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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
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第十六話 窮地

「消えた…!」


(戦意も喪失して、動けない程のダメージはあったはず!)


再び前を向き、砂埃が晴れると荷車を押す兵達の姿も消えていた。


「…!これは…。」


何かに違和感を覚え辺りを見回すアジル。


ボトッと目の前に落ちてくる鳥を目視すると腕で口を塞ぎ更に後退した。


(砂埃は落ち着いたけど、空気中に何かが漂ってる…。少し吸ってしまった…。これはおそらく麻痺毒だ…。何としてでも私をダイアボに行かせない気ね。)


「油断した…!」


アジルは判断の過ちに太腿を叩き、思うように動かない身体をなんとか動かし、ゆっくりと荷車に向かった。



「フー…フー…。」


鉤爪の男は脇腹に手を当て、息を荒くしながらダイアボに向け走っていた。

 

「危なかった…。小娘…!あの村で対峙した大槍の男とは違って対人戦に慣れてやがった…!しかも武器なんてロクに使わずに余裕こきやがって…!負傷してたとはいえやられるとは思わな…」


「こんな所で何をしてる…?」


大きな樹を横切ったタイミングで鉤爪の男に掛かった声。


「ああ…あんたか。しくじっちまったんだ…。」


声を掛けた男は深くフードを被り、目だけを動かし、鉤爪の男の武器が壊されている事を目視すると、静かに自身の剣に触れる。


「強い女がいる…。細剣を持っ…」


鉤爪の男が話しをしている最中に目にも止まらぬ速さで、首を通り抜けた太刀筋。

 

「"人間"に…しかも女にやられるとは…。弱い者は組織には要らん…。」


ボトッと落ちる首を一瞥し、その場を後にする男。


言葉を発した途中で落とされたその首の目は、見開いたままだった。


「グリフをここまで追いやる人間がいるとはな…。楽しみだ…。」


 


(動けるようになって来た…。)


思うように動けなかった身体の状態が元に戻り始めるのを感じ、アジルの歩みは早くなり、走り出す。


「あれは…?」


先に見えた地面に、倒れた人影を見つけアジルは目を凝らし、走る速度を早め近づく。


「これは…。」


首が落とされたグリフを前に、無意識に剣に手を伸ばす。


(これは獣じゃない…人によるもの…!誰が…。)


「ほう…お前か?グリフをここまで追い詰めたのは。」


声だけが辺りに響き、それに反応して腰を下げ、辺りを見回しながら剣を構える。


「女と言っても…まだガキじゃないか。」


先にある茂みからゆっくりと人影が現れる。


(奇襲して来ないなんて…腕に相当な自信があるのね…。)


人影はアジルに身体を向けるとニヤリと笑みを浮かべる。


冷たい風が吹き、静寂が訪れる。


「奇襲をかけることも出来たはず…。それなのに貴方はわざわざ私の進行方向とも言える目の前に現れた。奇襲をかければこんな会話をしなくても、この先のダイアボに行く事を簡単に阻止出来たんじゃないかしら。」


「そう。たしかにお前の言う通り…。だがな…それではつまらん…!」


男はフードを外し、剣を抜くと地面を強く蹴りアジルとの間合いを詰める。


(この殺気…。グリフと呼ばれたあの男は…この男が…!)


アジルは突進してくる男の強い殺気を感じ取り、グリフを殺めた男だと確信する。


(速い…!)


真っ直ぐに向かってくる男は両手で剣を握り、アジルの頭を一刀両断する様に剣を振り落とす。


間一髪で半身を切って攻撃を躱すが、男は想定通りの動きと予想していたのか、続けてアジルの首に向かって剣を横に振るう。


アジルはバク転で躱し、後退すると剣を構えた。


狭い森での剣技に、木の葉が切れ地面にヒラヒラと落ちていく。


(一撃目を剣で受けてたらこの剣諸共、私の頭は真っ二つだった…。なんて強力なの…?グリフなんかと比べ物にならない程の威圧感と殺気…こんな強い人が居るなんて…。)


アジルは男の剣技に圧倒されていた。


(あの身のこなし…このガキまさか…。)


「おい。名は何という?どこから来た?」


(攻撃してこない…?ひたすら攻撃を仕掛けてくると思ったけど…何故名前なんかを…?でもこれはチャンス。この男について何か情報を掴めれば…!)


「これから殺そうとしてる相手に何故…名前なんか聞くの?」


「俺は質問をしているんだ。質問を質問で返すな。…フッ…情報を得ようとしているんだろう?」


(ちっ。バレてる…か…。)


「対人戦にはかなり慣れているみたいだな。情報を得る事もそうだが、言葉で相手を揺さぶり隙を生ませようとしている…。」


考えが読まれ、アジルの顔は引き攣る。


「まぁ名などいい。身のこなしが気になっただけだ…。」


そう言うと男は剣を納めた。


「どういうつもり?体術だけで私を退けられるとでも?」


その言葉にフッと笑い、腰に差さるもう一本の剣をゆっくりと抜いた。


月明かりを受けて反射する細剣にアジルは目を見開いた。


「これを使うのは久しぶりだ…。受けてみろ。」


そう言うものの男は構える様子が無く、異様な雰囲気を辺りに漂わせ、アジルは剣を構える。


沈黙が訪れ、月がゆっくりと雲に隠れる。


一瞬だった――。


アジルが瞬きをした瞬間、音も立てずに間合いを詰めた男の剣は、アジルの首元に迫っていた。


目をカッと開き、数センチの所で反応したアジルは、水の流れの如く舞うように刺突を躱し、連続で刺突を繰り出し、反撃を試みる。


だが、その攻撃を舞うように男は躱し、アジルが最後に繰り出した渾身の刺突は素手で弾かれてしまった。


(素手で…!?私の全ての剣筋も見切る…。でも、攻撃の躱し方が似てる…。一体どこで学んだの…?)


自分の攻撃が通じず圧倒されるアジルだが、自分と似た様な動きに違和感を覚える。


「細剣による刺突は体幹が要。心がブレれば――今のように素手でも弾かれる。致命傷となる攻撃は無へと化すのだ。刺突とは――。」


喋りながら少し溜め、最短距離でブレる事なくアジルの心臓目掛けて放たれた刺突。


「……っ!」

 

アジルは一瞬"死"を覚悟したが、身体を半回転させ直撃をギリギリ避ける。


(無駄の無い動きに速度、精度…。何を取っても私はこの男に及ばない…。打つと分かっていたから避けれたけど…分からなければ私の身体は…。)


声も出せず心の中で呟く。


後ろを振り返ると、太い樹の奥が見える様に穴が空き、そこからは煙が立ち上がっていた。


そしてアジルが男に向き直ると、アジルの頭上には既に剣が振りかざされていた。


「…っ!」


「ちっ。相変わらず躱すのが上手いな。」


(ダメだ…。余裕があり過ぎる。一旦引いて今得た情報だけでも伝…)


ギリギリで躱した一撃に、撤退が頭に浮かんだが、バランスを崩す。


この瞬間を男は見逃すはずも無く、ニヤリと笑みを浮かべ、真っ直ぐ伸ばした突きがアジルの心臓に向かう。


アジルの目は見開く。


世界がゆっくりと流れた。


迫る男の剣先だけが異様な速さで近づいてくる。


 

ドスッ…。


「ぐっ…!」


「これも避けるか…!」


バランスを崩したものの、なんとか身体を最大限に動かし、心の臓は避け男の剣はアジルの肩に突き刺さる。


(ぐっ…!)


歯を食いしばり痛みに片目を瞑り、顔を歪める。


無意識に呼吸は止まり、肩の力が抜けていく。


一瞬で肩は熱くなり、視線を肩に移すと男の細剣は肩を貫通していた。


「ふんっ…!」


そして男は突撃した勢いでそのままアジルを吹っ飛ばした。



 

数メートル後方に飛ばされ、地面に何度も叩きつけられ、生い茂る植物まで吹っ飛ばされると、アジルの身体はやがて止まった。


小さく土煙が立ち、叩きつけられた地面の跡には血が点々と零れていた。

 

(ハァハァ…左手が上がらない…。いよいよマズい…。煙玉を使ってなんとかするしかない…。)


マントに隠れるポーチに手を触れる。


茂みに飛ばされた事もあり、男からはアジルの様子が見えていなかった。


男はアジルに大きな傷を負わせ、逃げれまいとゆっくり茂みへと歩いて距離を縮める。


やがて月明かりを背に受け、照らされた男の影は長く伸び、距離はまだあるものの、茂みのアジルに影を落とした。


その瞬間に煙玉を地面に叩きつけ、ボンと音を立て茂みを大きく白い煙が包む。


咄嗟に反応した男は駆け出すがアジルはある異変に気づく。


(じ、地面が…!)


「あなたを助けます…!」


地面から小さな声が聞こえると、突然穴が空き、アジルはその穴へと滑り落ちていく。


アジルは咄嗟に自身の剣に施される宝石をくるりと回す。


その瞬間に、伝書鳥がアジルを追い掛けるように穴へと入って行った。


「くそう…。"土竜"か…。」


男は茂みの前まで来ると剣を納め、振り返りその場を後にした。



穴に滑り落ちたアジルは落ちてきた穴を見上げ、動けずにいた。


そして、ほんの数秒後自分と落ちてきた穴の間は根が張るように塞がられるとフーと安堵の息を漏らす。


突然の事に状況が掴めないが、一先ずは助かったと感じ、貫かれた左肩を抑え、なんとか立ち上がると目の前には一人の男が立っていた。


穴は広く、辺りを見回すと道が幾つもあった。


「あなたは…?」


「僕はディルケ。君を助けた者だよ。」


少し小太りで帽子を被る男。


「助けてくれてありがとうございます。…っ!」


アジルは頭を下げると痛みに顔を歪めた。


「危なかったね。でも、もう大丈夫だ。この穴にはアイツらは入って来れない。まずは治療しなきゃ。歩きながら話そう。」


「え、ええ。」


そう言うとディルケは歩き出し、アジルは付いて行く。



小砂利の道が延々と続くがぽつぽつと灯りが置かれ、道は明るい。


時より風が抜け、地上へと繋がる道があるのだとアジルは考えていた。


「何故入って来れないの?」


「君も見ただろう?穴を塞いだ。あれは破られない。それよりその鳥は?」


アジルを追い掛け、肩に止まった伝書鳥を見て問う。


「これは私の伝書鳥。私の剣の宝石に仕掛けがあって、回すと人間には聞こえない音がこの子に聞こえるようになってるの。」


「へぇーそれは凄いね。」


「一刻も早く情報を送らないと。」


「まあ、先ずは治療だよ。もうすぐだ。」


歩きながら話し、指を差した先は広い空間になっていた。


広い空間には、腰を掛けれる岩のソファ、ベッドがあり、中央には大きな灯りがゆらゆらと揺れていた。


「さあ。座って。」


(早くこの子を飛ばさないと…それに聞きたい事が山ほどあるけど…先ずはこの人の言う事に従おう…。)


アジルはディルケに従いソファに腰を掛けた。

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