第11話:放逐の報せ
第11話をご覧いただきありがとうございます!
水木銀行を去ることになった水木桃の報せが、ついに世界の四割を牛る実家「水木本家」へと届く回です。
栄華の頂点から転落し、家族からも完全に見放されていく孤独な結末を描きました。お楽しみください!
水木銀行を「自主退職」という名の事実上の追放で去った水木桃の報せは、その日のうちに、東京の都心にそびえ立つ水木グループの本家本邸へと届けられていた。
広大な日本庭園に囲まれた重厚な洋館。その一室で、当主である桃の父親、そして一族の重役たちが顔を揃えていた。
テーブルの上には、水木銀行の頭取名義で送られてきた「臨時の業務監査に関する最終報告書」と、桃の不祥事および一連の職務規程違反を詳述した分厚い書類の束が置かれていた。
「……これが、あの子がしでかしたことの顛末か」
父親の低い声が、静まり返った部屋に響いた。
普段は慈悲深く、財界の慈善事業家として穏やかな笑みを絶やさない彼の顔には、今や深い怒りと、それ以上に冷徹な失望の色が張り付いていた。
水木家は、世界の経済の四割にその名を連ねる超巨大財閥だ。その名誉と信用は、一族の血肉よりも重い。どれほど可愛い我が子であろうとも、グループ全体の信用を傷つけ、あろうことか私的な私怨で銀行の業務に深刻な実害を与えた人間を、組織が庇うことなど絶対に許されない。
「奥様や妹君の手前もあり、これまで本人の勝手気ままな振る舞いにもある程度目を瞑ってまいりましたが……今回の件は、もはやグループ全体のコンプライアンスに関わる重大な汚点です。これ以上放置すれば、本家の求心力そのものに疑義が生じかねません」
側近の重役が、冷徹な事実を淡々と告げる。
母親や、心優しいことで知られる妹の名前も出されたが、誰も庇う者はいなかった。身内びいきで組織の致命傷を見逃すほど、水木家の人間は甘くはなかったのだ。すべてを手に入れ、すべてを思い通りにできると信じ込んでいたのは、当事者である桃一人だけだった。
「……分かった」
父親は深く息をつき、冷たく言い放った。
「あの子を本家の籍から外す。グループの関連企業、いかなるポストへの関与もすべて禁じる。……これより、水木桃の社会的立場の一切を凍結する」
それは事実上の「勘当」、そして一族からの完全な追放宣告だった。
その頃、本家の別邸に引き戻された桃は、自分の部屋で信じられない思いで立ち尽くしていた。
いつもなら「お帰り、桃」と優しく声をかけてくれるはずの母親は冷たい目を向けたまま部屋の前を通り過ぎ、いつもおっとりとしていた妹は、恐怖を見るかのように怯えた目で桃を遠ざけた。
「お父様、どうしてなのよ!? 私は、水木家の人間よ! たかが銀行の平社員ごときのために、どうして私を……!」
父親の書斎の扉を叩き、叫ぶ桃に、返ってきたのは冷酷な宣告だけだった。
「お前が潰したのは、銀行の信頼だけではない。お前自身の居場所だ。これより、お前に対する一切の支援を断つ。勝手に生きるがいい」
ガチャン、と重い鍵が閉まる音がした。
足元からすっと血の気が引いていくような感覚。振り返っても、そこには誰もいない。彼女をチヤホヤし、その機嫌を取るために周囲に群がっていた人間たちは、水木家の威光が剥ぎ取られた瞬間、綺麗に霧散していた。
世界の四割を握る家の、たった一人の娘。
何不自由なく、すべてを自分の手のひらの上で支配していると信じ込んでいた少女は、その広大で冷たい世界の真ん中で、初めて完全なる「独り」になった。
誰も手を差し伸べない。誰も名前を呼んでくれない。
自らが蒔いた傲慢の果てに、彼女が辿り着いたのは、あまりにも静かで、あまりにも冷たい絶望の底だった。
第11話をお読みいただき、ありがとうございます!
銀行を追われた桃が、実家である水木本家からも完全に見放され、一族から勘当される因果応報の結末を描きました。
次回、第12話「静寂のオフィス」では、嵐が去り、かつての重苦しい空気から解放されて穏やかな日常を取り戻した水木銀行の様子と、南の安堵を描いていきます。
次回もお楽しみに!ブックマークや評価、感想などもぜひよろしくお願いいたします!




