シーズン2・第1話:忍び寄る暗雲
皆様、お待たせしました!「水木グループの狂犬令嬢に狙われた新入行員ですが、なぜか推し上司と結ばれました」のシーズン2が開幕です!
平穏な日々を手に入れた南と佐藤の前に、再び忍び寄る暗い影と、容赦のない運命の試練。愛と現実の狭間で揺れ動くふたりの新たな物語を、どうぞお楽しみください!
水木桃が銀行を去り、そして実家からも完全に放逐されてから半年。
水木銀行の経営企画部は、かつての重苦しい空気や理不尽な威圧感とは無縁の、穏やかで活気ある職場へと生まれ変わっていた。
デスクに向き合い、テキパキと融資関連の書類を処理していく。その隣の席には、いつも変わらず穏やかな笑みを浮かべた佐藤さんが座っている。
仕事が終われば二人で並んで帰り、休日はお互いの趣味や思い出の場所を巡る。あんなにも冷たく残酷だった世界が、いまや私にとって、これ以上ないほど温かく愛おしい場所に変わっていた。
「南、今日の夕方、ちょっと新しいプロジェクトの進捗について相談してもいいかい?」
ふと、佐藤さんが手元の資料から顔を上げ、優しい声で私に話しかけてきた。
「はい、喜んで! 私の方でもまとめておきますね」
名前で呼ばれるたびに、胸の奥が甘くくすぐったいような、確かな幸福感で満たされる。私たちは互いに支え合い、公私ともに満ち足りた日々を過ごしていた。
――あの報せが届くまでは。
その異変は、穏やかな春の日の午後に突然訪れた。
佐藤さんのデスクに置かれた内線電話が鳴り響く。受話器を取った佐藤さんの表情が、一瞬にして硬くなった。電話の向こうから聞こえてくるのは、彼の故郷の病院からの緊急連絡だった。
「……父が、倒れた……?」
血の気が引くような佐藤さんの呟きに、私の背筋が凍りついた。
慌てて有給を調整し、その日のうちに佐藤さんは地方にある実家へと急行した。私も業務を終えたあと、すぐに後を追って彼の地元へと向かった。
病院の殺風景な待合室で顔を合わせた佐藤さんは、いつもの落ち着いた雰囲気が嘘のように、やつれ、深い絶望の色を瞳に宿していた。
病室のベッドで眠る父親の診断は、想像以上に過酷なものだった。
心臓の難病。一刻も早い大掛かりな手術が必要だが、地方の小さな病院では対応できず、都内の専門大学病院での高度な治療が不可欠だった。さらに、健康保険の適用外となる最先端の特殊治療や長期の入院費を含めると、必要となる資金は、一般のサラリーマン家庭にとってはあまりにも途方もない額――数千万円にものぼるという。
「僕が……僕の貯金をすべて崩しても、到底足りない……。保険も、これまでの医療費ですでに限界なんだ……」
廊下の隅で、佐藤さんは頭を抱え、震える声で呟いた。
いつも凛としていて、どんな理不尽な圧力にも折れなかった彼のそんな弱々しい姿を見るのは、初めてだった。胸が締め付けられるように痛む。私がどれだけ「大丈夫、一緒に何とかしよう」と励ましても、現実の冷酷な数字の壁はあまりにも高かった。
父親の命を救うため、一刻も早く資金を用意しなければならない。
しかし、銀行員としての給与だけでは、数千万円という大金を数週間以内に工面するなど物理的に不可能に近かった。銀行からの融資を受けようにも、親族の資産や担保が足りず、審査のハードルは果てしなく高かった。
出口のない暗闇の中で、私たちは途方に暮れていた。
――だが、その絶望の淵にいる佐藤さんのもとに、まるで悪魔のささやきのように、あり得ないルートから「救いの手」が差し伸べられたのは、その数日後のことだった。
かつて銀行を追われ、すべてを失ったはずの水木桃が、なぜか闇の資本を背景に息を吹き返し、再び彼女の「牙」を研ぎ澄ませていたことを、私たちはまだ知らなかった。
シーズン2・第1話をお読みいただき、ありがとうございます!
平穏で幸せな日常を送っていた南と佐藤の前に、父親の重病と莫大な医療費という残酷な現実が立ちはだかる開幕となりました。
次回、第2話「悪魔の条件」では、絶望する佐藤の前に、すべてを奪われたはずの水木桃が再び姿を現し、残酷すぎる取引を突きつける緊迫の展開をお届けします。
シーズン2もぜひ最後まで応援よろしくお願いいたします!ブックマークや評価、感想などもお待ちしております!




