第14話:伝えたい想い
第14話をご覧いただきありがとうございます!
すべての嵐が去ったあと、南と佐藤が二人きりで静かな時間を過ごし、胸の奥に秘めていた大切な想いに向き合っていく甘く温かな回です。
ふたりの関係が大きく動き出す瞬間をお楽しみください!
水木桃が銀行を去り、そしてその影が完全に消え去ってから、季節はさらに巡り、街はすっかり穏やかな春の陽気に包まれていた。
水木銀行のフロアには、以前のピリついた緊張感や息の詰まるような重苦しさはもうどこにもない。行員たちはそれぞれのデスクで笑顔を交わし、活気と信頼に満ちた空気がしっかりと根付いていた。
私もまた、新入行員としての慌ただしさを少しずつ抜け出し、先輩としての仕事を任されるようになっていた。
あの悪夢のような日々が嘘のように、今の私の毎日は充実していた。そして何より――私の隣には、いつも佐藤さんがいてくれた。
その日の業務を終えたあと、私たちは久しぶりに二人で会社の近くの小さなカフェにいた。
窓際の席に並んで座り、夕暮れに染まり始める街並みを眺めながら、私たちは他愛のない雑談を楽しんでいた。
「来月から、新しいプロジェクトの主担当になるんだってね。佐藤さん、本当におめでとうございます」
「ありがとう、江崎さん。でも、ここまで来られたのは僕一人の力じゃないさ。君がしっかり隣で支えてくれたからだよ」
柔らかく微笑む佐藤さんの横顔を見つめながら、私はふと、胸の奥がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
高校時代のあの絶望的な出会いから始まり、この銀行で再び悪夢に引き戻されたとき、私を真っ先に暗闇から救い出してくれたのは、間違いなくこの人だった。どれほど権力や理不尽な圧力が迫ろうとも、決して折れず、静かな正義を貫いて私を守ってくれた。
いつしか私のなかで、彼に対する感情は、単なる「憧れの上司」や「恩人」という枠を超えて、もっと深く、かけがえのないものに変わっていた。
(伝えたい、な……)
カップに伸びる自分の手が、わずかに小刻みに震えているのが分かった。
緊張しているのだ。けれど、もうあの頃のような「怖い」という震えではない。自分の素直な気持ちをちゃんと言葉にして伝えたいという、温かい勇気からくるものだった。
ふと、佐藤さんが優しい目を向けて私に尋ねた。
「どうかしたかい? なんだか少し、顔が赤いみたいだけど」
「あ……ううん、何でもありません!」
慌てて首を振ったけれど、ごまかしきれないと悟った私は、ゆっくりと息を吐き出し、意を決して正面から彼の瞳を見据えた。
騒がしい街の音が遠ざかり、夕暮れの光が二人を優しく包み込む。
「佐藤さん。……私、ずっと言いたかったことがあります」
「うん、聞いてるよ」
彼のその穏やかな眼差しに背中を押され、私は胸に秘めていた想いを、一言一言、丁寧に紡ぎ始めた。
「私、あのときは本当に絶望していて……自分がどうなっちゃうのか怖くて仕方がなかったんです。でも、佐藤さんがあのとき私を庇ってくれて、『正しいことは正しい』って背中を押してくれたから……私は、前を向くことができました」
言葉につまりながらも、私はまっすぐに彼を見つめた。
「佐藤さんと一緒に働くうちに、私にとってあなたは、ただの上司じゃなくなって……。ずっと、私の隣で笑っていてほしい、大切な人になりました」
言い終えた瞬間、自分の耳まで真っ赤に染まっているのが自分でも分かった。
カフェの店内のBGMがやけに遠く聞こえる。返事を待つ数秒間が、まるで永遠のように長く感じられた。
――けれど、次の瞬間。
佐藤さんは驚いたように目を丸くしたあと、これまで見たこともないほど深く、そして心からの愛おしさを湛えた笑みを浮かべた。
「……ありがとう、江崎さん。実は、僕もずっと同じことを思っていたんだよ」
そっと差し出された彼の温かい手が、私の震える手のひらを優しく包み込んだ。
その手のひらの温度を感じたとき、私の胸を満たしたのは、言葉にできないほどの安心感と、溢れんばかりの幸福感だった。
理不尽な世界で引き裂かれそうになっていた私たちの糸が、ようやく本当の意味で結ばれた瞬間だった。
第14話をお読みいただき、ありがとうございます!
すべての試練を乗り越え、南が佐藤へ自分の素直な想いを伝え、二人が心を通わせる甘く温かな展開を描きました。
次回、いよいよ最終話となる第15話「春風の温度」をお届けします!
過去の呪縛を完全に断ち切り、新しい未来へ向けて歩み出す二人の大団円をぜひお楽しみに!ブックマークや評価、感想などもよろしくお願いいたします!




