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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第三章 人としての使命
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第一話 竜の住まうこの世界

——オラディ村



「アイベル…。ご飯…置いておくからの…。」


クラルは療養施設の奥にある、小さな一室の扉に向かい声を掛けた。


 

——二日前 ダイアボ

 


「お姉…ちゃん…?」


(私が……?)



突然目の前に現れた少女——。


幼い頃のアイベルと、瓜二つの顔をしたその少女は、瞳に涙を溜めながらそう言った。


「凄い邪悪な気…。行こう…。」


アイベルは、依然として少女の存在を理解しようと固まっていた。


それは周りにいた者達も同じだった。


 

「ほら…!行こう!」


黒い幹へと向かう少女。


エヴァルはアイベルの背中を押すとアイベルは少女に付いていく。


黒い幹まで十mほどの所まで来ると立ち止まる。


一行は二人の様子を遠くから見守っていた。


そして、少女はアイベルの手を握った。

 


「——!!」


次の瞬間——。


頭の中に白い世界が浮かび上がる。


その視線の先にいたのは目の前にいる少女だった。


「…あなたは…。」


アイベルは口ずさみ少女に顔を向けた。


「私はユイベル。あなたの双子の妹よ。」


「…え…?」


(この子は子供…。宴の時に私の脳に話し掛けた子…。)

 


「とにかく…抑えよう…。」


少女はグレイスラックに沈んでいた宝石を手に包む。


「さぁ手を組んで…。」


ユイベルに従い、二人は手を組む。


 

次の瞬間——。


二人を包む白い光。


一瞬にして辺りを包み、二人を中心に広がる。


(す…凄い強い光だ…!)


フィオルは心の中で叫ぶように言った。


強い光に一行は腕で顔を隠す。


そして光は粒子となり、弾けるように舞い上がり消える。


再び視界に入ったのは邪悪な気が消え去った幹。


そして、その前に立つアイベルと地面に倒れたユイベルだった。


「…大丈夫…!?」


アイベルは倒れたユイベルに気付き屈み込む。


息を荒らげ、汗ばむユイベル。


「消えた…かな……?」


アイベルは頷いた。


目の前の幹の事を気にしている余裕もなかった。


「あなたは……私達は一体…何者…なの…?」



「…めが…み…の…。」


ユイベルは途中で目を閉じ気を失った。


(…女神……。)


アイベルは心の中で唱えるように呟くと、次第に表情は翳っていった。




それから——


気を失ったユイベルを抱え、一行はオラディ村へ向かうことになった。


 

だが、アイベルはダイアボの民を救うため残ると言った。


フィオルは村への帰還を強く望んだが、アイベルはそれを聞かなかった。


アイベルの折れない心に、フィオルはその想いを尊重した。


そして、エヴァルと共にアイベルはダイアボの街へと向かう。


一行はアイベルを見送るとダイアボを後にしたのだった——。

 


オラディ村へ向かう馬車の中では、アジルとディルケは再会を喜び、ユヌスとコランはレリッタに起こった出来事の話をしていた。

 


フィオルはアイベルを常に想い、ペンダントを離さなかった。


翌朝、オラディ村に着くとユヌスとレリッタの村人達は再会に宴をあげ、フィオル達ソウルガーディアンズはブルク、ノワルヴェールと共にすぐに会議を開いた。


 

会議を終え陽が沈み夜を迎えた頃——。

 


アイベルとエヴァルは帰還した。


怪我は無く、迎えたフィオルの顔を一瞬見て笑顔を向けたが、すぐに表情は曇り療養施設へと向かった——。

 


——現在 オラディ村

 


療養施設で最後の一人の診察を終え、クラルは大きく溜息をついた。

 


『クラルさん…。私は…人間じゃない…。私の…女神の存在が…ダイアボの悲劇を招いてしまったんです…。』


涙を浮かべながら療養施設へ訪れ、一室貸して欲しいと言い、アイベルは閉じこもった。


クラルはアイベルが閉じこもる部屋を見つめる。


(女神…。ワシも幾度かそうではないかと感じた事があった…。声を掛けてあげることが出来んかった。…アイベルはアイベルじゃ…。ありのままでいて欲しい…。この子は…まだ若いんじゃ。)


 

扉の前に置かれた飯は、取られる事なく時間は進んでいく。


 

灯りの無い小さな部屋。


小窓から月明かりが線となり、室内に差す。

   

(私は…この世界にいていいの…?私のせいで…。)


光の線をなぞりながら心の中で呟き、目を瞑った。



———

 

 

フィオル達と別れ、モノクロの世界と化したダイアボの街に赴いたアイベル。


アイベルとユイベルの光を受けた街には、夜中でありながら何事かと多くの民が広場へ出ていた。


民、兵——。


ザワつく人々。


広場の中心にある高台に立ち、アイベルは声を上げた。


「——王は去りました…。」


その言葉に人々はアイベルに身体を向ける。


そして、多くの子供が広場へ出てくる。


(オルコ王は子供を見たくなかったのね…。)


「恐怖に怯える日々は無くなります…。自由に…生きて下さい…。」


人々の顔を見回し手を組む。


そして——願った。


組んだ手から光が放たれる。


地面を光が走り、家々の壁に達すると上っていく。


色を取り戻す壁。


そして、子供の瞳が輝く——。

 


光はダイアボを包んだ。


静まり返る広場。


光が消えていくにつれ人々の表情に色がついていく。


『ああ…あなたは…!!』『暖かい…女神様…。』

 


アイベルは目を開け、エヴァルに跨る。


そしてオラディ村に向けエヴァルは走った。

 


(ここには居られない…。)

 

 

人々から放たれる"女神"の声。


立ち止まりかけたがアイベルは振り返ることはしなかった。


背中に受けたその言葉を胸に受け止める。


(ごめんなさい……。)


心の中で謝罪するとアイベルは涙を流し、ダイアボを後にした——。

 


———

 


目を開け掌を見つめる。


月明かりが掌を照らすが一瞬で雲に隠れ、光は消えた。



(私の心が…色を失っている——。)


涙がジワッと目を覆い視界がボヤける。


掌に落ち、その涙を握る。


そしてアイベルはそのまま眠りについた。

 



(アイベル…。私は…過ちを犯してしまった。迷ってしまったの…。でも…あなたは迷いの無い、在り方でい続けなさい…。)


アイベルの頭の中に響いた声——。


(あなたは…女神…様…?)


 

———



太古の時代、私は"この世界"を豊かにしようと種を植えた——。


竜の住まうこの世界。


彼らは悠久の時を生きる存在。


世界の中心、コール大陸に成ったその神樹は、根を世界に張り巡らせた。


その神樹の名は"アルケ・ラヴィエル"。


次に成った北の地のラヴィエルはアルケ・ラヴィエルと繋がり、世界に生命の力を放出していた。

 

 

神樹"ラヴィエル"から受けた生命の力は、竜にとって掛け替えの無いもの。


だが、人間の誕生によってそれは暴走した——。


神樹の恩恵を受ける為、人間は争う。


その火種は神樹へと達してしまった。


私は見ていた。


"皓白の神域(こうはくのしんいき)"で…。


どちらもこの世界には、なくてはならない存在になっていた。


豊かな世界を見て私は幸せを噛み締めていた。


竜…人間。


壊れゆく世界に救いの手を差し伸べるのを躊躇してしまった。


そして——漆黒の竜が世界を壊し始め、北のラヴィエルは朽ちていった。


空は裂け…大地が沈み…神樹が震える。


私が迷ってしまったから——。


竜の暴走を早く止めていれば……。


人間の欲を早く抑えていれば……。


私はその世界に飛んだ——。




遅かった……。


全ての負の音が聞こえた。


竜の咆哮…人間の悲鳴…怒号……。


自然が壊れる音も…。


私は力を使い、怒りを鎮めた。

 


(ごめんなさい——。)


 

———

 


(アイベル…。ユイベルと共に…この竜の住まう世界を…あなたの在り方で見届けなさい…。)


「……ハッ——。」


アイベルは目覚めた。


握っていた手を広げる。


陽の光が掌を照らす。

 

その手は僅かに震えていた——。



——ブルクの家

 


「まだ…家にも帰って来ません。それに少女もまだ…目覚めません…。」


ブルクの家へ呼ばれたフィオルは俯き小さく言う。


「困ったのう…。」


ダイアボからフィオル達が帰還後、既に五日が経過していた。


「療養施設には毎日顔を出して声を掛けてますが…。」


(アイベル…。何も言わず、どうしてしまったんだ…。最後に見た君の笑顔…曇った表情…。)


フィオルは思い出し拳を握る。


「村を歩いていても…アイベルを心配する声が鳴り止まぬ…。」


「そう…ですね…。」


フィオルは窓の外に見える、賑わう中央通りを見つめた。


沈黙が訪れる。


 

ギィィィ


突然部屋の扉が開く。


「おはようございます長老。フィオル居たのか。」


そこにはノワルヴェールがいた。


「暗いですね…ここ…。」


ノワルヴェールは部屋の空気を感じ呟いた。


「その顔…フィオルでもダメか…。」


「はい…。」


「…俺に任せろ。」


ノワルヴェールはフィオルの肩に手を置いた。


そして振り返る。


「長老。フィオル。村人を広場へ集めましょう。私がアイベルを連れて来ます。」


ノワルヴェールは部屋を後にした。


(ノワルヴェールさんが行った所でアイベルは…。)


フィオルは無理だと頭では思っていた。


「大丈夫でしょうか…?」


「分からぬが…声を掛けてみようかのう。」


「はい…!」


そして二人は外へと出て行った。



——中央通り

 


ノワルヴェールは療養施設に向かう。


「ノワルヴェール隊長!あの…アイベルさんはまだ…」


一人の隊員が声を掛けた。


「ああ、まだだ。だがこれから連れてくる。お前…広場へ人を集めてくれないか?」


「え…あ…はい!」


(全く…外を歩けばアイベルの名が出てくる。"こんな所"で閉じこもってもらっては困るぞ……。フィオル…お前は少し優し過ぎるんだ…。)


先に見えた療養施設を見つめ、眉を下げながら心の中で呟く。


療養施設の外で待つエヴァルはノワルヴェールに気付き、立ち上がった。


「主人に会いたいだろうに…。」


ノワルヴェールはエヴァルを撫でるとゆっくり療養施設に入った。



カチャ


受付には出張診察の札が置いてあり、中には誰もいなかった。


ノワルヴェールは奥の部屋へと歩き出す。



「ここか…。」


(ここだけ暗すぎる…。食事もそのまま…。)


ノワルヴェールは大きく息を吸い、アイベルの閉じこもる部屋を叩いた。



「アイベル…私だ。」


(…ノワルヴェール隊長…?)


「まだ…出てこないのか…?」


優しい口調。


アイベルは唇を噛む。


アイベルの心は揺らいでいた。


(本当は出たい…。でも…私の存在がそれを邪魔する…。)


「いつまでもそこに留まるつもりか…?」


返事は無く診察室の燃焼時計の音が響く。


「聞こえているだろう…。私の声、そして時計の音も。お前の時は止まっているかもしれんが、現実は常に進んでいる。」


ジリジリと燃焼時計の音に、アイベルは顔を上げ、扉の先を見つめた。


「聞こえているだろう…?人の声を…。」


多くの村人が広場に向かう姿が小窓から見えた。


どの顔も笑顔だった——。


「同じ師を持つ俺から、この言葉を伝える——。」



『世界にはまだ、救いの手が届かず苦しみ、困っている人々がいる——。』

 


(スターキイ隊長が私に言った言葉……。)


アイベルは手で口を覆う。


その瞳に涙が溜まる。


「お前には人々を救う力があるだろう…!まさに今、この時も…救いの手を待つ人々がこの世界にはいるんだ…!外を見ろ!肌で感じろ!」

 

啜り泣く音が聞こえ出す。

 

「…うっ。…ノワルヴェールさん…でも…私は…女神…」


「お前は……お前だろうが…!!」


泣きながら詰まらせた言葉を遮ったノワルヴェール。


少しの間、燃焼時計の音は止まることなく鳴り響く。


「……皆…待っている。」


 

アイベルは今まで出会った人の瞳に映る、自身の姿を思い出す。


瞳から涙が零れる。


涙で滲んで見える扉に手を伸ばしかけた——。


 

カチャ


ノワルヴェールの外へ出た音が聞こえ手を引っ込める。


(皆の瞳に映ったのは——私だった。)


アイベルは涙を拭い、扉に手を当てる。


震えは止まらない…。


鼓動が大きく響く。


それでも大きく息を吸った——。

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