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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
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第十四話 胸騒ぎ

広場で盛大に開催された宴は落ち着き、帰宅する村人達が増えていく。


レリッタの年長者も帰る中、酒に酔ったトルヴィスはテーブルに突っ伏し、うとうとしていた。


「トルヴィスさん!そろそろ行きますよ?ほら!温泉て言う所に…」


「そうだ!」


コランが話し掛け、温泉と言う言葉を聞いた瞬間に目を見開き、トルヴィスは起き上がる。


宴では飲んだ事の無い濃度の高い酒を勧められると、浴びる様に飲み、踊り狂っていた。


そんな中、何者かの声が聞こえたと話してからというもの、アイベルの意識はどこか現実からずれているようだった。

 

 

「アイベル。皆と温泉へ行って帰ったら家で話そうか。」


「そう…ね。」


それから残った者で手分けして片付けに取り掛かったのだった――。




「アイベルさん。」


ルイナは片付けている最中のアイベルに声を掛けた。


「何でしょう?」


ルイナは大きく息を吸った。


「…アイベルさんとクラルさんが、あの人に……親身に寄り添ってくれたおかげで今があると心から思います。本当に…本当にありがとうございました。」


遠くで聞こえる村人達の掛け合う声。


木の爆ぜる音。


中央に灯された火は未だに広場を照らしていた。


「いえ…。クラルさんの教えはどんな人でも命を繋ぐ事です。どんな人でも命の価値は等しい…。そう教えてくれました。私は、モルスさんの件がきっかけで命の尊さを学び、生きる意味、命の価値を深く考えるようになりました。どんな人にでも手を差し伸べる事…それが今の私の人生の土台になっています。決して忘れる事をしてはいけない…モルスさんの件は私の人生の一部なんです。あの時、私にもっと力があれば…今の私なら救えたと考えてしまう事も…」


ルイナはそっとアイベルの口に手を当て言葉を遮り、首を横に振った。


「アイベルさんも当時は幼かった…。そんな思いを抱えて今まで生きてきたんですね。…でも私は今、幸せですよ?あなたが私達レリッタの人の命を繋げてくれた…。もう後悔の言葉は無しにしましょう。」


笑顔を向けられアイベルは目頭が熱くなるのを感じた。


アイベルの表情を見て、ルイナは両手を広げると二人は抱擁を交わした。

 


過去は消えない。


だが、それに縛られることはもうない。


過去に起きた悲惨な事件は胸に留め、今ある希望と幸せを一杯に感じ、前を向いて生きて行こうとルイナは決め、アイベルを優しく包んだ。


(暖かい…。)


アイベルは瞳を閉じて心の中で呟いた。

 


突然ハッとした表情をするアイベル。


「そういえば…。」


「ん?」


「モルスさんを治療した際に肩に宝石の様な物が…。」


「そうね…。あの人から聞いた事があるんだけど、あの人の生まれはダイアボらしいの。でも、育ての親が赤子のモルスを連れてダイアボから出たって言っていたわ。隠れる様に生きていたけど、モルスが15の時に育ての親が、突然家に帰って来なくなって、それからは一人で何とか生き抜いていたみたい…。当然、実の親の事は知らないって言っていた…。物心ついた時には既に肩の宝石を認識していたみたいだから、あれはダイアボの風習なのかもしれないわね。」


「そうだったんですね…。」


(何のために宝石を……。)


アイベルは心の中で呟く。


モルスがダイアボの人間だという衝撃的な事実に驚くものの、肩の宝石の謎は解けなかった。

 


「おーい、二人共ー。温泉に行くんだろ?あとの片付けは俺達がやるから、行っておいで!」


二人の会話が途切れたタイミングで、村人から声を掛けられると、二人は片付けを切り上げ、その場を後にした――。


 

 

「楽しみだなぁ…。」


広場を背に温泉へと向かうレリッタの村人達。


トルヴィスは興奮が収まらず足取りは軽やかだった。

 

「あの白い煙は?」


歩いているとコランが空へ立ち上る煙を見つけ指を差す。


「あれは湯気だよ。あの下に温泉があるんだ。」


温泉施設はオラディ村の南門側にあり、商人や冒険家、観光者は旅の疲れを癒しに、温泉を訪れる事もある程であった。


レリッタの村人達は近づくにつれ、初めてという事もあり少し緊張していたが、酔っているトルヴィスは違った。

 

中央通りを逸れ、一つ道を挟むと温泉施設が現れた。


トルヴィスは走り中へと入って行く。


その子供の様なはしゃぎっぷりに一行は少し呆れるが、緊張は無くなっていった。


「その暖簾を潜ると脱衣場になります。…ってこら!トルヴィスさん!そっちは女性です。男性はこっち!」


二つの暖簾の女性側を潜ろうとしたトルヴィス。


わざとらしく暖簾に手を掛けていたトルヴィスは苦笑いをし、フィオルは腕を掴み止めた。


「すまんすまん。」


「入ったらどうなっても知りませんよ?」


そんなトルヴィスにアイベルは微笑みながらも強く言う。


ルイナをチラッと見ると睨みを利かせ、男達は恐怖を覚えた。


「…中には男性側、女性側に一つずつ大きな浴槽があります。吹き抜けになっていて壁を挟んで浴槽がある形です。壁は登れなくも無いですが…トルヴィスさん、覗いたら命の保証は無いと考えましょう。」


 

トルヴィスはゆっくりと頷く。


女性陣に視線を移すと、笑顔を向けていた。

 


「それと外に繋がる扉があり、その先には村を一望出来る浴槽があります。」


「「おおぉ…。」」


「温泉施設はいつでも空いていますし、お金は掛からないので自由に入って下さい。」


「よし!入ろう!」


一刻も早く温泉を体験したいとトルヴィスは暖簾を潜った。


「じゃあ、アイベルまた後で。」


「うん!」


それから一行はトルヴィスに続き暖簾を潜っていったのだった――。


誰も、この夜に何が起きようとしているか知らなかった。


 

――時は少し遡り、北の地 レフュゼ海岸

 


陽が水平線に沈む頃、ウーフ群島を出航した船乗りと女剣士は目的の海岸へ着き、舟は浜へと向かった。


浜へと降りると、大きな樹木、そして鬱蒼と生い茂る植物が生える暗い森が目の前には広がっていた。

 


「ありがとうございます!」


「ああ。しかしー、本当に大丈夫なのか?」


不気味とも思える森を見つめ船乗りは声を少し震わせ問う。

 

「はい!船乗りさんこそ夜なのに平気ですか?」


「俺は大丈夫だ。ウーフ群島、いやアンティカル大陸じゃあ、ちと有名な船長でもあるからな!」


船乗りは胸を張り、二カッと笑い返す。


「では…」


「ああ、剣士さん!名前だけでも聞いていいか?船の上じゃずっと目を瞑っていたから、邪魔しちゃなんねぇと思って聞けなかったんだ。」


「すみません!瞑想をしていました!」


すると女剣士は深く被るフードをフワッと外し、顔を振り素顔を晒した。


髪は綺麗な茶色で長い髪を後ろで一つに結んでいた。


「名はアジルです…!」


(しかし、思った以上に若いな…。俺からしたら娘みたいなもんだ…。)


船乗りはアジルの堂々とした立ち姿に圧倒される。


「お代は要らねぇ。俺はラダーってんだ。」


「ありがとうございます!ラダーさんも気を付けて!」


そして二人は握手をするとラダーは舟に乗り、浜を離れ手を挙げた。


アジルはそれを見送ると振り返り森へと歩みを進めた。


(アジルか…アジル?何処かで聞いた事あるような…。)


聞き覚えのある名前にラダーは考えていた。

 

「細剣を腰に差していた…。……ハッ――!エルジオーネ大陸の英雄!」


ラダーは思い出し振り返ると、船尾に向かい走る。


「あんたー!エルジオーネ大陸の英雄…アジルかー!!」


森に入りかけた所で声が届くとアジルは身体をラダーに向け、大きく手を振った。


そして、一礼するとアジルは森へと入って行く。


浜に風が吹き砂が舞い、アジルの姿は見えなくなる。


そして砂が晴れると既にアジルは消えていた。


「無事を祈る…!よし!帰ったら島の皆に自慢しよう!」


そう言うと舟は白波を立たせながらウーフ群島に向かって進んで行った――。



 

静まり返る森。

 

「良い人だったなぁ。あれ…は?」


ラダーと別れ、暗い道なき森を歩くアジルは、目の前の地面を這う生物に足を止め、目を細めた。


「オムニス…一匹だけじゃない。…嫌な予感がする…。」


その生物は体長が30cm程の小さな蛇で、この世界では不吉を象徴とする生物と言われていた。


オムニスは地面に穴を空け巣作りをし、その巣を中心に半径500mを行動範囲とし生涯を終える。


自分よりも大きな生物を捕食し、身体はゴムの様に伸び、体長3mを超した個体を発見したと記録にもあり、人は容赦なく攻撃対象となる。


古くから小さな子を襲い、捕食してからは一直線に巣に向かう事から「人攫い」と称されるようにもなった。

 

身体は真っ黒で微量の毒を持ち、生態では群れる事は無いとされる。


ありえない光景だった。


アジルの目の前には20匹を超えるオムニスが絡み合いながら地面を這っていたのだ。


アジルは目の前の光景が異常だと判断すると、樹に登りオムニスの群れを避け先に進む事にした。

 


「ハァ…木登りは苦手。マントが引っかかるのが嫌ね…。でも、結構歩いたから、上まで登れば目で確認出来るはず…。樹に登って良かったかも。良い判断ね。」


アジルは目的地との距離も知りたかった為、愚痴を零しながらではあるが自分の行動を評価した。


「よいしょ…!ハァ…高ーい。」


上り切った樹は30m程の高さがあり、アジルは幹に片手を付き、太い枝に立ち上がると辺りを見回した。


「見えた…。あれが…ダイアボ。」


(壁で囲われてるのね…。あの高さじゃ侵入するのは難しいか…。)


遂に目視した目的地であるダイアボ。


人を拒む様に高い壁で囲われ、その先には夜で暗いが金色に輝く大きな豪邸が見える。



 

ふと振り返る。


「お?あれはオラディ村の方かな?綺麗…。」

 

小さな光が幾つも空へと昇っていた。

 

炎ではない、柔らかな光――。


白、オレンジ、青。


それはまるで誰かの祈りのようなものだった。



「そのうち寄らなきゃね。よし、ここで少し休もう。オムニスもここまで上がって来れないでしょ。」


そして自身と幹を紐で結び、座ると目を瞑った。


(エルジオーネ大陸からアンティカル大陸に向かう最中に聞いた話…。北側のペールデニーズを避けて移動していた人々の行方が分からなくなった…。その人達はダイアボとペールデニーズの間にある小さな街道を使っていたと聞いた…。見過ごせない。あの話が本当なら――。…必ず何かあるはず。この先のダイアボに…。)


アジルは旅の最中に聞いた話を整理すると眠りについた――。


 


「くそぅ。重いなしかし…。」「ああ、だがもうすぐだ。」

 


「…ん。」

 

アジルが眠りについてしばらく経った頃。


樹の下から声が聞こえアジルは目を覚ました。


音を出さないよう声を潜め、音の発信源を目視する。

 


(兵士が四人…。もしかしてダイアボの兵…?)


そこには四人の兵士が大きな麻袋を乗せた荷車を押していた。


アジルは麻袋の中に入っている物を注視する。


(何が入ってるんだろう…。)


 

カサカサッ


突然アジルの足元の枝から小動物が動き、葉が幾つも落ちる。


 

「何だ!?」


兵達は落ちてくる葉に気づき、剣を抜くと上を見上げた。


「フルクレプスの赤ん坊か…。」


葉を落とした犯人はフルクレプスの幼体で、兵達は溜息をつきながら剣を納め、再び荷車を押した。


(危なかった…。)


間一髪で幹の陰に隠れたアジルは止めていた息をゆっくり吐く。


(付いていこう…!)


そして、荷車を追う為地上へと降りて行った。

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