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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
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第十話 憎しみの行方

軋む馬車の中で、馬の駆ける音だけが響いていた。


アイベルが村人達一人ひとりの身体の具合を診ていた。


「貴方がアイベルさん…。」「本当に女神様の様だ…。」


村人達はアイベルの姿を見ると口々に名を呟いていた。


一通り身体の具合を見たアイベルは、気を失い横になるルイナとデュールを見つめた。


 


『アイベル…!デュールさんが…!エディウス、ゼール、アウディアは馬に乗って全速で走れ!』




表情を強ばらせ、大量の汗をかきながらフィオルはデュールを抱え馬車に乗り込んだ。



エディウス、ゼール、アウディアの三人は馬に跨り、一行は直ぐにその場を後にした。


馬車に運ばれ、デュールの治療に直ぐに取り掛かったが、見当たる血は返り血ばかりで、傷という傷は頬に切り傷が一つあるだけであった。


だが、その傷はデュールの気を失わせる程のもので、原因は毒である事が分かった。


アイベルの心願では毒を除去する事は出来ず、持っていた解毒薬を飲ませ、一同はデュールの目覚めを待っていた。

 


ルイナは依然として気を失っているものの息はあり、証を胸の上に抱き離さなかった。


仰向けで目を瞑るルイナの傍にはコランが手を握り、目覚めを待っている。


 


「解毒薬のおかげか呼吸は落ち着いたよ。」


フィオルはアイベルに声を掛けた。

 

「うん。良かった。でも一刻も早くオラディ村に戻ってクラルさんに診せないと…。」


フィオルは静かに頷き、村人達を見回した。


レリッタからの脱出は叶ったものの、村人含め一行は心から喜べる状態には無く、表情は暗くなっていた。

 


するとその様子を見てアイベルは立ち上がり口を開いた。


「皆さん…。長い間、本当に辛かったですね…。皆さんの身体を診させて頂きましたが、コラン君から聞いた話の通り、兵達との強制稽古による傷等が目立ちました。オラディ村に着いたら薬師クラルの元へ行き、詳しく診てもらいましょう。ルイナさんは気を失ってますが、命に関わる物ではありません。」


暗い表情をしていた村人達はその言葉を聞くと、安堵の息を漏らし、胸を撫で下ろして顔を見合わせた。


 

大街道を蹄鉄の音が一定のリズムで鳴り、早い速度で馬車は進んでいく。


陽は一番高い位置にあり、空には雲がひとつも無い快晴となっていた。

 


「デュールさん大丈夫ですかね…?」


手綱をギュッと持ちエディウスはゼールに問い掛けた。


「分からない…けどきっと大丈夫さ。隊長は絶対に死なない。」


「…でもホントによく堪えたと思う…。剣戟や怒号が凄かったから。30人は…」


「いやその倍くらいはいたんだ…。」


ゼールはフィオルが立ち尽くしていた先にある光景を思い出していた。


村の至る所、地面が大きく抉れていた。


大量の兵が倒れ、その表情は苦痛に歪み、呻き声が鳴り響いていた。



「隊長が大槍を構えている姿を初めて見たんだ。翡翠筋を使ってあんな大槍で攻撃されたら即死のはずだけど、隊長は兵は一人も殺してないって言ってたよ。」


「何回か聞こえた爆発音は地面が抉れた時の音だったのかなあ。」


「分からないけどホントに凄い光景だったよ。」


興奮しながらゼールは話す。


しかし、自分がデュールの足元にも及ばないと感じた。


悔しさは顔に出ていた。

 


二人の話を横目に聞くエディウスは馬車を振り返る。


窓から見えるフィオルとデュールを見つめた。

 


(あそこまで強くならないと守る者も守れない…。俺には到底なれない境地だった。これから強くなれるのかな…。…あの子は今どんなに強くなっているんだろう…。)


視線を空に移し、心の中でエディウスは呟いた――。

 

 

「フィオル。馬車は何処まで行くの?」


「俺達が使った最短の道は使えない。ルイナさんは気を失ってデュールさんはあの状態だ…。少し迂回になるけど、大街道からオラディ村に直結してる道があるから、このまま進んでいけばオラディ村に着くよ。歩けば来た道の方が早いけど、馬車なら同じくらいの時間で帰れるはず。」


「分かった…。」


「俺が皆に説明するよ。」


「うん。」


フィオルは村人の元へ向かう。


「皆さん、このまま馬車に乗り……」





『ルイナ…。レリッタを出る事が出来たみたいだね。本当に良かった…。』


ルイナの頭の中にモルスは語り掛ける。


「うう…。」


ルイナは魘されているかの様に声を上げ、コランの手を握り返す。


「母さん…?」


ルイナは真っ暗な空間にいた。


(またこの空間…。)


風も音も無いが怖いという感情は湧かない不思議な空間だった。


『ルイナ…。』


突然の呼び掛けに振り向くがこの声は頭の中に響いている物だと分かる。


『ルイナ…コラン。村の皆はこれで自由になって…そして、オラディ村で幸せに暮らす事ができる…。俺が望んだ通りになった…。』


モルスの優しい言葉にルイナは静かに涙を流す。 


『貴方が居なくなってからは、心から笑えなかった…。今も……そして、これからもそう…』


『いいや…。これからは縛りの無い自由な世界で暮らせるんだよ。心から笑えるはずだ。』


『オラディ村に行く事を決心して…証を持ち出せた…。でも…心の何処かで、貴方の命を奪ったオラディ村の人達の事をやっぱり憎んでしまってるの…。』


『実際には檻行きにはならなかったかもしれない。罪人には罰を与えなくては世界の秩序は維持出来ない。罪を犯した事は事実だ。でも…そんな俺に治療をしてくれたのはオラディ村の人だ。最後まで諦めずに手紙を書く機会もくれた…。そして、身体を張って、命を懸けて君達を救出してくれた。それが無ければ今から向かう、幸せな生活も望めなかったはず…。彼等を憎むべきではない…。』


『……。』


モルスとの会話で徐々に変わっていく気持ち。


憎むべきはダイアボの兵と――その背後にいる者。


ソウルガーディアンズは危険を犯し、なによりデュールは命を懸けて兵達と対峙した。


 

(私は…命を懸けて兵と戦う…!貴方をここに置いて行く事は絶対にしない…!)

 


ルイナはデュールの言葉を思い出す。

 


(貴方が居なくても私は幸せを望んでいいの?)


 

自身に問い掛ける。


 

『さあ。寝ている場合じゃ無いよ。村の皆が…コランが目覚めを待ってる。俺が居なくても幸せを掴んで、笑顔で暮らすんだ。俺とはいつか必ず会えるさ。信じて生きていってくれ…。』


その言葉を最後に、モルスからの言葉は聞こえなくなる。

 


コランは顔を顰めたルイナの手をギュッと握った。


そして――ルイナはゆっくりと目を開け目覚めた。


「母さん…!」


ルイナの目覚めにコランが声を上げる。


馬車内の一同はルイナの元へ駆け寄った。

 


「身体の具合はどうですか?」


アイベルは声を掛ける。


ルイナは目を瞑り頷き、微笑んだ。


「大丈夫です。」


「良かったあ。」


その言葉に村人達は顔を合わせた。


コランの瞳からは涙が溢れる。


ルイナは仰向けのまま、顔を横に動かす。


目を瞑ったまま仰向けになるデュールを見つめる。


頬に治療の跡を見つける。

 


「デュール…さん。」

 

ルイナはそっとデュールの顔に手を添えた。


次の瞬間――。


震える睫毛がわずかに揺れ、デュールの目がゆっくりと開いた。


「ルイナさん…。良かった…。」


デュールは大きく息を吸った。


「皆さんすみません……二人にして貰えますか?」


デュールは上体を起こす事は出来ず、仰向けになりながら周りに集まる一同に言う。


一同はそれに従い、二人を残し馬車の前方へ向かった。



少しの間――。

 

「傷を負わせてしまってすみませ…」


「いえ。これは私の使命ですから…。」


ルイナの謝罪を遮り、デュールは笑顔を向けながら言った。


そして、デュールは深く息を吐き、口を開いた。


「ルイナさんは……心から笑ってなかった。二人になった時…貴方は最後に憎いと言いましたね。ソウルガーディアンズが…オラディ村の人間が貴方の愛する人を殺めてしまった…。心よりお詫び申し上げます。」


「……たしかにあの日から、心から笑う事は無くなりました。ですが……」


「ルイナさん…!聞いて頂けますか?」


デュールは少し強く放ち、再度ルイナの言葉を遮ると、ルイナはゆっくり頷く。


「私はソウルガーディアンズ守備隊長として、命を顧みずに人々に降り掛かる脅威を退けてきました。人々を守る事が出来れば、死んでもいいと心に決め、戦ってきたんです。でも…証を取る前の貴方の表情…。憎しみが滲み出ていたあの表情を目の当たりにした後、兵と対峙してる時もずっと想っていました。」


徐々に涙に滲むルイナの瞳をデュールは真っ直ぐ見つめる。


「今…死にたくないと…!貴方の表情を…心から笑い、幸せを感じて生きていく、貴方の姿を見るまでは死にたくないと…!」


ルイナはデュールの話を、口に手を覆いながら静かに聞いていた。


瞳に溜まった物は、やがて涙となり頬を伝った。


「こんな想いを抱くのは初めてなのです…。貴方の抱く憎しみを私が消したい…!」


強い言葉とは裏腹にルイナを見つめるデュールの瞳。


暖かく、優しく、そして何よりもルイナを守りたいという意志が強く宿っていた。


 

『これからは縛りの無い自由な世界で暮らせるんだよ。心から笑えるはずだ。』

 


ルイナはモルスとの会話を思い出し、胸を締め付けていた黒い塊が音もなく崩れた。


 

「デュールさん…」


「ぐっ…。」


ルイナが名を呼んだ瞬間――。


デュールの顔は歪み、顔中から汗がどんどんと滲み出る。


「デュールさん…!」


ルイナの声にアイベルとフィオルは駆け付ける。


アイベルは額に手を当てた。


「熱が上がって来た…毒と戦ってるのね。」


「デュールさんは…?」


ルイナの眉が下がる。


「強い毒…。デュールさんを信じるしかないです…。」


 

アイベルは俯き、自身の無力さに拳を握る。


フィオルはアイベルの背中に手を当てた。


(翡翠筋を使いながら戦っていたはず…。簡単に傷なんか負う筈がない…。ましてや守備に特化したデュールさんなら俺でも…。それほど強い人間が……いや、今は信じて待って、快復したら詳しく話を聞こう…。)


苦痛に顔を歪めるデュールを見て、フィオルは心の中で呟いた。


「うう…。」


呻き声を上げ、熱はどんどんと上がり身体を震わせる。

 

  

『俺が居なくても幸せを掴んで笑顔で暮らすんだ。』

 


ルイナはモルスの言葉を再び思い出す。


(貴方を死なせはしない…!どうか毒に負けないで下さい!)


ルイナは胸の上に抱いていた証を床に置き、心の中で叫ぶ。


デュールの手を強く握り、願う様に目を瞑った。


その手は震えていた――。

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