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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
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第三話 守護者の正義

「エディウス待って…。」


アジルはエディウスの背中に声を掛ける。


「…ごめん…居てもたってもいられなくて…。」


「ううん…。」


二人は夕陽を背に受け路地を進む。


徐々に聞こえてくる中央通りの活気に、エディウスは小さく見えたチェリスの家を振り返った。


(生活が厳しかったんだよね……母さん…。)


アジルはエディウスの背に手を当てる。


エディウスは前に向き直り、二人は中央通りへと出た。

 


陽が山へ落ち始め、中央通りの石畳に人々の影が伸びる。

 

通りには酒場から笑い声があがり、風に乗って肉を焼いた香ばしい匂いが漂う。


 

「紙にはなんて?」


ふと思い出したかのようにアジルは問い掛けた。


「ああ…。アルブ・ピリスで一番有名なレストランだよ。腹一杯食べさせてあげたいんだ。」


視線を落とし、照れるように話すエディウスに、アジルは微笑む。


「ん?」


アジルは先に見えた人集りに気づき、下を向くエディウスの腕を叩いた。


「人集り?何だろう…。」


先から走ってくる人々。


表情に焦りが見えた。


「スペースジャーニーでソウルガーディアンズと商人のいざこざだ…!」


二人の横を通り過ぎながら男が叫ぶ。


(母さんに伝えたレストランだ…。ソウルガーディアンズだって?)


「アジル…!」


エディウスは声を上げ、二人は人集りの元へ駆け出す。



スペースジャーニーという店名が刻まれた木造の看板が地面に落ちていた。


「アジル!人々の安全を……!」


「ええ!」


アジルは指を差し、声を上げ人々の混乱を落ち着かせる。


エディウスは店の中へと向かう。


中には夕食に訪れた多くの人が居た。


その中には幼い子供もいる。


子供の泣き声が響く。


料理を乗せた机や椅子は壊れ、逃げ惑う人々。



エディウスは、埃が舞う角の席に目を凝らす。


そこには大きな大剣を背負う三人の男の姿があった。


そしてその内の一人が商人の胸ぐらを掴んでいた。


鎧にはソウルガーディアンズのエンブレムが付いている。


散乱した皿を踏む音が響く。


 

(この人達は…誰だ…!?)


「何をしている…!」


エディウスは見た事の無い隊員に一瞬戸惑うが、大声を上げた。


三人の男はエディウスを一瞥した。


まるで石を見ているような無表情な目だった。


直ぐに商人に視線を移す。

 


そして——


店の入口を突き抜ける勢いで外へ商人を投げ飛ばす。


「正気か…!!」


エディウスは反応し、商人を受け止めると背中から地面に叩きつけられる。


店の中から飛んで来た二人を避ける人々。


どよめきがあがる。


「エディウス…!!」


人混みからアジルは駆け寄る。


「大丈夫!?」


「ああ、大丈夫だよ。ありがとう、アジル。」


エディウスは商人の肩を持ち立ち上がる。


「大丈夫ですか?…って…気を失ってる…。」


声を掛けたが商人はエディウスに倒れ掛かる。


そっとその場に寝かせるとエディウスは店の中の男達を睨む。


そして再び店へと向かっていく。


「エディウス待って!」


アジルは止めようとしたがエディウスは止まらなかった。

 


「おい…。あの若い小僧。女剣士に向かってアジルって言わなかったか?」


「ああ。確かに言ってた…まさかエルジオーネ大陸の英雄…アジルか!?」


群衆の中からそんな会話が飛び出すと、逃げていた人々は一目見ようと店の周りに集まりだす。


「これから剣士同士の戦いだって!?」「すげぇ!エルジオーネの英雄とソウルガーディアンズの男達らしい!」


怯えた子供の声が熱狂の中で異様に響く。


(戦う…?そんなバカな事…。)


アジルは心の中で呟き周りを見回す。

 



軋む音を立たせながら近づくエディウスに気付き、三人の男は立ち上がった。



(で、でかい…。)


エディウスは男達の壁のような体格に目を見開く。


無意識にエディウスは剣を触れていた。


男達は振り向くと静かに口を開く。


「お前もソウルガーディアンズか…。」


異様な低い声にエディウスは気味の悪さを覚え、身体を震わせる。


(本当にソウルガーディアンズなのか…?)


「これが守護者のやることか…!」


男達はエディウスの言葉に刺すような視線を送る。


「あの商人は…盗み食いしたのだ…。」


「投げ飛ばして当然。」


「見てみろ…店主の顔を…。盗み食いされ、利益が飛んでしまい震えている。」


男達は一人ずつ口を開く。



エディウスはカウンターに視線を移す。


木が軋む音が大きく聞こえ、身を潜める店主であろう人影があった。


「違う…!あれは怯えているんだ!利益が飛んだ?周りを見てみろ…。机、椅子……料理だってめちゃくちゃじゃないか!お前達がやっているのは……」


「お前はソウルガーディアンズじゃないのか?」


エディウスの言葉を遮ると背中に背負う剣に触れた。


 


「英雄さん!少年が一人だぞ!」「見捨てる気か?参戦しないと!」


群衆の大人達は息を荒くし声を上げる。


(この人達…どうしたっていうの?これは戦いじゃない…。)


拳を突き上げる群衆を見て人々を睨む。


エディウスに視線を移すと男達が剣に触れるのが見え、店の中へと駆け出す。


「おお!いったぞ!」「凄い戦いになりそうだ!」


群衆からは歓声の声が上がる。


「エディウス……!」


アジルに気付きエディウスは横に手を出す。


「お前もソウルガーディアンズか…。」


「罪を犯したものを許すのか…。」


「共犯者だ…!!」


再び一人ずつ口を開く。

 

そして——


床板が軋み、埃がゆっくりと舞い上がる。


三人は同時に大剣を抜いた。


外の群衆の声がピタリと止む。


誰もが目の前の光景に息を呑んでいた。


熱狂はいつの間にか沈黙に変わっていた。


 

(ここで剣を抜くのか…!?コイツらの守護者としての在り方は…イカれてる…!)


「エディウス…」


「アジル…。絶対に剣を抜かないでくれ…!」


「どうするの?」


「大丈夫…。」


不安を顔に出すアジルにエディウスは背中で返す——。



 

チェリスは意を決しスペースジャーニーに向かっていた。


(たしか紙に書かれたお店…人集り…?エディウス…。)


チェリスは胸騒ぎがし駆け出していた。


「すみません…すみません。」


人集りを掻き分け、目の前の光景に足は止まる。


「エディウス…!」


無意識に名を呼んでいた。



「母さん…!」


声にピクッと反応し、振り向こうとする。


だが——。


「共犯者には裁きを——!」


三人の大剣がエディウスに降りかかる。


手を伸ばすチェリスが一瞬見えた。


男達の攻撃に一瞬遅れた反応——。


エディウスは目を見開く。


(ここだ…。白い光…。)


エディウスの身体は光の元へと既に動いていた——。

 


床を破壊する衝撃音。


パラパラと木片が天井から落ちる。

 

「「「おお…。」」」


群衆から声が漏れる。


埃は舞い上がり、チェリスからエディウスは見えなくなった。


「…あ…あ…。」


チェリスは唇を震わせ、伸ばした手の力はだらんと抜ける。


一瞬の出来事にエディウスの後方にいたアジルは立ち尽くす。


「裁きは下った。」


「次は…。」


「お前だ…!」


三人は大剣を構え照準はアジルに向けれらる。


「待て…。」


埃の中から放たれるエディウスの低い声。


「「「何っ…!?」」」


エディウスは降りかかる剣を避け、三人の前に立っていた。


「本当に戦う気か?」


続けて言い放ち、剣を抜こうと手を伸ばした——。

 


次の瞬間——


パチパチパチパチ


突然拍手の音が店の中から鳴る。


「すみませんでした…。」


灯りに照らされない、翳る部屋の隅から一人の男が謝りながら歩いてくる。


三人の男は大剣を納める。


「は…?」


エディウスは剣に伸ばしていた手を引っ込めた。


アジルは訳もわからず顔をキョロキョロとさせた。


「私はアンティカル大陸の支部長ユスティアです。」


「支部長…?」


エディウスは睨む。


「はい。見学させていただきました。あなた方の…」


「あなたはバカですか?この状況…しかも、隊員である僕に剣を向けるなんて…。」


アジルは苛立ちを露にするエディウスの腕を掴む。


「お店の被害…それに外を見てください。」


アジルは店の外に手を差した。



「何だー?止まっちまったぞ。」「もっとやれー!」


群衆は煽りの声を上げていた。

 

「これは戦いじゃない…。」


アジルは小さく零す。


「あれ…気づけばエルジオーネ大陸の英雄アジルさんじゃないですか!」


「私の話を聞いてますか!?英雄…そんなのどうだっていい…。」


ユスティアとの会話は話にならなかった。


エディウスとアジルの怒りは流され、会話どころではなくなる。


「店はどうにかします。その内…。」


ユスティアは微笑みながら言うと、三人の男の元へ向かった。


「アンティカル支部に鳥を。この店の損害を伝え、元に戻すように。」


「はっ!」


「直す?そういう問題じゃない…。」


腰を抜かした店主は小さく零した。


エディウスは俯く店主を見つめた。


(たしかに…直すからどうとかそういう問題じゃない…。人の時間を奪った。この人達は何なんだ!)


エディウスの苛立ちは最高潮になる。


「謝罪を…!」


二人に背を向け指示を出すユスティアに言い放つ。


「それと説明をしてください。何故ここまでする必要があったのか。守護者としての正義…」


 

突然目の前が暗くなる。


「…あ…。」


背を向けていたはずのユスティアがエディウスの目の前に立っていた——。


音もなく、遅れて吹き付ける冷たい風。


「正義の為です…。それとコール大陸の隊員の甘さを見る為…。私達はオラディ村で開かれる集会の為ここ、コール大陸に来ました。あなた達も参加しますよね?また会いましょう…。」


ユスティアは笑みを浮かべ、三人の男を連れその場を去った——。

 


「くそっ…!」


(全然捉えられなかった…!剣にすら手を伸ばせなかった…。あの人が剣を抜いていたら…俺は死んでいた…。)


エディウスは悔しさと怒りに太ももを叩く。


「エディウス…。」


(あの人は化け物…。私達二人でも…もしかしたら…。)


アジルはユスティアの背中を見つめ心の中で呟く。


「エディウス…!!」


「母さん……。」


チェリスは瞳に涙を浮かべ駆け寄る。


「ごめん…。今日ここで…」


「大丈夫よ…。それよりあなたが無事で良かった…。」


チェリスはエディウスを抱擁する。


アジルに見られ恥ずかしさに一瞬身体が固まる。


「母さん…。俺は憎んでなんかいないよ…。ここまで生きてこれたのは…母さんのお陰だから…。」


エディウスはそっと手を回し、抱き締めた。


「人を守れるようになれた…。俺を産んでくれてありがとう…。」


チェリスの瞳から涙が溢れる。


「このお店で食事が出来なかったけど、別の店をすぐ探すよ。後で行こう。」


チェリスは大きく頷く。


いつの間にかエディウスの怒りは消えていた——。

 


それからエディウスとアジルは群衆を宥め、その場は治まった。


 

「私はオラディ村に帰るね。報告もしなきゃ。」


「うん。一応鳥は飛ばしたけど、頼んだよ。」


「アジルさん…。あなたを知ってるわ。エディウス会いに来てくれてありがとう。あなたの言葉が私を動かした…。本当に英雄だわ…。」


「いえ…。」


アジルは照れを隠すように俯く。


「エディウスをよろしくね。」


笑顔で言ったチェリスの言葉に、エディウスとアジルは顔を赤らめる。


「は、はい!」


何故かエディウスが返事をし、一行は笑った。


そして、チェリスを連れエディウスは新たな店へと向かった。


(エディウス…。ありがとう…。)


アジルは二人の背中に、心の中で呟き、空を見上げた——。


鳥が小さく見えるどこまでも高い空に、かつての面影を重ねる。


アジルの頬を撫でた風は、まるで誰かが優しく微笑むように温かかった——。

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