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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
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第十九話 兆し

「50年くらい前かな…当時のダイアボは村だったんだけど……時より村の周辺では人がパタパタ居なくなる事があったみたいなんだ。」


「…。」


俯きながら話すディルケに、アジルは静かに話を聞いていた。


ディルケが一旦、話を止める。


ザッザッザッと小砂利の道を歩く音が響く。


「……村人を攫っていたんだ。」


「そ、そんなに前から…!」


ダイアボの闇の深さを感じ、足を止めたアジルは大きく声を上げる。


「実は僕の家系はダイアボ出身でね。産まれはダイアボで、人攫いが起きたのを見つけてダイアボを抜け出したんだ。僕は地下に住んでるでしょ?僕の家系はダイアボの人達に見つからない様に、こうやって地下に隠れて生きていたんだ。」


「そうだったんですね…。」


「それから僕の家系以外の人も抜け出して、だんだん地下で暮らす人は増えた。ダイアボで暮らすのは怖い……でも皆はやっぱり人攫いはいけないことだと分かってた…。ダイアボは発展して行く中で、とうとう冒険家達にも目を向けた。そこで僕達地下で暮らす人々は、命の危機や人攫いに遭いそうな人を助けて来たんだ。」


「危険を顧みず今まで沢山の人達を助けていたんですね。」


「うん。でも……今はもう僕だけになってしまったよ。」


ディルケは俯きながらも進む歩みを止めずに語る。


その声は僅かに揺れ、寂しさを含んでいるようにアジルは感じた。


口を開こうとしたが、返ってくる言葉が何となく分かり、アジルは敢えて返さなかった。


(危険だと分かっていても人々を助けた。でもだんだんと人は減って…今では一人になってしまった…。この人は一人で戦っていたんだ…。今の私と一緒…。)


アジルは今の自身とディルケを重ねていた。


「でも…あなたが居たから私は命を失わずに済んだんです。ディルケさん…あなたが居てくれて良かったです。」


その言葉にディルケは顔を上げ、アジルに笑顔を送る。


「君と…君の仲間達がダイアボの闇を祓ってくれると信じてるよ。」


ディルケを真っ直ぐと見つめ、アジルは大きく頷いた。

 


――オラディ村

 


外は陽が沈み、道端の灯りがつき始めていた。

 

「どうしたんだエディウス。こんなに話しを聞かないなんて……」


フィオルは理由を聞こうと話し掛けるがエディウスは俯き、返さなかった。

 

(俺は変わらなきゃいけないんだ…。ここで変われないと一生頼られないままなんだ…!)

 


――時は遡り、アルブ・ピリス 竜種研究所

 


研究者達の飲み物を零し、アルドに叱られ、肩を落としながら、研究所周辺の巡回警備へと外に出たエディウス。


いつもであれば少し笑いながら叱られるのを流すエディウスだが今回は違い、表情は固く暗かった。


違和感を覚えたものの後を追う事はせず、巡回を任せ、アルドは研究所の前に立ち、警備に当たる。


だが、休憩時間が過ぎてもエディウスは帰らず、アルドはエディウスを探しに出る。


「何をやってるんだアイツは…。」


愚痴を零しながらも内心では心配をしているアルドは、一つ一つ路地を覗きながら数ブロック進み、キョロキョロと首を振るエディウスの姿を見つける。


「いたいた…。ハァ。」


溜息をつき顔を上げると先にいたエディウスはアルドに気づき走って向かってくる。


「アルドさーん!」


顔をくしゃっとさせ悲しさと嬉しさを混ぜた様な表情を浮かべるエディウス。


「迷ったのか…?」


「は、はい…。」


「これではこの都市に緊急事態が起きても任せられんぞ…。」


溜息混じりに放った言葉にエディウスは肩を落とす。


「とりあえず休憩だ。戻るぞ。」



休憩を終えると二人は研究所の前に立ち警備を再開した。


行き交う人々を注視しながら警備に当たるアルド。


それとは裏腹にエディウスは肩を落としたままで、心ここに在らずといった様子で、アルドが顔を覗くとエディウスの瞳には涙が溜まっていた。


「エディウス…どうし…」


「アルドさん…。僕はソウルガーディアンズとして何も出来てません。」


アルドの声掛けを遮り、エディウスは口を開いた。


「何をしても上手く行かない。この任務が終わったら…いっそのこと辞めようと思い始めてます。」


「…バカを言うんじゃない。」


「だって…!」


「じゃあ何故涙が出る?」


エディウスはその言葉に返す言葉が見つからなかった。


「自分なりに目標に向かって努力している時、人は壁にぶつかる事がある。それはどんな人間にだってある事だ。下を向いて目標に向かって進んでいると目の前の壁に気づくのが遅れるんだ。常に顔を上げて目標に向かえ。そうすれば壁が見え始めた段階で解決する術を模索できる。そうなった時に俺やフィオルに手を差し伸べて貰うんだ。どんな目標も一人では時間が掛かりすぎる上に、目標を失う事になるからな。」


「……。」


アルドの話を受けて瞳に溜まっていた涙が溢れる。


「お前には期待してるんだ。俺も…フィオルも…。」

 


――オラディ村

 


「僕は変わらないといけない…。この遠征で変わった姿をアジルに見せたいんです!それに…」


『壁にぶつかった時…涙を流せる人間と、涙すら出ない人間に別れるんだ。涙すら流さない人間は"諦めている"。一方で涙を流せる人間は諦めがチラつくが、同時に心の底にはまだ"希望"を持っている。涙を流すお前はまだ諦めていない。目標に辿り着いた自分に出逢う為に、実は心の底には希望があり、辞めたくないと思っているんだよ。』


辞めようと思い始めた事を打ち明けた時に言われたアルドの言葉を思い出す。


「アルドさんを助けたいんです!」

 

「…さっきも言ったが今回は相手が強すぎる。あのアジルが手も足も出なかったんだ。お前を守る事も…」


「僕は守る人に…頼られる人になるんです…!」


顔つきが変わったエディウスにフィオルは言葉を失う。


「僕はあの人の様に、命を懸けて人を守れる人間になるんです。」


「お前…まさか…。」


「知ってます…。隊長が僕の事を…他の隊員より気に掛けている理由…。…僕はファリートさんの弟なんでしょう?」


「………。」


「特別扱いしないで下さい…!僕だって変われる!"守る人"になれます…!」


黙り込み、下を向くフィオルに畳み掛けるようにエディウスは叫んだ。


(いつまでも子供だと思っていた。何でも言えば付いてくる子だと思っていた。そう…。この子は命を懸けて俺とアイベルの命を繋げた強い人の弟なんだ…。)


顔を上げると真っ直ぐ見つめる瞳にフィオルはフーっと息を漏らした。


「分かった…。今回もよろしく頼むよ。」


エディウスの肩をポンと叩き、会議所へフィオルは歩き出す。


エディウスは心から嬉しさが込み上げ立ち尽くす。


「ほら…早く戻るぞ。」


道端の灯りが全て灯り、中央通りを綺麗に照らす。


「はい…!」


灯りはエディウスの背中を鮮明に写しだした――。


 


村人へ薬を届けていたアイベルは偶然、会議所の前を通り掛かり、輝くようなエディウスの背中を見つけた。


「大きくなってきたね…エディウス…。」


クスッと笑い最後まで見送るとアイベルは療養施設へと戻って行った――。


 


会議所に戻ると二人に注目が集まる。


「ブルク長老。エディウスも連れて行きます。」


集まる者達はエディウスの変化に気づき、ブルクはエディウスの表情を見て直ぐに頷いた。

 

(変わりつつある。エディウス…。お主はもう子供ではない。守り人じゃ。)


 

「馬車は明日の朝にこの村に着くように手配する。」


ブルクはそう告げると、仕えるルクスが会議所に訪れ、伝書鳥を受け取ると直ぐに空へと放った。


それからノワルヴェールが残る事に決まると、会議は幕を閉じる。



「武具の手入れをしっかりしておけよ?」


「はい…!」


「じゃあ明日な。早く寝るんだぞ?」


エディウスは頷き、その場を後にする。


(大きくなってきたな…。)


フィオルはエディウスの背中を見送り自宅へと向かった。



――ダイアボ

 


浴場を覆い尽くす湯気、特殊な鉱石で作られた床は光沢を放っていた。

 

湯に浸かるオルコは酒を持って来るよう兵に手招きをした。

 

フーっと息を吐き、目を瞑りこの先の自分の生活を思い浮かべ、ニヤリと笑う。


「お持ちしました。何か心が弾む事でも?」


「一番欲しいモノがそのうちやってくる…。」


「それは…話をしていた女ですか?」


「そうじゃ。」


「何故来ると?」


その言葉に眉をピクッと上げるオルコに兵はビクつく。


「あの女はそういう"存在"だからじゃ。」


何を言っているか分からず、兵は少し首を傾け頷いた。


(機嫌が良いのか…。危なかった…。機嫌が悪かったら殺されていたかもしれない…。)


そして、兵は一礼をし、浴場を後にした。

 


――オラディ村

 


雲ひとつ無く空気が澄んだ満天の星空。


フィオルは心の中で想う。


…平和だと。


家に着き、ゆっくりと玄関の扉を開ける。


「ただいま…。」

 

「おかえりー。」


背中を向け夕食の準備をするアイベル。

 

二人だけのこの空間は、長い時間生活を共にしてきたかのように感じる。


ただ帰っただけなのに、フィオルはこの空間に幸せを目一杯感じた。


「そういえば今日、エディウスを見かけたの。なんだか大きくなってきたなって思った…。」


「そう…か。」


明日の朝村を出て、人と命の取り合いをするかもしれない…。


アイベルの話を聞きながら心は既に緊張していた。


もしかしたら、もう戻って来れないかもしれない…。


それを伝えなきゃいけない…。


「フィオル…?」


フィオルの返事が小さくアイベルは問い掛ける。


「アイベル…。明日の朝…ダイアボに向かうことになった。…アルドさんが…囚われたんだ。」


少しの沈黙。

 

「君は待っていてくれないか?」


「…何で?」


「今回は人と戦う事になる可能性がある…。大街道で人を殺めた人物の組織がダイアボにはある…。」


「とても強い相手なのね…。」


「ああ。」


アイベルは夕食の準備を止め、フィオルの前に立った。


「私の居ない所で命の危険が待っているなら私は行くよ。何を言われても…絶対。」


「相手の数も分からない…。強さも未知数…。今回は待っててく…」


「私を頼ってって言ったでしょう?それに…」

 


『はい!花を持って来た!頑張ってるアイベルちゃんにあげるよ。』


 

療養施設で暮らす事になった日からアルドはアイベルの事を気に掛け、時に花を持ってきていた。


今ではその花は治療室にドライフラワーとして飾られ、気分が落ちた時にはその花を眺めアイベルの気持ちは救われていた。


 

『アイベルさんの変わりになれるように頑張ります。あなたは人々を救う…この世界に居なくてはいけない人なんです。何かあったら療養施設は任せて下さい…!』


 

療養施設に通う事になったルイナからの言葉を思い出す。


 

「私は人を救う事ができる…。アルドさんだって絶対助けるわ…!」


目を潤わせ放った言葉に、フィオルは返せなかった。


(そうだ…止めれないよな。君ももう守る人だ…。)


フィオルは心の中で呟き、アイベルをぎゅっと抱き締めた。


「…ハッ――。」


アイベルは息を漏らし目をギュッと瞑り、抱き締め返した。

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