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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第二部 音の礫ー第一章 休息
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49/53

45.休息3

**2カ月目**


はるかは部屋の窓を開け、空を見上げた。朝から空はどんよりと重たい色をしている。

突き刺すような冷気に肌を撫でられ、肩を震わせ縮み上がった。


「寒ーい。ライブの頃には、降るよね……」


少し空気の入れ替えをしたが、寒さに負けて早々に窓を閉めた。


携帯電話を開き、みこにメールを打つ。


――おはよー


寒いよー。雨降りそう。

ライブに履いていく靴どうしよう?

傘もジャマになるし……



ピッ。

送信ボタンを押した。



そして、遥はプラスチック製のケースを開けた。ユキのノートと目が合う。

ノートをそっと持ち上げて、その下にしまわれた封筒と便箋を取り出した。


ペンを取り出して、便箋に文字を走らせる。





トビーさん


お久しぶりです。覚えていますか?

国東遥くにさきはるかです。


私、今バンドやっています。

トビーさんと同じギターです。

ムンボのステージにも立ちました。

ドラム、ベース、ギター、ボーカルが重なって一つの音楽になるのって、最高に楽しいですね。


私は、あなたに憧れて楽器を始めました。

トビーさん、私に最初の光を与えてくれてありがとうございます。


DOLL(ドール) THEATER(シアター)、ずっと応援してます!


                          国東遥




遥は便箋を封筒にしまい、封をした。



携帯電話を見るとみこから返事が来ていた。


――やっほー!


ライブ楽しみだね!

でも雨いやー。

私はブーツ履いていく!

これなら濡れても大丈夫だもん。


また後で駅でねー



(ブーツか~)


携帯電話を少し見た後、一人大きく頷いた。



**DOLL THEATER**


「みこ~!」


「遥~!」


二人は池袋駅で待ち合わせると、お互い確認することもなく、いつものファミレスに向かった。


「ついに5周年ワンマンだね!」


席に着くとみこは、自作の特製“ピッピ”カバンを握りしめながらにんまり笑った。


「チケ番は微妙だけどね……」


遥はチケットの番号を眉間に皺を寄せながら見つめた。


(でもMONDE(モンド)が、こんなにお客さん入ったら、すごい)


「ふぅー」


小さく溜め息をつくと、チケットをしまった。


(でも、DOLL THEATERは前で見たい……)


「今日はなにか発表あるかな?」


みこの弾む声に、遥の心も軽くなる。

顎に指を当てながら考えた。


「うーん、新曲とツアーかな」


「うんうん! 新曲ありそう! 今日、披露しそうだね」


(新曲かー、トビーさんはどうやって曲を作っているのかな?)


遥はストローでコーラをすする。


(想いを音にするって難しいな。昔、ユキくんは言葉にすると狭くなるって言ってたけど……)


「遥~、ぼーっとしてどうしたの?」


みこに、肩をつんつんされて遥は我に返った。


「ごめん。トビーさんって、どうやって曲を考えているのかなって思って」


するとみこは、目を見開いてニカッと口角を上げた。


「さすが演者! 考えることが違うね!」


「……私、曲が上手く作れなくって」


遥は肩をすくめた。そして続ける。


「だからね、私、習おうかと思ってるんだ」


「ええっ!! ギターもう弾けてるじゃん」


みこは、さっき以上に目を見開き、口まで大きく開けた。


「……ピアノ」


遥は小さな声で言った。


「えっ? 聞こえないよ」


「ピアノー」


「ぴ、ピアノ!? えっ? えー!」


みこの驚きに周りの席の人たちがチラチラとこちらを見た。


「もうみこってば~、驚きすぎだよ」


「だってさ、これは驚くでしょ」


みこはジュースをすすった。


「曲を作るならピアノかなって思って、選択肢を増やしたいだ」


「すごい! そうやって思いつくの」


「これは思いついたっていうより、他にもそういう人がいて影響を受けたんだ」


「でもね、私からしたら、それですぐ始めちゃう遥はすごいんだよ!」


みこは、嬉しそうに笑ってみせた。


「そ、そうかな?」


遥は心がむずむずして、コップの中の氷をストローで必要以上にかき回した。


「そうだよ。私はそんな遥が大好きだよ!」





**DOLL THEATERライブ


遥とみこは開場時間の少し前に列に並び、会場に入場した。

ドリンクカウンターもフロアも人で溢れている。

遥は、歩きながら息を吸った。


(この匂いと空気、落ち着くな)


「わー、今まで一番人が多いね!」


前でも後ろでもない微妙な位置になった二人は、自分たちの場所を守りながら辺りを見渡した。


「本当にすごい。トビーさんたち人気者だ」


「そりゃあ、そうだよ。みんなかっこいいもん」


当然のことのようにみこは言った。


「うん。こんなに安心できる世界、他にないよね」


遥が通い始めた頃より、ファンは確実に増えていた。

それでも、ライブが始まる前のファンたちの空気感すら遥には心地良かった。



照明が落ち、ライブが始まった。


ピッピのとんがり帽子とくるくると回るように動く大きな瞳、彼の子供のような高めの声がフロアの視線をさらっていく。


何曲か後に、ピッピがMCを始めた。


「DOLL THEATER5周年ライブに来てくれてありがとー!」


ピッピが手を振り上げた。


「今日は折角だからメンバー紹介ならぬ、僕の大切なお人形たちを紹介するね」


「わぁー!」

「嬉しいー!」


フロアから声援が上がる。


「まずはー、規則正しいドラムの音みたいに僕を支えてくれるお人形サミー!」


――ドドドッ! バーン!


サミーが言葉の代わりにドラムを打ち鳴らす。


「サミー! サミー!」


遥もみこも、フロアのファンがサミーの名前を呼ぶ。


「はーい! 次はね、いつも僕の袖を可愛く引っ張るお人形エリー!」


――ボンボンボンボーン!


エリーも言葉の代わりにベースを鳴らした。その後は、チマチマとピッピの元に行き、袖を引っ張りながら首を傾げてピッピを見つめた。そして、フロアのファンに向かって、スカートの端を掴みペコリとお辞儀。


「エリー!」

「可愛い!!」


その仕草に黄色い声援が飛ぶ。


「可愛いね。次は、人形たちのリーダーであり、実際にもリーダー。トビー!」


――ジャジャジャジャーン!


長い髪を一つに束ね、優雅に音を鳴らすと一礼した。


「トビー! トビー!」


遥はお腹の底から声を張り上げ叫んだ。

トビーの音と姿を感じて、それだけで遥の中のなにかが満たされていった。


(やっぱり一番かっこいい!!)


「それでは――」


トビーはマイクに向かうと低い声を発した。


(声も素敵ー!)


「私からご紹介しましょう。我らの持ちぬし、この夢の世界のあるじピッピ」


「ピッピ! ピッピ! ピッピ!」


隣でみこが、頑張って声を張り上げて名前を呼んでいる。


ピッピは笑顔で両手を上げ、振った。


「みんなー! たくさん声を聞かせてくれてありがとー!」


ピッピは人差し指を立てた。


「まずは一つ発表があります」


遥とみこは「おお~!」と声を上げながら、目を見合わせた。


「これからはファンのみんなのことを“お人形さん”って呼ぼうと思うの」


「おお!」


フロアからどよめきが起こる。

遥とみこもお互いを見たり、ピッピに目をやったりした。


「ほら、ファンの名称ってあるじゃない。今までなかったから5周年記念に付けちゃおうって思ってね」


大きな瞳を下手から上手まで走らせて、ピッピはニコッと笑った。


「みんな僕の大切なお人形さん! いつまでも僕たちと一緒にいてね!」


「はーい! いるよ~!」


遥とみこは、手を振り一生懸命に答えた。


「それじゃ、お人形さんたち次の曲行くよー!」


歓声と熱気がフロアを包んだ。

じっとりと全身に汗が滲む。

腕を回し、頭を振ると、隣の人のシャンプーの匂いがした。


(ああ、これがライブ! 楽しい!)


ステージとフロアが一つになる。

サミーのドラムの音が地面を駆け抜け遥の足に伝わる。

可愛いエリーから出る曲を繋ぐルート音もトビーの繊細なメロディも、今はただ一ファンとして遥の耳に流れ込んできた。



あっという間に時間は流れ、アンコールになった。


「アンコールありがとう! みんなお待ちかね。発表があるよー!」


遥とみこは手を繋いでぴょんぴょん跳ねた。


「アルバム出ます! そしてツアーします!」


「うわー! 買うよー!」

「ライブ行くー!」


今日一番の声援がフロアからステージに送られた。


「という訳で、ここにいる大切なお人形さんたちに新曲『ピク29(ニック)!』をプレゼント! いくよー」


ハイハットが鳴りベースがメインで響く。その後をギターが追いかける。


(うわ! 今までのDOLL THEATERにない曲!)


――♪一緒に行こう ピクニック ピクニック

遠くで見てないで こっちにおいでよ


いつの間にかかごのバッグを持ったピッピが歌う。


「みんなも移動―! 遠足に行くみたいに、下手から横モッシュ」


ピッピの掛け声で、横モッシュが始まる。ステージでもトビー、ピッピ、エリーがお人形さんと一緒に左右に移動する。


――♪今日は皆で ピクニック ピクニック

ハートのサンドイッチ 頬張ってさ

ウキウキ 笑っちゃおう!


ピッピはかごの中からハートの紙を出して、フロアにばら撒いた。

前の方は、みんなハートをつかもうと必死になっている。

隣を見るとみこが恨めしそうに前方を眺めていた。


「本当にありがとうー! 今日は最後に出口で僕たちがお見送りするよー!」


ピッピがそう言い終わると幕は閉じた。


「やったー!」


それを聞いて遥もみこも激しく手を叩いた。


順番に出口に向かう。メンバー4人がチケットカウンターのところに並んでいる。

最後にピッピが、ライブ中に投げていたハートをくれるらしい。

みこの顔が一気に明るくなった。


遥はトビーの前に来た時に、そっと書いてきた手紙を渡した。


「これ、どうぞ」


トビーが手紙を受け取り、指先が少し触れる。


「いつも手紙ありがとう」


ドクンと心が跳ねた。

たったそれだけの返事で世界が色づく。

上の空のまま、遥は、ピッピからハートを受け取った。



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