第19話 魔王と勇者が同じ軍に入る
魔王城へ戻ると、求人票が貼られていた。
『緊急雇用』
『職種――世界救済』
『契約期間――三日』
『休日――なし』
『残業手当――五倍』
「休日がない!」
魔王軍が抗議していた。
「三日後に世界がなくなる!」
セレナが玉座から答える。
「だからこそ休みたい!」
「正論を言うな!」
「最低でも交代制を!」
「採用する!」
世界救済軍は、三交代制になった。
人間連合軍からも志願者が来た。
王国騎士。
神官。
農民。
大工。
御者。
料理人。
魔族の兵士と同じ受付へ並ぶ。
「所属は?」
「白耀騎士団」
「今回の職種は?」
「世界救済」
「希望勤務時間は?」
「いつでも」
「規則上、八時間までです」
「世界が滅びるぞ」
「だから交代制です」
グレンがうなずいた。
「理にかなっている」
「団長まで魔族に染まった!」
騎士が嘆いた。
「休め。判断力が落ちる」
「染まっている!」
玉座の間には大きな地図が広げられた。
ミナが崩壊地点を示す。
七百二十一か所。
魔力が大地の中で詰まり、噴き出そうとしている。
「全部直す時間はない」
セレナが言った。
「詰まりを一つへ集めます」
ニールは地図の中央を指した。
ルート村。
「なぜ村だ」
アデルが聞く。
「地下に古い魔力水路があります」
「知っていたのか」
「水路だと思って使ってました」
「何に」
「畑へ水を引くのに」
「世界の魔力水路を灌漑に使ったのか!」
「よく育ちます」
大賢者オルドが地図をのぞく。
「思い出した。初代勇者と魔王が戦った場所だ」
「なぜ村になってるんです」
「戦場の跡は土が肥える」
「何が埋まってるんです」
「だいたい骨だ」
「聞かなければよかった」
七百二十一の閉塞地点を、一つずつ開く。
最初の報告は、砂漠国から届いた。
「第一班! 閉塞地点が見つからない!」
「地図の座標は?」
「砂丘の中央だ!」
「砂丘は動きます!」
「先に言え!」
「砂漠の人なら知ってるでしょう!」
現地の遊牧民が、古い井戸を知っていた。
魔力水路はその下だ。
騎士が鎧を脱ぎ、魔族が角へ布を巻き、全員で砂を掘る。
二つ目は海洋国。
「第二班! 海底です!」
「泳げる人は?」
「海洋兵は全員!」
「魔族側は?」
「全員沈みます!」
「船で縄を持ってください!」
海の民が潜り、魔族が船上で石を引き上げる。
三つ目は山岳国。
「第三班! 岩が硬すぎます!」
「レオンを送ります!」
「ルート村班では?」
「一度だけ飛竜で!」
レオンは山へ運ばれた。
巨岩の前で腕を回す。
「《天崩――》」
「技名を言う前に掘ってください!」
「遠くからも止めるのか!」
「通信石です!」
岩を砕き、三十分で戻った。
「役に立ったぞ!」
「かなり」
「もっと驚け!」
森では茸の根が魔力水路を塞いでいた。
森王が抜くのを拒んだ。
「希少種よ!」
「世界が滅びます!」
「移植して!」
人間の薬師と魔族の園芸師が、土ごと掘り上げる。
月影茸は助かった。
魔力水路も開いた。
「茸も世界も救った」
バルドが言う。
「あなたは食べないでください」
「一度で学んだ」
「苦かったから?」
「高かったからだ」
七百二十一班には、七百二十一通りの問題があった。
共通の正解はない。
剣で壊す場所。
丁寧に移す場所。
水を抜く場所。
水を入れる場所。
誰かの知識を借りる場所。
世界を救うとは、一つの大きな答えを当てることではなかった。
小さな土地ごとに違う答えを、そこにいる者と探すことだった。
魔力を古い水路へ流す。
ルート村へ集める。
そこから次世界への道を開き、外へ送る。
「《天秤》は道を開けると約束していない」
ミナが言う。
「開けさせます」
「どうやって」
「まだ考えてません」
「三日よ」
「だから先に、できることをします」
軍を七百二十一班へ分ける。
一班につき、人間と魔族を最低一人ずつ。
現地の住民を加える。
閉塞の原因は場所ごとに違う。
崩れた洞窟。
古い城壁。
枯れた大樹。
巨大な魔獣。
それぞれの土地を知る者が必要だ。
「軍隊の仕事ではない」
アデルが言う。
「だから負けません」
「何にだ」
「戦争なら相手がいます。これは仕事です」
レオンが進み出た。
「私はどの班だ」
「ルート村です」
「特別扱いか」
「力仕事が多い」
「特別ではないのか」
「かなり多いです」
「なら任せろ!」
セレナも立った。
「私も村へ行く」
「城は?」
「今、魔力が私へ集まっている。出口まで私が運ぶ」
「危険です」
「魔王だからな」
「答えになってません」
「今日はなる」
勇者と魔王が同じ班へ登録された。
受付係が困った。
「役職欄はどうします」
「元勇者」
レオンが答える。
「魔王」
セレナが答える。
「上下関係は?」
「私が上だ!」
二人の声が重なった。
受付係は空欄にした。
ニールは全班へ短い命令を出した。
「魔力を感じたら、地面を見てください」
「それだけか」
グレンが聞く。
「空を見ても、原因はだいたい地面にあります」
「村人らしいな」
「村人です」
世界救済軍が出発する。
人間の飛竜。
魔族の黒竜。
馬車。
船。
徒歩。
世界中へ散っていく。
ニールたちはルート村へ向かった。
火竜グラノス二十七号も飛んできた。
背には牛が一頭乗っている。
「なぜ牛が」
ニールが聞く。
火竜は答えない。
牛も答えない。
レオンが胸を張った。
「私より強い援軍だ!」
「認めるんですね」
「今日だけだ!」
ルート村が見える。
村長の家は、まだない。
代わりに更地の中央へ看板が立っていた。
『世界救済工事予定地』
村長が看板の横で泣いている。
「わしの土地!」
ニールは地上へ降りた。
「世界を救ったら建てます」
「四回目だぞ!」
「今度は石造りにします」
「先に言え!」
空の数字が『2』へ変わった。
残り二日。
人間と魔族と牛が、同じ地面を掘り始めた。
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