第三話 惹きつける能力
「ダイアボから20…ここからは30程だそうだ。」
「……。」
集まる兵達はその言葉に酔いが覚めたのか、静かに話を聞いていた。
「明日にはここを出て本隊と合流するらしい。」
「おいおい急だろ…。酔いは覚めちまったがまだ酒は残ってる…あんまり呑んでない奴が行った方が良くないか?」
「そうだな…。」
(レリッタから30?兵が減る…?これは今がチャンスかもしれない…!しかし何処へ向かうんだろう…。ん?まずい…!)
酔っている一人の兵が、コランが潜めている家屋に身体を向けた。
顔を引っ込め何とかやり過ごすと、コランは音を最小限に抑え走りながら戻った。
家屋に戻るとコランに注目する村人達。
「何があった?」
トルヴィスが問うと、コランは息を殺していたのを解放し、大きく息を吐いた。
「兵が…この村から何処かへ向かうみたいです…!」
「…。」
一瞬固まる村人達。
「30人程ですが、今がチャンスかもしれない…!」
その言葉に固まっていた村人達の表情は、明るくなっていった。
コランは部屋の奥の扉を開け、隠されながら飼われるブルクの伝書鳥を屋根裏から連れ出し、レリッタの状況を手紙に書いた。
そして、手紙を足に括り付け皆の顔を見ると村人達は頷く。
「コランお願い…。」
ルイナはコランの背中に手を当て声を掛けるとコランは家屋の裏口へ出て行く。
そして、窓からコランの様子を伺うとコランは伝書鳥を放つ。
『ブルク長老の伝書鳥はこの世の生物の中で一番速い…。一日もしない内にオラディ村に辿り着く。報せを受けて、私達はそれから出発する。それまでなんとか耐えてくれ…。』
ノワルヴェールの言葉を信じ伝書鳥に託す。
(頼んだぞ…。フィオルさん、アイベルさん…。皆さんお願いします…!)
伝書鳥は目で追う事の出来ない程の速さであっという間に暗闇の空へと消えていった――。
――森小屋
丁度陽が沈んだ頃、灯りを片手に森へ入りデリベラスの居る森小屋へ到着したフィオル。
コンコンと静かな森に響くノックをする音。
扉の小窓からチラッと目だけが見えると、カチャっと鍵を開ける音が鳴りゆっくりと扉が開いた。
「久しぶりだなフィオル。」
「お久しぶりです。」
ペコッと会釈をするとフィオルは中へと入っていった。
「相変わらず暗いですね。」
作業台を照らす灯りだけの暗い小屋内。
鉄の匂いが漂う。
「最小限の灯りで十分だ。明る過ぎると集中出来ん…。自分の目と耳…腕があれば作れる。」
確かな腕を持ちソウルガーディアンズから信頼されているデリベラス。
フィオルの剣、そしてジールの剣も彼の手によって作られた。
「そうですね。」
フィオルは自信に満ち溢れた表情のデリベラスを見て微笑んだ。
「その剣で仇を打てたみたいだな…。藍色の竜の首を落としたんだって?」
「はい。」
「どれ…見せてみろ。」
フィオルは背中に背負っている剣と腰に差してある剣をデリべラスに手渡した。
「…。」
剣をまじまじと見て、刀身を指でトントンと叩く。
(以前来た時より硬くなっている…。何故だ?まさか魂剣の力と関係しているのか?)
「フィオル…。藍色の竜と戦った後…この剣に何か手を加えたか?」
「いえ…。特に何も。何故です?」
「信じられんが以前より硬くなっている…。色も僅かだが薄くなっているな…。」
「討伐後は石碑とラヴィエルに寄ったくらいですね。」
「そうか…。より硬く丈夫だ。刃こぼれも全く無い…。」
そう言うとデリべラスは剣をフィオルに返した。
剣を受け取るフィオルは自身の剣の変化には気づかず首を傾げた。
「わしにも何故こんな変化をしたのかわからん…。だが手入れは今まで通りやるんだ。」
「分かりました。ありがとう…ございます。」
フィオルは二本の剣を両手に持ち、剣を良く見るがやはり変わった様子は感じられずそのまま仕舞った。
「そういえばデリべラスさん。アイベルの弓はあなたが?」
「そうだ。才を持つ者が現れたとブルクが高級な素材を持って来てな。」
「全然気づきませんでした…。アイベルがあんなに弓を扱えるなんて…。」
「わしも驚いたよ…。話に聞いていた謎の少女がとてつもない才を持っていたとは…。」
二人は半分笑いながら会話を交わす。
少しの間――。
「あの弓はラヴィエルの枝を主体で作っている…。」
「え?」
その言葉に目を丸くするフィオル。
「魂は宿っていない物でブルクが確認済みだ。時にラヴィエルは運命かのように枝が落ちたり、硬い樹皮が剥がれ落ちる…。その時には決まって才を持つ者が現れるんだ…。わしは初めて使ったが先代やその前の先代の時にも同じような事があったと聞く。因みにスターキイがアイベルの才に気付いてブルクに声を掛けたみたいだぞ?」
「そんなに前からですか!?」
「ああ、スターキイ亡き今、弓撃隊を引っ張っていけるのはノワルヴェールしかいないと思っていたんだが…まあ、立ち話も何だ…座れ。」
フィオルは丸太の椅子に腰を掛ける。
「先日、アルブ・ピリスに買い出しに行った時に知り合いの商人からアイベルの治療を受けたと話を聞いた。とても良い女性だったとな。人柄は素晴らしく、多くの人を惹きつける事ができるだろう。弓使いの才も持ち合わせている。もしかしたら…」
「いや…。」
フィオルはデリベラスの言葉を遮った。
「彼女には脅威と戦って欲しくないんです。」
真っ直ぐとデリベラスを見つめる。
「……。」
デリベラスは返す事が出来なかったが商人から聞いた話を思い出した。
――数年前、アルブ・ピリス 食事処
「デリベラスさん。話は聞いてると思いますけどあの子はホントに素晴らしい子ですよ。」
ハンバーグを頬張りながら話す商人。
「そうか…。」
ハンバーグにフォークを刺しながら応える。
商人にはアイベルが弓使いという事は話していなかった。
「もう一回会いたいなぁ…。」
「そんなに良い子なのか?」
「デリベラスさんも一回会ってみてくださいよ。人当たりも良くて、どんな人にでも優しい笑顔で治療してくれる。顔もスタイルも文句無し!でも…」
笑顔で話す商人だが話の途中で顔色が曇る。
「でも?」
「守りたい人がいるって言ってたんだよなあ…。次は自分がその人を守るって…。」
沈んだ表情になりながら呟く商人を、デリベラスは不思議に思いながらフォークに刺したハンバーグを口にした。
――山小屋
「ふふっ。」
「急に笑ってどうしたんですか…?」
デリベラスの突然微笑む姿を見て少し怖がるフィオル。
「一度アイベルとちゃんと話した方が良い。一緒に暮らす事にもなったんだろう?」
「そうですけど…。」
「これから長い間、苦楽を共にするんだ…。愛し合っているだろうが、さらに深い所まで話し合うんだ。一緒に居たい動機…様々な想い…。もしも一生を共にすると誓ったのなら尚更だぞ?」
「分かりました…。ありがとうございます。」
デリベラスは頷きフィオルの肩をポンポンと叩いた。
「まあ、また何かあったら来い。その時は是非アイベルも連れて来てくれ。」
「はい…!」
そして、フィオルは一礼すると山小屋を後にした。
(フィオル…。アイベルはお前が思っている以上にお前の事を想っている…。しっかり守り合って生きていくんだ。)
デリベラスはゆっくりと閉まる扉を見つめ心の中で呟いた。
暗い森を明かりを照らしながら歩くフィオル。
デリベラスから最後に言われた言葉で頭がいっぱいだった。
(一緒に暮らす事にはなったけど、まだ一生を共にしたいなんて伝えてなかった…。心では共にしたいって思っているのに…。帰ったらちゃんと話そう…。)
フィオルは拳を握り家に向かって走り出した。
――オラディ村
「アイベル。今日もありがとう。生活が変わり休みを与えたのにのう…。後の患者はワシに任せなさい。」
「とんでもないです。」
患者の数が残り一人になる頃、クラルはアイベルに声を掛けた。
「器具を片付けたら帰りますね。それと、さっき手が空いた時にご飯を作っておいたので食べて下さいね。」
「おお。そうじゃったか。アイベルの料理は美味しいから楽しみじゃ。ありがとう。」
そして、器具を片付けると療養施設を出た。
外は静かで見上げると空には、小さな雲が所々に浮かび、星が煌めいていた。
中央通りを進むと外食を済ませ、笑顔で帰っている家族や飲み屋から笑い声が聞こえてくる。
(オラディ村はこんなに静かで平和な夜なのに…今でもレリッタの人達は恐怖に怯えてる…。早くこの村に連れてきたい…。)
心の中で呟き、俯きながら歩く。
「アイベルさん…?」
呼び掛けに視線を上げると目の前にはエディウスが立っていた。
「あらエディウスじゃない。」
「お疲れ様です。」
笑顔で声を掛けてくるエディウスに微笑み返す。
「依頼は終わったの?」
「はい…!アルドさんに怒られましたけど…。」
「ふふっ。」
怒られた事を思い出し、俯くエディウスにアイベルは笑い、笑顔を見せた。
「笑わないでくださいよー。」
「ごめんなさい。でもこの笑いは決して小馬鹿にしてる訳じゃないのよ?」
理解できず首を傾げる。
「……どういう事ですか?」
「隊員の方達はあなたに対して少し厳し過ぎると思うのよね…。たまにあなたと隊員の方が話をしている所を見るけど、しかめっ面だったり曇った表情をしたりしている事が多いと思うの。こうやって笑顔を向けてくれる人はあんまり居ないんじゃない?」
「…。」
黙るエディウスだがアイベルの笑顔を見て表情が柔らかくなっていく。
「ほら、笑顔を見ると安心するでしょ?さっき声を掛けてくれた時、エディウスは笑顔だった…。声を掛けてくれる時、いつもあなたは笑顔なのよね。私も安心するし親近感が湧く。あなたはとっても優しい人。私はいつだってエディウスに笑顔で接するようにするから安心してね。」
(なんて良い人なんだぁぁ。)
心の中で叫ぶと目頭が熱くなり、瞳が潤む。
「なんで泣くのよー!」
「だってアイベルさんが…」
アイベルは驚きの表情をしたが直ぐに微笑む。
「あー!俺の隊員を泣かしてる!」
そして、アイベルの後ろから聞こえてきた声に、二人は向くとフィオルが指を差し立っていた。




