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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
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第三十話 白と黒

王の間を支配した凍てつく気――。


一歩一歩床を歩く音が不気味に聞こえる。

 

コランの不安定な息遣いが王の間に大きく響く。


膝を付くオルコは、現れたフードを被る男をゆっくりと見上げた。


(全てを失った…。ならばせめて、あの女さえ奪えればもうどうでもよい…。)


オルコは拳を強く握る。


 

扉の裏で聞こえていた話は、コランの頭の中を目まぐるしく動き回っていた。


(父さんが死んだのはこの王が原因――でも、声が揺れていた…。崩れ落ちるほど大切な存在だった。憎いはずなのに…怪物には見えない…父さん、母さん…僕は――。)



「お主か…。惨め……そうじゃな。」


男は応えることなくフードの奥から刺すような視線でオルコを見下す。


それに対しオルコは睨み返した。

 

「あの女を捕らえよ。」


沈黙する。

 

「……フッ。フハハハ…。」


「何を笑っておる…あの女を捕らえるんじゃ……!」


(もうワシには何も残っておらぬ…!)


アイベルに指を差し、唾を飛ばしながら叫ぶ。

 


アイベルは身構えフィオルはアイベルの前に立つ。

 



小さな虫を見るように、男は感情を無くしオルコを見た。


「……驕るなじじぃ。」




一瞬だった――。


瞬きをする間などなかった。


次に視界に入ったのは、空を舞う王冠と血の線。


再び瞬きから目を開けた時には、遅れて血が吹き上がり、目と口を開けたままの首が、静かに床へ落ちていく。


(……カンビア…そして…モルスよ…。……すまぬ――。)



アイベルは見てしまった。


落ちていくオルコと目が合い、瞳の奥に、微かに光が残っていた事を――。


 

「「…………。」」


コランとフィオルは言葉を失う。

 


「……この国は狂ってる…。」


メイドは小さく零す。


 

王冠はオルコから離れ、甲高い音を立たせ床に落ちる。


そして転がり、コランの前まで来ると止まった。



「…あ…あ…。こんな事はもう……人が人を殺める事は――。」


呼吸が浅くなり、息を漏らしながらコランは零した。


足元の王冠を見つめるコランの瞳には涙が浮かんでいた。

 


男は剣を払い、こびりついた血を飛ばす。


 

 

「あなたは…あなたは何をしているんですか…!?殺める事はあってはいけない…!!彼は……」


「自業自得というやつだ。」


男はアイベルの言葉を遮る。


「話は聞いていた。妻の為、子の為に生きた。だが復讐心に心は歪み、欲に溺れた。そして最後は――自分の血を壊した。…そこのメイドは傷付いていたんだろう?これで、もう傷付く事もない。…俺は悪者か?」


 

その問いに誰も口を開くことが出来なかった。


アイベルは唇を噛む。


突然周りの音が聞こえなくなった。


――


 

「人ではない者に変わってしまう……。」


白い光に包まれた世界で呟く声。


「この力を使ってしまえば私は――」


 

――


その声はアイベルの脳裏に響く。


(今の声は……。)




突然オルコの胴がピクッと動く。


「ん…?」


男は目を細め凝視した。


「まだ生きてると言うのか。」


剣を頭上に掲げ、空間を断裂させるように振り下ろす――。



「……させない…!」


フィオルはオルコの前に立ちそれを防ぐ。


火花が散り、ギリギリと金属同士が擦れる音が響く。

 


(どうする!恐らくアイベルの心願でも王は救えない…!)

 

フィオルは剣で押し退けると男は一歩下がった。



「流石だな…。」


男は小さく呟き、フィオルは再び剣を構えた。


 

少しの間、フィオルの足元まで伸びていたオルコの影が大きく揺れ始める。


フィオルは驚き、後退するとオルコの影は消える。


(影が…胴体に入った…?)

 


すると次の瞬間――。


胴体から黒い影のような塊がふわりと浮かび上がる。


男は躊躇なく切り付けるが太刀筋は塊を通り抜けるだけだった。


「何だこれは…?」

 


コランは目の前に落ちる王冠を拾い、黒い塊に視線を移す。


(あれは……?)


コランの脳裏にモルスの顔が過ぎる。



「待てっ…!」


そして、再び男が剣を振りかぶるとコランはフィオルの制止を振り切るように走り出した。


身体が無意識に動いていた。


「やめろぉ…!!」


コランは盾で男の剣を防ぐ。


(うぐぐ……重い……!!)


「よく防いだな。だが――。」


男は回転しながら切り流すとコランは体勢を崩す。


そして、盾がズレ、ガラ空きになった腹部に回し蹴りを叩き込む。


「ぐっ…!」


盾は手から離れ、床を滑るように走り壁に当たった。


コランはフィオルの前まで吹っ飛ぶが直ぐに立ち上がる。


 

「コラン…。」


(あなたは赦そうと…。)


コランの背を見たアイベルは感じていた。


 

黒い塊を挟み睨み合いが続く。


次の瞬間――。


黒い塊はゆらゆらと揺れると、大きな窓へと動き出した。


 

(もはや女など要らぬ…!ワシは女神を越える…!)


黒い塊はスピードを上げ、窓をすり抜けて行った。

 


『――彼を追って…!人ではいられなくなる前に…。』


 

「うっ……!」


アイベルの脳裏に再び響いた声。


頭を抑え、片目を瞑る。


「アイベル…!どうした!?」


 

「声が…。彼を…追わなきゃ…!」


アイベルは窓へと走る。




「これは――。」


アイベルは目の前の光景に唖然とした。


「ラヴィエル……?」


そこには漆黒に染まる巨大な切り株のようなものが在った。


それはまるで世界の色を吸い尽くしたような、底の見えない漆黒。


目を凝らすと黒い塊がそこに向かって行くのが見える。


「フィオル!私は彼を追う!」


叫ぶようにフィオルに声を掛けると、アイベルは駆け出し、部屋を出た。


「コラン…!!アイベルと行け!!」


「はい!」


コランは盾を拾いアイベルを追い掛けた。

 


静まり返る室内。


「あなたは部屋の隅に避難して下さい。」


フィオルはメイドに声を掛ける。


メイドは怖がりながらも直ぐに移動した。



フィオルは男に身体を向き直す。


「あなたならアイベル達をこの部屋から出させない事が出来たはず…。わざと…ですね…?」


「そうだ…。その通り。これで邪魔者はい…」


 

「フィオル!!その男は……」


男は扉を蹴り、アルドの言葉を遮る。


「いたな。邪魔者が。これでいい。」


そしてフィオルに向き直る。


「彼は…アルドさんはもう自由なはずだ!!剣を交える必要はあるのか!?」

 


男は大きく息を吐く。


そして被っていたフードを外す。


「俺はお前と戦うためにここにいるんだ――。」

 


――アイベル、コラン

 


螺旋階段を駆け下りる。


石壁に足音が大きく反響した。

 

(あの声……間違いない。グレイスラックで聞いた、あの声。)


『――私の過ちで、この大樹は…。』


(全く理解出来ない…。でも、さっき見たラヴィエルの事かもしれない…。)


「アイベルさん…!」


アイベルに追いつきコランは声を掛けた。


「コラン…!ありがとう…。」


「……僕はあの王が憎いです。でも…」


「赦そうと考えてる…?」


「かもしれません。憎み続けるのは違う…。彼の声から感じました。彼は確かに愛していた…。」


 

「……そうね。」


「でも、何で僕の気持ちが分かったんですか…?」


少しの沈黙。


「あなたは守ろうとした…。」


アイベルはコランに振り返りながら言う。


「多くの人が彼を恨んでる…。でも、あの瞳には最後――光が残ってた…。私は救うことを拒めない…。どうしても…。」


 

(でも、本当はどう在るべきなの……?)


それから無言のまま下り、フィオルとダイアボの街を見た窓で止まる。



「コラン。お願い…!」


「はい!」


コランは盾を使い、窓を割った。


そして二人は割れた窓から飛び降りダイアボの街へと出る。

 


空は厚い雲に覆われていた。


風も無く音も無い。


辺りを見回すが人の姿はなく、国とは思えないほど静かで不気味だった。


だが、アイベルとコランは豪邸の裏へ向けすぐに駆け出す。


モノクロの世界に、石畳を駆ける足音だけが響き渡った。

 


――王の間 フィオル


 

「俺と戦うため……?」


 

『男は直剣…そして、私と同じ細剣も扱えます…。細剣による攻撃、身のこなしは私以上です…。』


アジルの言葉を思い出す。


(歳はアルドさんと同じくらいに見える…。細剣を扱い、俺と戦うためにここにいる……何故俺なんだ…?)


男に向け剣を構え、心の中で呟く。


男は剣を下げ、構える事すらせずフィオルを見つめる。

 


「細剣は使わないのか…?」


眉をピクりと上げ、男は首を傾げた。


「そうか。あの娘に会ったのか。確かにあの娘は強かった…。グリフを退ける力を持っていた。十分人の域を超えている。」


「……そのグリフをあなたは殺した…。」


「ああそうだ。弱い人間など組織には必要ない。」


「組織とは何なんだ…!」


フィオルの声が部屋に反響し、静まり返る。


男は大きく息を吐く。


「強さを求める者達の集まりだ…。地の力は言うまでもなく人の域を超える。それに……」


男は黒い塊が消えて行った窓を指差す。


「オルコ王の向かった先……朽ちた神樹から溢れる邪悪な力を浴びて更に力を得ている。お前と一緒にここへ来た奴ら……相当な手練だろうが…無事ではすまん。」


(確かにデュールさんの衝撃波の音を聞いた…。普通の人間と戦うならあんなに激しい剣戟の音も無いはずだ…。エディウスやアジルは大丈夫なのか…!?それに邪悪な力がアイベル達の向かった先に…?いよいよまずい…。アルドさんを救出して直ぐにここから…!)


「一応俺は奴らを束ねていたが、身勝手な奴らばかりでな。人攫いの被害者達の親族は依頼を出すんだ。どうなるか分かるか?」


フィオルは眉を顰める。

 

「…強い人間に…依頼を…」


「そう。その通りだ。強さを求める者達は自身の力を試す。俺の言うことも聞かん。結果……依頼は叶わず金だけが流れる。」


剣を床にトントンと当てながら男は言う。

 

「な、何故ソウルガーディアンズに依頼が届かないんだ…?」


ニヤリと笑う男。

 

「ソウルガーディアンズには言わないという契りを結ばせているからだ。もちろん依頼を受ける人間はこっち側の人間。親族の願いは叶う事なく、目を瞑るしかない。監視の目も厳しく、もしも、ソウルガーディアンズに言おうものなら……もう分かるな?」



「……。その流れた金でこの国を……」


「それもある。この国の土台は数年前、神樹の素材を売り払って出来たもの。それに加えて今は莫大な依頼金がある。お前達ソウルガーディアンズは世界を知っているようで知ってない。」


挑発するように鼻を鳴らし言い放つ。


「……くっ。お前達はクズだ。」


「クズはあの王だ。自身の誤ちで失った赤子――。国の民達は気付いていないだろうが、俺には分かる。現在まで人攫いを行い探し続けていたんだろう。」



「気付いていたのに……止めなかったのか……!!どれだけの人が犠牲になった…?親族の想いも……全てを壊しているんだぞ……!?」


「話を聞いていたか?俺達組織は強さを求めている。強者が現れればそんな想いなど…無だ…。」


その言葉を聞き、フィオルの握る剣の手には微かに白い光が浮かび上がる。


「強者が現れる――。最も強い者。お前がいずれここに現れるから俺はここにいたんだ。俺はお前を知っている。」


「俺に直接会いに来れば叶ったはずだ…。」


「邪魔が入るんだよ……。これだけは勘違いするな。俺はあの神樹から邪悪な力を得ていない…。」


最後の言葉にフィオルは眉を顰めた。

 

「"白"は救済の光。お前は"白"だろ?…俺は"黒"だ――。」


男は直剣を納め、細剣を抜く。


細剣を握る手から漆黒の気が浮かび上がり、やがて剣を包んでいった――。

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