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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
35/54

第五話 ダイアボという国

――コール大陸 大街道


コール大陸を縦断するように延びる大きな街道。


レンガが綺麗に並べられるその道は、アルブ・ピリスの卓越した技術を持つ石工達によって造られた。

 

 

北側から鎧が擦れる音、そして足音が鳴り響く。

 

空は薄らと明るくなってきたが、道の脇に生い茂る森は真っ暗で、吸い込まれる様な感覚を漂わせる。


そんな中、足音は乱れること無く一定のリズムでスピードも変わらず鳴り響く。


二列で並び、列の途中には煌びやかな装飾が施された馬車の姿もあった。


馬車の左右には列に並んでいる者よりも大きな体格の兵が、周りを見回しながら進む。


 

「もうすぐで合流地点だ。」


先頭を歩く兵は、前を向いたまま声を上げる。

 


50m程先に、街道を横切る道が出てくると、小さな灯りがゆらゆらと揺れているのが見え、西側の道からぞろぞろと兵達が街道に現れる。


街道を行く兵達はそのまま進み、西側の道から出てきた兵達は言葉を交わさずに隊の後方に付き合流した。


陽がだんだん昇り、合流を果たした兵達を照らす。

 


馬車に陽が差し、中に乗る男は目を覚ます。

 


「…む?臭うぞ…。」


馬車から声を出す男。


「どうかなさいましたか?」


馬車の横の兵は扉に声を掛ける。

 


「…微かだが酒の香りがする。」


そして、扉が開き男は馬車から降りてきた。

 


突然の出来事に行進していた兵達は一瞬遅れてピタリと止まる。


静まり返る街道――。


行進を止めた兵達だが目線は前を向き、身体はブルブルと震えていた。


(酒?誰だ…?)(誰か分からんが終わりだな…。)

 


兵達は誰かが死ぬ事を知っていた――。


そして近くで無くなるであろう命に対し、恐怖に怯える。


男は後方に歩みを進めると一人の兵の前で止まる。


睨み、指を差すと、その兵の身体は大きく震え鎧から覗く肌には大粒の汗が見えた。


 

指を差された兵はレリッタからの兵であった。


(何でバレたんだ…!少ししか酒は飲んでないぞ…!?)

 

陽は雲に隠れ再び辺りが暗くなると、馬車へ男は振り返る。


 

「オ、オルコ様ぁぁ!」


指を差された兵が男の名前を叫んだ瞬間、森から人影が目にも止まらぬ速さで飛び出すと兵の首を切り落とした。


ガシャン


兜の落ちる音と馬車に乗り込む扉の音が重なる。


遅れて血を吹き出し、その場に倒れた。

 


兵の首を落とした人影は森に姿を消す。


「進め。」


静寂な街道に響く低い一言に、兵達は何事も無かったかの様に、殺された男を街道に置いたまま再び行進した。

 


――フィオル一行


集会所を出た一行は物見櫓で監視しているアウディアの元へと向かっていた。


陽はまだ山に隠れ真夜中のオラディ村は静かで空には星が煌めいていた。


 

「来たわね。では後はよろしくお願いしますね。」


監視をしているアウディアは一行を見つけ共に監視している隊員に声を掛ける。


「気をつけてな。」


「はい。ありがとうございます。」


言葉を交わすとアウディアは物見櫓から降り、向かってくる一行を待ち、気づいたゼールは手を挙げた。


手を挙げ応え、一行がアウディアの元へ着くとアウディアは深くお辞儀をする。

 


「弓撃隊所属のアウディアです。よ、よろしくお願いします!」


「よろしくね。」「よろしく。」


 

("至上者の御業"を持つ方達…。とても貴重な人達と行動を共にする…。特にアイベルさんとは療養施設で挨拶を交わすだけだった。弓使いとして吸収出来ることは沢山あるはず…!迷惑掛けないようにしなきゃ。)


アウディアは緊張と興奮が混ざり合い、手も震えていてぎこちない挨拶になるがフィオルとアイベルは笑顔で応えた。

 

「これで揃ったね。じゃあ行こうか。」


そして、揃った一行はレリッタに向け森へと入っていった。


――集会所


「そのレリッタの人々を縛っている者達は何者なのですかな?」


集会所では村の年長者とノワルヴェール、そしてブルクが話し合いをしていた。


「ペルディータで間違いないですが…奴らを牛耳る者が裏に居るはずです…。」


「……ダイアボの国王じゃろうな…。」


組んだ手に顎を乗せ、ブルクは小さく零した。


「困りましたな…。」


年長者は俯き首を横に振りながら声を上げた。


「ダイアボとは一体…。」


ノワルヴェールはダイアボという名を何度も聞いた事はあるが、どの様な国かは知らなかった。


「ダイアボ…。かつてはただの小さな村じゃった。数は少ないがこの村を訪れる商人や冒険家の中にはダイアボへ行った事がある者もおる。じゃが、理由は分からぬがある時期から人を受け入れなくなったんじゃ。」


ブルクの話を頷き静かに聞くノワルヴェール。


「35年程前理由を突き止めるべく当時小さな支部があったアルブ・ピリスにいたソウルガーディアンズの隊員10名はダイアボへと向かった…。」


ブルクの口調からなんとなく先の話が読め、唾を飲み込む。


「隊員は帰らぬ人となりダイアボの門には貼り紙が貼られておったんじゃ。」


「そ、その内容とは…?」


汗ばみながらノワルヴェールは問う。


『立ち入ろうとする者には死を与える。』


「そう…書かれておった。それでも懲りぬ商人や冒険家は気になり、何度も立ち入ろうとするがダイアボから生還した者は居らぬ。…挙句の果てには立ち入ろうとした者の親族…さらには交友関係があった者にまで手を掛ける様になった…。女も子も関係なく殺されたんじゃ。」


「……。」


年長者は俯きノワルヴェールは開いた口が塞がらなかった。


「時が経ち小さな村であったダイアボは大きく姿を変えた…。木で作られた門は鉄製になり、村を囲うように壁が作られ、そして今では外から大きな豪邸のような建物が見える様になり、より交流しようとする事が困難になった。閉ざされた国で何をしておるか分からず、手を出せば多くの命が失われる。ワシら年寄りは危険な国として交流を諦めた。お主達若い者にこの話しをすればダイアボへ向かってしまうのでは無いかと思い、話せずにいたのじゃ。じゃが…七年程前からの発展は凄まじい。何故だか分かるかノワルヴェール。」


急に話を振られハッと我に返るとゆっくり口を開く。

 

「ペルディータの存在…。」


「そうじゃろうな。密輸組織としてラヴィエルの素材を売り捌き、大きくなった村は遂には国となった。じゃがペルディータの中にはワシの過ちによって命を絶えた者もおる。今回コランという少年の話しを受け心が痛む…。本当に申し訳ない事をした。ここまで来ると黙ってはおれぬ。いずれはダイアボへ行くことも考えておる。」


その言葉に集会所内は張り詰めた空気に変わる。

 

年長者の顔は未だに曇っているが、ノワルヴェールは違った。


「人々が自由に暮らせるという幸せに向けて…。」


小さく呟いたノワルヴェールに頷きブルクは応えた。


「話はここまでにしようかのう。レリッタの人々から話を聞き、自由に向け再度協議しようぞ。遅くに集まって貰ってすまんかったのう。」


そして、真夜中に行われた話し合いは幕を閉じ、それぞれ帰っていった。


最後に集会所を出たブルクは村の中央通りへと歩き、静かな村を見つめ目を閉じた。

 

(何かを隠している事は確かじゃ…。さて、縛られた村民をこのオラディ村へ連れて来た時…ダイアボの国王よ、どう動く?)


心の中で呟き、再び目を開けるとブルクはゆっくりと自宅へ向け歩みを進めた。


――フィオル一行


「聴覚が優れているなんて頼りになるなあ。」


フィオルは一行の先頭を行くアウディアの背中に語り掛ける。


先頭にアウディア、ゼール、その後ろにデュールとエディウス、最後尾にはフィオル、そしてエヴァルに乗るアイベルという二列の形で森を進んでいた。


「ありがとうございます。でも…それだけです。弓使いなのにそっちの方はなかなか上手くなれなくて…。」


チラッとアイベルを見ながら返すアウディア。


森の中は暗く、灯りは先頭のゼールと最後尾のフィオルが持ち、辺りを警戒しながら進んでいた。


 

「「!?」」


何かに感づくアイベルとアウディア。


アウディアが先に目を凝らし、手を挙げると同時にアイベルは肩に掛けていた弓を構え、矢を放った。


ヒュン


静かな森に響く風を切る音――。


アウディアは振り返る。


「…似て…る。」


小さく呟き、一行の先からキィィという鳴き声が響く。


直後何かが地面に落ちる音を上げ、正体を確認しに慎重に進む。


 

先頭のアウディアは生い茂る植物の脇に生物の姿を目視した。


「フルクレプス…。」


胴体に矢が突き刺さり、地面に落ちていた羽の生えたその生物は、全長が30cm程の哺乳類で体毛が黒く、強靭な脚力で飛び、その勢いで羽を使い飛行する。


小さな鋭い爪で木を昇り、木から木へ飛び移り木の実等を主な主食として行動する為、地面には滅多に降りないが、夜になると凶暴化し肉食となり人を襲う事も多い。


一見可愛く見える容姿だが二本の牙は鋭く、毒を持つ。


危険生物として度々各地で討伐依頼の対象ともなり、特に凶暴化する夜は身体が黒く見つけるのも困難であった。

 

フルクレプスに突き刺さる矢を見つめるアウディア。


(心臓を貫かれて即死…。微弱な飛行音に気づく事は出来たけど…目視は出来なかった。フルクレプスの飛行速度は時速70km程…。先頭の私からは200mはあったはず…。アイベルさんは最後尾でさらに遠い距離を…しかもこんな暗いのにたった一本で仕留めるなんて…。)

 


アイベルの正確な射撃能力に圧倒されその場に立ち尽くす。


「す、すげー。さすがアイベルさんだ…。」


エディウスは額に手を当てながら呟く様に言った。

  

「フルクレプスか…。繁殖期が近いから最近はこの辺りでも多くの目撃情報があった。しかし、よく仕留めたな。さすが…」


「凄すぎます…!アイベルさん!あなたは天才です!」


腕を組みながら話すデュールの言葉を遮り、目をキラキラとさせアウディアはアイベルを称賛した。


「あ、ありが…」


「フルクレプスを目視出来ていたんですか?!お、教えてくださいー!」


苦笑いしながらアイベルは返そうとするも、アイベルの手を取り、迫るアウディア。

 


「ハァ…。興奮し過ぎだよ。」

 

その様子を見たゼールは呆れた表情を浮かべ、アウディアの手をアイベルから離す。


「これがどんなに凄い事かをゼール兄は分かってないよ!」


尚も興奮し大きな声を放つアウディアに一行は苦笑いする。


「アイベルさん…!弟子にして下さい!」


深くお辞儀をしながら出た言葉に、一行は驚くもアイベルは冷静だった。


「私はソウルガーディアンズじゃないのよ?あなたにはノワルヴェールさんていう隊長がいるでしょう?」

 


その言葉にアウディアは肩を落とす。


(何としてでも教えて貰うんだ…!)

 

「すみません…。分かりました。」


アウディアは心の中では諦めていなかった。


「さて、先を進もうか。もうすぐで地下道だけどフルクレプスも警戒して行こう。」


「「はい。」」「おう。」


フィオルがこの場を納めると一行は再び歩みを進めた。

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