第16話 王様だけ話を聞いてくれない
人間連合軍は、七か国から集まっていた。
総数、十二万。
魔王城まで三日。
世界滅亡まで十九日。
「時間はある」
国王が言った。
「三日しかありません」
「世界滅亡より十六日早い」
「魔王が死ねば三秒です」
「それは困る」
「だから止めてください」
「我が国の軍は止められる」
「ほかの六か国は?」
「他国だ」
「見ればわかります」
「内政干渉になる」
「世界が滅びます」
「外交には手順がある」
会議室には鏡型の通信装置が並べられた。
連合各国の王と話すためだ。
一枚目の鏡。
砂漠王ハシム。
「魔王を倒すなと言うのか!」
「はい」
「なぜだ!」
「世界が滅びます」
「魔王を倒せば世界は救われる!」
「三秒で滅びます」
「四秒で救えばよい!」
「一秒遅い!」
二枚目。
海洋女王マレア。
「証拠を見せなさい」
ミナが水晶の記録を送る。
魔力飽和。
魔王死亡時の予測。
世界樹の記録。
「偽造ね」
「どこがです」
「魔王城から届いた情報はすべて偽造よ」
「王国から送ってます」
「魔王に操られた王国ね」
「では、どこから送れば信じます?」
「我が国から」
「往復十日です」
「急ぎなさい」
「軍を止めてください」
「証拠を見てから」
三枚目。
山岳王ドラン。
「話はわかった」
「止めてくれますか」
「すでに軍は出た」
「伝令を」
「追いつかん」
「飛竜は?」
「軍が全部連れていった」
「通信鏡で前線と話せませんか」
「将軍が持っている」
「今、その将軍へ」
「鏡は一対だ。こちら側はわしが持っている」
「では、将軍側とつながっているはずです」
山岳王は鏡の裏を見た。
「違う鏡だった」
「どことつながっています?」
「お前たちだ」
「見ればわかります!」
四枚目。
森王。
寝ていた。
起こすと、森王は七歳の少女だった。
頭に木の葉を載せている。
「母樹が決める」
「母上では?」
「母樹」
鏡の向こうで、巨大な樹が葉を揺らした。
森王は耳を澄ます。
「魔王を倒せと言ってる」
「理由は?」
「去年、魔族が森の茸を取ったから」
セレナがバルドを見た。
「第三補給隊です」
「許可は?」
「取ってません」
「返せ」
「食べました」
「では代金を払え!」
世界滅亡を止める会談が、茸の賠償交渉になった。
「金貨二百枚」
森王が言う。
「高い!」
財務大臣が人間側から反応した。
「なぜあなたが」
「相場だ。茸なら金貨三十枚」
「希少種だった」
「何という茸です」
ニールが聞く。
「月影茸」
「乾燥させれば薬になります」
「食べました」
バルドが繰り返した。
「味は?」
「苦かった」
森王の顔が怒りで赤くなった。
「薬用茸を焼いたの!」
「塩も振った」
「もっと悪い!」
セレナは金貨二百枚の支払いを約束した。
森王は軍へ停止命令を出すと言った。
「茸で一国止まった」
ニールが呟く。
「世界は、だいたい小さな恨みで動く」
セレナが答えた。
残る五か国も同じだった。
大義の下には、国境争い、未払いの交易代金、先代からの侮辱がある。
魔王討伐は、それらを一つにまとめる便利な旗だった。
旗を下ろすには、真実だけでは足りない。
茸の代金まで払う必要があった。
五枚目。
少年王。
「母上へ聞かないと」
六枚目。
教皇。
「神託では魔王を倒せと出た」
「いつの神託です」
「八百年前だ」
「古い!」
「神の言葉に期限はない!」
「世界には期限があります!」
通信は全部失敗した。
レオンが机を叩いた。
「私が前線へ行く!」
「元勇者の話を信じますか」
「信じさせる!」
「どうやって」
「剣で!」
「それで戦争が始まります」
「では言葉で!」
「最初からそうしてください」
国王が咳払いした。
「一つ問題がある」
「まだ?」
「連合軍の総司令官は、聖征王アデルだ」
部屋が静かになった。
セレナも顔を上げる。
「誰です」
ニールだけが知らなかった。
「百戦無敗。六か国の戦争を終わらせ、三つの反乱を一日で鎮圧した王だ」
グレンが説明する。
「勇者レオンの養父でもある」
ニールはレオンを見た。
「説得できますか」
「……難しい」
「どんな人です」
「正しい人だ」
「いいことでは?」
「自分が間違う可能性を考えない」
レオンの声が低い。
「私を勇者に育てた。魔王を倒すために」
「あなたがやめたと知ったら」
「魔王に心を奪われたと思う」
「合ってますね」
「合ってない!」
セレナがレオンを見た。
「心を奪った覚えはない」
「当たり前だ!」
「返却手続きもしていない」
「最初からない!」
国王は立ち上がった。
「我が国軍へは撤退命令を出す。だが私は魔王城に残れん」
「なぜです」
「王都へ戻る。連合から離脱すれば、国内も荒れる」
「一緒に前線へ来てください」
「断る」
「王様だけ、なぜ話を聞いてくれないんです」
「聞いたうえで断っている」
「もっと悪い!」
国王はニールの肩へ手を置いた。
「国には国の仕事がある。お前にはお前の仕事がある」
「押しつけてませんか」
「かなり」
「認めるんですね」
「王だからな」
国王と財務大臣は王都へ戻った。
神殿長も、各地の神官へ真相を知らせるため去った。
残った者で前線へ向かう。
レオン。
グレン。
ニール。
ミナ。
セレナは魔王城を離れられない。自分が前線へ出れば、連合軍の攻撃目標になる。
「私は城で待つ」
「攻撃されたら?」
「耐える」
「反撃は?」
「しない」
「魔王軍が黙ってません」
「黙らせる」
「どうやって」
「残業手当を三倍にする」
「働かせてます」
「防壁の修理だ」
「そのためですか」
「戦うより忙しくする」
ニールはうなずいた。
村でも、喧嘩を始めそうな者へ仕事を渡す。暇な手ほど余計なことをする。
「三日、持たせてください」
「二日で戻れ」
「何か起きます」
「起こすな」
黒竜の馬車へ乗る。
今度は座席が足りた。
村長を置いてきたからだ。
「わしも行く!」
毛布倉庫から声がした。
誰も聞こえないふりをした。
馬車が飛ぶ。
空から見ると、街道が軍で埋まっている。
十二万の人間。
武器を持つ者だけではない。
荷車を引く者。
食事を作る者。
馬の世話をする者。
負傷者を治す者。
彼らも暮らしを背負って進んでいる。
「戦わずに止めます」
ニールが言った。
「十二万だぞ」
グレンが答える。
「だからです。十二万人は、戦う前に食べます」
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