第八話 救出
レリッタへ繋がる小道を行くフィオル達。
駐在する兵や獣を警戒しながら、道を進んでいた。
カサッ
突然、前方にある大きな植物が動き音が鳴ると、フィオル達は武器を構え一度止まる。
「ふぅ。」
大きく息を漏らしながら人影が植物から姿を現した。
「あなたは…トルヴィスさん…?」
「…やっと来たなぁ…!」
目の前に現れた人物がトルヴィスだと気づくと、一行は武器を仕舞う。
「何故ここに?」
フィオルは目を丸くして言った。
「空を見上げたら見えてな。伝書鳥だっけ?それに気づいてレリッタから急いで迎えに来たんだ。」
「なるほどな。…それで村の状況は今大丈夫なのか?兵は…」
「ああ。大丈夫だ。夜中に兵がレリッタを出てからは家屋に閉じこもっちまってる。朝になって新しく指示が出されてた家屋を建てるっつー作業開始の連絡をコランが言いに行ったが…勝手にやってくれってよ。皆顔が青ざめてメシすら食ってなかったみたいだ。」
兵と対峙するという最悪な事も考えていたフィオル達だが、レリッタの意外な状況に拍子抜けし脱力する。
「良かったあ。」
一番緊張していたエディウスは、もう任務を達成したかの様に肩の力が抜けていた。
「エディウス。緊張は絶対に解くな。万が一があるからな。」
「は、はいっ!」
背中を叩かれながら言われるとピシッと背筋を伸ばし、表情を強ばらせる。
「エディウス…村の人に会う時は笑顔ね。」
続けてアイベルから言われるとその場で笑顔の練習をし、その様子を見てアイベルは微笑む。
「よし。行こう!」
そして、トルヴィスを先頭に一行は再び歩みを進めた。
――アンティカル大陸
アンティカル大陸の北に、大小合わせて10の島が点在するウーフ群島。
「すみません。舟を出して貰う事は出来ますか?」
海風を受け、頭に被るフードを手で抑えながら、舟を磨く舟乗りに声を掛ける女性がいた。
「出せるけど何処までだい?」
「えっと…。この辺りの浜でいいんですが…。」
地図を広げ、目的地の近くの海岸を指差し答える。
「おい嬢ちゃん。本気で言ってるのか?海岸の先は直ぐに森だぞ?」
「はい…。その先の地に行きたくて。」
「その先ねぇ…。いい噂は聞かねぇぞ?身の保証は出来ねぇ。けどそれでもって言うなら舟は出してやるが…。」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
(いい噂が無いって事は…やっぱり…。)
「分かった。じゃあ行こうか。」
不安な表情をしながらも舟乗りは受け入れ、それに対し会釈をし、ダボッと大きめの麻のマントを纏った女性はスっと舟に飛び乗った。
マントから腰に差した剣がチラッと見え、舟乗りは驚きの表情をする。
「嬢ちゃん…剣士さんなのか!?いやー気づかなかった!若いのに凄いな。しかし、綺麗な剣だな…。もし良かったら見せてくれるか?」
「はい…。この剣は父が旅出の祝いに作ってくれた物なんです。」
女性は腰に差さった剣を抜き、舟乗りに見せる。
その剣は刃渡りが1m程で刀身は細く、小さな宝石で装飾を施された柄が、陽の光を綺麗に反射していた。
「そうか…!ちょっと持たせてくれ。」
「どうぞ。」
「これは…本当に良い物を貰ったなあ。しかし…本当に行くんだよな?旅の途中だろう?命に危険が…」
「大丈夫です…!世界の人々を助ける旅なので!」
剣を仕舞いながら返し、舟乗りを真っ直ぐ見つめる瞳。
「…。」
舟乗りは思わず言葉を失う。
(信じられないが…気を感じる…。凄い気だ…。)
「そ、そうか。じゃあ行くぞ…!」
「はい!お願いします!」
そして深くお辞儀をすると舟は動き出し島を後にした。
――フィオル一行
「もうすぐだ。俺は先に周りの様子を見てくる。」
「分かりました。」
「一番手前にある家屋で俺達は生活してる。入って安全が確認出来たら窓から合図を送る!」
そう言いトルヴィスは一人先を進んだ。
一行は茂みに身を潜め、その隙間からトルヴィスの合図を待った。
レリッタの様子はトルヴィスが話したように、兵の姿は見受けられなかった。
静かで自然豊かに見えるレリッタ。
村の奥には大きな家屋が建ち並んでいた。
そこに兵が多く居る事は容易に想像できた。
だが――。
その建ち並ぶ家屋の周りにはゴミが散らばり、まさに無法地帯だった。
視線を家屋から右に移すと大きな木が一本生え、そこにはペルディータの証が小さく見えた。
その証には切り刻まれた痕があり、フィオルは無意識に目を瞑っていた。
(やっとここに来れた…。もっと早くソウルガーディアンズがこの村の存在に気づいていれば、今でもあの証は綺麗なままだったはずだ…。)
拳を握り心の中で呟く。
アイベルもその証を見ていてフィオルの様子に気づいたのか、フィオルの握った拳の上に手を乗せる。
「必ず無事に連れて行こう…!」
フィオルは一行の顔を見渡し強く言う。
そして、再び村人が生活をする家屋に視線を移すと窓からトルヴィスが手を振った。
「よし!アイベルとエヴァル、エディウスは待っててくれ!」
「うん!」「はい!」
「デュールさん!行きましょう!」
「おう!」
フィオルとデュールは茂みから家屋に向かい駆け出して行った。
足音を最小限に抑え、警戒しながら走り、家屋へと辿り着くと直ぐに中へと入る。
「フィオルさん!デュールさん!本当に来てくれた…!」
コランが涙を浮かべながら迎えると、座って緊張していた村人達は立ち上がった。
コランを含む子供は2人、60を越える年長者の姿もあった。
「ありがとうございます…。」「良かった…。」
涙を目に溜め、感謝に頭を下げる村人達。
「すみませんでした…!」
フィオルとデュールは深く頭を下げた。
静まる室内――。
「…そんなことは今いい…。とにかく急ごう。」
トルヴィスは頭を下げるフィオルとデュールの背中を叩く。
そして、コランは年長者3人に手を差し伸べる。
「一気に出ると目立ちます。僕は3人を連れて、まず出ます!」
窓の外を見るとアイベルとエディウスが手を振り合図を送っていた。
「アイベル達が手を振ってる!今なら大丈夫そうだ!」
コランは頷き、年長者3人を連れ外に出る。
ここでモルスの妻でコランの母であるルイナがゆっくりと口を開いた。
「隊長さん…。わがままで申し訳ないですが…。」
「どうしましたか?」
俯き静かに喋り、その拳は震えていた。
「あの人と皆で作ったあの証…。あれを持っていく事は出来ますか…?」
「証…。あの大きな木のですか…?」
「はい…。あの証は私達の物なんです…。」
『ペルディータ…なんて名前はどうだろう?』
『モルスさんそれ良いですね!必死に助け合って生きて行く俺達にはぴったりの名前だ!』
『じゃあ今日から俺達はペルディータだ!』
『証のマークは皆の意見を採用した…。中心には小さな芽。その芽を囲うようにある両手。そして、芽に向かうように上から剣を…。この証を村の中心の木に刻もう。』
目を瞑るトルヴィスとルクスは当時の事を思い出していた。
顔を顰め、深呼吸するフィオル。
(流石に厳しすぎる……。)
「ルイナさん…。今は貴方達の命が一番…」
「フィオル。俺に任せろ。」
ルイナを諭そうとするとデュールはフィオルの肩に手を置き遮った。
「どちらにせよ村人達が居なくなったのはいずれバレる。あの証がまだこの村にあるから彼等はここまで生き抜いてこれたんだ。そうだろう?」
その言葉に村人達は頷いていた。
「証の部分を上手く切り取って持って行く。先に行け。」
「切り倒したら直ぐに兵達が…」
「実はあの証は取れる仕組みになっているんです。」
「というと?」
「あの証は違う木で作られた物で、証を刻みあの大きな木にはめ込んだ形になっています。あの木の根元にはそれを外す仕掛けがあります。今は根元に植物が無造作に生えてしまって見つけにくくなっています。ですので私も…」
(貴方と共に作った村…。ここは私にとって大切な故郷…。)
「まさか一緒に行くなんて…!」「ルイナさんそれは危険ですよ…!」
村人達はルイナを止めようと必死になる。
その様子にフィオルは戸惑い、顔を強ばらせる。
「隊長さんお願いします…!」
村人達の制止を押し退け、深く頭を下げるルイナ。
小さくも強い意志を持ったルイナの言葉にデュールは口をギュッと結んだ。
「ルイナさん。行きましょう…!フィオル。ルイナさんを尊重しよう。この村は…あの証はそれほど彼女にとって大切なモノなんだ…!」
フィオルは深く息を吸い、目を瞑った。
(確かにそうだ……。証が無ければこの人達は…。)
「分かりました。」
その言葉にルイナは微笑み、表情は明るくなる。
すると外からコランが戻ってきて、安全の確認が出来ると続々と村人達は家屋を出て行った。
家屋に残るのはフィオル、デュール、ルイナの三人となった。
「デュールさん。絶対戻ってきて下さいよ?」
「大丈夫だ。よし、行こう。」
ルイナは頷き、デュールはルイナをおぶり家屋を出る。
フィオルは二人の背中を見送ると、家屋を出た村人を追い掛けた。
茂みに身を潜めていたアイベルとエディウスは次々に村人達を迎え、馬車へと連れて行っていた。
「フィオルさん。あの…母さんは?」
様子を見に来たコランは合流したフィオルに声を掛ける。
「あ、えっと…。」
「ルイナさんはデュールさんと証を取りに行った…。」
フィオルは言葉に詰まるとルクスが声を上げる。
「そんな…!」
「止めれなかった。命が一番だと言ったが、彼女の意志は強くデュールさんはルイナさんを尊重した。すまない。馬車に皆が乗ったのを確認したら直ぐに戻る…!それまでは…」
話の途中で地面を蹴りレリッタに戻るコラン。
「待てっ…!」
手を伸ばすも届かずコランはフィオルを横切ると、その様子を遠くで見ていたアイベルは弓を持ち駆け出していく。
「エディウス!後はお願い…!」
「は、はい…!」
大きな木の元へ着いたデュールとルイナ。
おぶっているルイナを地上に降ろすとルイナはデュールを見つめ口を開く。
「デュール…さん。」
微かに潤む瞳にデュールは少しの違和感を覚える。
「さぁ。急ぎましょう…!まだ兵の姿は見えていません…!」
デュールは急かす様に言うがルイナは深呼吸をしていた。
「デュールさん。私はやっぱりこの証と共にこの地に残ります…!」
デュールは言葉を失う。
時が止まった様に思考が凍りついた――。




