表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MONDE ー光を鳴らす物語ー  作者: ぽちな
第一部 始まりの光ー第五章 世界
29/45

27.憧れと愛着

◆憧れと愛着◆


幕が開き、カラフルな照明がステージを照らす。

DOLLドール THEATERシアターが風船を持って登場した。


――るるらら るるらら るるらら るるらら


遥とみこは、手を繋ぎリズムに合わせ、左右に揺れる。

一緒に観ているファンたちも、友達同士、隣の人同士、手を取り合って。


ボーカルのピッピ、ギターのトビー、ベースのエリーが軽やかにステップを踏みながら、フロアの端から端まで視線を配る。

その一瞬、一瞬が計算された"人形"のような完璧な美しさで、遥は吸い寄せられるように手を繋いだまま、左に移動し、また右に移動する。

さながら、メンバーとファンによるパレードのようだ。


(やっぱり楽しいな。ここに来ると、ほっとする)


トビーが大きく腕を広げ、風船をファンに渡す。

サミーのドラムが弾け、みんなでジャンプ!


――君の鼓動が 夢を走らせ 僕らの音が 道を作っていく


(本当にそうだ。トビーさんたちの音がメロディーという道になって、私にちゃんと届いてる。ただ、鳴らしているだけじゃない。きっと、私たちにはなかったもの)


トビーの指先が滑らかにフレットを動かす。

(トビーさん、かっこいいな。見せ方を分かってる)


初めて観た時と同じ、遥はトビーから目が離せなかった。


――バルーンパレード どこまでも 君の手を引いて 笑い合おう


(トビーさんのメロディーラインを弾くギター、やっぱり、いいな……)


トビーは、遥が楽器をやりたいと思った原点だった。その姿を前にして、胸の奥に小さな灯がともる。そして、固くなり始めた指先が疼く。


トビーの滑らかな指の動きやエリーの包み込むベースの音に、心を奪われているうち、いつの間にかライブは終わっていた。



「楽しかったねぇ!!」


みこは、額にじんわりと滲んだ汗を拭いていた。


「最高だった! すごいな。私もあんな風なライブをしたいな」


バーカウンターで受け取った水をゴクッと飲む。火照った体に水が染み込むのを感じた。


「わあ! 言うね。遥も、もう演者だね!」


みこが、遥を肘でつつく。


「まだ、一回ライブしただけだよう……」


もじもじしながら、貰ったフライヤーの整理を始める。

それでも、自分もここでライブをやったという事実に胸が躍った。


「ちゃんと夢を叶えているじゃん」


「弾くことに精一杯で、聴いてくれる人たちにどう伝えるとか、全く考えてなかった……」


「それでも遥の一生懸命、伝わってきたよ」


「みこ、ありがとう。だけど、一生懸命だけじゃ、ダメな気がする」


片付けの音がわずかに漏れる、幕で閉ざされたステージを見つめた。


「おっ! 遥がやる気の顔してる! 応援してる。頑張れ!」




スタジオ練習の金曜日。

ライブも終わり、練習は週に一度、金曜日だけに戻った。


今までと同じスタジオのはずなのに、3人だけだとなんとなく広い。


(晃くんと瞬くんがいないと、スタジオの中が静かだな)


ベースを持ちアンプに繋ぐ。3人で曲の練習を始めた。

MDから、瞬のギターと晃の歌声が聞こえてきた。


(……わかってはいる。また会えるかもしれない、けど)


すぐに寂しい気持ちになる自分が嫌になる。


ドンッ! ドンッ! ドンッ! ジャッ! ジャッ! バンッ!!


そんな遥の思いを、哲央の音がかき消してくれた。

哲央のドラムは、以前より力強さが増した。

Glass Crow(グラスクロウ)のドラマーヒカルの音に刺激を受け、個人練習にも力を入れているらしい。


(哲央くんに負けていられない! でも……)


遥はベースを弾きながら、ユキを見た。

今のユキは、前より色々な感情を混ぜながら音を鳴らしている気がした。

Luna Diveのイベントに参加してから、はっきりと変わった。


ユキの奏でる旋律は、DOLL THEATERのトビーとはまた違う、鋭く繊細な熱を帯びている。アンプから放たれる高音の震えが、空気を切り裂いていくのを肌で感じるたびに、遥の心はざわめいた。


(……ギター)


ユキの指先が滑らかにフレットを動かすたび、胸の奥底にある“最初の憧れ”が疼き出す。


(ユキくんの隣で、同じ音を鳴らしてみたい。同じ夢をみたい)


「……遥? ぼーっとしてどうしたの?」


ユキが心配そうにこちらを見つめる。


「あ、ごめん。ちょっと、考え事しちゃってた」


「考え事しながら弾けるって、ちょっと余裕でてきたか。ん? でも、手は止まってたか」


哲央が苦笑しながらスティックを回した。


「次は真剣にやる!」


遥は、もう一度ベースを構えた。




家に帰った遥は、メトロノームを鳴らしながら、一人で練習をした。

最近は、だいぶ思い通りに指が動くようになってきた。


(ベース楽しい)


メトロノームの音を少しずつ抜いて、音を鳴らす練習を繰り返す。


(ベースがきっかけで陣くんたちと会えて、ベース同盟もできた)


きっとLUMINOUSが5人のままなら、何も思わなかった気持ち。


(私がギター、ユキくんの隣で……)


甘い妄想が頭をよぎる。


(でもでも、迷惑かけちゃう。それにベース同盟がなくなっちゃうかも)


遥は、ひたすらメトロノームに合わせ、音を鳴らし続けた。

ベースは、私に居場所をくれた。

だからこそ、裏切れない。


だけど、胸に灯った思いは消えてくれない。

この思いが消えるのか、燃え上がるのか、まだわからなかった。


――カチ、カチ、カチ……。

だけど、規則正しいその音さえ、今の遥には新しい扉を叩く音のように聞こえていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ