルは手を置いた。


「…悪かったね。エディウスの我儘に付き合わせちゃって。しかも騒動にも巻き込ませてしまった…。」


「いえ。守護者の使命にエディウスは従いました…。怪我人も騒動の発端になった一人だけです。私は彼の指示で人々を守ることが出来たんです。」


「ありがとう。」


(御業だけじゃない。状況把握、人を動かせる。剣撃隊を任せられる日が…いずれ来るかもしれないな…。)


「それに…お母様に会えて本当に幸せそうでした。…ちょっとだけ…羨ましかったです…。」


微笑みながら言った言葉。


アジルは一度俯き、沈黙が訪れる。


星がチカチカと点滅しているように煌めく。


「大…丈夫…?」


幼い頃に母親を失ったアジル。


フィオルには彼女の言葉に、悲しい気持ちが含まれているように感じた。


「私は大丈夫ですよ!?」


「無理は…しないでね?」


「はい…!」


アジルは笑顔で返す。


「ああ。それとこの村に残るって…。」


「はい。私は世界の人々を助ける為にエルジオーネ大陸を出ました。……ですが…ダイアボでの出来事で自分の未熟さを思い知らされました。世界は広い…。考えが甘かったんです。」


アジルは再び俯く。


(この子はエルジオーネ大陸で朱の竜撃退に大きく貢献し、英雄と呼ばれるようになった。自信は付いてる…。強さはある。だが、このままではいつか折れる。…周りから見れば、大人だがただの一人の女性だ。)


「自分が信頼する人達の声、救いを求める声を聞いていればいいさ…。俺は君を頼りにしている…。」


アジルは顔を上げる。


フィオルの笑顔にアジルは救われた気がした。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いします!」


「よろしくね。…そうだ。剣撃隊の家屋じゃ寛げないでしょ?エディウスの家で寝ていいよ。今日帰って来るか分からないけど。」


「い、いや…!もし帰ってきたら二人で過ごすのは流石に気まずいです!」


「仲が良いし、大丈夫だろう?」


アジルは顔を赤らめる。


「隊長の俺が許すよ。ちょっと待ってて!」


そう言い家屋に一度入る。


(もし遅くにエディウスが帰ってきて、私が寝てたら…。)


想像しアジルは恥ずかしさに頬に手を当てた。


「はい。」


フィオルは直ぐに出てくると鍵を渡す。


「じゃあまた明日。」


そしてフィオルはさっさと帰ってしまう。


(どうしよう…。でも…この鍵が無いとエディウスは家に入れない訳だし…。…え?二人で家で寝るの?)


カーッと顔が熱くなる。


そして、その場で立ち尽くし考え込む。


「おー。アジルちゃん。お疲れ様。」「気を付けて帰るんだぞー。」


一日の任務を終え、隊員達が出てくると声を掛けられる。


「お疲れ様です!」


(こんな所にいても不審がられるだけ……よし。行こう…!)


アジルは意を決してエディウスの家へと向かったのだった——。

 


その様子を陰からフィオルは見ていた。


(エディウスはアジルの事を好いていた。あの反応を見る限りアジルも——。助け合うんだ。守りたい者がいれば、強くなる。頼むぞ、二人とも…。)


アジルの背中を見送りフィオルは家へと向かった。



———

 


「ただい…ま…え?」


フィオルは家に着き玄関を開けた。


料理が盛られた食器を並べるアイベルとユイベルは、フィオルを見つめた。


「目を…覚ましたのか?」


二人の顔を交互に見る。


(アイベルが二人…ホントにそっくりだ…。)


「うん。ご飯の準備を手伝ってくれたの。」


「…この人は……?」


ユイベルは目を大きくしアイベルに問う。


「挨拶がまだだったね…。俺はフィオルだ。」


「私と一緒に暮らしてるの。」


するとユイベルの表情が曇り出す。


「……私…あなたが嫌い…。」


小さく零した言葉。


フィオルとアイベルは顔を見合せ、戸惑うのだった——。



——オラディ村近辺の山



「平和ボケ。」


「あの男がフィオルか。」


「剣撃隊の長だ。」


三人の男はオラディ村を囲う山から、フィオルの家の窓に小さく見える三人を見ていた——。

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