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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第二章 強欲と黒い影
31/54

第一話 自由に向けて

山から顔を出した陽。


既に商人や旅人が中央通り沿いの露店を散策し、店主との会話に笑い声が上がる。

 

露店から風に流されるパンや花の香り。


鍛冶屋の鉄を鍛える音。

 

広場には子供達の戯れる声が響く。


そして、それを叱る大人の声が続き、村は普段と変わらず平和だった――。



 

「人間は弱い…。一人の人間の力…それは獣、竜種にとってはとても小さな脅威である。持病がある者、五体満足ではない者の力は、ワシらの様に満足に生活出来る者達の手を借り、共に生きて行く事が望ましい…。」


会議所に村の年長者、ソウルガーディアンズの隊員が集まり、ブルクは話し始める。

 


藍色の竜討伐後、村に帰還したデュールは直ぐにこれまでの経緯をブルクに報告した。


その間にアルブ・ピリスからサーチ含む派遣された者達は、ノワルヴェールの元へ到着し、シュナイデンという解体士達によって藍色の竜は解体された。


そして、アルブ・ピリスに運ばれ、藍色の竜討伐という偉業は世界に伝わりつつあった――。

 

 

ジール達との再会の後、レリッタへ向かう準備を急ぐ為オラディ村に帰還したフィオル、アイベルはこの日の会議に参加していた。


コラン達と別れて二日後の事である。




「何で俺まで参加してるんだ……。」


フィオルの隣に座るエディウスは少し気だるそうに呟く。


チラッとその顔を見るフィオル。

 


――

 

「隊長だ…!」


物見櫓で監視をしていたエディウスは、村へと向かってくるエヴァルに乗る二人を見つけると走って迎えに行った。


「エディウスか。ちゃんと監視してたんだろうな?」


「もんろんですよ!隊長ー!!アイベルさんも!無事で良かったっす!!藍色の竜倒したんですよね!?ホントスゲェっす!!」


笑顔溢れる顔で二人を迎えたエディウスの勢いに、苦笑いを浮かべた二人だった――。


――


 

(あの時は藍色の竜が討伐出来た事を自分の事のようにはしゃいで喜んでいたのにな…。今は…なんて顔して話を聞いてるんだ…。)


「藍色の竜討伐で脅威は減った。でも、これから救わなきゃいけない人達がいる…。その話をこれからブルク長老が話す…。ソウルガーディアンズにとってこれは本当に大事な事だ…!真剣な心を持って黙って話を聞け。」


フィオルは小さな声で強く言う。


「うすっ。」



「時に…エディウスよ…。」


ブルクが急にエディウスに話し掛ける。


「"自由"とはどんなモノと考える?」

 

名を呼ばれ姿勢をピシッと直し、エディウスは小考する。


参加する人々はまだ子供とも言えるエディウスに注目した。



「うーん…。"子供達"ですかね?」


その答えにフィオルはゆっくりと首を傾げ、ブルクはフフッと笑い口を開く。


「"子供達"か…。」


「ほら、先の事を何も考えずにいつも笑って、はしゃいで遊んでますよね。それを見て自由でいいよなーって思います。」


「…なるほど…。じゃが…皆が寝静まった夜に家ではしゃぐものなら親からはうるさい、静かにしなさい、早く寝なさい…。そう言われぬか?」


「…まあ、たしかにそうですね。」


二人の会話に集まった者達は頷く。


「幼い子供達は手を差し伸べなければ数日と持たず死んでしまう。"子供達"というのはワシらの個々の身勝手なルールの中で生きておるのじゃ。」


ブルクは窓の外ではしゃぐ子供達を見つめた。


 

「…自由とは…」


 

――北の地のある国


「自由とは…縛られる事の無い人生を歩む者にこそある。」


王冠を被りキラキラと輝く、無数の宝石で飾られる豪華な椅子に座り、目の前に集まる兵達に向け言い放つ一人の男。


集まる者達の中には微かに身体を震わせる者もいる。


座る男の横からメイドが酒の入ったグラスを手渡すと、男はあっという間に飲み干す。

 

(富、権力がワシにはある…。ワシだけが自由で良い…。ワシが自由であるからこそ、この国は平和なのじゃ…。)


――


「自由とは縛られぬ事。じゃが、一人の人間が自由であっても、その人間は一人では生きて行けぬ。皆が自由になれば良いか?…それも違う。縛りがなければ争いが起こる。自由との平和的な共存は難しく、自由というのは孤独とも言える…。故に自由という物は"無"に近しい物じゃとワシは捉える。自由という孤独者は無感心になり、無意識のうちに暴走…やがて死という"無"を迎えるじゃろう。じゃが、それをワシはこの村から変えて行きたいのじゃ。自由との平和的な共存は有ると…。…自由を"有る"物にしたい…。それがワシの夢でもある。村の人々が日々生活をし、想う事…不満や文句を聞き、縛りという物を少しずつ減らし、皆でより良い方向へ向かって行く…。縛りを減らす事は出来るが無くす事は不可能に近い。じゃが、少しの縛りを設け自由を増やしていけば皆が幸せに暮らせ、確かな自由へと近づく事はできるのではないかと考える…。」


エディウスの表情が真剣な物に変わっていく。


「今、多くの縛りを受け自由から程遠い生活をしている者達がおる…」


それからブルクは現在のレリッタに住む村人達の話を始めた。


弱いと呼べる者達が、笑顔で手を取り合い生きていた所から、部外者により元の村は消え、地獄の様な話に変わった頃、話を聞く者の中には口に手を当て涙を流す者もいた。


エディウスは自分の生活とかけ離れ過ぎている事に、口を開け固まる。


フィオル、アイベルは唇を固く結び、ノワルヴェール、デュールも怒りの顔に露わにしていた。


「我々は助けなければならぬ。お互いに手を取り合うのじゃ。」


年長者達に目を向けるブルク。


「そして、お主達はソウルガーディアンズとしての使命を果たすのじゃ…。」


続いてフィオル含む各隊長、エディウスを見つめると、頷き応えた。

 


それから、年長者達からは村の様子などの話があり、至らない所の改善に向け話し合うと会議は幕を閉じた――。




ブルクの自宅の横に建つ会議所から出る一同。


「レリッタからの報せをまずは待つしかないね。」


「そうね。」


二人は遠くの広場に見える子供達を見つめる。


フィオルとアイベルは直ぐにでもレリッタに向いたいと表情は硬かった。


 

「隊長待って下さいよー。」


エディウスは二人の元へと駆け寄る。


「休まなくていいんですか?」


ジールに会いに行く事、そして新たな生活が始まる事で手一杯になってしまうと考え、少しの休みを貰っていた二人。


「さっきの話しを聞いただろう?今も満足に生活出来ていないんだ…。」


「レリッタの人達の報せを待たなくちゃね。報せがあったら直ぐにでも向かう。その為の準備もしないと。」


二人の言葉に頷くエディウスだが、二人を心配した表情を見せた。


 

「気を遣ってくれてありがとうエディウス。」


「お前もレリッタに連れて行く。分かったな。」


「はい。」


納得のいかない表情を浮かべたがエディウスは小さく返事をした。


 

「…そうだ、お前はアルドさんがいるアルブ・ピリスの研究所に向かってくれ。急がないと大変な事になるかもしれない…。もし、その間にレリッタから報せが来たら伝書鳥を送る。その時は直ぐに戻ってくるんだ。」


「分かりました。」



「…じゃあ、私は療養施設に行くね。またね。」


「ああ。」


ここで三人は別れ、アイベルは療養施設、フィオルは剣撃隊の集まる家屋へ、そしてエディウスは剣撃隊の厩舎へと向かった。

 


藍色の竜討伐後、コランの服を啄き匂いを記憶したノワルヴェールの伝書鳥はブルクへと渡り、最速であるブルクの伝書鳥にも匂いを記憶させ、直ぐにレリッタに向けて飛ばされた。


 

後は伝書鳥が戻り報せを待つだけとなった。

 

レリッタの人々に住んでもらう場所はモルスが捕まっていた檻の近辺の建物と会議で決まり、村人も含めオラディ村一同は受け入れる準備を始めたのであった――。


 

――時は遡り、アルブ・ピリス


大通り沿いに煉瓦造りの家屋が建ち並び、その前に次々と並び始める露店。


毎日人々で溢れ、商人達が行き交う大通り。


その大通りは都市の端から延び、中央の広場へと続く。


そしてその先には都市長が住み、その豪邸は熟練された石工達で造られ、都市を見下ろす様に建っている。


 

陽が昇る少し前から人々は忙しく動き回り、露店の準備を進めていた。


都市の正門はまだ閉まっており、商人達はアルブ・ピリスの外で今か今かと待っている。


「おーし。準備はできた。」「やばい急がなきゃ…!」


「お前のとこはまだ少し掛かりそうだな…!ほら、そっち持て!」


露店の準備で慌ただしくなる大通り。



 

陽が昇ると同時に門が開くと、勢い良く商人達がアルブ・ピリスへと流れて入っていく。


陽の光が正門を抜け、大通りを徐々に照らしていくと、暗く輪郭だけしか見えなかった大豪邸を鮮明に映し出す。


一気に賑やかになる大通り。


アルブ・ピリスの一日が始まる。



だが、普段は大通り沿いを進む商人達だが今日は道を逸れ、ある場所へと向かって行ったのだった――。


 

――竜種研究所


研究所では解体された藍色の竜を研究する為に各大陸から研究者や歴史学者が訪れていた。

 

「藍色の竜は他の竜種とは違い特定の場所には留まる事は無く、雨季、乾季…季節に問わず各大陸での目撃情報が多くあった。この個体かは分からぬが先日にはアンティカル大陸の東の端にあるラディナ丘陵の上空を単独で飛んでいたという目撃情報もある。今回再びペールデニーズ現れたこの個体は10年前のあの個体じゃ。まだまだ竜種の数、生態は分からぬ事が多す……」


集まる者達に向け、サーチが話をしている途中、研究所の扉を叩く音が響く。


「サーチさん…!藍色の竜の鱗を一枚でいいので貰えますか!?」「おいおい押すな…!」


溜息を吐き、扉へ向かうサーチ。


「やはり来たか…。研究はまだまだ時間が掛かる…!お主らに譲る物など何もない!」


「…何事…ですか?」


若い歴史学者の一人が問う。


「商人共じゃ。藍色の竜が討伐され、もうここに保管されている事が知られておるようじゃな…。鱗だけでも高値で売れる…。加工して装飾品や武器、防具にも使えるとここへ押し掛けてきたんじゃ。」


「なるほど…。…これでは研究どころではないですね。」


外からは怒号のような声が鳴り止まず、一同は困惑していた。



そこへ研究所の裏口の扉が開き、鎧を纏った一人の男が入ってきた。


「サーチさん。すみません遅くなりました。」


その男はお辞儀をすると小走りで一同の元へと向かう。


「おお。一足遅かったのうアルド。後は頼んだぞ。」


「はい。」


その男は剣撃隊に最年長で所属し、フィオルを影で支える

一人である。


サーチは商人達が押し寄せてくると予想し、研究の邪魔にならないようにソウルガーディアンズに依頼していたのだった。

 


「自分勝手な強欲の塊共め…。」

 

呟きながらアルドは商人達がいる扉へと向かう。


そして扉を勢い良く開け、剣を地面に突き大きく息を吸った。

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