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第9話:崩壊の足音

第9話をご覧いただきありがとうございます!

コンプライアンスの監査が入り、追い詰められた水木桃が焦りを募らせた結果、フロアの真ん中で取り返しのつかない失態を演じる「ざまあの加速」回です。

音を立てて崩れていくプライドの行方をお楽しみください!

水木銀行における臨時の業務監査と事情聴取は、数日間にわたって徹底的に行われた。

これまで水木桃の顔色を伺い、保身のために沈黙を守っていた行員たちも、コンプライアンス部門の厳格な追及や、組織全体の空気が変わったことを察知すると、堰を切ったように真実を証言し始めた。誰がどのような理不尽な指示を受け、どれほど業務に支障をきたしていたか。客観的な証拠と証言の積み重ねは、もはや個人の力で覆せるレベルを超えていた。


自分の周りから、媚びへつらっていただけの人間が一人、また一人と蜘蛛の子を散らすように離れていく。

その現実を、桃は最初に受け入れられなかった。


「ふざけないで……! あなたたち、私が誰だか分かっているの!? たかが平社員の分際で、私に逆らう気!?」


ある日の昼下がり、経営企画部のオープンなフロアの真ん中で、桃はヒステリックな声を張り上げた。

すでに自分の保身が不可能だと悟り、処分を恐れた上司の一人が「私はすべて水木様のご指示に従わざるを得なかったのです」と事実を上層部に報告した直後のことだった。その裏切りに耐えきれず、桃の感情の糸が完全に切れてしまったのだ。


フロア中の視線が一斉にそこに集まった。だが、もはやそこにかつての「恐怖の女王」を恐れる者はいなかった。あるのは、冷ややかな呆れと、不祥事を引き起こした元凶を見る軽蔑の目だけだった。


「水木さん、静かにしなさい。ここは私語を慎むフロアです」


通りかかった別の課長が冷たく言い放つ。その態度こそが、彼女がもはやこの組織で「特別な存在」ではないという何よりの証明だった。


「なっ……! あなた、今私に何と言ったの……!?」

「いい加減になさったらどうですか」


その声に、フロアの空気がさらにピリッと引き締まった。

声の主は、佐藤さんだった。彼は手元の資料を持ったまま、微動だにせず、冷徹なまでの静けさを湛えた目で桃を見据えていた。


「ここはあなたがわがままを言う場所でも、他人の尊厳を踏みにじる場所でもありません。自分の行いの結果がどういうものか、少しは大人として理解するべきだ」

「佐藤……! あなたさえ、あなたさえいなければ……! どうして、私の言うことを聞かないのよ! 私に従えば、何でも手に入ったのに……!」


桃は両手で自分の髪をかきむしり、子供のように狂乱した。

自分の権力、財閥の威光、美貌、そのすべてを使ってもなお「自分になびかない人間がいる」という現実。そして、自分が一番見下し、虫けら扱いしていたはずの江崎南に、その男の隣を奪われているという事実。

その二つが、彼女のプライドを完全に粉々に砕いていた。


喚き散らし、フロアのパンフレットの束を床に叩きつけ、見苦しく取り乱す桃の姿は、かつて世界の四割を牛る一族の令嬢という気高さなど微塵も感じさせなかった。ただの、自分の思い通りにならないおもちゃに泣き叫ぶ我が儘な子供のそれだった。


その一部始終を、私は自分のデスクから静かに見つめていた。

かつてあんなにも怖かった人。私の日常を、心を、すべてメチャクチャに踏みにじった悪夢のような少女。

――なのに、今の彼女は、あまりにも小さく、そして憐れだった。


人を傷つけ、力だけを信じて他人を道具のように扱ってきた人間が、いざその力が剥ぎ取られたとき、どれほど無力であるか。因果応報という言葉が、これほど鮮やかに形を伴う瞬間を私は他知らなかった。


その日の夕方、銀行の役員室から桃の耳に、最終的な「勧告」が言い渡されたという噂がフロアを駆け巡った。

自ら泥を塗った彼女に、もはや水木銀行の居場所は一ミリも残されていなかった。

第9話をお読みいただき、ありがとうございます!

追い詰められた桃がフロアでヒステリックに暴走し、かつての「女王」としての威厳が完全に崩壊していく姿を描きました。


次回、第10話「終わりの始まり」では、いよいよ水木銀行から下される最後通牒と、桃自身が選ばざるを得なくなる「退職」の瞬間へと物語が大きく動きます。


次回もお楽しみに!ブックマークや評価、感想などもぜひよろしくお願いいたします!

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