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MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第二部 音の礫ー第一章 休息
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47/53

43.休息1

今日は、ワンマンライブではない。普通の対バンライブにもかかわらず、鳴り止まぬ拍手と叫び声。


(……聞こえる?)


その声を背中に、はるかたちは楽屋に戻った。



「みんなお疲れ様」


楽屋で待っていた紫門しもんが、皆にタオルを渡しながら出迎えた。


「紫門ちゃん。ありがとう」


タオルを受け取って汗の止まらない顔を拭いた。

その瞬間、遥は全身の力が抜けるのを感じた。膝が震える。


「あっ……」


遥は思わずその場にぺたんと座り込んでしまった。


「遥!」


哲央てつおが驚いて駆け寄った。


「大丈夫か!?」


「ごめん。気が抜けたみたい」


哲央がペットボトルの水を渡してくれて、遥はその場でゆっくりと飲む。


「ユキくんのことファンのみんなにも知らせたと思ったら、急にね」


哲央に支えられて立ち上がり、椅子に座った。


「私、きっとまだユキの音に何度も会いに行くと思う。けど……」


ペットボトルの水をぼんやりと眺める。それから視線を上げて、メンバーの顔を見た。


「もう無理はしない」


紫門しもんじん哲央てつお、そして最後にNO(ノウ)と静かに目があった。


「信じてるぞ」


遥は目を逸らさず、深く頷いた。

遥が頷いたのを見た哲央は切り出した。


「それじゃ、次にMONDE(モンド)で集まるのは三カ月後。その時にまた話し合う」


「僕たち全員でMONDEだもん。みんなで新しい音を作れたらいいな」


「そうだね。陣くん」



ライブの帰り道は珍しく紫門と二人。

熱気のこもったライブハウスを出た途端、白い息が漏れる。

汗ばんだ肌から一気に熱が奪われる。


「うわっ! 寒いね。紫門ちゃん」


遥は慌ててコートの前を閉め、手袋をはめた。


「そうね。遥ちゃん、いっぱい汗かいてるから、風邪引かないようにね」


「ありがとう」


「陣くん、てっつんに連れて行かれちゃったね」


遥は言いながら、陣が強制的に哲央に連れて行かれたのを思い出して笑った。

紫門も手を口にあて、「ふふっ」と笑った。


「リズム隊同士、積もる話もあるんでしょ」


「紫門ちゃんと二人きりって初めてだね」


「そうね。嬉しいわ」


コツコツと夜道に響く足音が、駅に近づくにつれ喧騒の中に溶けていく。


「私ね、春から一年専門学校に行くことにしたの」


「専門学校!? 裁縫の?」


「そんなところ。今は自己流だから基礎をきちんと学ぼうと思ってね」


紫門はウィンドウに並ぶマネキンに目をやった。


「いつか、自分のブランドも持ちたいの」


街のネオンに照らされて、紫門のパープルシルバーの髪が宝石みたいに輝いている。


「学んでテクニックを身に付けたら、もっといい衣装を作るからね」


紫門はメイク道具の入った大きなカバンを肩にかけたまま、顔の前で両手をグーにしてポーズを決めている。


(ぶりっこしてるつもりはないんだろうけど……可愛い! ああ、癒される)


「私、紫門ちゃんの服、楽しみにしてる」


駅に着いて二人は、それぞれ最寄りのホームへと向かった。


(学ぶ、か)



**一カ月目**


毎週あったスタジオ練習もしばらくない。遥は家で練習した。


(今は、新しく曲は作れないけど……練習は手を抜けない)


ギターのラピスを手に取り、自分のパートを鳴らし、次にユキのパートを鳴らす。


(どっちでもできるように、時間のある今のうちに)


Lumiere(ルミエール)。ユキの音をなぞるように、重なるように。遥はアルペジオを弾いた。


どのぐらい時間が経ったか、ヘッドホン外し、息をついた。

ラピスをそっとケースに戻した。


水分を取ったあと、今度はベースのユメを手にした。


「ユメ。なかなか弾けなくてごめんね」


――ボンッ、ボンボンッ。ボーン。


久しぶりに低音を鳴らす。指ではじく太い弦が、心をきゅっと絡めとった。


(ああ……、初めてスタジオで音を鳴らした日を思い出す)


ギターを弾いてもベースを弾いても、ユキのことで頭がいっぱいになった。

遥は、部屋に置いてあるプラスチックのレターケースに目をやった。

半透明の引き出しの奥に、ノートの影が見える。

それに手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた。


(でも今は、ベースも覚えておきたい)


ヘッドホンを着け直すと、遥はまた練習を始めた。




**一カ月と少し**


「陣くーん! 久しぶり!」


目黒駅の改札で待つ陣に、遥は大きく手を振った。


陣は遥に気が付くと、顔をぱあっと綻ばせた。


「久しぶり~!」


陣も手を振る。人混みの中で笑顔の花が開く。


二人は合流すると、傾きかけた夕陽に向かうように目的地へ歩き出した。


「ベース同盟、久しぶりに集合だね」


オレンジ色の光が、柔らかな茶色い髪に落ちる。


「うん。友達のライブを観に行くって、なんだか不思議な気分」


遥は顔の前に手でひさしを作りながら答えた。


下り坂の途中、雑居ビルの前で二人は足を止めた。


「着いた! ここだね」


陣が入口にあるネオンの消えた看板を指さした。


「『鳴響館めいきょうかん』」


遥は看板を見ながら、つぶやくように言った。

鳴響館、通称メイキョ―は、フロアに映画館のような椅子が備え付けられているライブハウスだ。

MOON BOX(ムーンボックス)よりもキャパが広く、バンドマンたちにとって最初の憧れの場所でもある。


(MONDEも、本当なら……)


チクッと胸の中に苦味が溶け出す。そんなことを思う自分も嫌になる。


「はるちゃん、大丈夫? 下に行こう」


陣はやんわりと遥の肩に触れた。


「あ、うん。行こう」


ライブハウス専用の地下へ続く階段を二人は降りた。

階段途中にある事務所で声をかけてゲストパスをもらった。


(ゲストパスもらうの、初めてだ)


今度はドクンと鼓動が波打った。心が少しくすぐったかった。

パスを服に貼ると、フロアへの扉を開けた。


――ドドドッ! バン! バン! 


明るいままのフロアにドラムの音が地を這うように響き渡る。

遥も陣も、一瞬足を止めた。


(なんていうバンドだろう。後でライブ見るの楽しみだな)


リハーサルの様子を見つつ、二人は楽屋に向かった。

専用の階段を降りると、細長い廊下に出た。


「わー、ここ迷宮みたいだね」


陣はきょろきょろと辺りを見渡した。廊下の壁に無造作にフライヤーが貼られている。

廊下に沿うように、ソファが並んでいた。

その上や横には、リュックサックやギターケースが置かれている。


「魔界化しちゃいそう」


ボソッと言った言葉に、陣の目が輝いた。


「も、もしかしてはるちゃん、悪魔を仲間にするゲーム好き?」


「うん。好き」

「やったー! 仲間だー!」


陣は派手にスキップをした。


「あはは! 陣くん、喜びすぎっ!」


陣の無邪気な喜び方に遥は、お腹を抱えて笑った。


長い廊下の一番奥に『楽屋』と書かれた扉があった。

二人は、笑うのを止めて扉をノックした。


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