第十一話 弟の様な存在
しばらく抱き合うとお互いが愛し合っていた事に気づいた二人。
「アイベル…。君と出会ったあの日から、君は俺にとって特別な存在になっていた…。遠征や依頼をこなしている時や君と会っていない時間は、気づいたら君の事をずっと考えていた。抱き合うとこんなに暖かいんだな…。」
「私もフィオルと会ってない時はあなたの事を考えてた…。お互い気づくのが遅かったね…。本当は気づいてたけど言葉にしなかった……って言う方が正しいのかな。」
一度離れ、顔を見合わすとアイベルの瞳からは再び涙が流れた。
「泣かせたくないって言っただろう。もう泣くなよ。」
笑いながらアイベルの頬を伝う涙を指で拭う。
「違う…!これは嬉し涙よ!」
強がるようにアイベルは言い、フィオルを小突いた。
「でもホントに嬉しい…。フィオル…ありがとう。」
そう言うとアイベルはフィオルの頬にキスをした。
ポワーンと頬が熱くなり急に恥ずかしくなるが、笑顔を送った。
「明日の朝、荷物をまとめて俺の家に引っ越ししよう。そしたらその後、あの場所へ寄ってラヴィエルにも行こう。」
「うん!」
それから二人で最後の仕上げに取り掛かり、ステンドグラスをピカピカに拭きあげた。
「うん!綺麗になった。手伝ってくれてありがと。」
「おし!じゃあ施設まで送っていくよ。」
そして二人は掃除用具を片付けると教会を後にする。
拭きあげたステンドグラスの模様が、二人の背中に綺麗に
映っていた。
外に出ると先程まで降っていた雨がいくつもの水溜りを作り、月の光に照らされた水溜りは、星空を鏡の様に映していて、不思議な世界にいる様にさえ感じる。
「綺麗な星空ね。そういえば、ブルク長老ちゃんと帰れたかな?」
「ああ、デュールさんが一緒だから大丈夫さ。」
そんな話しをしながら村に繋がる林道を歩く。
中央通りに出ると一日を終え、酒に酔った隊員達や村人がちらほらいた。
二人は療養施設へ向け並んで歩いていく。
オラディ村には中心に大きな道が、村の端から端へ通っており、露店が立ち並び、商人や冒険家、旅人などはこの道を中心にオラディ村を周る。
等間隔で灯される明かりは、煉瓦造りの中央通りを美しく
照らしていた。
そして、村に欠かせない療養施設は中央通り沿いに構えている。
さらに、その道を奥まで進むとペールデニーズに続く森になっており、ソウルガーディアンズの遠征での凱旋では村人達は路傍に立ち並び隊員達を盛大に迎えていた。
「あれー、アイベルちゃんだー。」「相変わらず、可愛いなぁ。」
歩いていると酔った隊員達や村人がアイベルに声を掛ける。
アイベルは苦笑いしながら手を振りそれに応えている。
「相変わらず凄いな。俺って剣撃隊の隊長だよな…?俺には挨拶すらないなんて…。」
隊長であるフィオルには目もくれず、隣に歩くアイベルに声を掛けた隊員と村人。
フィオルは自身が隊長である事を疑ってしまう程、アイベルはオラディ村の人々から人気があった。
「たまにしつこい人もいるけど…皆良い人達よ?一日を一生懸命生きて、ご褒美に好きなだけお酒を呑むなんて……ホント幸せそうよね。あんな顔してたらこっちまで笑顔になっちゃうもん。」
「ご褒美ねぇ…。幸せだろうが、あの人達は朱の竜を撃退してから毎日呑んだくれてる連中だ。」
フィオルは最近の隊員達の危機感の無さに少し苛立ちを見せながら言った。
「この間の朱の竜は成体じゃないってのに…。ノワルヴェールさんもだけど、はしゃぎすぎなんだよなあ…。」
「そうかなぁ…。でも、竜種の被害は年々増してるってこの間サーチさんも言ってたわ。その被害が少しでも減らす事が出来たのは良いことだし、ご褒美を味わうのは悪くないと思うけどなぁ…。」
アイベルは手を後ろに組み、少し悲しい顔をして言った。
フーっと大きく息を漏らすフィオル。
「常に緊張感を持たなきゃいけな…」
「隊長には、少し気を緩める時間があっても良いと思いますよー。気を張りすぎてもよくないっすよー。」
突然後ろから声が掛かり、二人は振り返る。
「エディウスか!このやろっ!」
フィオルは顔を確認すると声を掛けて来た隊員の頭に手刀をした。
「痛ぁっ!何するんですか!」
声を掛けた彼の名はエディウス。
剣撃隊に所属している17歳の剣士である。
「急に叩いたらダメじゃない!」
アイベルが突然攻撃したフィオルに怒る。
「軽くやっただけじゃないか。いつもの事だよ。」
こんなものは日常茶飯事だと言い張るフィオル。
「アイベルさーん。」
エディウスはフィオルを指差しながらアイベルに助けを求める。
「アイベルはいつもエディウスに甘いんだよ。もう遅い時間だぞー?子供は寝て明日に備えろよ。」
「可哀想なエディウス…。こっちおいで!怖い人に近づいちゃダメよー。」
その言葉にパァっと顔を明るくしアイベルに向かって両手を広げながら近づいていった。
「ほら、子供扱いするなって!」
アイベルに近づくエディウスの服を引っ張り、フィオルは声を上げる。
「フィオルが子供は寝て明日に備えろって言ったんでしょ?」
アイベルのその言葉で特大のブーメランを喰らい、返す言葉が無いフィオルの顔は歪み、エディウスがフィオルを振り返りニヤリと笑う。
なんとも言えない表情のフィオル。
「ハア…隊長。たまには休んだ方がいいですよ。さっきも言いましたけど、気を張りすぎたらいつか絶対壊れますよ。朱の竜は撃退したんですから…。」
エディウスの話しにうんうんとアイベルは頷いていた。
「ハァ…。」
深く溜息をつくフィオル。
(この二人には伝えておくか…。)
ブルクとの話しが、頭に強く残っているフィオルは口を開く。
「アイベル…。やっぱり今日俺の家に泊まってくれるか?エディウス…お前もこれから俺の家に来るんだ。」
「「え?」」
突然の発言に驚くアイベルとエディウス。
「ブルク長老からはアイベルにはまだ言うなって言われたが…うーん。エディウスは弟の様な存在だしな…。」
アイベルとエディウスは何を言っているのか分からず顔を合わせる。
「二人には話すことがある。知っておかなきゃいけない事だ。」
フィオルは先程とはまるで別人の様な真剣な表情をしていた。
「まぁ着いたら話すよ。」
ここで話したら怖がると思い、笑顔になって言うフィオル。
それから三人はフィオルの家へと歩き出した。
フィオルの家は療養施設から少し外れた丘の上にあり、施設からは300m程離れている。
中央通りを途中で曲がればフィオルの家に繋がる道になるが、クラルに置き手紙を書くとアイベルは言い療養施設に寄ることにした。
「ちょっと待っててね。」
療養施設に着くとアイベルは中に入って行き、二人は外で待つ事になった。
「隊長…。話って何ですか…?俺怖いっす。」
地面に転がる小石を蹴りながらエディウスは問いかける。
「お前はいつも敵から逃げてるじゃないか。この間のダークウルフの時もそうだが…俺の後ろに引っ付いて…。ダークウルフが出て来たと思ったら逃げやがって。あの時のお前の顔ったら…」
フィオルは腹を抱えて笑った。
「笑いすぎですよ…!怖いものは怖いんすよ。」
「じゃあ何でソウルガーディアンズにいるんだよ。」
笑って出た涙を拭いながらフィオルは問う。
「今まで生きて来て一度も誰からも頼られた事無かったから?」
首を傾げながら言うエディウス。
「何だよそれ。今のままじゃ一生頼られる存在になれないぞ?」
「そうですけどー!なりたいんですよー!」
大きな声で子供の様に叫ぶエディウス。
たわいのない話をしているとガチャっと施設の扉が開き、アイベルが出てくる。
「お待たせー。何?またイジメてるのー?」
「アイベルさーん。隊長がー。」
先程と同様にアイベルに助けを求めるエディウス。
「違うよ…!こいつ…。」
子供の様なエディウスの行動に翻弄されるフィオル。
「もういい…。行くぞ!」
少し不機嫌になったフィオルは二人を置き、一人で歩き始めた。
「待ってよー。」「隊長すみませんってー。」
そして、二人は小走りでフィオルに付いて行くのだった。
丘の上にあるフィオルの家へ続く道は上り坂になり、途中から石の階段になっている。
「隊長毎日これは大変ですね…。疲れて来たっす。」
「ホント…!何で途中から階段にしたのよー。」
文句を言う二人に反して慣れた様子で歩くフィオル。
「隊長になって、この家に住むと決まって上り坂を階段に変えてもらったんだ。足腰が一番大事だからな。」
「歳取ったらこんな道毎日登り降りするの無理だからね?その時はおんぶしてよ?」
少しの沈黙。
「毎日?え?何でアイベルさんが…?」
「「……!」」
一緒に住むという事を伝えていなかった二人はハッとした表情になる。
「あ、あれよ。出張でフィオルの家に治療に行ったりーとか?ほら…色々あるじゃない?」
紛らわそうと苦笑いをするアイベル。
「ハァ…。これも機にエディウスには言うか…。アイベルは俺と暮らす事になったんだよ。」
あんぐりと口を開け固まるエディウス。
「……えーー!」
空に響き渡る様な大きな声。
「ちょっと声が大きい!もう夜なんだから周りの人に迷惑だって!」
エディウスの横を歩くアイベルは耳を塞ぎながら言った。
「隊長やばいですってそれ。隊員達や村の人達を敵に回す様なもんすよ…!アイベルさんと一緒に暮らすですって?え、話ってまさかこの事ですか?」
「何で敵になるんだよ!まぁ違うんだけど、違くもないというかきっかけというか…。」
「私も一緒に暮らしたいって思ってたのよ。フィオルを悪く言う人がいたら私が黙ってないから大丈夫よ。でも気になるなぁ。何よそのきっかけって…。」
同棲するという事実を知りエディウスの上るスピードが落ちる。
「もうすぐ着くから…二人とも頑張って歩いてくれ。」
それから三人は黙々と歩き続け、階段を登り終えた。
「よし!おつかれさん。」
エディウスは膝に手を付き、アイベルはハァハァと息を切らしていた。
二人が顔を上げると大きな家が目の前に建っていた。
「さあ、入ってくれ。」
そして三人はゆっくりと家に入って行った。




