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第5話:佐藤の背中

第5話をご覧いただきありがとうございます!

水木桃の露骨な嫌がらせや圧力が佐藤にも及び始める中、決して折れない佐藤の姿と、それに支えられて強くなっていく南の心の成長を描いた回です。

ふたりの絆が深まっていく瞬間をお楽しみください!

水木桃の怒りと憎悪が佐藤さんへ向くようになってから、銀行内の空気は目に見えてピリついたものになっていった。

桃は経営企画部という自らの権限を使い、佐藤さんが担当する融資案件に対して次々と難癖をつけた。通常ならスルーされるような些細な形式の不備を理由にやり直しを命じたり、会議の場でわざと恥をかかせようとしたりする。それは彼女なりの「自分に逆らった罰」であり、同時に、佐藤さんを庇っている私への遠回しな脅しでもあった。


周囲の行員たちは、かつて私に対してそうだったように、佐藤さんからもそっと距離を置き始めた。

「あんな風に水木家の令嬢を怒らせるなんて、佐藤も終わりだな」

「巻き添えを食いたくないなら、関わらないほうがいい」

そんな陰口が、コピー機の裏や給湯室の隙間からひそひそと聞こえてくる。


けれど、当の佐藤さんは、周囲の冷ややかな空気や桃からの嫌がらせなど、まるで風の音でも聞くかのように涼しい顔で受け流していた。


「佐藤さん、私……私のせいで、こんなことに……」


ある日の夜遅く、フロアの片隅で、私は申し訳なさで震えながら頭を下げた。私のために、佐藤さんまでが社内で孤立し、理不尽な攻撃に晒されている。そう思うと、胸が締め付けられるように痛かった。

すると佐藤さんは、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべ、軽く私の頭に手を置いた。


「何を言っているんだ、江崎さん。君は何も悪くない。それに、僕は誰かに媚びるためにこの仕事をしているわけじゃない。正しいことを、正しい手順でやっているだけだ」


その手のひらの温かさに、涙が出そうになる。

背は決して高くなく、童顔で、一見すると頼りなく見えるかもしれない。けれど、いざという時に見せる彼の背中は、誰よりも大きく、そして頼もしかった。その凛とした生き様を間近で見ているうちに、私のなかで湧き上がっていたのは、かつてのような恐怖ではなく、もっと熱い感情だった。


――この人の力になりたい。この人が守ろうとしてくれる場所を、私も一緒に守りたい。


その日から、私は変わった。

桃がどれほど冷ややかな視線を向けようとも、嫌味な言葉を投げかけてこようとも、私はもう下を向かなかった。桃の理不尽な書類の差し戻しに対しても、不備などないという証拠のデータを完璧に揃え、毅然とした態度で再提出した。


「……ふん、いい度胸じゃない」


私の変化に気づいたのだろう。すれ違いざまに吐き捨てられた桃の言葉に、私は臆することなく、真っ直ぐに彼女の目を凝視して返事をした。

「お疲れ様です。お仕事のほう、しっかりと確認させていただきました」

その一言に、桃は信じられないものを見るような、そして怒りで顔を歪ませるような複雑な表情を浮かべた。彼女にとって、一度「玩具」として恐怖に染め上げた人間が、自分の意思を持って立ち上がるなど、許しがたい例外だったに違いない。


けれど、もう怖くはなかった。

前を歩く佐藤さんの背中を見つめれば、どんな悪意の嵐の中でも、まっすぐに進んでいける気がしたからだ。

水木銀行という閉ざされた檻の中で、私と佐藤さんは、静かに、しかし確実に反撃の絆を紡ぎ始めていたのだった。

第5話をお読みいただき、ありがとうございます!

桃からの嫌がらせが佐藤にも及ぶ中、佐藤の変わらぬ誠実さと、それに触発されて恐怖を乗り越えていく南の精神的な成長を描きました。


次回、第6話「綻び始める歯車」では、桃の個人的な私怨や横暴が、ついに銀行全体や組織の中枢にまで悪影響を及ぼし始め、大きな不穏の空気が漂い始める展開をお届けします。


次回もお楽しみに!ブックマークや評価、感想などもぜひよろしくお願いいたします!

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