第二十七話 決着
剣を強く握り締め、一直線に藍色の竜へ向かい駆けるフィオル。
(力を…!!)
握り締める手の周りには白いオーラが包み始め、やがて剣を纏うように広がると、一気に飛び込み間合いを詰める。
フィオルを包み込む様に藍色の竜の尾がしなりながら襲い掛かる。
(右!足元!上!…左!)
「ふんっ…!」
次から次へと鞭のように打ち付けてくる尾を見極め、一本の尾を切り付けた。
草原を赤く色付けるほど血飛沫が飛んだが、傷は浅く切断には至らなかった。
(くそう!少し浅いか…!)
「やったか…!?」
「いや…。少し浅い。しかし凄いな…。」
「ああ、俺達では出来ない事だ…。くそぅ。」
尾による猛攻と対峙する様子を見守るノワルヴェールとデュールは、自分達では太刀打ち出来ない光景に関心するも、加勢出来ない事を少し悔やむ。
「惜しい…!」
茂みに身を隠し、戦いを見届けるコランも思わず声を上げていた。
尚も打ち付ける尾の攻撃。
藍色の竜とフィオルの周りには土が舞い、視界も悪い。
フィオルはその中、尾の筋肉を心眼を使い、動きを読み、避けながら身体を激しく動かす。
(集中しろ…!次は確実に切り落とす…!俺がやらなきゃ倒せない…!ジールさん達に会うために…必ず…!)
体力は一気に減りフィオルは限界を突破しようとしていた。
「フィオル…。」
離れた位置で弓を番え、片目でその様子を見るアイベルは、心臓のドクンドクンと鳴る音が鮮明に聞こえ緊張していた。
(上から三本…!左右から足元へ…来る!)
三本の尾が頭上、そして両脇から二本の尾が同時に迫ってくると、ギュッと剣を両手で握る。
地面を力強く蹴り飛び上がり、両脇から迫る尾を避けながら、頭上から降ってくる尾に向かい構えた。
(魂を…込める…!)
剣は白い光を強く放ち、頭に向かってくる三本の尾と触れ、一瞬視界がゆっくりとなる――。
「うおぉぉ!」
声を上げ、重い尾の攻撃を感じるが次の瞬間には綺麗に切断されていた。
切断された三本の尾は別々の場所へ血飛沫を上げながら飛んで行く。
「「おおお…!」」
一瞬の出来事に声を上げるノワルヴェールとデュール。
そのすぐ傍には切断された一本の尾が地面に突き刺さった。
「やったぁ!」
傍に眠るトルヴィスとルクスを起こしては混乱してしまうと考え、小声でそして小さくガッツポーズするコラン。
(凄いわフィオル…。まるであの時の光と同じ…。)
アイベルは目の前の光景が十年前、自分が気を失う寸前にフィオルの放った一撃と重なり、心の中で呟く。
藍色の竜は覚悟を決めたのか、切断された尾の痛みを感じていない様子でフィオルを睨みつけると大きく咆哮した。
ビリビリと肌に伝わる藍色の竜の気。
対峙している空間の気温が上がる――。
土は舞い続けるが、結界の様な尾の攻撃は、切断された事により隙間が現れ始める。
「まだだ…!畳み掛ける!」
フィオルは藍色の竜をじっと睨み返すと更に距離を縮めた。
「デュール…!そろそろ勝負だろう…。準備を…!」
「もちろんだ…!」
デュールはいつでもフィオルを連れ戻せるよう飛び出す準備を始める。
盾を背中に仕舞い、足元に力を入れ、太ももの筋肉が隆起すると体勢を整えた。
(スピードも慣れて来た…。尾の数が減ったお陰で大分気持ちも楽だ…。)
距離を縮め藍色の竜の攻撃速度に慣れたフィオルは次々と襲い掛かる尾を避ける。
そして左右から挟むように迫る尾を滑りながら低い体勢で避けるとそのまま切り付け二本の尾を切断した。
(よし…!このまま…!)
――オラディ村
「ブルク長老!強い白い光が今!」
「魂剣か或いは心願によるのものか…。決着は近いかもしれぬ。中央都市"アルブ・ピリス"の荷馬車をペールデニーズへ向かうよう準備をさせねばな。サーチへ伝書鳥を飛ばし、熟練された精鋭の"シュナイデン"の者達を寄越すようにと伝えるのじゃ。」
「分かりました…!」
ブルクは藍色の竜が討伐される事を予想し、倒されるであろう藍色の竜をアルブ・ピリスにあるサーチの研究所へ運ぶ手配を進める。
すると空から一羽の鳥が飛んできてブルクの肩に止まる。
「ノワルヴェールの元へ行くんじゃ。」
肩に止まった自身が飼う伝書鳥の頭をそっと触れ、脚に手紙を巻き付けると空へと放った。
――ペールデニーズ 草原
(あと三本…!)
残された三本の尾の動きを捉えるフィオル。
「…!」
「どうしたノワルヴェール?」
フィオルの動きに少し違和感を覚えたノワルヴェール。
「あいつ大分身体にきてるな…。」
その言葉を発した瞬間、フィオルの膝が一瞬ガクッと曲がる。
パラファラと対峙し、続けて藍色の竜との戦闘に御業である心眼と魂剣を使い、ほぼ休めること無く身体を動かし続けたフィオルの体力、そして気力は凄まじいほど削られていた。
(集中し過ぎて無呼吸の時間が長かった。くそう…。もう少しだ…!持ってくれ俺の身体っ…!)
藍色の竜はフィオルの異変に気付くと攻撃のスピードを最大限にし、口を大きく開け威嚇し尾を激しく動かす。
(このまま倒せず終わる事は絶対に許されん…。)
「ちっ。」
ノワルヴェールは心の中で呟き舌打ちを軽くすると拳をギュッと握る。
「デュール。準備は整ったな?」
「あ、ああ。何をする気だ?」
デュールに声を掛けるとノワルヴェールは返さずに弓を番え、一本の矢を放った。
「アイベルっ!すぐに決めろ!」
矢を放った瞬間にアイベルに声を掛けたノワルヴェール。
「え…。はい!」
(まだ纏う様に尾と土が舞ってる…。でも…やらなきゃ!)
ノワルヴェールの放った矢は尾に邪魔をされる事の無い位置の翼膜に突き刺さる。
次の瞬間、藍色の竜の目付きが変わると動きが鈍った。
「これって…。」
目前に立ちはだかる藍色の竜の動きに違和感を覚えるフィオル。
「フィオール!」
ノワルヴェールはフィオルに大きく声を上げる。
(考えても無駄だ…!この機を逃す訳には行かない!)
「はぁぁ!」
フィオルは渾身の力を振り絞り一本、そしてまた一本と尾を両断する。
しかし、ここでまた膝が曲がったのが見えるとすかさずデュールが反応し飛び出した。
「アイベルっ!!」
「はい…!」
(土も舞ってない…!風も無い!ここ…!!)
デュールが猛スピードで駆け、フィオルの元に着き肩で抱えるのを確認するとアイベルは矢を射った。
デュールは抱えたまま地面を強く蹴り、猛スピードで藍色の竜との距離を取った。
アイベルの矢は左翼の根元に突き刺さる矢へ向け一直線に飛んでいく。
風を切る音の直後チッと見事に突き刺さった矢にアイベルが射った矢の矢尻が掠め、摩擦が起きる。
そして、一瞬目の前が激しく光を放つとドゴーンと大爆発が起きた。
「俺の後ろへ…!」
デュールが盾を地面に突き刺し前に構え三人はその後ろで身を小さくし、その場に留まる。
爆風が藍色の竜を中心に一瞬で辺りに広がり、少し離れた位置で矢を射ったアイベルは体勢を崩し、エヴァルから落ちてしまった。
時間差で樹の影に身を潜めるコラン、未だに眠るトルヴィス、ルクスの所まで爆風が押し寄せるとコランは必死に二人の服を掴みその場で耐えた。
「エヴァル…!」
キーンと耳鳴りがし落下してからはエヴァルがアイベルを包む様に優しく囲み、なんとか飛ばされずに済んだアイベル。
辺りは砂埃が充満し藍色の竜の様子は見えない。
アイベルは再び跨り、エヴァルの嗅覚を頼りに三人の元へと向かう。
「トルヴィスさん!ルクスさん!」
爆風が吹き止むとトルヴィスとルクスは目を覚ましコランは声を掛ける。
「混乱するかも知れませんが大きな声は出さずに聞いて下さい。今、ソウルガーディアンズの皆さんが藍色の竜と戦っています…!」
「何だって!?」
トルヴィスは目を丸くし思わず大きく声が漏れてしまう。
ルクスも声が出そうになったが両手で口を塞いだ。
「シーッ!僕達はどうやらパラファラに眠らされてしまっていたんです。そして何故か竜が出現した…。僕が目覚めた時には竜と対峙する形になっていました。僕達は彼等の邪魔にならないよう身を潜めましょう。」
「そ、そうだな…!」
三人は樹の影から息を潜め草原を静かに覗いた。
「砂埃で何も見えないな…。」
「はい…。二人が目覚める直前に大爆発が起きました。新たに駆け付けた弓使いの方が仕掛けました。フィオルさん達に指示を出していたので隊長だと思います。あの爆発では流石の竜も致命傷だと思いますが…。」
「そうなのか…。」
「はい。」
状況を説明し再び草原を覗く。
「二人共飛ばされなかったか?」
盾を構える力を緩め、振り返り声を掛けるデュール。
「ああ。」「はい…。」
ノワルヴェールは立ち上がるがフィオルはまだ膝をついて体力の回復をする。
「フィオル。あの尾に立ち向かえるのはお前しかいない…。良くやってくれた。」
フィオルの肩に手を置き賞賛するとエヴァルの足音が聞こえ始めた。
ヒヒィンと鳴き声を上げ三人の後ろに止まるとアイベルは飛び降りた。
「皆さん無事ですか!?」
「ああ。」
返事をするデュールには砂埃が身体の所々に掛かっていた。
「君も無事かい?」
「ええ。爆風からエヴァルが囲ってくれたの。」
エヴァルを撫でながら返すとフィオルは笑顔を送った。
「アイベル。良くやってくれた…!流石だ!信じていたよ。」
「ありがとうございます…!皆さんのお陰です。」
アイベルを賞賛するノワルヴェール。
だがフィオルは藍色の竜の様子に少しの違和感を感じていた。
「ノワルヴェールさん。先程アイベルが矢を射る直前…」
「見事に爆発を起こせたのだ。作戦通り上手くいった。まだ油断は出来んぞ。」
「そう…ですね。」
(あの動きの鈍り方は明らかに変だ…。何か矢に細工がしてあったのだろうか…。)
フィオルは首を傾げ、その瞬間を思い出し疑問を持つがそれ以上は思考するのを辞めた。
「それよりあいつは……まだ息があるのか?」
デュールは砂埃を払いながらフィオルに問う。
フィオルは心眼を使い砂埃の中に目を凝らした。
「左翼は根元から完全に破壊されてますがまだ倒れたまま息はしています。爆発の際に尾が左翼の近くにあったのか、最後の尾も半分以上は無くなってます。」
「フィオル。…首を落とせるか?」
ノワルヴェールは腕を組みフィオルに問う。
「次の一撃が限界ですが落とせると思います。」
「そうか…。砂埃が晴れたら様子を見た後落とせ。」
「分かりました。」
「フィオル。今の内に。」
アイベルはフィオルの背中に手を当て気力を回復させる為、心願を始めた。
「ありがとう。」
だんだんと砂埃が晴れてくると周りの様子が見え始める。
先程の草原とは違い、藍色の竜の影が見える位置を中心に草は皆下を向き、それを支える土は大きく抉れ、さらに奥に見える小さな木々や植物は倒れかけている。
(見えてきた…。次の一撃で終わらせる…。)
「アイベル。もう大丈夫だ。」
「分かった。」
アイベルへ振り返り、ジールから受け取った剣を握るとぽわんと白い光が剣を包む。
そして砂埃が晴れると左翼は身体に付いておらず力なく倒れ、呻き声を弱く上げる藍色の竜の姿が現れた。
「頼んだぞフィオル…!」
「決めてこい!」
「フィオル…。」
ノワルヴェールとデュールはフィオルの背中を叩き、アイベルは目を見つめ頷いた。
「本当に僕が決めていいんですかノワルヴェールさん。」
「良いんだ。私の指揮下で皆動いてくれた…。もう仇は取れたと心から感じている。」
ジールの剣を触れそして、再度フィオルの背中を強く叩くとフィオルは藍色の竜の元へと歩む。
風は止み、雲に月が隠れ辺りが一瞬暗くなるが握られた剣が強い光を放ち辺りを照らす。
藍色の竜の目からは生命力は感じられず、死を覚悟しているように動かない。
「長かった…。そして強かった。でも…」
藍色の竜の首に剣を一度当て、そして両手で剣を強く握り頭上で止めた。
今までで一番強く白い光を放つ剣――。
激しかった戦闘の音は消え、再び静かな風が吹き、砂埃は完全に晴れた。
月下の草原の中心に倒れる竜とフィオルを見守る一行。
「終わりだ…!」
ザシュという音を草原に響かせると首は落とされ藍色の竜との戦闘は終わりを迎えたのだった。




