第15話:春風の温度
ついに最終話(第15話)となりました!
ここまで「水木グループの狂犬令嬢に狙われた新入行員ですが、なぜか推し上司と結ばれました」をお読みいただき、本当にありがとうございます!
過去のトラウマを完全に乗り越え、佐藤と共に温かな未来へと歩み出す南の結末を、どうぞ最後までお楽しみください!
東京の街を包んでいた肌寒い空気はすっかり姿を消し、オフィスへと続く並木道には鮮やかな新緑が芽吹いていた。
水木銀行の経営企画部。あの息が詰まるような重苦しさや、冷たい恐怖が支配していたフロアは、今ではすっかり活気と笑顔を取り戻し、誰もが自分の仕事に誇りを持って向き合える場所になっていた。
デスクに向かい、キーボードを叩く私の手つきは、かつてのように迷ったり震えたりはしない。
正確に、そしてスピーディーに融資関連のデータを処理していく私を、隣のデスクから佐藤さんが頼もしい眼差しで見守ってくれている。視線がぶつかると、彼は何も言わずにふっと柔らかく微笑み、私もそれに小さくうなずき返す。
それだけのやりとりで、胸の奥が温かさで満たされていく。
高校時代の卒業間際に突きつけられた、あの理不尽な悪夢。
自分の意思とは関係なく、他人の気まぐれや悪意によって人生の舵を奪われ、すべてを諦めかけていたあの頃の自分に教えてあげたい。
――怖がらなくていいよ。あなたは一人じゃないし、ちゃんと自分の足で、大切な未来を掴み取れるから、と。
「江崎さん、今日の午後からの融資先へのヒアリング、一緒に出発の準備はいいかい?」
「はい、佐藤さん! 資料のファイリングも完璧です」
声をかけられて立ち上がった私の左手の薬指には、派手ではないけれど、上品で温かみのあるシンプルなリングがひっそりと輝いていた。
休日、二人でゆっくりと選びに行ったものだ。あの暗い檻の中で震えていた私が、今こうして自分の足で立ち、愛する人と共に未来を歩んでいるという確かな証だった。
仕事が終わり、定時を迎えた夕方。
私たちは手を繋いで、銀行のエントランスを出た。
見上げる空はどこまでも高く、どこまでも青い。
かつて私を縛り付けていた水木家の名前も、冷酷だった経営企画部の檻も、今では遠い過去の出来事のように色褪せていた。世界は広く、そして優しかった。
「行こうか、南」
「はい、佐藤さん!」
名前を呼ばれ、彼の温かい手にしっかりと手を握り返す。
吹き抜けていく春風は、驚くほど心地よく、私たちの未来を祝福するように優しく頬を撫でていった。
理不尽な世界で、私を救ってくれたのは、あの日の静かな正義だった。
――もう、振り返る必要はない。私たちはこの温かな光の中で、いつまでも、どこまでも歩いていけるのだから。
最終話(第15話)までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました!
理不尽な環境や悪役からのいじめ、そして絶望を乗り越えて、主人公の南が愛する佐藤さんと共に最高のハッピーエンドを迎えました。
ここまで温かい応援やブックマーク、感想をくださった読者の皆様のおかげで、無事に完走することができました!
また新しい作品や、別の世界線でお会いできるのを心より楽しみにしています。
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