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ソウルガーディアンズ   作者: HachiHachi
第一章 大樹の守護者
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第二十一話 切なる願い

「ラヴィエルを傷付けたんだぞ?魂が失われる可能性だってあるんだ。しかもそれを売ろうとしている…!」


デュールは声を強くして言い放つ。


「でも……それが愛する人達の為だったら?それをする事でしか生活が出来なかったら?彼等の話を聞いて…」


「少し前であれば檻行きも……」


「それはダメよ!!」


声を強くするアイベルにエヴァルは身をすくめる。

 

「ちょっと待ってくれ二人とも…!」

 

ヒートアップする二人、フィオルは間に入りその場を制す。


「アイベル。どうしてそこまで……。」


そしてデュールは、大きく息を吐き口を開く。

 

「あの事件がきっかけか…。」


デュールとフィオルは七年前の村民会議に参加していて、モルスが亡くなった事件を知っていた。

 

アイベルはモルスが連行された時の表情を思い出し目を瞑る。


「命を危険に晒さない…正しい道を生きて欲しいのよ。ラヴィエルの研究だって進んでて、盗られてしまった物に宿る魂はラヴィエルの元に埋めれば魂が戻るっていう話もあるでしょ?それに…目の前で人が亡くなるのは見たくない…。」


「皆が皆あの男と同じとは限らん…。それだけは忘れるな。」


「それは分かってます…。でも……」


アイベルを見ると拳を強く握っていた。


(アイベル…。)

 

ここまで強い意志を持って想いを伝えるアイベルを、フィオルは初めて見て心の中で呟く。


 

「うわあああ!」


突然三人組の方から叫び声が聞こえ、驚きながらも見ると一人が食人植物に捕まっていた。


「バカやろう…!油断していたのか!」


デュールはその場で力み、チラッとアイベルの顔を見ると茂みを飛び出した。


「フィオル!」


デュールは走りながら声を掛け、アイコンタクトを送るとフィオルも茂みから飛び出し、残りのペルディータの元へ向かった。


食人植物の大きな口に呑み込まれる寸前、デュールは巻き付く蔓を切り、ペルディータの一人を担ぐ。


フィオルは残りの二人へと次々に伸びてくる蔓を切りつけ、アイベルとエヴァルが隠れる、茂みに向かう様に合図した。


「お、おい!あれは何だ…!」


デュールの肩に担がれた一人がパラファラの存在に気づき、声を上げると、パラファラは騒動に気付き大きく羽を広げた。


羽の内側は赤黒く、見ただけででも危険だと分かる。


鋭く真っ直ぐ伸びる口吻をこちらに向け、その場で助走を付けるように旋回すると青く煌めく粉が舞い散った。


そして旋回していたパラファラは勢い良くこちらに向かい飛んで行く。


「フィオル!戻れー!」

 

デュールがその様子を目視すると、大声でフィオルに声を掛ける。


ほんの一瞬の出来事を、茂みの中から様子を見ていたアイベルだが、パラファラが向かって来るのを目視すると茂みから出て、矢をつがえた。


ペルディータの二人とフィオル、そして一人を担いだデュールは必死に茂みに向かって走る。


アイベルは片目を瞑り、向かってくるパラファラを捉え、矢を射った。


風を切り、樹から生える枝と生い茂る葉をすり抜けパラファラに向かって突き進む。

 

「凄い…。」


ペルディータの少年は、パラファラへと真っ直ぐ突き進む矢を目で追い、声を漏らす。


矢はパラファラの鋭い口吻の先に当たり、そのまま顔を貫通した。


痛みに暴れるパラファラだが、間を置く事無くアイベルはもう一本の矢を放つ。


ペルディータの一人とデュール、そしてフィオルは茂みに飛び込んだ。


ペルディータの少年は、アイベルの美しい所作に目を奪われ、茂みの外で立ち止まって見ていた。


二本目に射った矢は腹部に突き刺さり鱗粉が舞い、暴れていたパラファラは地面に向かって落ちていった。


「よく反応してくれた。ありがとう。こいつ…気絶しちまったな。」


担いでいた一人を地面に降ろし、茂みの中からデュールは言った。


「変に飛ばずに真っ直ぐ向かってきたから狙いやすかったです…。」


茂みに戻りながら弓を肩に掛けアイベルは返す。


「しかしホントに上手いな。いつから訓練を?」


アイベルの的確な射撃にフィオルは関心し問う。

 

「あの事件からよ。患者を治療する事しか出来ないって言われてね。」

 

「姉ちゃんもすげぇけど、兄ちゃん達も超強いな!お陰で助かったよ…。」


デュールはキッと睨みつけるとその男の胸ぐらを掴んだ。


「おい。あまり調子に乗るなよ?俺達はソウルガーディアンズだ…!」


掴んだ手でそのまま押すと男は吹っ飛び、ソウルガーディアンズという言葉を聞いた瞬間にどっと汗が出る。


「ゆ、ゆ、許してくれ…!お、檻行きだけは…!」


男は少年の頭に手を置き、二人は地面に頭を付き土下座をする。


溜息を吐くデュール。


少しの沈黙が続きアイベルが口を開いた。

 

「そんな事はしません。」


「姉ちゃんは…女神様か…。」


「あまり調子に乗るなと言ったよな?」


デュールは苛立ちを露わにし男を睨む。


「す、すまん。もうしない…。こいつの親父は檻行きで死んじまったんだ…。なあ、コラン。」


ゆっくりと頷く少年。

 

「!?」


その名前にアイベルはハッとした表情をすると、コランの目の前に歩み寄る。


バシッ


周りの音が一瞬消える――。


アイベルはペールデニーズに響き渡る程の強いビンタを少年の頬にした。


「「え?」」


その場にいた者全員が訳が分からず唖然とした表情をし、ビンタされた少年は叩かれて熱くなる頬に手を当てる。


「何をしてるのよあなたは…!命を危険に晒してまでこんな事するなんて!体格だってお父さんよりずっといいじゃない…。」


アイベルの瞳には涙がちらつき、その瞳を見た少年は下を向いた。


「…父を知ってるんですか…?」


「ええ。あなたの事もモルスさんから聞いているわ。私は七年前、薬師のクラルさんとあなたのお父さんを治療した。あの時私は…治療をする事しか出来なかった…。ごめんなさい。」


偶然の出来事に一同は驚きを隠せず固まった。


コランは俯きながら涙し、その涙は地面にポタポタと落ちていく。

 

「ということはあんたがアイベルって言う名前の…」


ペルディータの男は言葉を詰まらせる。


「そうだったのかアイベル。」


フィオルは目を丸くし驚きの表情をしていた。

 

「そうよ。私はアイベル。」


「ホントに女神様だ…。」


「さっきから何なんだその女神様とやらは…!」


デュールは苛立ち強く言い放つ。


「コラン。アレを…。」


男に言われるとコランは懐から紙切れを出した。


「それは手紙?」


フィオルは出された紙切れを受け取りゆっくりと開き読み上げる。


『親愛なる妻ルイナ、そしてコラン…』


書き出しには妻ルイナとコランへ、檻行きになり命が助からない事が綴られていた。


『後悔の念が頭を駆け巡る…。身体が弱く何より俺の心が弱いせいで犯してしまった罪。生き抜く術を誤り、正しい道で君達に幸せを与える事が出来ず、心から申し訳なく思う。コラン…どうか俺の様にならないで欲しい。ルイナ…君も身体が弱いが幸せをまた掴んで欲しい。』


『罪を背負う俺を治療してくれた薬師クラルとアイベル。この二人の暮らすオラディ村へ向かって欲しい。丁寧で確かな腕を持つ薬師クラル。そして、"心願"という至上者の御業を持つアイベル。その力は女神様の様で暖かく、そして確実に傷を癒してくれた。オラディ村へ向かって正しい道を見つけて暮らして欲しいと心から願っている。』


そして謝罪と願いの言葉。


読み上げる手紙の内容を聞きアイベルとコランは静かに涙を流す。


「クラルさん…。檻へ会いに行っていたんですね…。」


アイベルはクラルがモルスの檻へ行っていたことを知らなかった。

 

「女神様の様な力か…。」


デュールは呟く。


「そうだ。その手紙が届いてから俺達の村では女神様を信じて生きて行こうっつう話が出た。」

 

アイベルは涙を拭うとコランに視線を移す。


「でも、モルスさんの願いを聞かずにこんな所で何をしてるの?こんなにも時間が経っているのよ?」


涙は止まったが尚も俯くコランにアイベルは問う。

 

「俺達の事を何も知らないでそんな事言うなよ…!」


男は声を荒らげ言い捨てる。

 

「では何故?」


フィオルは手紙を閉じコランの目の前に置き、問う。


「俺達はペルディータだがペルディータじゃない。」


「意味が分からん。」


デュールはそっぽを向き切り捨てるように言った。


「トルヴィスさん。僕がレリッタの過去から話します。」


俯いていたコランが顔を上げ口を開いた。


「僕の村レリッタでは父のように身体が弱い、又は障害を持つ人が居ます。」


そういうとトルヴィスは履いている服を静かに捲る。


アイベルとデュールはその脚を見て絶句した。


「トルヴィスさんは義足、気絶しているルクスさんは義眼です。僕の父は身体がとても弱く直ぐに息を切らしてしまう。父は身体に障害を持ってしまった人を、レリッタに立ち寄った商人に話をして集め、お互いに助け合い何とか生き抜いていこうと、この二人とその家族を受け入れレリッタで暮らし始めました。その噂は広がり今では当初の倍近くになる人数になりました。レリッタの北に広がる海で漁業を生業とし、共に支え合いながら暮らしていたんです。ですが八年前の雨季から突然の大不漁。それから二ヶ月程経ち、漁業を一旦止め村人皆で畑作業をしていたある日、ある男達がレリッタを訪れたのです…」


――八年前、レリッタ


「ハァハァ。」


汗をかき広大な更地を耕すモルス。


「あなた…。一旦休みましょう。皆にも声を掛けて。」


籠いっぱいの果物を抱えたルイナがモルスに声を掛ける。


「ハァハァ…。そうだな。トルヴィース!ルクスー!休憩だー!ルイナ…。食糧は後どれくらいだ?」

 

この時レリッタでは大不漁により海からは食材が得られず、貯蓄していた食糧を少しづつ使って命を繋いでいた。


「ゴホッゴホッ。あと…少ししか…。」

 

ルイナは俯き、咳き込みながら答える。


「そうか…。でも、なんとかしてみせるさ。この畑でたくさん食材が手に入れられる様になれば…!」


一旦俯いたモルスだがすぐに顔を上げ笑顔を送り、座り込んだ。

 

「お父さーん!」


するとモルスの元に子供が駆け寄ってきた。


「おーコラン!さあ、お母さんが果物をいっぱい食べさせてくれるぞー。」


「あなた…。」


ルイナが果物を一つ手に取り、モルスへ渡そうとするが言葉は返さず首を振り拒否した。



ガシャンガシャン


突然装備の擦れ合う音が聞こえ始める。


身体を覆う装備をギラつかせる五人の男達。


一人が前へ出てくると声を掛けてきた。


「これはこれはレリッタの皆さんこんにちは。」


「貴方達は?」


ルイナが質問する。


「うるさいっ!女は失せるんだ。」


籠を持ったルイナを小突き声を荒らげる男。


ルイナは耐えれず籠を落とし地面に倒れてしまった。

 

「お母さん!」

 

「いきなり何をするんだ!」


コランがルイナに駆け寄り、モルスは立ち上がり、男の目の前に立ち塞がった。


「モルス…。大丈夫よ。」


ルイナはコランの手を借りゆっくりと立ち上がる。


(こいつがモルスか…。身体の不自由な人間ばかりを集めてる張本人…。)


「話しがある。」


そう言うとルイナ達から一度離れた。


少し離れた所で休憩するトルヴィスとルクスは異変に気づきルイナの元へ向かい、話をするモルスを見守った。


数分後突然五人の男達は、来た道を戻って行き姿を消すとモルスが戻ってきた。


「皆を集めてくれるか?」


モルスは暗い表情をしながらトルヴィスとルクスに声を掛けた。


 


「オルコ長老も悪い人だ…。」


「リスティーゴ兵士長もいきなり女を押し倒すなんて…。」

 

そう言いニヤりと笑みを浮かべながら男達は森へと消えていった。

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