47.これから
ピアノの体験を終えた遥は、すぐに入会を決めた。
「先生、これからよろしくお願いします」
遥の深いお辞儀に対して、本多はわずかに頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくね」
「それじゃあ私、スタジオに行ってきます!」
「はーい。頑張ってね~」
本多は手を振って遥を出口まで見送った。
スタジオまでの道のり、遥はほわっとした気分のまま、背負うギターがいつもより軽く感じていた。
自然と頬が緩む。
(ユキくんの曲、見えるといいな)
「よっ! 久しぶり」
真横から声をかけられた。
考え事をしていたタイミングと声をかけられたタイミングが合わさって、遥はとびきりの笑顔を哲央に向けた。
「わぁ、てっつん! 久しぶり~」
哲央は驚いた顔をした後、少し照れたように笑った。
「なんだか嬉しそうだな」
「えへ~、ちょっとね。ユキくんの曲、いつか形にできそうなの」
「おお、そうなんだ。でも無理するなよ」
「大丈夫。無理しない」
「遥は……笑っているのがいいよ」
哲央は、少し言葉を詰まらせながら言った。
「そりゃ、みんなそうでしょ?」
「ま、まあそうだな」
スタジオに着いた。遥と陣は、目が合うなりお互い小走りになった。
「はるちゃーん!」
「陣くーん!」
――パチン!
勢いよくハイタッチ。
「よし! まずは、久しぶりに合わせるか!」
NOは、二人の行動を特に気に留めることもなく言った。
「NOお前、すごいな」
哲央はあっけに取られている。
「なに、なに? てっつんもハイタッチしたかった?」
陣はにっこりしながら、哲央に向かって手を上げてみせた。
「俺はいいよ」
哲央は横を向いた。
「はるちゃん。てっつんもハイタッチしたいって、もう一回しよ~!」
「うん! てっつんもハイタッチ!」
遥は、哲央の手にぺしっとハイタッチした。
「お、おう。ハイタッチ」
「ほら、お前ら始めるぞ」
NOは、しっしっと手を振りながら3人を急かした。
いそいそと遥はギターのストラップを肩に掛け、アンプに繋ぐとCコードを一音鳴らした。
(同じCなのに、ピアノと違う)
4人で数曲合わせた。
(やっぱり同期だと、弱いよね……)
「なあ、みんなは今やってみてどう思った? なあ遥?」
NOは水を一気に飲むと、顔に張り付くラベンダーピンクの髪をかき上げた。
そして遥を真っ直ぐに見た。
「えっと……」
強い眼差しの先にある言葉が怖くて、遥は思わず視線を落とした。
「まあさ、今まではツインギターでやってたけど、ワンギターに方向転換していくのはどうだ?」
哲央が遥と陣をチラッと見ながら言った。
「おい哲央。この前のライブや今の演奏で、本当にそう思うのか?」
NOは容赦なく哲央に畳みかけた。
「も、もっとみんなで練習すれば……」
「うんと、じゃあさ、NOはどういう考えなの?」
陣はNOに尋ねた。
「俺は新しくギタリストを入れるべきだと思う」
その答えにみんなの視線がNOに集まる。
(ああ……)
「えっ、で、でもユキく」
「ユキの音を残すためにもな」
NOは遥の言葉を遮った。
――!
遥の指先がビクッと動いた。
頭の上から真っ直ぐに稲妻が落ちたみたいな衝撃だった。
「ユキくんの音のため……」
遥は呆然とNOを見た。
「俺は、MONDEはツインギターこそだと思ってる。今までの曲はもちろん、これから出来るだろう新しい曲もな」
遥にはNOは、なんの迷いもなく言っているように見えた。
(NOくんは、すごい。ユキくんのこと、そしてきちんと未来まで見てる)
「NOくん。ありがとう。私、ユキくんの遺してくれた曲を、いつかバンドで演奏できるようにするよ。まだ、時間はかかりそうだけど」
「そっか。待ってるよ」
「うん。新しいメンバー……入っても、ユキくんは……うっ、うっ」
言葉に詰まる。涙が勝手に流れてくる。
陣がそっとティッシュを渡してくれた。
「遥、お前が一番わかってるよな」
「ゔっ、うん」
「俺は遥がいいなら、それでいい」
哲央は静かに言った。
「僕もツインギターがいいな。それではるちゃんと下手を守る!」
陣は遥の腕にぎゅっとくっついた。
「なんだよ。それ!」
哲央は、陣の頭をピシッと叩いた。
「てっつん、痛いよ~。てっつんは後方の守りだからね」
「NOくん。誰か入ってくれる人の心当たりはあるの?」
遥はざわつく胸に蓋をして聞いた。
「全くない! 一から探すか募集するかだな」




